villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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九話「災禍の知らせ」

 

 

 翌日。

 大和は斬魔とえりあと再会した。

 貴賓室で、彼は待機していたえりあに聞く。

 

「よぅ、色々情報は聞けたか?」

「ええ。本部には既に報告してるし、私達は元凶の調査を続けましょう」

 

 えりあの言葉に大和は小首を傾げる。

 

「元凶のアテはついてんのか?」

「あらかたな」

 

 ソファーで寝転がっていた斬魔が起きる。

 

「天使教。天使を信仰し、天使病の患者を利用するイカレ野郎共だ。この都市でいう邪教徒みてぇなもんだな」

「ハッ、邪教徒か。そりゃ此処には腐るほどいるが……面倒な手合いだな」

 

 大和は顎を擦る。

 過激な信仰者の行動は時に常識を逸する。

 平気で命を投げ捨てたりするので、厄介なのだ。

 

 えりあも表情を顰めた。

 

「この都市を隠れ蓑にしているという情報があるわ。まずはソイツ等を捜し出しましょう」

「OK」

「了解」

 

 大和は頷き斬魔も立ち上がる。

 えりあは最後に華仙に挨拶しようとしたが、この場にいなかった。

 彼女は大和に聞く。

 

「華仙さんに一言お礼を言いたいのだけれど、呼んでも大丈夫かしら?」

「あ? 大丈夫じゃね? ……てか、もうそろそろ来るぞ。足音がする」

「どんな聴覚してんだよ……」

 

 斬魔は苦笑する。

 大和の宣言通り、華仙が部屋に入って来た。

 彼女は三人に手を振る。

 

「おはよ。もう行くの?」

 

 えりあは頷き、頭を下げる。

 

「ええ。世話になったわ。このお礼は何時か必ず」

「いいのよ。私も色々楽しかったわ。それとコレ、お土産」

「……これは?」

 

 えりあが手渡されたのは、白い紙袋だった。

 中に何か入っている。

 華仙は色眼鏡を指で上げながら説明した。

 

「今回の疑似天使病に対するワクチンよ。注射器で直接注入するタイプで、疑似天使病で暴走した霊子型ナノマシンを抑えられるわ。でも、元々天使病になる素質がある人達には効果が薄いから、注意してね」

「……」

「後はこのワクチンの製造方法と、今回の疑似天使病に関する詳しいプロフィール」

 

 資料を手渡されたえりあは、呆然としていた。

 斬魔もである。

 辛うじて、えりあが唇を動かした。

 

「これを、一日で……?」

「ええ。手土産には十分過ぎるでしょう?」

「……徹夜してくれたの?」

 

 えりあの問いに、華仙は吹き出して笑った。

 

「まさか! 今朝ちょっと時間が余っちゃったら軽く作っただけよ。だから気にしないで」

「……~っ」

 

 斬魔が思わず頭を掻く。

 えりあも何も言えず瞳を閉じていた。

 

 世界最高の医者にして科学者、華仙。

 文字通り格が違った。

 

 二人の反応を見て、大和がおかしそうに笑う。

 

「んな事で驚くなよ。コイツなら当たり前だ」

「当然よ」

 

 華仙はえっへんと胸を張る。

 第三ボタンを弾きそうな巨乳を前に斬魔が目を輝かせるが、えりあがその脛を蹴り抜く。

 

「ぬぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 激痛にもだえる斬魔を一瞥し、えりあは華仙に再度頭を下げる。

 

「ありがとう。本当に助かるわ」

「いいのいいの。お仕事頑張ってね」

 

 華仙からの激励に、えりあは強く頷く。

 斬魔はよろけながらも立ち上がった。

 彼は涙目で言う。

 

「よし、行くか。……脛が痛ぇけど」

「自業自得でしょ」

「クククッ」

 

 冷たく告げるえりあ、可笑しそうに喉を鳴らす大和。

 さて、これから出発しようとしたその時──

 えりあのスマホが鳴った。

 彼女はスマホを取り出し、画面を見る。

 

「……!」

 

 えりあの表情が緊迫で固まる。

 大和と斬魔は何事かと首を傾げた。

 えりあはそのまま応答する。

 

「こちらえりあ」

『単刀直入に告げる。緊急事態だ。君達はすぐに現場に向かってほしい』

「何事?」

 

 えりあが問う。

 しかし告げられた内容は、彼女の予想を大きく上回るものだった。

 

 

『イギリスの首都、ロンドンが件の疑似天使病の患者で溢れかえっている。現在、ロンドンは地獄の鍋の底の様な有り様だ』

 

 

 それは災禍の始まりを知らせる報告だった。

 人類史上稀に見る生物災害(バイオハザード)が、表世界にて引き起こされていた。

 

 


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