金色のメッシュが揺れる。
その端正な顔立ちを狂気で歪めて、風船ガムを膨らます。
缶バッチで飾られたゴシックパンク風の衣装を熱風ではためかせ、撃ち狂い──サーシュはえりあを見据えた。
パンと、風船ガムが割れる。
彼女はそのままガムを咀嚼しながら、えりあに語りかけた。
「天使殺戮士ねぇ♪ かなりの実力者って聞いた事があるわ♪ これは──楽しめそうね♪ やっぱり、弱った奴を嬲るより強い奴を嬲るほうが楽しいもの♪」
サーシュは狂気の笑みで両手を広げ、天を仰ぐ。
「ステージは最高よ! 阿鼻叫喚の大地獄! 怨嗟の声と女子供の悲鳴が素敵なオーケストラを奏でてくれてる! 都市を包む血臭と熱で、気分はもう最高潮!! 後は役者だけ!! ……ねぇ、天使殺戮士さん♪」
意味深な流し目を向けられるも、えりあは無表情で二丁拳銃を構えた。
その意思、その在り方に一切の揺らぎ無し。
「邪魔をするというなら──少し痛い目を見てもらうわ」
「~ッッ♪♪」
えりあの宣言に、サーシュは歓喜に打ち震える。
この女、命のやり取りに性的興奮を覚えるド変態だった。
「ヤバッ♪ ちょっと濡れちゃった♪ クフフッ♪ さぁ始めましょう!! 楽しい愉しい殺し合いを!!」
「……」
サーシュが二丁魔銃を携え、跳躍する。
えりあは迎撃するため、彼女に照準を合わせた。
二名の発砲音が重なった。
◆◆
両者とも二丁拳銃使いだが、本来二丁拳銃というのは実戦向きではない。
拳銃を片手で扱える腕力と、狙った標的を撃ち抜ける精密性。
何より、このスタイルを可能とする常識外れの拳銃が必要不可欠だ。
両者はその全てを保有していた。
それでいて且つ、強かった。
才能と経験はほぼ拮抗している。
後は両者の微妙に異なる戦闘スタイルの相性問題だった。
「アハハハハ!! やるじゃない♪ たんのし~ッッ♪♪」
瓦解した建造物を飛び移りながら、サーシュは魔銃を乱射する。
えりあも向かい側の瓦礫を飛び移り、サーシュに向けて乱射していた。
互いの弾丸がぶつかり合う事で潰れ、静止する。
ハイレベルの銃使いが戦う事で起こる、荒唐無稽な現象だった。
しかも、両者ともただ乱射しているのでは無い。
時折拳銃を振り回して発砲し、弾丸の軌道を曲げている。
曲射──
更に、あらぬ方向に撃って銃弾を一度跳ね返させている。
跳弾──
どちらも常人が出来る芸当では無い。
「キャハハ!!」
サーシュは虚空で回転し、四方八方に弾丸をばら撒く。
えりあに銃口を向けていないが、放たれた弾丸は曲がり、跳ね返り、最終的にはえりあに密集した。
えりあの超視力が、迫り来る弾丸の軌道を完璧に捉える。
四方八方360度、完璧に囲まれていた。
逃げ道を塞がれている。
えりあは「避ける」という選択肢を捨てた。
二丁拳銃をトンファーの様に持ち替え、飛来する弾丸を叩き落す。
回転する銀色の鉄塊は絶妙な角度を捉え、弾丸を無効化した。
その光景を見て、サーシュが瞳を輝かせる。
「うわ! うわうわ!! すっご~い!! バレットアーツまで修得してるなんて! もう昂っちゃわ~ッ♪ ゾクゾクきちゃわ~ッッ♪♪」
震える身を抱きしめた後、サーシュは持っている魔銃の形状を変化させる。
両方に禍々しい
「私もバレットアーツ得意なの♪ ねぇ一緒に踊りましょ♪ 踊って、踊り狂って……最後に逝かせてあげるから!! そしたら私もイッちゃうからッッ♪♪」
「……」
えりあは何も答えない。
ただ、迎撃の構えを取るのみ。
サーシュは跳躍する。
えりあも跳躍した。
刹那、熱線一条。
遥か彼方から放たれた灼熱の斬撃波に、サーシュとえりあは阻まれる。
次に爆発。
熱波で吹き飛んだ瓦礫と共に、サーシュとえりあも跳ぶ。
互いに上空で絡まり合い、超至近距離の銃撃戦が始まった。
銃口を突き付け合い、それを弾き合う。
引き金を引いても、互いに一発も掠らない。
視線誘導、射撃のタイミング、肩でのフェイント。
更にえりあは銃身で打撃を、サーシュはバヨネットで斬撃を織り交ぜる。
サーシュの放った乱れ斬りをえりあは鉄壁のガードで防ぐ。
しかしサーシュは斬撃を続行、えりあの硬いガードを無理矢理こじ開けようとする。
えりあのガードが崩れた。
サーシュはその瞬間を逃さない。
二丁拳銃を叩き下ろす。
しかしそれは誘いだった。
えりあは左手の拳銃を逆手に持ち替え、回転打撃。
サーシュの二丁魔銃を薙ぎ払う。
あまりの威力にサーシュは体勢を崩した。
無防備なサーシュにえりあは銃口を突きつける。
そして発砲。
完全に体勢を崩していたサーシュは、それでも笑顔だった。
彼女は虚空に発砲し、その反動で回転。
えりあの銃撃を避けてみせた。
発砲時の反動を利用した移動。
えりあも修得している技術だ。
同レベルの銃使いであるサーシュが修得していない筈がない。
えりあは驚く事なく、銃撃の反動を利用した回転蹴りを放つ。
サーシュも今の回転が乗った蹴りを放った。
両者の足が激突し、空気が裂ける。
轟音が響き渡り、突風が生まれる。
二人は距離を置いて着地し、互いに二丁拳銃を向けた。
着地した場所はロンドンブリッジ。
半壊しているが、その荘厳な佇まいは健在だった。
下に流れる鮮血色のテムズ川は、先程の光線で蒸発し、荒れ狂っている。
サーシュはえりあの無機質な瞳を見つめながら嗤った。
「今の攻撃、さっき苛めた牧師ちゃんの攻撃ね♪ いや~強い強い♪ 是非嬲り殺しにしたかったんだけど、依頼主サンが駄目って言うから、諦めるしかなかったの♪ 悔しかったわ~っ」
プンプンと頬を膨らませるサーシュ。
えりあの美麗な眉が跳ね上がる。
「……そう、キミなのね。彼を貶めたのは」
「半分正解♪ 苛めたのは私だけど、疑似天使病のウイルス注射したのは依頼主デ~ス! 天使病に感染した時のあの絶望した表情ったらッ、堪らずオ〇ニーしちゃいました!」
「ッッ」
「でもでも~、やるわよねあの牧師ちゃん。最後の最後で自分の胸を斬り刻んで、少しの理性を残すなんて♪ 滅多に無いケースだって、依頼主さん腰抜かしてたわ♪」
ニヤニヤと、卑しい笑みを浮かべるサーシュ。
えりあはその瞳に絶対零度の怒りを灯した。
彼女は冷酷にサーシュに告げる。
「……少し強めに壊してあげるわ」
「フフフ♪ フフフフフッッ♪♪ なんだ凄くイイ眼できるじゃな~い♪ いいわよ~ッ♪ 身体の芯がジンジンしてきた! そう、コレ、コレよ!! 狂おしい程の絶望と怒りが、私を興奮させるの!!」
二名は距離を詰め、ゼロ距離で銃口を突きつけ合う。
そして、同じタイミングで発砲した。
◆◆
サーシュの二丁魔銃の名は「Hate & Scream」
デスシティ製の魔銃で、犠牲者の怒り、憎しみ、悲鳴を糧にして威力を増していく。
ド外道のサーシュとの相性は最高であり、その貫通力と破壊力は極まっていた。
赤と黒、両方の銃身には曲刀型の
サーシュの強力なバレットアーツのせいで、刀身は常に犠牲者の血を求めるようになっていた。
二名が銃火の舞いを踊っている。
銃弾が曲がり、跳ね返り、二名の周囲を包み込んだ。
それでも二名は動きを止めない。
無尽蔵のスタミナと驚異的な集中力で、互いの命を撃ち抜かんとしている。
二名の腕が絡まる。
超至近距離で見つめ合った両者は、全く同じタイミングで発砲した。
一旦距離が離れたと思えば、また近付く。
銃使いも、ここまで来れば距離など関係無い。
むしろ、距離を詰めて対象を制圧しようとする。
クロスレンジに入った二人は、二丁拳銃を突きつけ合う。
そして、まさかの乱射。
両者、至近距離で火力勝負を仕掛けた。
機関銃の掃射時の如く、大量の薬莢が地面へばら撒かれる。
サーシュは天を仰ぎ嗤った。
「クフフッ! キャハ♪ キャハハハハハハハハハッ!!!!」
肩や太ももの肉が抉れても、サーシュは哄笑を上げていた。
ドSでありドM。
彼女は既に手遅れなイカレ女だった。
対して、えりあは無表情だった。
同じ様に負傷しているが、乱射を止めようとしない。
ここで仕留めるという覚悟が表れていた。
サーシュは恍惚とした表情で叫ぶ。
「最高ッ!! サイコーよッッ!!!! アア、いい、イッちゃう~~~~~~ッッ♪♪」
ブルりと総身を震わせ、何度も痙攣するサーシュ。
彼女は恍惚とした表情で呟いた。
「狂い咲けッ、死の棘ッッ♪♪」
刹那、えりあの体内に異変が起きる。
銃創から突如として棘が発生し爆散、骨肉をズタズタに引き裂いたのだ。
「……ッ!」
えりあは片膝を付く。
想像を絶する激痛がその体内でのたうち回っていた。
ニードル・ショット。
サーシュの魔銃の専用弾であり、拳銃弾でありながら散弾式の魔弾。
対象の体内で棘を撒き散らし、豪胆な男でも泣き叫んでしまう程の激痛を与える。
掠ってもその効果は発動する。
動けないえりあの額にサーシュは銃口を突きつけた。
彼女は熱い溜息を吐いて、えりあに告げる。
「フィナーレよ♪ 逝っちゃいなさいッ♪♪」
バシュンと、えりあの脳漿が飛び散った。
顔の半分が抉れ、目玉が飛び出る。
「アアア……ッ♪ きんもちぃぃ~~~ッッ♪♪」
撃ち狂いは陶然とした表情で曇天を仰いだ。
◆◆
降り注ぐえりあの鮮血。
その色は──濃紺だった。
深い深い、青色。
「……?」
サーシュは首を傾げる。
彼女は人間、血の色は赤の筈だ。
青などありえない。
唐突にえりあの右手が跳ね上がり、サーシュの顔面に発砲する。
油断していたサーシュはモロに貰ってしまった。
倒れる彼女を尻目に、えりあは立ち上がる。
爆散した顔は既に修復し始めていた。
まるでビデオの巻き戻しの様に、骨肉が再構築されていく。
えりあは人間でありながら人間では無い。
既に死んでいる、歩く屍なのだ。
えりあは首をゴキゴキと鳴らし、倒れているサーシュの元まで歩み寄る。
しかし、サーシュも倒れながら発砲。
えりあは寸前で避ける。
サーシュはむくりと上体を起こした。
「アー……最悪、最悪よ。数ある賢者タイムでもこれ程胸糞悪いもんは無いわ。台無しよ」
心底気落ちした風に、風船ガムを膨らましているサーシュ。
その風船ガムに弾丸が阻まれていた。
デスシティ製の超高性能ガム。
熱に反応し自在に硬度を変える、サーシュの奥の手だった。
彼女はガムを吐き捨て胡坐を掻く。
そして盛大な溜息を吐いた。
「ハァぁ……このゲンナリした気持ち。当分治りそうにないわ。アンタ、不死ならそう言ってよ。マジないわ~ッッ」
ズドンど、えりあが問答無用で発砲する。
サーシュは首だけ逸らして躱した。
「後ろにお仲間さんが来てるわよ」
「……!!」
えりあは気配で彼だとわかった瞬間振り返る。
茶髪の美青年──斬魔が鉄鞘を杖代わりに近付いて来ていた。
えりあはサーシュに視線を戻すが、既に彼女はいない。
「でもま♪ イケたから良しとしましょ♪」
ロンドンブリッジの上部にサーシュは佇んでいた。
彼女は笑いながら舌を出す。
「もうアナタとは戦いたくなくないから、顔は覚えたわよ天使殺戮士ちゃん♪ ん~そうねぇ、報酬分の働きはしたし、もうそろそろあの都市に帰るわ♪ ばいば~い♪」
サーシュは闇に消えていった。
完全に気配が消えた事を確認したえりあは、二丁拳銃をしまい斬魔に駆け寄る。
斬魔は笑いながらも、えりあに倒れかかった。
えりあがすかさず支える。
「何だ、終わったのか……クソ、頑張って足運んできたってのによォ」
「ボロボロじゃない……わたしの事は良いから、キミは自分を気遣いなさい」
「ほざけ、俺達はコンビだろう?」
斬魔はニヒルに笑う。
ボロボロだが、何時通りの彼であった。
えりあは微笑みながら問う。
「……ケリは、ついたの?」
「ああ」
「そう……なら、いいわ」
「そうか」
余計な言葉はいらない。
今の会話で十分だった。
それが、コンビというものだった。
「……いきましょう、大和の元へ」
「ああ、良いとこ取りはさせねぇ。俺も、ラスボスさんには言いてぇ事がある」
えりあに肩を貸され、斬魔は歩き始める。
そうして二人は、最終局面の地へ赴いていった。