Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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五話「真世界聖公教会vs異端審問会」

 

 表世界のとある国、とある都心部にある、超高層ビルの最上階にて。

 最上位の防護魔法と隠蔽魔法が施された多目的ホールに、各国を代表する面々が集っていた。

 首相、大統領をはじめ、彼等と同等の権威を持つ特別な存在……世界的財閥の総帥や大貴族の頭首、石油王など。

 唯一神を信仰する二大宗教のトップもいる。

 

 バチカン・カトリックの最高位、ローマ法王。

 プロテスタント、天使殺戮士の代表取締役。

 

 日本国の総理大臣、大黒谷努もいた。

 彼はニコニコと、何時ものらしい笑みを浮かべている。

 

 敢えて暗くされた室内。仄かな明かりを吸い込んで、プラチナブランドの長髪が輝いた。

 氷の様な雰囲気を醸す男は「ある男」を厳しく睨み付ける。

 

「合衆国大統領、カール・マーフィー。貴殿の行いは我々プロテスタントとの間に重大な亀裂を生みかねない。即刻止めたまえ」

 

 高圧的ながらも礼は損なっていない。

 彼こそ、真世界聖公教会の最高責任者。天使殺戮士を束ねる傑物……レオンである。

 

 容姿的年齢は二十代半ばほど。肩までかかるに金髪にアイスブルーの瞳。服装は所々に金糸銀糸をあしらった純白と紫のケープ。

 

 絶世の美男だが、色気などない。

 毅然と、冷然と。その佇まいは神罰の代行者そのものだった。

 

 彼の発言に対して、カール・マーフィーは鼻で笑う。

 

「今更だな、レオン君。君たちと我々は相容れない……今回はそれが明白になっただけだ」

 

 この男は若くして合衆国大統領に就任した逸材。異端審問会を創設し、裏の世界にまで手を伸ばしている危険人物……

 

 カール・マーフィー。

 

 今回の事件で両雄、両組織の対立は決定的なものとなった。

 

 天使殺戮士、ニーナ・イスラエルの覚醒を異端審問会が阻止しようとしているのだ。

 

 粋なダブルスーツを着こなしているカール。

 彼は氷の様な態度を崩さないレオンを一瞥すると、その隣に控えている絶世の美女を見やった。

 

「その様な美しい女性を連れているのだ。こんなつまらない話は終わらせて、かまってあげたらどうだね」

 

 カールは自然と、そう、自然と、90センチを越える豊満なバストに目がいく。

 他の男たちもだ。大黒谷努もまた、ほぅと感嘆の溜め息を吐いていた。

 美しい女など見飽きている彼等でも、見惚れてしまうほどの女性……

 

 彼女は艶やかな溜め息を吐くと、敢えて上半身を屈める。

 

「あら……嬉しい事を仰いますね、Mr.カール。そんな熱い視線を送られてしまっては、わたくしも火照ってしまいますわ」

 

 フリル付きのブラウスがこれでもかと盛り上がる。

 黒のロングジャケットは乳圧のあまりはだけていた。

 

 カールは思わず喉をならす。

 

 年齢的には二十代半ばほど。その肌は雪に等しい白さを誇り、シミ一つない。腰までかかる程度の黒髪はアップにされており、銀縁眼鏡をかけている。

 瞳の色は黒。推定バストは95センチの、Gカップ。

 華奢な腕には逆十字の腕章を、襟元には逆十字のブローチをかけていた。

 

 眼鏡の奥で切れ長の目が細まる。

 会場内に甘ったるい香りが漂った。官能的な女の香りだ。

 男ならばそのたわわな乳房に飛び込み、食らいついてやりたくなる。

 

 異性をとことん駄目にするこの女の名は、ミス・(フー)

 レオンの専属秘書であり、現段階で最強の天使殺戮士だ。

 

 会場にいる男たちは彼女に魅了されていた。

 立っているだけで異性を惑わす、文字通りの魔女。

 彼女はまるで誘うかの様に豊満な胸を両腕で挟みこむ。

 

 唸ってしまうカールに対し、レオンは冷たい声音で告げた。

 

「つまらない話、とは何だね。事は世界の今後を左右する一大事だ。我々、天使殺戮士の命も懸かっている」

 

 アイスブルーの瞳の奥に宿る憤怒の念を覗いて、カールは思わず鼻で笑った。

 

「だからつまらない話だと言っているだろう。まさか君達は、我々が友好的に接するとでも思っているのかね? 馬鹿馬鹿しい」

「……」

「そもそも、定期的に喧嘩を売ってきているのはどちらだ? 以前のアヴァターラの件といい、とてもではないが友好的に接する事などできない」

 

 カールはつらつらと「事実」を述べていく。

 しかしレオンもまた、事実のみを述べていった。

 

「我々、真世界聖公教会の目的はただ一つ。天使病に感染した者の殲滅だ」

「虐殺、の間違いではないかね?」

「感染者の殆どが人道を外れた犯罪者……無辜の民を害するのであれば、殲滅する他ない」

「極端な考え方だ」

「その言葉、そのまま返そう。貴殿らの行いはあまりにも極端すぎる。天使病は、人間が手を出していい代物ではない」

「手を出さなければ始まらない事もある」

「世界最悪のギャングと手を組んでまで……一体何を始めようというのだ?」

 

「……そっちも世界最強の殺し屋を雇っているじゃない」

 

 凄絶な舌戦に突如として割り込んだ第三者の声。

 レオンが視線を向けると、カールの横に異端審問会のエージェントが控えていた。

 年の頃は十代半ばほど。小柄でスレンダーな体型をしている。服装は異端審問会の特殊な制服。

 野暮ったい銀髪が靡けば、西洋人形を彷彿とさせる可憐な顔立ちが現れた。

 同時に、憎悪のこもった碧眼がレオンを射抜く。

 

 カールは彼女を手で制した。

 

「よしたまえ、サイス君」

「……わかりました」

 

 異端審問会第ゼロ部隊所属、コードネーム「サイス」。

 異端審問会の研究成果であり人類史上初めて天使病を克服した存在。

 霊子型ナノマシンを超克した、第二人類である。

 

 レオンは死神姉妹から「事の顛末」を聞いていた。

 だから驚く事はない。

 思う事はあるが、今話す事ではないと割り切る。

 

 再びレオンから睨まれたカールは、嘲笑を浮かべつつ持論を展開した。

 

「天使殺戮士……君達のしている事は何時も事後処理だ。何故、事前に手を打とうとしない?」

「天使病の真実……貴殿なら理解している筈だが」

「この世に揺蕩う神秘の残滓……霊子型ナノマシンが君達の宗教観でいう七つの大罪を犯した人間に感染、発症する不治の病だろう?」

 

 カールは嗤う。

 

「レオン君、私は明けの明星から天使病の真実を聞いている。私の気持ちが、君にはわかるかい? わからないだろう。信仰者でもない者が天使病に対して何を思うのか……」

「……」

「天使の残滓? 強制的な秩序統制? 唯一神が遺した呪い? ……聞けば聞くほど馬鹿馬鹿しい」

 

 カールは溜まりに溜まった鬱憤を吐き出す。

 

「真実を知る前から思っていた。何故神に祈るのか? 何故、会った事もない存在を敬わなければならないのか?」

 

 神に対する明確な敵意が現れていた。

 

「神とは、強大な力を持つ「だけ」の愚かな存在だよ。……唯一神、奴が最終的に残していったものは何だ? 希望か? 秩序か? いいや違う、呪いだ。天使病という、訳のわからない呪詛の理だ 」

 

 カールは眉間に青筋を立てる。

 誰よりも合理的で、誰よりも優しい「人間」であるが故に……

 

「天使病に明確な治療方が無いというのなら、作るまで。我々は何時か必ず天使病を克服する。そして後に解明し、利用しよう。全ては、人類の繁栄のために」

 

 彼は彼ならではの答えを導き出していた。

 それは浅はかな野望などではない。確固たる「正義」を伴った理想である。

 

 しかし天使殺戮士のリーダー、レオンは首を横に振った。

 

「……我々と貴殿は相容れない。絶対にだ」

「わかってくれて嬉しいよ、レオン君」

 

 レオンは席を離れる。

 ミス・虎を連れて、会場から出ていこうとしていた。

 

「最後に、これは忠告だ。カール殿」

 

 レオンは立ち止まり、振り返る事なく告げる。

 

「あまり、人間を愛しすぎないほうがいい……天使病がどういうものなのか、今一度考えてみたまえ」

 

 レオンは硬質な足音を立てて去っていく。

 ミス・虎は艶然と微笑みながら一礼すると、彼の背中に付いていった。

 

 やれやれと肩を竦めるカールに対して、付き添いであるサイスが訝し気に聞く。

 

「よかったのですか、みすみす逃がして……」

「いいのだよサイス君。この場で争う必要はない。今回は魔界都市で決着を付けようじゃないか」

「……わかりました」

 

 渋々引き下がるサイス。

 カールは既に去ったレオンを睨みつける様に出入り口を見つめた。

 

「お互い譲れないものがある……いいだろう、潰し甲斐があるというものだ」

 

 互いに互いの信念の元、今日ここで真世界聖公教会と異端審問会は敵対関係にある事を明らかにした。

 今後は水面下での争いが激化するだろう。

 

(ふぅむ、面倒だね。できる限り、表世界で騒がないでもらいたいものだ)

 

 内心そう思っているのは日本国総理大臣、大黒谷努。

 彼は早々に自国の安全について考えていた。

 

(幸い、どちらも海外に拠点を置いている。火の粉が降りかかる事は滅多にないだろう……万が一の場合はどちらかに相談して上手く流せばいい。合衆国とは友好関係を結んでいるし、真世界聖公教会は話が通じないワケではないからね)

 

 そう考えつつ、大黒谷はチラリとカトリックの最高責任者、ローマ法王を見やる。

 彼は実に穏やかに微笑んでいた。先程からこの笑みを一切崩していない。

 容姿的には七十代前後の好々爺だが……一切油断できなかった。

 

(真世界聖公教会、つまるところプロテスタントは彼等にとって異端者。断罪対象でしかない。異端審問会は言わずもがな……んー参ったね。彼等とはあまり関わりたくないものだ。話が通じなさそうだから……もしもの場合は呪術教会の老害共か、五大犯罪シンジケートのロシアンマフィア、ヒョードル君を頼ろうかなぁ)

 

 各々、思惑を巡らせつつ此度の会議は幕を下ろした。

 舞台は魔界都市に戻って……

 

 天使殺戮士の切り札、ニーナ・イスラエルの命を狙う者が続々と現れていた。

 

 

 

 

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