清潔感があれば基本誰でもOK
超犯罪都市デスシティは今宵も騒がしい。
大和は中央区の大通りをぶらぶら歩いていた。娼館で女たちと遊ぶつもりだ。
中央区にあるメジャーな店に行くか、東区にある高級店に行くか。それとも西区の安っぽい女どもを抱くのか、南区の亜人たちを喜ばせるのか、裏区で火遊びするのか……
悩んでいる大和の前に、厚い外套を纏った何者かが立ちはだかった。
一瞬殺し屋か賞金稼ぎかと思って獰猛な笑みを浮かべた大和だが、殺意を感じないので首を傾げる。
「何の用だ? 依頼なら明日受け付けるぜ。今夜はオフなんだよ」
「いんや、依頼とかじゃないんスよ」
飄々とした女の声だった。
声に含まれている様々な感情に、大和は三白眼を細める。
女は質問した。
「大和さん……アンタ、綺麗な女ならどんな種族でも抱けるらしいじゃないっスか」
「そうだな、最低限の身嗜みさえ整ってれば抱けるぜ」
「本当っスか? 嘘じゃないっスか?」
「ああ」
「なら……ウチを抱けるっスか?」
外套を取って現れたのは、銀色のミディアムヘアが綺麗な美少女だった。褐色肌で、大和と同じ灰色の瞳。顔の造形も整っている。
周囲の野次馬たちは思わず見惚れてまったが、次には顔をしかめる。
まるで汚物でも見たかの様に顔を青くした。
彼女は虫の亜人だった。それも原型となっている種類が「害虫」の代名詞……
ゴキブリである。
しかも虫の特性をかなり濃く受け継いでいた。
頭の上には二本の長い触覚が生えており、背中には昆虫特有の羽が添えられている。腕は六本、鋭角的で細い。
肉体の半分以上がゴキブリだった。太股を含めた各部位が油を塗ったかの様に黒光りしている。服装もまたホットパンツとビキニなので、一層虫としての特性が見てとれた。
「うぇぇ……っ」
「汚ねぇ……」
「顔はいいんだが……無理」
「臭そう……早くどっか行きなさいよ」
「大和様に言い寄るなんで馬鹿なの? そのまま殺されちゃいなさいよ」
「あーやだやだ、飲み物も不味くなるわ」
周囲の評価は散々だった。男女ともに酷いものである。
種族問わず、ゴキブリというのは生理的嫌悪を覚えるものだ。
いくら顔は美人でも、等身大のゴキブリというだけで背筋が凍る。
当のゴキブリ女は慣れきっているのだろう。
周囲の反応などお構い無しに大和に話しかける。
たっぷりの嫌味を込めて……
「大和さん。アンタ、ウチのこと抱けるっスか? 顔と体には自信あるんスけど、見てのとーりゴキブリの亜人っス。流石に無理でしょ? いやいいんスよ、別に。ただ『自分誰でも抱けます、差別なんてしません』的なアピールはやめてもらえません?」
「……」
「公衆の面前で大恥かきたくないでしょう? どうスか? しょーじきに言ってください。……ウチの友達がね、アンタに妙な期待してて、ぶっちゃけ不愉快なんスよ。無理なら無理ってハッキリ言ってください」
ゴキブリ女は大和に近寄り、その腹に抱きつく。六本の腕を脇腹に滑り込ませた。
周囲の男たちは思わず震え上がる。女たちは怒髪天になって隠し持っていた銃器を手に取った。が、大和は呑気に聞く。
「名前は?」
「ん? ああ、ゼレっていいます」
「ゼレ、ねぇ。……清潔感よし、顔よし。……いいぜ。付き合ってやるよ」
「……は?」
ゼレは頓狂な声を上げた。大和は続けて聞く。
「いくらで抱かせてくれる? 額を言え」
「……そ、そっスねー。百万とかどうスか? ゴキブリ女に百万出すとかありえな」
「ほれ」
大和は懐から百万札を取り出し、ゼレに押し付けた。
ゼレは唖然としたが、最後の抵抗と言わんばかりに口元を開く。頬まで口が裂けた。ゴキブリならではの醜い口元……唯一顔だけは美少女だったのに、これで全て台無しになった。
ゼレは動揺しつつも、自信たっぷりに言い放つ。
「流石にこれで引くっしょ! さぁ、どうっスか!?」
「グダグダうるせぇなァ。その口、奥まで舌でねぶってやる。喉が枯れるまで喘がせてやるから……こっち来い」
「……あ、ぅ、うそ……っ」
戸惑っているゼレを抱きかかえ、大和は自宅であるボロアパートへと帰っていった。
◆◆
部屋に入ると同時にゼレはベッドに放り投げられた。
宣言通り口の中を舌でねぶられる。それだけでも蕩けてしまったのに、全身をくまなく愛撫された。六本の腕も、羽も、慈しまれる。
秘部に舌を入れられ舐め上げられれば、ゼレは悲鳴にも似た嬌声を上げた。
未だ戸惑っているゼレに、大和はその顔よりも長く固いものを見せつける。確かに興奮していた。反り返っている怒張を間近で見つめ、ゼレは音を立てて唾を呑み込んだ。
一番奥を貫かれ、腹の底を何度もノックされる。
ゼレは甘い嬌声を上げることしかできなかった。何度も痙攣し、全身をガクガクと震わせる。熱いマグマの様なものを注がれる度に、ゼレは気を失いそうになった。
完全に、雌として屈服した。
夜が明ける頃には、ゼレは大和の腕の中で幸せそうに丸まっていた。
煙草を吸っている彼に何度目かわからないキスをねだる。煙草の臭いもまた、ゼレの胸をときめかせた。
舌を絡めあい、唾液をいやらしく垂れ流して……ゼレは表情を蕩けさせた。
「完敗っス……まさか、金まで貰ってこんな情熱的に愛してもらえるなんて……」
「不思議か?」
「そりゃそうっスよ。ウチら虫の亜人は個体差こそあれ、基本的に異性として見られないっス。特にウチみたいなハズレ容姿は、金を払っても男を抱けない。抱けたとしても、嫌な顔をされる……」
「そりゃ、男どもにセンスがねぇだけだ」
頬にキスされる。
ゼレはたまらず大和の胸板に頬擦りした。
「マジで素敵っス、大和さん♡ ほんと差別しないんスね♡」
「俺からしたら人間も妖精も悪魔も一緒だ。まぁ、好き嫌いは勿論あるがな。お前みたいな清潔で可愛い女の子なら、魚人だろうが魔物だろうが大歓迎だぜ」
「な、なら! ウチの友達を紹介してもいいっスか!? 皆一生懸命頑張ってるのに、種族で敬遠されてる子ばかりなんスよ!」
「いいぜ、気に入ったら全員可愛がってやる」
「キャーっ! もう、ガチでイイ男すぎるっス大和さん! ……あの、もう一回、いいスか?」
「ん……一回でいいのか?」
「……ううん、壊れるまで抱いて欲しいっス……大和さぁんっ♡」
ゼレは大和に覆い被さる。
大和は彼女の後頭部に手を回し、その大きく広い口を舌でねぶり尽くした。
最低限の美しささえあればら種族関係なく抱ける。
大和はそういう男だった。
《完》