Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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終末論身近 規格外集う
前編


 

 

 セミロングの金髪に灰色の瞳が特徴的な美少女、黒兎(こくと)

 彼女は元、世界最強の妨害屋であり、現在は大衆酒場のウェイトレスとして働いていた。

 今もせっせと手を動かしている。

 

 時刻は昼間。

 魔界都市は昼夜の概念が逆転しており、昼は静かで夜は騒がしい。

 客層も昼間の方が「表世界より」の者逹が多かった。

 

 しかし今日は急遽、夜まで店仕舞い。

 既に店先には看板が立て掛けられており、店内には誰一人として客がいない。

 

 黒兎とネメアは、二人でゆっくりと掃除をしていた。

 野ばらを含めた先輩たちは夜のシフトなので、基本的にこの時間は二人きり。

 

 黒兎はこの時間を尊いものだと感じていた。

 意中の男性と二人きりでいられるというのは、やはり嬉しいものである。

 何時も無表情な顔を微かに綻ばせていた。

 

 ネメアがふと言う。

 

「ウェイトレスの仕事、慣れてきたな」

「はい。ネメアさんのおかげです」

「助かってるよ。シフトも午前と午後、必ず入れてくれるしな」

「やる事がありませんからね」

「お前ほどの年頃なら趣味の一つでも持っていそうだが……まぁ、強要はせんさ」

「ありがとうございます」

 

 淡々とした返事に、ネメアは苦笑を浮かべる。

 黒兎は「この時間に変えられるものなどありません」と、心の中で呟いた。

 

「しかしアレだ。俺は仮にもお前の保護者であり師匠、教えなければならない事がある」

「例えば?」

「俺の布団に入り込むのをやめろ」

「嫌です」

「即答か……お前ももう年頃の女の子。もう少し異性との距離感をだな」

「大丈夫です。ネメアさんを信頼していますから」

「信頼とかそういう問題じゃ……」

「駄目、ですか……?」

 

 灰色の瞳を潤まされ、ネメアは唸り声をあげる。

 なまじ年齢が幼いため、強く言えない。

 今はまだ、グレーゾーンなのだ。

 

「……あくまで添い寝するだけだ。抱きついたりはするなよ」

「無理です」

「お前は……」

「無理なものは無理です」

 

 プイッと、顔を背けられてしまう。

 ネメアは頭を抱えながら言った。

 

「……本当に、今だけだからな」

「ありがとうございます、ネメアさん」

 

 黒兎は頭を下げる。

 しかし背後でしっかりとガッツポーズを取っていた。

 

(甘いですよネメアさん、私の父親が誰だと思っているんです? ……ふふふ、覚悟していてくださいね)

 

 ポーカーフェイスを維持しつつ、脳内でほくそ笑む。

 彼女の中では既に未来の設計図ができあがっていた。

 

 ネメアは数年後、酷い目に合うだろう。

 

「さて、掃除もこれ位でいいだろう。朝にもしたし、十分だ」

「……そういえば今日は夜まで店仕舞いなんですよね? どうしてです?」

「……同窓会だ」

「同窓会? 一体誰の?」

「俺達の」

「……!!」

 

 ネメアと同年代と言えば、真性の規格外しかいない。

 ネメア自身がそうなのだ。

 四大終末論を踏破せし、神話の英傑逹……

 

「あと一時間もしない内に全員集まる。だから黒兎、その間中央区を散歩しててくれないか? すぐに終わらせる、なにせ同窓会と言っても……」

 

「そうねぇ、ただの同窓会ならよかったんだけどねぇ……そんな理由で「私達」は集まんないわよ」

 

「彼女」は、既に店内へと入ってきていた。

 黒髪を腰まで流した絶世の美女。

 容姿的年齢は二十代前半ほどか。白シャツに黒のスーツ、漆黒のロングコートという出で立ち。

 白シャツを盛り上げている豊満な胸、括れた腰回り。総じて抜群のプロポーションを誇っている。

 そしてブラウン色の双眸には言い得もしない不気味な輝きが灯っていた。

 

 咥え煙草をしている彼女は甘い香りの紫煙を燻らせながら手を上げる。

 

「おっすネメア、お嬢ちゃんも元気してた? あー、私のこと忘れてるかな。前に会った意地悪なお姉さんよ」

「……覚えていますとも、忘れる筈はありません」

 

 黒兎はその場で深く頭を下げる。

 

「お久しぶりです。『調停者』、朧氷雨(おぼろ・ひさめ)さん」

 

 調停者──特異点の亜種であり、世界の拮抗を「物理的に」整える存在。

 

 世界最強の異能力者──朧氷雨。

 

 大和のファースト幼馴染みであり、彼と並んで神魔霊獣から恐れられる怪物(モンスター)だった。

 

 

 ◆◆

 

 

「覚えててくれたの。嬉しいわ、お嬢ちゃん」

「黒兎です、そう呼んで欲しいです。貴女には大切なものを教わりました。今の私があるのは、貴女のおかげです」

「大袈裟よ。あの時はお節介とい名の嫌がらせをしただけ……初対面の相手に言うことじゃなかったわ」

「それでも私は貴女に救われました。その事実は変わりません」

「んー……どう解釈するかは黒兎ちゃんの自由だけど。勘違いしないでね。私は貴方のパパと「同類」だから」

「……っ」

「……フフ、アイツも馬鹿よねぇ。その癖不器用なんだから、幼馴染みとして苦労するわ」

 

 やれやれと肩を竦めながら、氷雨は黒兎に歩み寄る。

 そして屈んで、彼女と肩を組んだ。

 

「で、調子はどう? なんか発展あった?」

「……!」

  

 氷雨は全てお見通しだった。

 黒兎はボンと顔から湯気を出す。

 ネメアは諌めようとしたが、氷雨はシッシッと手を払う。

 

「野郎はお呼びじゃないわよ。あとチョコケーキとミルクティー、お願いね」

「……」

「はやくはやくー♪ 美味しいの期待してるわ♪」

 

 ネメアは毒気を抜かれたのだろう、やれやれと厨房に入っていった。

 氷雨は彼の背を見送ると、ニヤニヤと笑いながら黒兎を抱き寄せる。

 

「お姉さんに話してみなさい、誰にも言わないから」

「……本当ですか?」

「ええ、約束は守るわ」

 

 豊かな乳房をデデンと張られ、黒兎は驚きながらも意を決する。

 真っ赤な顔のまま氷雨の耳元で囁いた。

 

 内容を聞いた氷雨は唖然とする。

 

「……え? 添い寝だけ? ABCにすら至ってないの?」

「はい……その……ネメアさん、ガードが固いので……」

 

 

「…………くぅぅおおらネメアぁ!! この根性無しがぁ!! 金○付いてんのアンタ!? 女の子に告白されて添い寝されて、手ぇ出さないってどーいう事よ!!」

「うるさいぞ!! その子の年齢を考えろ!!」

「この子はアンタの事を愛してるの!! ライクじゃなくてラブなの!! わかってんの!!?」

「想いを否定した覚えはない!! そういった行為はまだ早いと言っているだけだ!! あんまりうるさいとデザート作らないぞ!!」

「……はぁぁ」

 

 氷雨は項垂れる。

 

「駄目だアイツ。神話の時代出身の癖に貞操観念固すぎ……ごめんね黒兎ちゃん、力になれなくて」

「いえ……その、私はああいうネメアさんが、大好きなので……っっ」

 

 アセアセしながらもハッキリと言った黒兎に、氷雨は満面の笑みをこぼす。

 

「黒兎ちゃん! アンタみたいな女の子大好きよ! ネメアには勿体ないくらいだわ! これ、名刺! もし困った事があったら電話しなさい! すっ飛んでくから!」

「え? そんな……」

「貴女がネメアとラブラブしてるの、見たくなっちゃった。応援してるから、頑張りなさい♪」

 

 ポンと頭に手を置かれ、黒兎は思わず破顔した。

 

「ありがとうございます、氷雨さん……また相談とか、乗っていただけると嬉しいです」

「もー遠慮しないでよー!! 可愛いなー!! 黒兎ちゃんかーわーいーいー!!」

 

 頬をスリスリされ、黒兎はあうあうと慌てていた。

 同性の年上に、ここまで可愛がられた事がなかったからだ。

 

 一通り黒兎を愛でた氷雨は、途端に真顔になる。

 

「あ、でもネメアの奴結構モテるから。そこだけは注意ね」

「肝に銘じておきます。今のところ、同志は一人います」

「今度紹介して。貴女の同志なら絶対いい子だから。二人で伴侶ゲットして、必ず幸せになりなさい」

「はい……!」

 

 固い握手を交わす。

 当のネメアは、あえて聞こえないフリをしていた。

 同志なる子にも心当たりがあるが……

 

 ネメアは、そう遠くない未来を想像して一抹の不安を覚えた。

 

 そんな時である……

 

「おーう、この店は変わらねぇなぁ相変わらず。何十年かぶりだってのによぉ……ってあれ? 時間間違えたか? 殆ど集まってねぇじゃん」

 

 現れたのは白いローブを羽織った男だった。

 フードを被っており、殆ど顔が見えない。

 

 正体不明の彼に、氷雨は気軽に話しかけた。

 

「まだ一時間近く早いわよ」

「うっそマジで? ピッタリ登場してお前らの顔を一度に拝みたかったのに」

「異世界渡りすぎで体内時計麻痺したんじゃないの?」

「かもな」

 

 苦笑しながらフードをとる。

 現れたのは爽やかな美青年だった。

 吹き抜ける風のような澄んだ美貌を持っている。

 

 容姿的年齢は二十歳ほど。氷雨より若干若く見える。

 漆黒の髪は肩付近まで伸ばされており、瞳の色は金色。

 服装は魔法使いが多用する厚めの白いローブ。

 下は黒のシャツとズボンという簡素なもの。

 

 黒兎は驚愕で口を開く。

 彼は存在そのものが「違った」。

 長身痩躯ながら鍛え抜かれた肉体。若い容姿からは想像もつかない濃密過ぎる強者のオーラ。

 

 何より魔力。

 量に関しては底が見えない。

 いいや……底など初めからないのだろう。

 無限に溢れ出ている。

 

 質に関しては、そもそも魔力ですらないのかもしれない。

 純エーテルすら越えた何か……破壊と創造、両方を司る超超高密度エネルギーだ。

 

 端的に言って、化け物である。

 彼もまた、四大終末論を踏破せし神代の英傑……

 

「アンタ、相っ変わらず適当な性格よねぇ……グラン」

「お前には言われたくねぇよ、氷雨」

 

 グラン。別名『星霊王』。

 森羅万象を形成する星々の代行者であり、人類として産み落とされた星霊達の王……巨人族や土着の神々の頂点である。

 

 彼は氷雨と気軽にハイタッチを交わした。

 

 

 

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