Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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八話「堕天使ウリエル」

 

 

 

 大和は深夜の街道を散策していた。

 ここは掃きだめの裏区。

 深夜になれば危険度は最高まで跳ね上がる。

 活気に満ち溢れるのもまた深夜だが、同時に危険度も上がるのだ。

 

「さぁて、可愛い亜人のお嬢ちゃんを五人くらい貰っていこうか」

 

 顎を擦りながら、遠く輝くネオン街に視線を向ける大和。

 裏区は獣人の中でも更に獣の色が濃い「亜人」が多く生息している。

 亜人の娼婦と一夜を共にしたいというなら、裏区が一番適していた。

 

「ん?」

 

 大和の前に少女が立ち塞がった。

 奇妙な出で立ちをしていた。

 同時に、例えようも無いほど美しかった。

 

 ショートに整えられた桃色の髪、薄く焼けた肌。

 十代ほどに見える可憐な顔立ち、しかし大きく実った乳房は大人の女性顔負け。

 漆黒の羽で編まれた法衣は神秘的でありながら妖艶だった。

 

 彼女は頭の上に生えた漆黒の小翼をパタパタとはためかせていた。

 その美貌は天使の様であり、しかし瑞々しい唇に浮かべる笑みは小悪魔の様だった。

 

「探したよ、大和……」

 

 甘ったるい声で呟く美少女。

 大和は苦笑しながら、彼女の名を口にする。

 

「久々じゃねぇか……ウリエル」

 

 聖書に記されし最も偉大な四名の熾天使、その一角。

 正義と焔を司る厳格な天使でありながら、堕天した変わり者。

 

 宇宙開闢と終焉の焔を司る堕天使、ウリエル。

 

 彼女は大和に情熱的な愛を込めた眼差しを向けていた。

 

 

 ◆◆

 

 

 斬魔がよろけながら部屋を出ていった後、えりあも退室しようとした。

 しかし華仙に呼び止められる。

 

「待って。貴女に話しておきたい事があるの」

「何かしら?」

 

 小首を傾げるえりあ。

 華仙は含み笑いを浮かべながら聞いた。

 

「貴方は、本物の天使を見たことあるかしら?」

「本物の、天使……?」

 

 天使病の患者なら飽きる程見てきたし、殺してきた。

 しかし、本物の天使は一度も見た事がない。

 

 えりあは華仙の話に少し興味を持ったので、問い返す。

 

「貴女は見た事があるの? 本物の天使を」

「まぁね、これでも長生きしてるから。――純粋天使。彼女達は天使病の患者とは違い、本当に穢れの無い存在よ。全員少女の姿をしているわ」

「全員少女なの?」

「そう、彼女達を作った神様の趣味が伺えるわね」

 

 クスクスと笑いながら、華仙は続ける。

 

「でも中身は只の戦略兵器。神様の命令に従い、罪人を裁くだけの人形。それが、天使という存在の真実」

「…………」

 

 えりあは、別に驚きはしなかった。

 謙虚な信徒であれば発狂するレベルの内容なのだが――

 生憎、彼女は謙虚な信徒では無かった。

 

 華仙は更に深く掘り下げる。

 

「純粋天使は現代において殆ど破壊されている。でも、その肉体を構成していた霊子型ナノマシンはまだ生きているわ。それが天使病の原因なのだけれど……堕天使は別」

「堕天使……存在するの?」

「ええ。数は限りなく少ないけど、存在するわ。当時の実力、そのままでね」

「……」

 

 えりあは表情を険しくした。

 

「彼女達に、敵意はあるのかしら?」

「それはわからない。でも、あるんだったら今頃大和かアラクネが破壊してるわ。だから、貴女達の業務に支障は無いんじゃない?」

「……そう」

 

 それならいいと、えりあは頷く。

 華仙は「でも」と人差し指を立てた。

 

「注意してね。堕天使は凄く可愛くてエッチな子達だから……君の相棒クン、騙されちゃうかもしれないわよ」

「……」

 

 えりあは相棒のだらしなさを思い出す。

 そして、こめかみを押さえた。

 

「ええ、警戒しておくわ。厳重に」

 

 彼女の斬魔に対する「女」の信頼はゼロだった。

 

 

 ◆◆

 

 

 裏区にある高級旅館の一室にて。

 大きめのソファーで寛いでいる大和。

 そんな彼の膝上に跨る、一人の美少女。

 

 桃色のショートヘアが揺れる。

 ほんのり焼けた小麦色の肌は眩しくて。

 顔立ちはまるで天使の如く可憐。

 欠点と呼べる要素が存在しない。

 

 黒い羽のようなもので形成されたボンテージは最低限の部位しか隠せていない。

 

 凹凸のハッキリした肢体。

 大きく張りのある乳房、キュっとくびれた腰周り、そして安産型の尻。

 まさしく極上の女体だった。

 

 彼女は潤った桜色の唇で跨っている男に囁く。

 

「まさか君がこの一件に関わるなんてね……嘗て「武神」と謳われた男が、また人類史を救うのかい?」

 

 悪戯っぽく笑う美少女、ウリエルに対して、大和は呆れ交じりの溜息を吐く。

 

「懐かしい二つ名を出しやがって……それに俺が人類史を救うだと? 本当にそう思ってんのか?」

「冗談さ。人類史を何度も救った英雄という肩書きは、君には全く価値の無いものだろう? それに、君を英雄と呼ぶ人間はもういない。遥か昔の、絶滅の脅威に常にさらされていた人間だけさ」

 

 ウリエルは人類史を長く見てきた。

 それはもう、途方も無く長い年月の間。

 

 だからこそ、ウリエルは人間の本質をよく理解していた。

 

「英雄、正義の味方、救世主。そう言われる存在は総じて民衆にとって都合の良い存在に過ぎない。正義=民主主義だよ。大衆にとって善きものが正義になるんだ。君の歴史を見ていれば、よくわかる」

 

 ウリエルは自虐を交えた嘲笑を漏らした。

 

「正義の味方と呼ばれる存在は、大概自分に酔っているだけさ。弱者を救う自分は素晴らしい。大衆から称賛される自分は素晴らしい。善き自分は素晴らしい。……どんなに綺麗事で隠しても、本音を出せば醜い醜い。自覚していないなら尚タチが悪い。……過去の僕がそうだった」

 

 ウリエルは過去の自分を否定する様に呟き続ける。

 

「醜い、醜い。自分に酔ってる正義の味方も、護って貰うのが当たり前だといわんばかりの民衆も。何より、僕が気に入らないのは……!!」

 

 激情を発し、大和の胸に寄りかかるウリエル。

 

「護って貰っておいて、自分達の英雄に相応しくないと君を批判した当時の人間達さ……! あれ程腹が立った事は無かった。でも、だからこそ気付けたんだ、自分の醜さを。こんなものを護って悦に浸っていた自分の愚かさに絶望したんだ……ッ。何だかんだ言いつつ、一番許せないのは僕自身なんだ」

 

 自虐。

 行き場の無い怒りで自身を焼き焦がそうとしているウリエル。

 正義を司る熾天使が何故堕天したのか――その真実が語られていた。

 

 大和は苦笑しつつ、彼女の桃色の髪を撫でる。

 

「有象無象の事なんざどうでもいいんだよ、俺の評価は俺が決める。俺は人類を救った訳じゃねぇ。ムカついた奴をぶっ殺しただけだ。勝手に勘違いして、勝手に落胆してた奴等なんか忘れろや」

 

 大きな手で髪を梳かれ、ウリエルはうっとりとしていた。

 彼女は熱に浮かされた様に呟く。

 

「君は本当に変わらないね……昔のままだ」

 

 ウリエルは彼の厚い胸板に顔を埋める。

 そして愛を囁いた。

 

「天衣無縫に生きる君が好き。誰にも染まらない君が羨ましい。何より……僕を慰めてくれる優しい君が、愛おしい」

 

 ウリエルは大和を見上げる。

 その真紅の双眸を情愛で濡らして、彼女は大和に唇を近付けた。

 

「だから僕は、堕天したんだ……っ」

 

 ウリエルと大和の唇が、重なった。

 

 

 ◆◆

 

 

 ウリエルは、そのきめ細やかな手を自分の乳房に這わせる。

 指を弾きながらも自在に形を変える乳房は実に卑猥であった。

 

 大和は彼女の唇を奪う。

 ウリエルもまた、それを望んでいた。

 

 水の滴る音が響き渡る。

 濃密に舌を絡め合い、唾液を交換する。

 ウリエルの頭から生えている翼が、快感と同調し小さく羽ばたいていた。

 

 長い時間を経て、唇を離す。

 すると銀の糸が二人の間で伸び、垂れ落ちた。

 ウリエルは堪らず、熱い吐息を漏らす。

 その焔の如き瞳で上目遣いされ、大和は小さく苦笑した。

 

「エロいキスしやがって……」

「誰が刷り込んだんだい?」

「この身体もだ、男を惑わす肉だな」

「あ……っ♡」

 

 豊満な乳房を揉まれ、ウリエルは喘ぐ。

 剣ダコだらけの大和の手はウリエルの性感を強く刺激した。

 

 ウリエルは涙目で呟く。

 

「仕方ないじゃないか……君みたいな男に抱かれたらっ♡」

 

 彼女は大和にしなだれかかると、その逞しい肉体を肌で感じ始める。

 

 熱く、厚く、そして硬い。

 筋肉繊維の密度と本数。関節、骨格の強度。

 全てが桁外れ。

 人類最高峰の肉体を人智を逸脱した努力で鍛え上げた――世界一の肉体。

 

 ウリエルは覚えていた。

 この体に抱かれる時の快感を。

 

 紅蓮色の双眸を潤ませ、ウリエルは彼の首に両腕を巻き付けた。

 その肢体を擦りつけ、自分が発情している事をアピールする。

 

 大和の両手が彼女のヒップに伸びた。

 尻肉を鷲掴まれ、ウリエルは嬌声を上げる。

 

「あアッ♡ 大和っ、そんな、お尻……弱いのにぃッ♡」

「いい尻だ」

「あっ、はぅ、ぅ、やぁんッ♡」

 

 大和の耳元で官能的な悲鳴を上げるウリエル。

 赤みを帯びる頬、滴る汗。

 ウリエルは一度大きく震えると、火照るままに大和の首筋を舐め上げた。

 

「ん、ちゅ、ハァ……っ♡」

 

 その卑猥な舌使いは男の劣情を否応なく刺激する。

 彼女は瞳を潤ませながら囁いた。

 

「好き、好きィ――大好き。僕だけのものにしたいッ」

 

 ウリエルは大和の首筋に噛みつく。

 そして吸血鬼の如く音を立てて吸い始めた。

 血は出ない。

 しかし、唇を離せば赤いアザが浮かび上がった。

 

 いわゆるキスマークというやつだ。

 ウリエルは艶やかに笑う。

 

「マーキング……これで当分、他の女と寝れないね♡」

「ったく」

 

 肩を竦める大和。

 ウリエルは立ち上がり、幅広いベッドへと寝そべった。

 

「おいで、大和……僕が天国へ連れて行ってあげる」

 

 真紅の双眸が潤む。

 ほんのりと朱に染まった褐色肌がまた扇情的で。

 はだけた胸元から臍へのラインは、否応無しに情欲を駆り立てられる。

 

 大和は薄っすらと口元を緩め、ウリエルに覆いかぶさった。

 そして彼女を激しく愛し始める。

 

 熱い夜の営みの始まりだった。

 ウリエルの嬌声は大きく、何より情愛に満ち溢れていて。

 付近に棲んでいた男達を眠らせなかったという。

 

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