翌日。
大和は斬魔とえりあと再会した。
貴賓室で、彼は待機していたえりあに聞く。
「よぅ、色々情報は聞けたか?」
「ええ。本部には既に報告してるし、私達は元凶の調査を続けましょう」
えりあの言葉に大和は小首を傾げる。
「元凶のアテはついてんのか?」
「あらかたな」
ソファーで寝転がっていた斬魔が起きる。
「天使教。天使を信仰し、天使病の患者を利用するイカレ野郎共だ。この都市でいう邪教徒みてぇなもんだな」
「ハッ、邪教徒か。そりゃ此処には腐るほどいるが……面倒な手合いだな」
大和は顎を擦る。
過激な信仰者の行動は時に常識を逸する。
平気で命を投げ捨てたりするので、厄介なのだ。
えりあも表情を顰めた。
「この都市を隠れ蓑にしているという情報があるわ。まずはソイツ等を捜し出しましょう」
「OK」
「了解」
大和は頷き斬魔も立ち上がる。
えりあは最後に華仙に挨拶しようとしたが、この場にいなかった。
彼女は大和に聞く。
「華仙さんに一言お礼を言いたいのだけれど、呼んでも大丈夫かしら?」
「あ? 大丈夫じゃね? ……てか、もうそろそろ来るぞ。足音がする」
「どんな聴覚してんだよ……」
斬魔は苦笑する。
大和の宣言通り、華仙が部屋に入って来た。
彼女は三人に手を振る。
「おはよ。もう行くの?」
えりあは頷き、頭を下げる。
「ええ。世話になったわ。このお礼は何時か必ず」
「いいのよ。私も色々楽しかったわ。それとコレ、お土産」
「……これは?」
えりあが手渡されたのは、白い紙袋だった。
中に何か入っている。
華仙は色眼鏡を指で上げながら説明した。
「今回の疑似天使病に対するワクチンよ。注射器で直接注入するタイプで、疑似天使病で暴走した霊子型ナノマシンを抑えられるわ。でも、元々天使病になる素質がある人達には効果が薄いから、注意してね」
「……」
「後はこのワクチンの製造方法と、今回の疑似天使病に関する詳しいプロフィール」
資料を手渡されたえりあは、呆然としていた。
斬魔もである。
辛うじて、えりあが唇を動かした。
「これを、一日で……?」
「ええ。手土産には十分過ぎるでしょう?」
「……徹夜してくれたの?」
えりあの問いに、華仙は吹き出して笑った。
「まさか! 今朝ちょっと時間が余っちゃったら軽く作っただけよ。だから気にしないで」
「……~っ」
斬魔が思わず頭を掻く。
えりあも何も言えず瞳を閉じていた。
世界最高の医者にして科学者、華仙。
文字通り格が違った。
二人の反応を見て、大和がおかしそうに笑う。
「んな事で驚くなよ。コイツなら当たり前だ」
「当然よ」
華仙はえっへんと胸を張る。
第三ボタンを弾きそうな巨乳を前に斬魔が目を輝かせるが、えりあがその脛を蹴り抜く。
「ぬぉぉぉぉぉぉ!!!!」
激痛にもだえる斬魔を一瞥し、えりあは華仙に再度頭を下げる。
「ありがとう。本当に助かるわ」
「いいのいいの。お仕事頑張ってね」
華仙からの激励に、えりあは強く頷く。
斬魔はよろけながらも立ち上がった。
彼は涙目で言う。
「よし、行くか。……脛が痛ぇけど」
「自業自得でしょ」
「クククッ」
冷たく告げるえりあ、可笑しそうに喉を鳴らす大和。
さて、これから出発しようとしたその時──
えりあのスマホが鳴った。
彼女はスマホを取り出し、画面を見る。
「……!」
えりあの表情が緊迫で固まる。
大和と斬魔は何事かと首を傾げた。
えりあはそのまま応答する。
「こちらえりあ」
『単刀直入に告げる。緊急事態だ。君達はすぐに現場に向かってほしい』
「何事?」
えりあが問う。
しかし告げられた内容は、彼女の予想を大きく上回るものだった。
『イギリスの首都、ロンドンが件の疑似天使病の患者で溢れかえっている。現在、ロンドンは地獄の鍋の底の様な有り様だ』
それは災禍の始まりを知らせる報告だった。
人類史上稀に見る