一話「青春とは」
東京都、某区にある河川敷にて。季節は春……桜の季節だ。気候は穏やかでそよ風が心地好い。
桜並木の下を歩きながら、少年が地図と現在地を照らし合わせていた。道行く者たちは百花繚乱の桜並木よりも少年の美貌に目を奪われてしまう。
まるで天使の生き写しかの様な、可憐過ぎる容姿をしていた。煌めくプラチナブロンドの髪は小さくポニーテイルに結われており、くりりと丸い碧眼が愛くるしい。
まつ毛は長く、唇は潤う桜色。
学ランを着ていなければ少女と勘違いしてしまうだろう。いいや……性別など大して問題ではないのかもしれない。
美の極致とは、性の概念すらも超越するものだ。
小さい身体で、しかししっかりとした足取りで、少年は目的地まで向かう。
暫くして辿り着いたのは、崖上にある綺麗な校舎だった。
◆◆
「今日、ここ西条学園に転校してきました。ユリウスです。三年生であるにも関わらず転校してきて、皆さんを不安にさせてしまうことがあるかもしれません。私も細心の注意を払いますので、残り一年、どうかよろしくお願いします」
ペコリと丁寧に頭を下げた金髪の美少年、ユリウス。
生徒たちは唖然とし、担任の女教諭も見惚れていた。
まるで天使だ……皆、思う事は一緒だった。
そんな中で、
「ヒュー! ユリウスヒュー!」
「転校お疲れ様ー!! ほぅらブラザーじゃんじゃん紙吹雪あげるわよー!!」
「任せろシスター!! ヒュー!」
「ユリウスヒュー!」
二人だけ、明らかに違った。
雑に舞う紙吹雪を見てユリウスは思わず苦笑する。
我に返った担当教諭はピシャリと告げた。
「お前ら、言った通り紙吹雪はちゃんと掃除してから帰れよ」
「「(´・ω・`)」」
「うむ。なら今日のホームルームはここまでとする。皆、放課後だからと居残って彼を困らせるなよ? 質問は明日にしろ。以上、解散!」
生徒たちは暫く放心していたが、各々部活なり帰宅なりで教室から出ていく。
三人以外誰もいなくなった教室。
ユリウスを置いて、当の兄妹はせっせと掃除していた。
「シスター! 紙吹雪作りすぎだっての! 机の裏にも入りこんでんじゃねぇか!」
「馬鹿ねブラザー! 歓迎は盛大にするものよ! ユリウスを少しでも喜ばせるための労力だと思えば、安いものだわ!」
「確かに……!」
別に喜んでないですけど……
ユリウスは出かけた言葉をのみこんで、掃除用具入れに足を向けた。
「お手伝いしますよ。大変でしょう?」
「ありがとうユリウスっ! 心の友よぉぉぉぉ!!」
「やーんありがとユリウス! 大好き! 結婚して!」
「いや抱きつかないでください、二人して暑苦しい……や、やめてくださいッ、やめ……あっ、……この……やめろぉぉぉぉ!!」
◆◆
てんやわんやで何とか掃除を終わらせた後、ユリウスは改めて兄妹たちを確認した。
自惚れではないが、ユリウスは自身の容姿に自信を持っている。
しかし二人は自分と同等の、されど異なる美貌の持ち主だった。
兄の方は長身痩躯のアイドルの様な爽やかなイケメン。
今時の女子が想い描く理想をそのまま形にしたら、この様になるのだろう。
身長185センチ、しなやかな筋肉から成る絞られた肉体は猫科の動物を彷彿とさせる。
服装は学ランの下に白の厚めのパーカー。西条学園は自由な校風で知られているが、ここまでのものかとユリウスは感心する。
ダークシルバーの髪は肩までかかる程度の長さで、ワックスで軽くかき上げられていた。
優しい色を灯している真紅の双眸、褐色の肌。現実離れした美貌は成る程、血筋を感じさせる。
彼はユリウスの師匠であり最も敬愛する男性、世界最強の殺し屋「大和」と這い寄る混沌で知られる邪神群No.4、ニャルラトホテプを両親に持つサラブレット。
生まれながらの超越者である。
「改めて自己紹介でもするか? ラグナだ。数年ぶりだな、ユリウス」
握手を求められ、ユリウスは応じる。
彼からは師匠と似て非なる温かさを感じた。
そして妹の方。こちらも兄に負けず劣らずの美貌の持ち主である。
歳不相応に実った乳房と括れた腰回りは制服越しでも確認できる。紫色を帯びた黒髪と暗い色の双眸は母親譲りなのだろう、歳不相応の妖艶さが滲み出ていた。
しかし顔立ちは未だあどけない。
服装は、一言で言えばずぼら。スカートの下に紫色のジャージを履いており、腰に上着を巻いている。
彼女もまた大和の実子であり、母親に世界最強の暗殺者アラクネを持つ生来の超越者……
「堅苦しいかもしれないけど、一応ね。
彼女の握手にも応じる。
軽い挨拶を終えた二人は、箒に持たれかかりながら微笑んだ。
「まぁ、最初は慣れねぇかもしれねぇけどさ……俺らが精一杯サポートするからよ」
「気楽にいきましょ、パパもそう言ってたでしょう?」
ユリウスは僅かに目を細めながら頷く。
「ええ……貴方たちの青春とやらを、勉強させてください」
「んな堅苦しいこと言うなって! そぅら! 掃除終わったから行こうぜ!」
「? 何処へですか?」
「娯楽部! 私達の遊び場ゲフンゲフン部活動よ! ユリウスには是非体験入部して貰いたいの! ほら! 早速顧問に挨拶しに行きましょ!」
「え? 今からですか?」
「「まぁまぁまぁまぁ♪」」
無理矢理引っ張られる形でユリウスは教室を後にした。
◆◆
ユリウスという存在は、端的に言って規格外だった。
邪神群の副首領、No.2ヨグ・ソトースを父に、「千匹の仔を孕みし森の黒山羊」こと、No.3シュブ・ニグラスを母に持つ邪神群きっての皇子様。
邪神という種族の超越者であり、邪神の中でも規格外と称されるバケモノ。
それが、ユリウスの正体だ。
彼は転校する前から疑問に思っていた。何故師匠……大和はこの学園に自分を入れたのか。
彼の命令に逆らう、という選択肢をユリウスは持っていない。行って来いと言われたら行く。しかし疑問に思わないかは別だ。
ユリウスは学園生活というものに意味を見出だせていなかった。高校を卒業して何になる? 将来は大和の元で助手を務めるというのに。高校のカリキュラムなど助手をする上で全く役に立たない。高卒という肩書きも必要ない。
ならば、やはり青春というものなのだろうか……
ユリウスは茫然と考えた。
青春……そんなものは必要ない。人間という猿の延長線と付き合う中で何かを感じると? 笑う? 泣く? バカバカしい。
大和以外の人間は総じてゴミだ。家畜以下の存在。生きる価値すらない。
それらを表面上に出さないのは、大和の評価を下げないためだ。そうでなければ付き合う義理もないし、なんなら片っ端から殺し回っている。
……何故、
ユリウスはその綺麗な碧眼で、廊下に差し込む西日を見つめていた。
「おーい! ユリウス! こっちこっち!」
「顧問が来てくれるわよ!」
「……ええ、今行きます」
答えは師匠の子供たちが握っているのか……
ラグナと楓。どちらも、大和の子供だった。
◆◆
しばらく待機していると、職員室から一人の男性が出てきた。
年齢は30代ほど。適当に切られた赤みがかかった黒髪に鋭利な黄金色の眼。着崩したスーツから見える肉体はよく絞られている。長身痩躯ながら武術家の肉体だ。ユリウスは一目でわかった。
端正な顔立ちをしているが不精ヒゲで少し老けて見える。よれよれの煙草をくわえているのもマイナスポイントだ。
彼はゆっくりとユリウスに視線を向けた。
瞬間、ユリウスの全身に悪寒が奔る。生命的な危機を感じたのだ。
ラグナと楓は彼を紹介する。
「娯楽部顧問、
「娯楽部に体験入部させたいんだけど、いい?」
「……ん」
男……斧宮はユリウスから視線を外して頷く。
「大和から話は聞いてる。ユリウス、だったな。ラグナと楓の言う事をよく聞くように。入部したければまた声をかけてくれ。以上」
早々に職員室に戻ろうとする斧宮に、ラグナと楓は思わずツッこむ。
「……え!? そっけな!! 先生そっけな!!」
「体験入部なんだから付き合ってよ!! 顧問でしょ!!」
「うるせぇ、テメェらと違って俺は忙しいんだよ」
「職員室で煙草ふかしてるだけなのにぃ!?」
「付き合ってくださいよ~! せんせ~!」
「やかましい。さっさといけ」
職員室の扉が強く閉まる。ラグナと楓は肩を落とした。
「相変わらずだな……」
「そうねブラザー……放任主義もいいところよ」
「まぁでも、いざって時は頼りになるし?」
「そうね。何時もの事ね」
ここでようやく、ユリウスは声を出した。
「あの……」
「ん?」
「どしたのユリウス? 凄い顔してるわよ?」
「今の人は……一体……只者ではありませんよね?」
ユリウスの言葉に、兄妹は視線を合わせて苦笑する。
「やっぱ気付くか。斧宮先生の本名はパラシュラーマ。インド神話の大英雄だ」
「世界最強ランキング四位の、正真正銘のバケモノよ」
「やはり……」
道理で悪寒を覚えるワケだと、ユリウスは納得する。
パラシュラーマ。インド神話の大英雄にして魔神殺しの聖仙。創造神ブラフマーの神格武装「ブラフマーストラ」を武術の枠に押さえこみ、数多の英雄に教えたインド神話の武術の祖だ。
彼が放つブラフマーストラは本家を容易く超えており、上位版の「ブラフマシラーストラ」。更に上位版の「ブラフマンダストラ」がある。
何より……
「まぁ……あれだ。ユリウスはわかると思うけど、先生を怒らせる様な真似はするなよ?」
「一度怒ると、誰にも止められないでしょうから」
そう……彼の本質は戦士殺し。
マハーバーラタの大戦争にて、彼は英雄たちを虐殺した。
ビーシュマ、ドローナ、カルナ、アルジュナ、クリシュナ、アシュヴァッターマン……
人間も半神も聖仙も、戦争に加担した者はすべて殺した。
彼は滅ぼしたのだ。神話の時代の、インド神話を……
ブラフマーストラを戦争に用いた者たちを、決して許さなかった。
戦士殺し、パラシュラーマ。
大和やネメアと同格の、世界最強クラスの戦士である。
「まぁ、アレでも大分マシになったらしいぜ? 親父曰く」
「今は総理大臣さんと個人契約してて、有事の際以外は西条学園で教員をしてるみたい」
ラグナと楓は、うってかわって明るい笑みを浮かべた。
「ま、悪さしなかったら普通にいい先生だから、そう心配すんなって!」
「それより部室いきましょ! 自慢の部員たちを紹介するわ!」
気楽な空気に戻った二人を見て、ユリウスはゆっくりと肩の力を抜いた。
◆◆
廊下を歩きながら、ラグナは娯楽部について説明をはじめる。
「部活内容は、まぁ名前の通り。遊んでなんぼ。各々の楽しみ方を尊重してる。あとは……ああそうだ、今一年生と二年生が不在なんだよ」
「何かの行事ですか?」
「そ。一年生は社会科見学で、二年生は修学旅行。どっちも一週間くらい帰ってこないから、今は三年生だけだな」
ラグナはポッケに手を入れながら歩き続ける。
「娯楽部に所属してる三年生は俺たちを含めて五人。ユリウスを含めると六人になるな」
「話が早すぎませんか? 私はまだ娯楽部に入ると……」
ユリウスのほっぺを楓が指でつつく。
「ユリウスの意地悪。いいじゃない、他に入る部活なんてないでしょ?」
「部活動に興味がないんですよ」
「あらまぁ……どうするブラザー?」
「部活動に興味は無くても、青春という概念には興味がある……違うか?」
「!」
驚いているユリウスに、ラグナは笑いかける。
「親父から話は聞いてるぜ。ま、残り一年退屈に過ごすよりかはいいだろう。な?」
「……」
ユリウスは答えない。冷たい視線を返すのみだ。ラグナは苦笑する。
「と……そうこうしてる内に部室の前だ。んじゃ、入るぜ」
横開きの扉を開ける。そこには……
「はーい、時間いっぱい。時間いっぱい。はっけよーい」
「っ」
「っ」
「のこった」
「うりゃぁ!!」
「わっしょい!!」
「じゃあ俺はゲームしてるから、勝ち負けは二人で決めてなー」
壮絶な「手押し相撲」を見届けた青年は、椅子に座って携帯ゲームをはじめる。
適当に伸ばされた黒髪、それを纏めているのは大きなヘッドフォンだ。かなり高価な代物なのだろう。髪留めとしても機能している。制服はブレザーを着ていないラフなスタイル。
顔立ちは端正ながらも童顔で、女装すれば女子に見えなくない。
彼は我関せずといった様子でヘッドフォンをセットしていた。
そして後ろでは……
「おらぁぁぁぁ!! 倒れろエセパンダぁっ!!」
「倒れない!! 倒されない!! 何故ならパンダは世界的アイドルだから!!」
「ふざけた事ぬかしてんじゃないわよぉ!!」
「大真面目だよ!! というかパンダに相撲で勝てると思ってるの?」
「なにぃ!?」
少女は容易く吹き飛ばされる。パンダ……のぬいぐるみは勝利を確信し、腰に両手を当てた。
「えっへん! パンダは最強! パンダは無敵!」
「甘いわ!」
「なにぃ!?」
なんと、少女は地面スレスレで堪えていた。手を使わず、足の筋肉と体幹だけで自重を支えているのだ。
「あたしは天下五剣よ! 身体の使い方なんてわかりきってる!」
「重力に逆らうな!! 背中をつけろ!! 負けを認めなさい!!」
「嫌よ!! 待ってなさいクソパンダ、今から反撃して……」
「させぬ」
なんと、パンダのぬいぐるみは少女にのしかかった。
少女は悲鳴を上げる。
「ぎゃー!! ちょっと何してんのよー!!」
「これしかないと思って……!」
「ふざけんじゃないわよー!!」
そのまま押し潰される。もみくちゃになりながらも、二人はなんとか立ち上がった。
「アレ、反則でしょ? ノーカンだから」
「いやいや、背中スレスレで耐えるのも反則だから。素直に倒れて? 可愛くないよ?」
「あ゛?」
「もー! 顔が女子高校生じゃなーい! ナマハゲー!」
「殺すぞパンダ!!」
「プププププ♪」
眉間に特大のシワを寄せている少女。
黒髪のミディアムヘアに深紅のマフラー、黒のストッキングと、総じて他の部員と同じくらい癖が強い。
そして、パンダのぬいぐるみ。
デフォルメされた、パンダのぬいぐるみだ。
この場にいる事自体がカオスである。
目を点にしているユリウスを傍目に、ラグナは手を叩いた。
「おら! お前ら! 体験入部だぞー! 挨拶しろー!」
「ん?」
「あら」
「おろろ?」
二人と一匹はユリウスに振り返る。そしてまじまじと見つめた後、各々自己紹介をはじめた。
「あー、俺は
ヘッドフォンの少年は軽く手を振るう。
「小鳥。三年生。趣味はゲーセン巡りと修業。所属はネオナチスの歩兵師団。副隊長を務めているわ」
少女は冷たい声音で言い、
「僕の名前はアンノウン。ただのパンダのぬいぐるみさ! というのは嘘で、ゾロアスター教の悪神! アンリ・マユだよ!」
アンノウンと名乗る魔神は手をあげる。
個性的過ぎる自己紹介に、ラグナは難しい顔で額を押さえた。
「あー……お前ら、所属まで言う必要あったか?」
「「「え、マジ?」」」
盛大な勘違いをした部員たちに、ユリウスは自慢の愛想笑いも浮かべられないでいた。
◆◆
「よし、んじゃ花見いくぞー!」
「いえー!」
「お菓子とジュースは買っておいたから」
「パンダ! 次はバトミントンよ! 河川敷で決着をつけてやる!」
「フフフ! のぞむところさ!」
「え? 花見? え?」
急な展開に慌てるユリウス。その肩にラグナが腕を回す。
「桜は春にしか咲かねぇんだ! 見てなんぼだろ! いくぞ!」
「ええー……」
そんなワケで、ユリウスは半ば強引に花見に連れていかれた。
◆◆
花見をする河川敷の景色は綺麗だった。舞い散る桜の花弁が西日を纏って煌めいている。小川のせせらぎも、遠い人たちの話し声も、どこか自然で……ユリウスは妙な温かさを覚えた。
「何か感じるもんはあるか?」
「……」
ラグナの問いに、ユリウスはうすら笑みを浮かべる。
「平和ですね。犯される事も殺される事もない……あの都市とは大違いだ」
「魔界都市と比べたら、どんな場所でも平和を感じられるぜ?」
「……気に食わないんですよ。当たり前の様に平和を享受している人間たちが。どれほどの犠牲を払ってこの平和があるのか、彼等はわかってない。それが、無性に癇に障る」
「……なるほど」
ラグナは頷き、草原に寝転がる。
ユリウスの言葉は最早呪詛の言霊だった。常人が聞いていれば発狂しているだろう。
ラグナはしばらく考えた後に言った。
「ならなんだ? この街にも、いいやこの世界にも、魔界都市みたいな『闇』が必要だと?」
「そうですね。その方がスッキリする」
「どうして?」
「だって不公平でしょう?」
「何が?」
「……」
睨みつけてくるユリウスに、今度はラグナがうすら笑みを浮かべた。
「この世界の平和は数えきれないほどの犠牲の上で成り立ってる。それを壊す権利はユリウス……お前にはねぇよ」
「犠牲ですか……それが実の父親だとしても、貴方は平然としていられますか?」
「ああ。あの人は望んで『ああなった』んだから」
「っっ」
ユリウスはドロリと、狂気を漏らした。出鱈目な濃度だ。
今この瞬間、世界中の霊能力者たちが「形容しがたい何か」を垣間見た。
間近で貰ったラグナは、しかし平然としている。
「お前の親父への愛は度が過ぎてる。盲目的で狂信的。何もかもが親父中心で、何一つ共感できない」
ユリウスは絶対零度の眼でラグナを睨む。
「貴方に共感を強いた覚えはありませんが? ラグナ」
「強いてねぇよ、勘違いすんな」
ラグナの紅眼も不気味に輝く。
一触即発の雰囲気……しかし、どこからともなく飛んできたバトミントンの羽根がラグナの頭を打ち抜いた。
「いてぇ!!」
「ちょっとブラザー!! 穏便に済ませろって言ったじゃない!!」
河原でバトミントンをしていた楓が頬を膨らませていた。
ダブルスをしていた他の部員たちも文句を言う。
「迂闊に邪気を漏らすなよ。お互い邪神なんだから、そこんところ配慮しろよな」
「喧嘩なら余所でやって頂戴」
「男なら黙って殴り合え!! そして夕日の下で友情を育め!!」
「「「お前は黙ってろパンダ」」」
「酷い!!」
総スカンをくらっているパンダを見て、ラグナはやれやれと肩を竦める。
ユリウスも邪気をおさめた。
「すまねぇ。……どうやら血の気の多さは父親譲りらしい」
「……フフ、こちらこそ」
二人とも元の状態に戻る。
ラグナはゆっくりと話しはじめた。
「親父、ネメアさん。他にも沢山の人達が求めた平和……それが、今俺たちのいる場所なんだ」
「……」
「だから、無下にしないでほしい。ユリウスは親父の一番弟子なんだろう? ……わかってほしいんだ。親父の真意を」
大和の真意……
「ネメアさん越しにだけど、親父は確かに平和を求めていたんだ」
「……」
「当時は叶わなかった。けど……今は違う。ここにあるんだ。確かに。そりゃあ、多少歪んでるかもしれねぇ。けど、別にいいじゃねぇか。歪んでても。だって、不可能なんだから。真の意味で平和な世界なんて」
ラグナは目を細める。その瞳には諦観の念と、確かな希望が相反してこもっていた。
「一人一人の意思を尊重する。だとしたら、今の平和の形が一番だ。そもそも、俺たちみてぇな若造があーだこーだ考えてる間に、大人たちは現在進行形で考えて行動してる」
ラグナは鼻で笑う。しかし希望を込めて。
「俺たちはまず大人にならなきゃいけねぇ。……ユリウスは将来、親父の助手になるんだろう?」
「はい、そうです」
「だったら尚更、今を大切にしなきゃ。楽しい事も嫌な事も、将来役に立つ。経験は絶対に裏切らない」
「……」
「そんでもって、『今』は今しかない。この一分一秒は、もう訪れないんだ。後一年もしたら、俺たちは卒業する」
「…………なるほど」
ユリウスは頷く。彼ははじめて、本当の意味で、河川敷の景色を眺めた。予想よりも綺麗だった。
「師匠が求めた平和……それを私が、味わえるのですね……」
ユリウスはしばらくして、頷いた。
「ラグナさん、娯楽部への加入条件は?」
「今を全力で楽しむ事!」
「善処します」
「じゃあ……!!」
ラグナの瞳が輝く。ユリウスは再度頷いた。
「娯楽部、加入させてください。この一年間で青春とは何なのか……改めて勉強させてください」
「そうか! そうか! いぃよっしゃー!! シスター! 皆! ユリウスが娯楽部に入ってくれるってよ!」
「マジ!? やったじゃんブラザー!! って!!」
「よそ見すんな楓!! くるわよ!!」
「あいさぁ!!」
「くらえ!! ミラクル☆パンダスマッシュ!!」
「見切った!!」
「甘いわ!!」
「その羽根、消えるよ」
「「なにぃ!?」」
アンノウンの放ったスマッシュに対応しきれなかった女子チーム。ゲームセットで、男子チームの彼方とアンノウンはハイタッチを交わした。
「やっふー! やっぱアンノウンゲーム強ぇ!」
「娯楽でパンダに勝てる筈がないのさ!」
大喜びしている男二人とは対照的に、女二人は心底悔しそうにしている。
「油断したわッ」
「クソぉ!! パンダめぇ!!」
「プッ……ハッハッハッハッハ!! やっぱ面白ぇなぁ!! 皆で騒ぐと!!」
腹を抱えて笑うラグナに、ユリウスも釣られて微笑む。
夕焼けは温かさを残しながら沈みはじめていた。
これから一年、ユリウスは多くの事を学ぶだろう。楽しい事、恥ずかしい事、嬉しい事、嫌な事……
それら全てが、後で思い返した時に言えるのだ。
あの日々は青春でした、と。
彼等は魔界都市とは遠い場所で成長していく。
それは、大和やネメアが求めていたものなのかもしれない。
《完》
お疲れ様でした。時折外伝でこちらも更新します。本編との絡みもあるかも?
次回から新章に突入します。
それから、題名を「villain 〜その男、極悪につき〜」にするにあたり、大幅なブラッシュアップを実施しました。特に後半の、大和の性格のブレを修正しています。それによって無くなった章もあります。
次回のお話はソレが顕著に表れるので、もしよかったら見直していただけると嬉しいです。
それでは!