Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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後編

 

 

 グランの登場。

 その意味は、比較的若い世代の黒兎にも理解できた。

 

 同窓会とは名ばかりの世界の命運を決める大会議。

 逸脱した世界最強──EX+の存在たちによる話し合いである。

 

 黒兎が戦慄している中、グランは彼女に視線を向けた。

 

「ん? ん~? ……あれ? お嬢ちゃん名前は」

 

 そこまで言って、グランは「あちゃー」と頭を押さえる。

 

「氷雨、その子を今すぐ外に出したほうがいい。……呑まれかけてる、意識が曖昧だ」

「ヤバっ! ちょ! ネメア!」

 

 ネメアはすぐに現れて黒兎を抱えると、外へ出ていく。

 

 黒兎は耐えられなかったのだ。この場の者たちの圧力に。

 ネメアと大和は比較的「マシ」なほうだが、氷雨とグランは違う。

 顔を揃えてしまうと世界が『圧迫』される。

 黒兎はなまじ才能があるので、その影響をモロに受けてしまった。

 

 暫くして、黒兎の調子を整え終えたネメアが戻ってくる。

 二人は素直に頭を下げた。

 

「「すんません」」

「いや、俺のほうこそ悪かった。黒兎とお前たちへの配慮が足りなかった」

「いやいや、いいって! お前が謝んなよ!」

「しかし……」

「幸い、あのお嬢ちゃんは無事だった! 被害者はゼロ! そんでもって互いに誠意を見せた! ならばよし! 引きずらないでいこうぜ! 親友!」

 

 笑いながら肩を組まれ、ネメアは複雑そうな顔をした。

 そんな彼等を見つめ、氷雨は顔を綻ばせる。

 

 そうこうしている内に、次の来訪者が現れた。

 

「あら、既に半数は揃っていますね。……雰囲気は昔のまま、変わっているのは各々の強さだけと……フフフ。たまには同窓会も悪くないですね」

 

 天女の如き絶世の美少女。

 容姿的には十代後半ほど。しかし醸す色気は高級娼婦を遥かに上回る。

 艶のあるスカイブルーの長髪をサイドで結ってあり、綺麗な髪飾りが添えられていた。

 よく手入れされているため、宝物なのだろう。

 黄金色の目は切れ長く、絶対零度の冷たさを孕んでいる。丁寧口調が更に拍車をかけていた。

 しかし声音は可憐であり、まさに天女の如く。聞いた男たちは種族問わず腑抜けてしまう。

 服装は面積が極端に薄いチャイナ服。最早布であり、スレンダーながらも出るところは出た魅惑的な体付きがクッキリ浮かび上がっていた。

 ブラジャーを付けておらず、パンツは黒のTバック。服装だけで言えば娼婦かなにかだ。

 しかし下品さはなく、むしろ彼女の色気を際立たせている。

 肩からは水色の半袖コートを羽織っており、腰には自作の宝具(パオペイ)らしき中華剣を二本帯びていた。

 

 天道遥(てんどう・はるか)

 

 世界最強の用心棒であり、嘗て四大終末論を踏破した最古参の超越者。

 全ての神々の始祖──原初の女神、超越神『天道至高天』の転生体。

 

 大和のセカンド幼馴染みである。

 

 彼女を見た氷雨の反応はわかりやすかった。

 嫌悪感を丸出しにして毒を吐く。

 

「半裸の痴女が現れたわ……目が腐る。ああ、目が、目がぁぁ」

「あら、貴女もいましたの。陰険目付きの万年発情期、暴力系ヒドインの自称大和のファースト幼馴染みさん?」

「万年発情期とかww その格好で言われても草しか生えないわ。大和の上でアンアン喘ぐことしか取り柄のない淫乱堕女神がよくもまぁ」

 

「……ハァ? 表出ろやブス。魂ごと滅却してやるから」

「ア? やんの? 死んでも知らないわよ?」

「ア゛?」

「アア゛ン?」

 

 目と鼻の先でメンチを切りあう氷雨と天道。

 調停者と超越神の殺気は、ネメアが本気で展開している超高密度多重障壁とオリュンポス十二神の加護を面白いほど歪ませた。

 

 隣ではグランが腹を抱えて笑っている。

 

「ダーッハッハッハ!! 出た!! 名物、世界最強の痴女喧嘩!! どっちも頭に特大ブーメラン刺さってるっての!! ギャーッハッハッハ!!」

「ハッキリ言うな、お前は……」

「てかこの店軋んでね? 大丈夫か?」

「いいや、ぶっ壊れそうだ。メンチで倒壊とか洒落にならん。力を貸してくれグラン」

「ハッハッハ! 俺よりも適役がいるぜ! ほら!」

 

 グランが指した先では次元の歪みが生じていた。

 現れたのは第三の絶世の美女。

 真紅のドレスと豊満な肢体が凄絶な色香を醸している。

 しかし同時に発せられている不気味なオーラはネメアやグランにすら悪寒を覚えさせた。

 

 彼女は非常に特異な存在だった。

 赤みを帯びた金髪を揺らしてやれやれと溜め息を吐く。

 

「予想はしてたけど案の上ね。このままだと余波で世界が滅びかねないから、この店に最上位の結界を施してもいい? ネメア」

「ああ、助かるよ──エリザベス」

 

 黄金祭壇のNo.1。世界最強の魔導師、エリザベスはパチンと指を鳴らして結界を張り巡らせる。

 そうしておもむろに振り返った。

 

「まだ早いと思ったけど……来て正解だった」

 

 その言葉に全員が振り返る。

 そこには堂々たる体躯を誇る褐色肌の美丈夫がいた。

 彼は野性味溢れるギザ歯を剥き出す。

 

「ハハハ! なんだよ全員いるじゃねぇか! 懐かしい顔ぶれだなぁオイ! 数億年ぶりか? 全員集まるのは!」

 

『調停者』、朧氷雨。

『星霊王』、グラン。

『超越神』、天道遥。

『災厄の魔女』、エリザベス。

『勇者王』、ネメア。

 そして『黒鬼』、大和。

 

 規格外のEX+の存在が今、顔を揃えた。

 

 

 ◆◆

 

 

「で──形式的には同窓会だっけ?」

「そうね、形式上は。……それよりも」

 

 エリザベスは呆れた様子で大和「たち」を見る。

 

「それ、どうにかならない? というか話聞ける状態なの?」

 

 大和の両脇には天道と氷雨が侍っていた。

 二人とも堪らなそうな、蕩けた表情で大和の腕に抱きついている。

 

 大和はカラカラと笑った。

 

「喧嘩されるよりはマシだろ! 濃厚な口付け一発で済むんだ! 安上がりだぜ!」

「そういう問題じゃ……はぁ、いいわ。大人しいに越した事はないし」

 

「ヒュー! 大和ヒュー!」

 

「貴方は黙ってて」

「お前は黙ってろ」

 

「ちぇー、エリザベスとネメアはノリ悪いなぁ」

 

 不貞腐れるグラン。

 まぁまぁ常識人寄りの二人は鈍痛のする額を押さえる。

 

「もう面倒臭いから、簡潔に説明するわ。今、世界の情勢が非常に不安定になっているの」

「んー、確かにヤバそうな集団がいるな。一つ、二つ、三つ……スゲぇな、この三つはマジでイカれてるぜ。どうしたらここまで大きくなる?」

 

 グランの星詠みにエリザベスは頷いた。

 全くもってその通りだからだ。

 

「今まで謎だった第三勢力がようやく明らかになったわ。……総合テロ組織『リベリオン』。首領はバビロンの大淫婦よ」

 

 バビロンの大淫婦という単語に、大和は反応する。

 

「アイツか……なら666、黙示録の獣もいるな。すると、色々不可解だった点も繋がる。……七魔将にネオナチ、そんでリベリオンか。ククク、賑やかになってきたな」

 

 面白そうに笑う大和。

 エリザベスは呆れながらも、この場にいる皆に問いかけた。

 

「じゃあもう締めるけど、最後にあなた逹のこれからを教えてほしい。黄金祭壇のリーダーとして、聞いておきたいわ」

 

 エリザベスの言葉に、グランはおどけた調子で両手を広げる。

 

「俺は何時もどーり、星の管理をするだけだ。必要なら手を貸すぜ? だが……大和とエリザベスで十分だろう。今のところは」

 

 氷雨と天道も同じような返答をする。

 

「私も普段と変わらないわ。調停する必要があればする、それだけよ」

「私は世界を創造しただけです。未来は自分たちで決めて貰います」

 

 そして、ネメアは……

 

「俺も殆ど関与しない。今はこの店の主である事が全てだからな。それに……新しい終末論が来るのなら、それを越える新しい英雄たちが現れる筈。だったら、ソイツらに任せておけばいいだろう」

 

 ネメアの、ある意味深い言葉に、大和も頷く。

 

「ネメアの言う通りだぜ。この時代で起きる問題だ。この時代を生きる奴等が解決する。……そう、本来ならな」

「…………」

「いいんだぜ? 俺達が代わりに解決しても。そのかわり、未来も糞もねぇがな」

 

 大和は鼻を鳴らしながらテーブルに足を乗せる。

 

「世界なんざ依頼をこなすついでに救える。お前も世界を護るついでに人類を救える。つまり──世は事もなし、だ」

 

 笑いかけられ、エリザベスは冷たかった表情を微かに崩した。

 

「そうね……その通りだわ。何だかんだ言いつつ、それが一番安心する」

「そうかい」

「フフフ」

 

 エリザベスは優雅に微笑むと、一変して子供の様な笑みを浮かべた。

 

「ついでに私の面倒を見て貰おうかしら、ストレスが溜まったから♪」

 

 瞬間、大和とともに消えた。

 氷雨と天道がすかさず反応する。

 

「エリザベスあいつ!! 大和を転移魔導でかっさらったわね!!」

「……油断も隙もありませんね、あの狸娘」

「チッ、こっちはこっちで捜すから付いてこないでよ? 淫乱女神」

「こっちの台詞です、自称ファースト幼馴染み」

 

 二人とも長距離転移で消えていく。

 そうして店内は野郎二人だけになった。

 

 個性的な女性陣がいなくなったので、グランは好き勝手言いはじめる。

 

「大和の奴、よくあんなダルい女たちと関係持てるよなぁ……俺ならストレスで吐いてるぜ」

「そういう問題か?」

「娼館とかでパパッと済ませたほうがいいだろ、後腐れないし」

「お前も大概だな」

「だって男だもん、性欲くらいあるさ。……ただまぁ、大和ほどじゃねぇかな。アイツはヤバい」

 

 グランは苦笑しながら立ち上がる。

 彼はフードを被り顔を隠した。

 

「そんじゃ、またなネメア。困った事があったら言えよ? すぐに駆け付けるから」

「ありがとう。お前も星々の管理、頑張れよ」

「サンキュー、バイビー親友♪」

 

 最後に爽やかな笑顔をこぼして、グランは消えていった。

 ネメアは新しい煙草に火を付けると、大きく背伸びする。

 

「さぁて……夜に向けて下準備をするか。いや、その前に黒兎の調子を見に行こう。心配だ」

 

 ネメアも店の外へ出る。

 こうして、規格外たちの同窓会はアッサリ終わった。

 

 

《完》

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