翌日の昼、大和は一度自宅に帰ってから買い物に出ていた。
酒や煙草、つまみを買いに出ているのだ。
「メンテナンスの仕方、巻物にしっかりと書かれてたが、まさか原動力が俺の生命力だとはな」
つまるところの精液である。
大和が村正から受け取った「ある傀儡」は自我を持ち、エネルギーとして大和の生命力がたっぷりと込もった飲み物を欲するのだ。
メンテナンスが終わった後に独りでに動き出し、大和のものを吸って貪欲にエネルギーを求め始めた時は、流石の大和も目を丸めた。
もっとも、組み敷いて口どころか穴という穴にエネルギーを注ぎ込んでやったのだが……
今は大人しくなっている。
しかしあの貪欲さだ。定期的なメンテナンスは必須だろう。
大和はやれやれと肩を竦めた。
「ただまぁ、ちっと足りねぇんだよなぁ。なんかその気になっちまったっていうか……」
ようするに、ムラムラしている。
精力お化けな大和は一人や二人抱いたところで性欲がおさまらない。むしろ悪化する。
大和は独り言を呟きながら頭をかいていた。
大通りから裏路地に入り、自宅に戻ろうとする。
ビニール袋に入った酒瓶をカランカランと鳴らして、住処であるボロアパートの前までやってきた。
「……ん?」
階段前に見覚えのある女たちがいた。
一人は二十代半ばほどの美女。濡れる様な黒髪を腰まで流し、桜の花弁を散らした黒色の浴衣を大胆に着崩している。
彼女は浴衣に収まりきらない豊満な乳房を揺らして、熱い溜息を吐いていた。
もう一人は十代半ばほどの美少女。
膝裏まで伸びたストレートの銀髪。生気を感じさせない蒼穹色の半眼。慎ましい、しかし柔らかそうな肢体を純白のワンピースで着飾っている。
彼女もまた、頬を紅色に染めて瞳を濡らしていた。
「お待ちしておりました……っ」
「待っていましたよ……っ」
ムワリと、甘酸っぱい牝の匂いが漂う。
大和は意地悪な笑みを浮かべながら聞いた。
「どこで聞いた。俺が何でも使うようになったと」
「風の噂で……。耳にした瞬間、既に足は動いておりました……っ」
「まさか、私達を無視するなんてありえませんよね?」
90を越える乳房を自ら揉みしだく美女は、妖魔刀「紅桜」。
戦国末期に打たれ、今なお数多くの神魔霊獣の血を啜っている生粋の魔剣。世界最強の妖刀である。
対して桃色の唇をいやらしく舐めているのは聖王剣「コールブランド」。
精霊の最上位種、星霊達が鍛え上げた至高の聖剣。あらゆる聖剣の原点であり頂点である。
今は魔剣に堕ち、聖魔両方の属性を有していた。
大和はニヤリと笑うと、彼女たちに歩み寄り、そして両方抱き寄せる。
「いいぜ、俺のものになりてぇってんならしてやるよ。ただし……もう他の担い手じゃあ満足できなくなるぞ?」
その言葉に、紅桜もコールブランドも表情をとろけさせた。
高い体温の肢体をそれぞれ大和に擦り付ける。
「勿論です……っ。やっと、やっと貴方様の得物になれる♡」
「どうか私を……いいえ、私達を貴方色に染め上げてください。剣としても女としても、屈伏させて……♡」
擦り寄ってくる魔剣姫たちを、大和は片手で抱きかかえる。
そうして階段を上がり、自宅へと入っていった。
それから夜になるまで、魔剣姫たちの甘い喘ぎ声は途絶えなかったという。
◆◆
武器との適合率を高めるのに、肉体関係を築くというのはある意味最も手っ取り早い方法だ。
互いに異性として深く想い、繋がることで、本来なら引き出せない力を引き出せるようになる。
大和の床の技術と精力によって、元々適合率100パーセントだったのが120パーセントを超えた。
完全に屈伏した魔剣姫たちは、大和に絶対の忠誠を誓うようになった。
二人が満足して気絶するまでに、時間帯は夜になっていた。
大和は横開きの窓を開けて空気を換気する。
甘酸っぱい牝の香りが抜けたことを確認すると、パンツだけ履いて部屋を歩き回った。
冷蔵庫に入れてあった水の入ったボトルを手に取ると、がぶ飲みする。
「……ふぅ、スッキリした……のか? んー」
まだ半分といったところか──
大和は内で騒ぐ煩悩を冷静に分析する。
まだ足りないといえば足りないが、生活に支障をきたすレベルではない。
大和は肩を竦めると、ベッドに座り煙草の箱を手に取った。
そんな時である。インターホンが鳴り響いたのは──
仕事の予定も女の予定もない。
大和は「はて」と首を傾げる。
気配を探ってみると、意外な相手だったので目を丸めた。
「……なんの用だ、アイツ」
大和は適当にあったズボンを履き、玄関前まで歩いていく。
扉を開けると、それはそれは美しい女がいた。
「やぁ、大和。久々だね」
「なんの用だ、
「立ち話もなんだし、中に入れておくれよ」
「……」
黄龍。別名「黄龍王」。
中国の五行思想において四聖獣の中央に位置する黄金の龍。
外宇宙の侵略者、ドラゴン。その中でも最高位の証である「龍王」の称号を持ちながら、平和を愛している変わり者。
護国の象徴としても扱われる、中国神話を代表するドラゴンである。
◆◆
居間までやってきた黄龍は、ベッドに座る大和を見つめた。
大和も彼女をまじまじと見つめる。
容姿的年齢は二十代半ばほど。
金色の眠たげな目。ところどころ跳ねたり回ったりしている癖の強い銀髪は踵まであり、長い一本の三つ編みに括ってある。髪と同じ色の長いまつ毛、滑らかでシミ一つない白い肌。大人びた、色気のある端正な顔立ち。
服装は黄色のチャイナドレス。東洋の龍の刺繍があしらわれている。布面積が少なめで、だからこそ、ムチムチのいやらしい身体が目立つ。
だらしないほど実った乳房は100センチを超えており、その癖に腰回りはキュッと絞れている。下半身の肉付きは大変よく、脂の乗った尻肉、太もも……男ならば思わず喰らい付きたくなるだろう。
深いスリッドのせいで生足が丸見えだった。
彼女は大和の獣欲に滾った視線に気付き、身体をくねらせる。
「そんな目で見ないでよ……変な気分になっちゃうじゃないか」
「そんな容姿と服装をしてるのが悪い」
「ふふっ……」
黄龍はその場で一回転する。
まるで大和の視線を全身で感じるように──
大和は頭を押さえると、ぶっきらぼうに吐き捨てた。
「失せろ、襲われたくなかったら」
「僕は用があって来たんだ。帰らないよ」
「……ならなんの用だ」
呆れる大和とは対照的に、黄龍は妖艶に微笑む。
「君の武器になりたいなぁ、って思って」
「ハァ……? マジで言ってんのか?」
「マジ、だよ」
目を丸める大和に黄龍は前屈みになる。
メートル超えの乳房が面白いほど形を変えた。
大和はしかし、黄龍が警戒していることに気づく。
それについて言及した。
「その割には体が強張ってるぜ。……何か目論見でもあんだろ」
「いや……スカアハが、あの暴れ馬が出てこないかと思ってね」
「ああ、そういうことか……」
大和の一番の相棒──スカアハは、大和にこそ従順で礼儀正しいが、その正体は神話の時代で名が知れ渡っていた暴れ馬である。神々すら手懐けることができず、最高位の神であるオーディンすら蹴り殺されかけたことで有名だ。
魔獣──馬種の中でも、最も凶暴で怪物的な力を誇る。あの神滅狼「フェンリル」ともライバル関係であったのが、魔神后馬こと「スカアハ」だ。
黄龍は彼女を警戒していた。
しかし大和は杞憂だと手を振るう。
「アイツは一昨日「説得」した。ゴネられたが、一日かけてわかってもらったさ。今は疲れて寝てるだろうよ」
わかってもらった。
それを聞いた黄龍は満面の笑みを浮かべると、大和に飛び込むように抱きついた。
甘く濃厚な、ミルクのような香りが大和の鼻を満たす。
同時に柔らかい極上の女体がこれでもかと押し当てられた。
「安心した♪ これで君のことを口説けるね♪」
「……ちょっと待て。お前は護国の象徴、四聖獣の長だろう? 俺を口説く意味がわからねぇ」
四聖獣。
玄武。白虎。青龍。朱雀の四体。
それぞれ東西南北を守護する霊獣である。
これに黄龍を加えたものを「五神」と呼び、陰陽五行の法則に深い関わりを持っていた。
中国の道教、日本の陰陽道では特に重要視されている。
大和の懸念は最もだった。
黄龍はドラゴンだが、中国では霊獣、神獣として扱われている。
自分の武器になるメリットはない筈──
しかし、黄龍は大和に擦り寄った。
「近代になって、陰陽五行の思想が薄れてきていてね。信仰と呼ばれるものがまるで無くなってきたのさ。これらを重視してくれる人間と仙人は少数だし、そも、仙人に至っては仙境に引きこもってる」
「……」
「四神の長とか言われてるけど、ぶっちゃけ強いからそう言われてるだけであって……本来なら麒麟とかが丁度いいんだよね。あとはそうだなぁ……理由なんて沢山あるけど」
強いて言えば、身の危険を感じたからかな。
そう言って黄龍は大和を見上げる。
眠たげな金色の眼は不安で濡れていた。
「どこまでいっても僕はドラゴン……外宇宙の侵略者だ。青龍みたいに蛇から龍に至った子たちは別だけど、僕は生まれながらのドラゴン……それも龍王だ。警戒されてる」
「中華系の神話──道教からか? それとも仏教?」
「両方。プラスしてインド神話から」
「……それはキツいな」
「誰かさんが頼りになる八天衆を解散させちゃったからね」
「……」
ジト目を向けてくる黄龍に、大和は何とも言えない表情をする。
「ともかく、今のままじゃ居心地が悪いんだ。最近だとネオナチス? に入ってるニーズヘッグから強引な勧誘を受けたし、かと思えばリベリオン? っていう組織から声をかけられるし……このままじゃ、僕の愛する平和は遠のくばかり」
「で──その平和とは真逆のところにいる俺の元に、何で来た」
「逆転の発想だよ」
黄龍は自信満々に微笑む。
「天変地異の真ん中が穏やかであるように、台風に目があるように、大和……君の傍にいるのが一番安全だと思ったんだ」
「……」
「我ながら、いい考えだと思うけどね。君は神魔霊獣、何者にも屈さず、何処にも属さない闇の英雄王。……君の傍にいれば、僕の安全は約束される」
「対価は?」
「僕の武装形態である「黄龍偃月刀」を何時でも、好きな様に使っていいよ。……どうかな?」
通称「護国神器」。黄龍の魂と力が宿った伝説の長物だ。
護国といわれる通り、中華の国そのものが危機に陥った時、時の英雄が振るったとされている。
しかし誰も完璧に使いこなしたことがないと言われている難物だ。
黄龍は大和の顎を撫でる。
「君なら使いこなせるんじゃない? 僕を、完璧に」
「……まぁな。俺に使いこなせない武器はねぇ」
「なら……!」
「ただし、条件を一つ追加してもらう」
「……何?」
警戒する黄龍。その突き出された脂の乗った尻肉を大和は揉みしだいた。
「あんっ♡」
「得物としては勿論だが、女としても俺に尽くしてもらう。それが条件だ」
「……別にいいよ。武器としての適合率を上げるためにも、男女の関係性は必要だものね」
黄龍は桃色の唇を舐めると、大和の分厚い胸板を指でなぞる。
そして大きな手を自分の乳房に誘導した。
揉まれると甘い喘ぎ声を上げる。
その全身から甘酸っぱい、発情した女特有の香りが発された。
大和は黄龍を押し倒す。
黄龍は真っ赤になった顔で、恥ずかしそうに前髪をいじった。
「あのね、僕……今更だけど、処女なんだ……♡ だから、優しくしてくれると嬉しい……♡」
「…………」
「やっ♡ 大和、目が怖い♡」
「この雌ドラゴンが、イライラさせやがって……わからせてやるよ。お前にとって、誰が必要なのか」
「あっ、大和ぉ……っ♡」
黄龍はそのまま唇を奪われる。
そして三日三晩、抱かれ、愛され続けた。
黄龍はこの日を境に大和にメロメロになり、甘えん坊な雌ドラゴンになる。
そして武器としても、女としても彼に尽くすようになった。
彼女は安心かつ頼れる
ここ数日で、大和の武装は大きく新調された。
鬼斬り包丁。
龍骨斧剣ダイダロス。
妖魔刀「紅桜」&聖王剣「コールブランド」。
護国神器「黄龍偃月刀」。
そして死傀儡「
元々いる魔導式鏖殺戦車「スカアハ」が加われば、六つになる。
大和はさらなる進化を遂げた。
これからますます成長していくことだろう。
彼の最強伝説は、まだ終わらない。
《完》