Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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第四十三章「武装伝」
一話「武器新調」


 

 

 夜。

 デスシティの摩天楼を背にして褐色肌の美丈夫、大和は東区の隅っこまで足を運んでいた。

 人間も妖魔も寄り付かない辺鄙な地帯である。

 此処は大和が特別に「自分の土地」だと主張している場所だ。

 故に、余程馬鹿な者でない限り近付かない。

 

 鋼鉄製の槌を叩き付ける音が響き渡る。

 和製の質素な一軒家からだ。

 合金製の煙突からモクモクと煙が上がっている。

 槌の音も相俟って、鍛冶仕事の最中なのだろう。

 

 大和は扉の前で待機しようと煙草の箱を取り出したが、作業音が止んだので肩を竦める。

 

「村正、大丈夫か?」

「丁度よかった。入ってきてくれ」

 

 木製の横開きを開ければ、濃密な汗と鋼鉄の匂いが鼻を満たした。

 特に女特有の甘ったるい汗の香りが刺激的だ。

 大和はガシガシと頭をかいて煩悩を払い退ける。

 

「よ、約束通り来たぜ」

「待っていたぞ、大和」

 

 頑固そうな美女が微笑む。

 紺色の髪はポニーテイルに結われており、端正な顔はススで汚れている。

 鍛冶師らしい鍛え抜かれた褐色の肉体。腹筋は八つに割れており、そこに甘い汗が滴り落ちていた。

 意外に巨乳であり、サラシで無理やり締めている。

 額にある第三の目は、彼女が人間では無い事を物語っている。

 

 百目鬼村正(どうめき・むらまさ)──大和の専属武器職人だった。

 

 

 ◆◆

 

 

 今日は特別な日だった。

 村正はまず、何時ものように大和に「武器を全部交換しろ」と言う。

 毎度のことながら、使い切れてない大和は渋るが、頑固な村正は譲らない。

 常に最高の状態の武具を大和に使ってもらいたいからだ。

 

 渋々交換する大和を見て、誇らしげに胸を張る村正。

 大和はやれやれと肩を竦めると、唐突に彼女を抱き寄せた。

 驚く彼女の唇を奪う。

 暫くして口を離すと、笑顔で言った。

 

「何時もありがとうな、助かる」

「……うんっ。でもビックリした。大和のスケベ」

「ハッハッハ」

「あと汗臭いだろ? あまり近寄らないほうがいいぞ」

「お前の汗の匂いは媚薬みたいなもんだ。クラクラする」

「……スケベ」

 

 そう言って村正は背を向ける。

 耳まで真っ赤だった。

 

 彼女は打って変わって、子供のような笑顔で大和に言う。

 

「そうだ! 今日は特別な日なんだよ! 覚えてるよな!」

「ああ、覚えてるよ。やけに嬉しそうだな。自信作か?」

「ああ! ここ百年で一番出来がいいんだ! 是非見てくれ!」

 

 何時もの彼女からは想像できないくらいのはしゃぎように、大和は自然と笑みをこぼした。

 

 

 ◆◆

 

 

 蔵の一つに移動した二人。

 中に入っていたのは大量の武具、兵器だった。

 予備、もしくは試作品なのだろう。

 

 中でも異質な得物が二本あった。

 それぞれ大和が視界に入れた瞬間、莫大なオーラを発する。

 まるで、担い手の到来を歓迎しているかのような──

 

 驚いているのは村正だった。

 

「……余程嬉しいらしい。ここまでのオーラを発するとはな」

「それが……」

「ああ、自慢の三作。その内の二振りだ」

 

 村正はまず、大和の背丈ほどある無骨な人斬り包丁を撫でる。

 

「コイツは『鬼斬り包丁』と名付けた。得物に名前を付けるなんて滅多にないんだが、それほどの一品だ。元々が全世界観で最高の性能を誇る鉱物、「天鋼(あまはがね)」なのに世界最強の呪術師、無月殿がこれでもかと呪詛、強化術式、退魔術式を施してくれていた。おかげで最高の一品に仕上がったよ。強度と斬れ味は勿論だが、何より退魔の力が尋常じゃない。魔族、妖魔の類は掠り傷を負わせただけで殺せる筈だ。形状は以前の試作品と同じ。お前のパワーと戦闘スタイルに合わせてある。多少の技術差なら自慢の怪力で押し切れるだろう」

 

 大和は鬼斬り包丁の柄を掴む。

 青色の退魔の波動がこれでもかと迸った。

 あまりの風圧に目を丸めながら、村正は説明を続ける。

 

「何回も言うが、強度と斬れ味は保証する。それと、凄まじい回復能力を有していてな。万が一刃こぼれ……いいや、根本から折れても瞬く間に元通りになる。どんなに乱暴に扱っても、どんなに強力な力で振るおうとも、問題ない。……これなら、お前の『闇の型』にも耐えられる筈だ」

 

 大和は柄を握りしめる。

 形状、強度、斬れ味、ともに申し分ない。

 しかも途轍もない回復能力に強大な退魔の波動ときた。

 

「スゲェな……前の試作品は闇の型の鍛錬中にブチ折れちまったが、コイツなら……」

「ああ、真の意味で「本気」のお前に耐えられるだろう」

 

 大和は生涯の相棒になってくれそうな得物を優しく撫でる。

 退魔の波動はいつの間にか穏やかなものになっていた。

 

 村正は次に、すぐ横に置いてあった異質な得物を見つめる。

 禍々しいオーラを放つ、骨でできた大剣だ。

 いいや、戦斧か? どちらの特徴も有している。

 顎を擦っている大和に村正は説明をはじめた。

 

「コイツは『龍骨斧剣ダイダロス』。南区のS級冒険者たちが見つけた古龍の遺骨をそのまま削り出したんだ。ある日、南区の鍛冶職人一派であるドワーフたちが泣きながら俺に譲ってくれてな。「俺達じゃ武具に加工するどころか削ることもできねぇ」って。案の定、俺でも最低限の加工しかできなかった」

 

 大和は得物の腹を撫でる。

 溢れ出た緑色のオーラは「ある存在」に対する憎悪と殺意で漲っていた。

 大和は呟く。

 

「暴龍王ダイダロスか……」

「知ってたのか?」

「いいや、風の噂で耳にしたくらいだ」

「そうか」

 

 通称、神仏喰らいのダイダロス。大和やネメアが生まれる前に聖書の神に封印された古の龍王である。

 まさか死んで骨になっているとは、大和も思わなかった。

 しかし骨になっても変わらないらしい。

 現に神に対する飢えと殺意、何より憎悪が半端ではない。

 

 大和以外が振るえば武器に振り回されるだけの神殺しの化け物となるだろう。

 

「ほぼお前専用の武装だ。最初からそういう風に造った。いいや……造らされた、といったほうが正しいか? 声、みたいなのが聞こえたんだ。それに従って造っていたら、今の形になった」

「それ、大丈夫なのか?」

「ああ、問題ない。コレは古龍の遺骨だ。声くらい発するだろう」

 

 村正の鍛冶職人としての鋼の精神に、大和は感心を覚える。

 村正は可変する部分を撫でながら言った。

 

「コイツは大剣と戦斧、二つの形態を有する特殊可変型兵器だ。戦況に合わせて切り替えることで真価を発揮する。意外にトリッキーな奴だが……扱いきれるか?」

「安心しろ。百パーセント使いきってやる」 

「……その感じだと、真名開放もできるみたいだな」

「ああ、誰でもねぇ。コイツが教えてくれた」

 

 大和はダイダロスの柄を握りしめる。

 ゴリゴリ、ゴリゴリと、接合部分が勝手に動いていた。

 

 もっと神を喰らいたい、殺したい。何より聖四文字(アイツ)に復讐させろと、訴えかけてくる。

 任せろ、と大和が意思を込めて握り込むと、満足したのだろう。動きが止まった。

 

 村正は目を丸めながら言う。

 

「ソイツはある意味、究極の神殺しの武器だ。神仏が味方にいる場合は使わないほうがいい。神話の世界にいる時も同様だ」

「ああ、わかってる」

「…………ふぅ」

 

 村正は腰に手を当て、小さく息を吐いた。

 そしてやれやれと肩を竦める。

 

「お前の専属鍛冶職人を自称しているが、どうやら考えを改める機会が来たらしい。コイツらを見てて、確信に変わったよ」

「……どういう事だ?」

「お前は、俺が造った得物以外も使うべきだ」

 

 大和は暫く黙る。

 

「……嫌だと言ったら?」

「そう言うな。俺だって嫌さ。でも、お前の成長を見ているとそうも言えなくなってきた。俺が支えられるのはここまで……お前が普段使う武器は造れるが、それ以上のことはできない」

 

 黙る大和に、村正は告げる。

 

「我慢するな、大和。俺はな、お前には常に百パーセントの状態で戦って欲しいんだよ」

「……村正」

「勿論、お前の専属鍛冶職人の座を譲るつもりはない。ただ大和……もっと可能性を広げられるんじゃないか? 今のお前なら」

「…………」

「これは、『あの方』にも相談して導き出した答えだ。あの方もまた、お前に使って貰いたがってる。一緒にいたい。共に戦いたいって。だから、俺も遠慮なくあの方を戦闘用の傀儡に改造した」

「……本人の意思を尊重したとはいえ、マジでやったのか」

「ああ。あの方は今、別の蔵で眠ってる。……もし使う時が来たら、遠慮なく使ってやってくれ。メンテナンスの方法は巻物に纏めてある」

「……ああ。わかった……わかったよ」

 

 大和は参ったと両手をあげる。

 

「ここまで期待されてんなら応えるしかねぇ。応さ、何でも使ってやる」

「大和……!」

「ただし」

 

 大和は村正を抱き寄せる。

 そして強く抱きしめた。

 

「お前は、これからもずっと、俺の専属鍛冶職人だ」

「あっ……」

「嫌だと言っても遅いからな? ……お前は俺のもんだ」

 

 村正は顔を真っ赤にしながらも、大和を抱きしめる。

 

「嬉しい……っ。俺はずっと、ずっとずぅぅっと、お前だけの鍛冶職人だ」

 

 村正は大和を見上げる。

 背伸びをすれば、大和と唇が重なった。

 そのまま舌を絡ませ合い、情熱的なキスを交える。

 大和が舌を離すと、銀の糸が二人の間に垂れ落ちた。

 

「あっ……♡」

「寝室に行くぞ。お前の身体に直接刻みつける。俺のものだっていう証を」

「……うんっ♡ 刻みつけて♡ いっぱい……♡」

 

 大和は村正をお姫様抱っこして、寝室まで連れて行く。

 それから日が昇るまで、寝室から甘い悲鳴が途絶えなかったという。

 

 

 

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