Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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五話「幕切れ」

 

 

 

 拳をバキバキと鳴らしながら歩いてくる大和に対して、牛頭の鬼神……牛頭天王(ごずてんのう)は言った。

 

「我等、仏法の守護神なれば。この問題の責任者として、問いたい事がある。よいか?」

「かしこまんなよ、喧嘩売ったのは俺だ。罵倒なりなんなり好きにほざけ」

「では……」

 

 まずは牛頭天王が問う。

 

「貴様の行いは仏法の……いいや、世界の真理に仇なす内容だと理解しているか?」

「今更。笑わせんなよ、閻魔大王は俺の犯した罪をちゃんと数えてるのか?」

「……」

「死んだら地獄行き確定の屑に仏法なんて説くなよ」

「……貴様は何時か必ず地獄に落ちるだろう。閻魔大王様は貴様の犯した罪を全て把握しておられる……その時が楽しみだな」

「今じゃないのか? 端から勝つ気なんてないと? 阿呆かお前。そら次、馬頭」

 

 馬頭の鬼神……馬頭観音は忌々しげに問う。

 

「何故、我々の邪魔をする。背後の娘を庇う事は貴様にとって損でしかない筈だ」

「……」

「倍額の報酬が約束されていた。貴様の面子も保たれた。こちらも最低限の義理を通した。なのに何故……」

「その場のノリだ」

「……はぁ?」

「コイツとのチャンバラごっこ、意外にも楽しかった。だから邪魔されるのが気に食わなかったんだ」

「……論外だな」

「クハッ」

 

 大和は嗤いながら問い返す。

 

「なら聞くが、お前ら何で俺達に関わってきた?」

「……長く生きすぎて耄碌したか、魔人め。言ったであろう、冥府の神々からの厳命であると」

「そうかい、なら言葉を変えよう。……何で無視しなかった」

「…………」

「放っておけばよかったじゃねぇか。そしたら俺達は勝手に殺しあってた。俺が殺されても、お嬢ちゃんが殺されても、お前らにとって損はない筈だ。むしろ棚からぼた餅だろう」

 

 黙った鬼神達を、大和は鼻で笑う。

 

「俺に仕事を取られるのがそんなに嫌だったか? 冥界の神々の、何より自分達の沽券に関わるから」

「ッッ」

「そうじゃなかったら関わってこねぇよな。ククク……ハッハッハッ! 笑わせんなよ! 糞餓鬼じゃねぇかテメェら!」

 

 大笑いすると、腕を薙ぎ払い、突風を巻き起こす。

 その面に覇気と殺意を混ぜながら言い放った。

 

「だが、世間はお前らの味方だぜ。正義はお前たちにある……勧善懲悪、成してみろよ」

 

 莫大な闘気か迸る。

 あまりの濃度に裏京都を覆っていた超高密度多重障壁に亀裂が奔った。

 

 馬頭観音、牛頭天王は無言で得物を携える。

 背後の部下達もだ。

 皆一様に憤怒で顔を歪めていた。

 大和は邪気たっぷりな笑みを浮かべる。

 

「さぁ、糞餓鬼同士の喧嘩のはじまりだ!」

 

 

 ◆◆

 

 

 大和は片手を掲げると、意味深な言葉を発した。

 

「実戦で使うのは初めてだが……まぁいい。お披露目会だ」

 

 パチィンと指を鳴らす。

 するとその身が真紅の閃光に包まれた。

 そうして出てきたのは……

 

闘法変化(スタイルチェンジ)・モード・拳法家(カンフー)

 

 髪型はそのままだが、上が純白のカンフー服。下が漆黒のカンフーズボンに変わっている。

 まるで中華の拳法家だ。

 

 彼はその場で単調な演舞を披露した。

 

「セイ! ヤッ……アチョー!」

 

 獄卒衆たちは嘲笑った。

 しかしほんの数名は違う。

 

「貴様ら!! 油断するな!!」

「来るぞ!! 構えろ!!」

 

 馬頭観音と牛頭天王が怒鳴る。

 その合間を風が抜けていった。

 二名はその風が大和だと悟る。

 

 しかし遅すぎる。

 軍勢の真ん中まで通り抜けてきた大和は手頃な所にいる天狗の顔を掴み、地面に叩き付けた。

 

 大地が揺れる。

 紙吹雪の様に吹き飛ばされていく獄卒衆たち……その中で、辛うじて耐えた者たちは大和に得物を振りかぶった。

 大和は薬指と中指を重ねると、視認できない速度で腕を振るう。

 

 すると、戦士たちが静止した。

 まるで時でも停まったかの様に……

 1名が辛うじて呟く。

 

「馬鹿な……、こんな、事が……!」

 

 次の瞬間、全員血飛沫を上げて倒れ込んだ。

 ある者は頭蓋を爆発させ、ある者は口から臓物を吐き散らしている。

 多種多様な死を遂げた彼等を、大和は一瞥すらしなかった。

 

「経絡秘孔・紅蓮血鮮花(ぐれんけっせんか)

 

 地獄が始まった。

 

 

 ◆◆

 

 

「あの野郎ッ、まだ手札隠してやがったのか!」

 

 咲夜は瞳をキラキラと輝かせていた。

 まるで特撮映画に夢中になっている男児の様だ。

 

 彼女は付近にある大屋敷の上に跳び移ると、改めて大和の戦闘スタイルを注視する。

 

(さっきみたいに即興で編み上げたスタイルか? ……いいや違う、型に嵌まり「過ぎてる」。過去に戦った武術家たちの模倣……? アイツにならできなくもない筈だが)

 

 短い間だが、大和という男と剣を交えた。

 だからわかることがある。

 

(見ろ、見て確かめるんだ……! 今、最高の立ち位置にいるんだ! こんな……こんな贅沢な事ぁねぇよ!)

 

 咲夜は昂る胸に手を当てた。

 

 大和は徒手空拳で暴れ回っている。

 まるで流水の如く、振り下ろされた数多の得物を受け流している。

 彼にしては珍しい防御の技術だが、その錬度は圧巻の一言だった。

 相手の力を完璧に受け流し、無効化している。

 超高度な「合気」を体得しているからこそ成せる、受けの極み──

 

『流水演舞』

 

 ある得物は刃先を指先で滑らされ、ある得物は手の甲でコツンと叩かれて軸をズラされる。

 行き場を失った力は暴走し、得物ごと使用者を振り回す。

 バランスを崩し前のめりになった者たちを、大和は貫手で殺していった。

 

 刃物の様に鋭利な指先は鋼鉄すらも容易に貫通してみせる。

 

砕岩指(さいがんし)斬鉄指(ざんてつし)

 

 ただでさえ凶悪な威力を誇っているのに、随所随所で調節して経路、もしくは秘孔を突いている。

 

 経絡秘孔(けいらくひこう)

 人間に限らず、生命という存在は「魂」を持つ。

 その魂から生み出されるエネルギーを循環させる器官を秘孔。

 生命活動にあたり重要なエネルギーの流れを司る位置を経路と呼ぶ。

 

 これらを併せて経絡秘孔と呼び、中国では仙道、医学、拳法に於いて重要視されていた。

 極めれば仙人に近付き、知識を蓄えれば医学を修められ、一変して暗殺拳の秘密を知ることができる。

 

 生命エネルギーは本当に繊細であり、外部からの衝撃に脆い。

 

 また、鋼鉄の如き筋肉で全身を覆っても内部は常人のままなのが普通だ。

 中国拳法には「内功」と呼ばれる鍛練法がある。

 内臓、心肺機能を強化し、気を練る効率を上げる修行方法だ。

 

 ──鍛える術があるのなら、破壊する術があるのが世の理。

 

「人型が多いから見極めが楽だな。ほぅれ脳漿炸裂ぅ♪」

 

 胸を突かれれば頭が爆発し、肩を突かれれば骨肉が粉砕される。

 額を突かれれば内臓が破裂する。

 

 指先で小突かれるだけだが、威力は凶悪に過ぎる。

 生身で受ければ死は免れない。

 

 経絡秘孔の知識が無ければ受けようがなく、仮にあったとしても合計108からなる「致死の点」を一度に防御する事は不可能。

 

 ──柔よく剛に克ち、静よく動を制す──

 

 流水演舞による合気の絶対防御。

 経絡秘孔を織り混ぜた貫手による無敵の矛。

 

 世界最強の拳法家である四大魔拳たちをも唸らせる、この拳法の名は……

 

「柔拳ってんだ、そのまんまだろう?」

 

 屋敷の上に飛び乗り、呟く大和。

 眼下では鮮血の噴水が迸っていた。

 獄卒衆たちは物言わぬ肉片となり散らばる。

 

 余裕を見せている彼の不意を突くように、屋根裏から矛先が現れた。

 大和はなんの抵抗もせずに腹を貫かれる。

 

 しかし、宙に浮かされただけだった。

 まるで棒にでも浮かされているかように、鋭利な矛先がまるで意味をなしていない。

 

「不意討ちは大歓迎だぜ」

 

 大和は矛の腹を撫でる。

 瞬間、奇襲者の天狗が爆発四散した。

 体勢が崩れてしまったので、大和は宙を回り着地する。

 

 その一瞬の隙を見逃さないように、馬頭観音が距離を詰めて戦斧を薙ぎ払った。

 大和は受けをするも、予想以上の力に吹き飛ばされる。

 

「ハハッ! スゲェ馬力だな! 馬だけに、ってか!」

 

 余裕を見せながら着地する大和。

 馬頭観音は破裂してしまった両腕を見下ろした。

 得物を持つ力さえ込められない有り様だったが、神仏の権能で瞬く間に回復させる。

 地に寝ている戦斧を足先で掬い上げると、忌々しげに囁いた。

 

「合気の応用か……」

「ほぅ、詳しいな。流石に獄卒衆の幹部を勤めているだけはある。本当は全身をミンチにするつもりだったのに、上手く両手だけに留めてるしな」

 

 合気。

 相手の力を受け流す、もしくは吸収する高等技術だ。

 この技を極めた武術家はあらゆる物理攻撃を無効化する。

 それどころか、力のベクトルすらも操作してしまう。

 

 大和が見せた技はその応用。

 相手の攻撃を敢えて受けて攻撃エネルギーを体内に溜め込み、ほぼ同時に流し返す。

 その結果、相手は自身の攻撃エネルギーに耐えきれずに爆発する。

 

『流水演舞・泡沫』

 

 刹那的な全方位型カウンター。

 どの部位を攻撃しても返ってくる。

 威力は自身の攻撃力+大和の闘気であるため、対処法が無ければほぼ即死。

 

 実に凶悪な技だ。

 こうなってしまうとそもそも攻撃ができない。

 触れる事すらできない。

 

 遠くで戦況を見つめている牛頭天王は眉間に皺をよせた。

 

(合気の使い手など地獄では珍しくない。類似した技は幾つも見てきている。攻略方法は、なくはない)

 

 合気にはいくつか弱点がある。

 まずは物理エネルギー以外受け流せない事。

 次に受け流せるエネルギー量には個人差がある事。

 最後に、吸収にはリスクを伴う事だ。

 

 吸収はエネルギーを体内に溜め込む行為であり、受け流し以上に負担が大きい。

 内功による体内強化にも限界がある。

 

 これを踏まえた上での攻略方法は、そもそも受け流しを使わせない。吸収をできるだけ使わせる……である。

 絶え間なく攻撃を吸収させ、自爆を促す。

 その者の許容量を越えるくらい、連続で攻撃を浴びせる。

 

 となれば大軍団で袋叩き……というのが理想であるが、

 

(獄卒衆も馬鹿ではない。相手が合気使いだとわかった瞬間に切り替えている。それでも捉えられない。先程、天狗の一人が惜しいところまでいったが、あれで駄目となると……)

 

 打つ手なし。

 今のところは──

 

 獄卒衆が統率のとれた動きで大和を囲い、連撃を浴びせる。

 各々別々の角度から、違う得物で、攻撃する。

 対合気使いに於ける理想の戦法である。

 総勢二十名の精鋭による攻撃は、本来であれば対象者を自爆させる筈だ。

 

 しかし……

 

「教科書に書いてありそうな戦法だ」

 

 全ての攻撃を肌で吸収し、まんべんなく流し返す。

 まるで間欠泉の様に大量の血が吹き出した。

 どぅと倒れた精鋭たちを見届け、牛頭天王は舌打ちする。

 

(やはり、元々の許容量が違う。人体の構造をしていない)

 

 先天的な超越者でありなから後天的な超越者に至った唯一の例外。

 常識が通用しない。

 許容量の底がまるで見えない。

 正面からの攻略は、やはり不可能だ。

 

 苦悩する馬頭観音たちの側に、一体の天狗が寄ってくる。

 彼は片膝をついて報告した。

 

「閻魔大王様、並びに各神話より『権能』の行使を許可されました……!」

「よし……作戦の概要は把握しているな。一気に畳み掛けるぞ」

「ハッ!」

 

 馬頭観音と牛頭天王は戦斧を地面に突き刺すと、早速「とある権能」を発現させた。

 

 一方その頃、大和はきな臭さを感じていた。

 殺し屋特有の第六感である。

 感覚的に、今の流れに不信感を抱いていた。

 

 理論的に戦場を俯瞰すれば、懸念は更に深まる。

 獄卒衆は要所要所で突撃してきているが、総数はあまり減っていない。

 まだ余力を残している。

 

 何かを待っている……? 

 大和が考察を始めたと同時に、その身に襲いかかる超重力。

 あまりの圧力に、思わず片膝を付いた。

 

「なにぃ……?」

 

 ただの重力でない。

 そうであれば簡単に押し返せる筈だ。

 闘気も含めた、全ての力が弱体化させられている。

 

 この魂を縛り付けられる様な感覚は……

 

「罪人特攻の権能かァ……! 効くぜぇ糞ったれ! 冥界の神々はキッチリと俺の犯罪歴を把握してるみてぇだなァ!」

 

 罪人に対する絶対的支配権限。

 冥界の神々、並びにそれに連なる存在が特例で行使できる権能。

 

 その性質上、罪人にしか効果がないが、罪人であるならば効果絶大。

 大和に対しては相性が良すぎる。

 

 大和は自他共に認める犯罪者だ。

 そして罪の内容も総数も、他とは比べものにならない。

 

 これが単純な即死の権能ならば無効化できただろう。

 しかし今回はただの権能ではない。

 人類、人外、そして世界の意を汲んだ「総意」だ。

 

 自分の罪に押し潰されそうになっている大和に、待ってましたとばかりに押し寄せる獄卒衆たち。

 罪を裁く側の彼等にとって、この権能は最上位の加護に等しい。

 自由に動け、力も増す。

 

 一変した戦場を眺めていた咲夜は、思わず息を飲んだ。

 アレは無理だ、抗えない……そう悟ったのだ。

 

 この場にいる殆どの者たちは結末を見ていた。

 しかしただ一人、大和は違った。

 

「いいぜ、端から逃げるつもりはねぇよ。自分がした事を背負うことが『生きる』って事だ。俺は目を反らさねぇ。お前らが、世界がそう判断したのなら、それでいい。…………ただなぁ」

 

 大和は拳骨で空間をぶん殴る。

 すると虚空に亀裂が奔り、最終的には罪人特攻の権能で満たされた空間が破壊された。

 

 唖然としている一同に向けて、大和は吼える。

 

「こんなもんかよ!!!! 軽いんだよ!!!!」

 

 そして両手を広げる。

 

「相っ変わらず口先だけだなぁオイ!! 神サマってのは!! 本気でやってるか!? いいんだぜもっと来いよ!! 受け止めてやるから!! 悪意も殺意も怒りも憎しみも、全部受け止めてやるから!!」

『……ッッ』

「俺は誰よりも自由に生きてきた!! 気に入った女はどんな理由があっても抱いて、邪魔する奴は正義も悪も関係なくぶっ殺してきた!! だから恨まれて当然なんだよな!? 憎まれて当然なんだよな!? お前らにとって、俺という存在は許容できない……だったらほら!! 来いよ!! 俺を殺せよ!! 地獄に落とせ!! 何時になったら俺は罰せられるんだ!? 何時になったら俺は死ねるんだ!?」

 

 あまりに凶悪すぎる邪気と狂気をあびて、獄卒衆は数歩下がる。

 とてもではないが、個人が出していい濃度ではなかった。

 

 ──人間ではない。

 人の形をしたナニカだ。

 

 明らかに引いている獄卒衆を見て、大和は鼻で笑う。

 自嘲も含まれていた。

 

 彼は手にベッタリ付着した血糊を払うと、構えをとる。

 空手に似た型がハマると、一変して荒々しい闘気が迸った。

 

 しかしその表情は……能面の様な無だった。

 

 大和は大地を思い切り踏みしめる。

 あまりの衝撃に獄卒衆は周辺の屋敷もろとも宙に浮いた。

 

「やるんだったら最後までやれよ」

 

 大和は自身の闘気を爆発的に増幅させる。

 

「剛拳・金剛七式…………いや、いい。すぐに終わらせる」

 

 冷たい声音を響かせ、闘気を更に膨張させる。

 あまりの密度にこの場の空間が紅蓮色に染まった。

 

 

『剛拳・絶招──―不動界金剛曼荼羅(ふどうかいこんごうまんだら)

 

 

 ◆◆

 

 

 絶招──中国拳法に於ける奥義だ。

 大和は柔拳の対である剛拳の技を披露せず、いきなり奥義を放ったのだ。

 

 裏京都を瞬く間に包み込んだ曼荼羅模様……それがふと消えたかと思えば、全てが終わっていた。

 大和は動いていない、不動である。

 しかしその両拳からは血煙が吹き上がっている。

 

 獄卒衆たちは跡形もなく消滅していた。

 肉片どころか魂の欠片すら残っていない。

 完全に、この世界から消滅していた。

 

 大和は血糊を払いのけると、元々の和装に戻る。

 そして咲夜に振り返った。

 

「さて……じゃあチャンバラごっこの続きをやろうか、お嬢ちゃん」

「……ぃッ」

 

 悲鳴を上げなかったのは、天下五剣士に名を連ねていたからだろう。

 しかし足は後ろへ、後ろへと下がっている。

 

 彼女は恐怖に飲みこまれていた。

 好敵手だと思っていた男が、今は人型の怪物にしか見えない。

 

 最初こそ、興奮していた。

 大和が見せた『闘法変化(スタイルチェンジ)』は斬新だった。

 

 別の次元の大和が辿り着いたであろう、一つの到達点──

 あらゆる武術をマスターした最強の殺し屋ではなく、拳法のみを極めた最強の格闘家……

 成れる様で、成らなかった姿の再現。

 

 咲夜は感激していた。

 今すぐあの状態の大和と戦いたいと思っていた。

 

 今はどうだ?

 悲鳴を堪える事で精一杯になっている。

 

 大和が垣間見せた本性──

 あまりに規格外な狂気と憎悪。

 

 協調性とか共感性とか、それ以前の問題だった。

 人間として大事な何かが欠落している。

 

 彼は、生まれながらに違っていたのだろう。

 人間でありながら、人間ではなかったのだろう。

 しかしそれが、精神にまで及んでいるとは思わなかった。

 

 明らかに怯えている咲夜。

 そんな彼女を見て、大和は……ふわりと、悲しげな笑みを浮かべた。

 

「なんだ……まだ子供だったか」

 

 咲夜は今、死ぬほど後悔した。

 謝罪の言葉が喉から突き出る。

 その前に手が伸びた。

 しかし、伸びきる事はなかった。

 

 既に首が跳んでいた。

 妖しい乱れ刃が自身の血糊を帯びている。

 

 大太刀を担いで去っていく大和。

 咲夜は必死に何かを伝えようとした。

 しかし、届くことはなかった。

 無情にも、地獄に戻るのが先だった。

 

 桜吹雪になった咲夜に見向きもせずに、大和は大太刀を納める。

 そして、溜め息混じりに囁いた。

 

「……依頼完了だな」

 

 カランカランと、下駄を鳴らして去っていく。

 超高密度多重障壁が解かれ、現実へと戻ってきた。

 

 ……全て、終わってしまったのだ。

 

 

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