Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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十四話「死美人VS撃ち狂い」

 

 

 金色のメッシュが揺れる。

 その端正な顔立ちを狂気で歪めて、風船ガムを膨らます。

 缶バッチで飾られたゴシックパンク風の衣装を熱風ではためかせ、撃ち狂い──サーシュはえりあを見据えた。

 

 パンと、風船ガムが割れる。

 彼女はそのままガムを咀嚼しながら、えりあに語りかけた。

 

「天使殺戮士ねぇ♪ かなりの実力者って聞いた事があるわ♪ これは──楽しめそうね♪ やっぱり、弱った奴を嬲るより強い奴を嬲るほうが楽しいもの♪」

 

 サーシュは狂気の笑みで両手を広げ、天を仰ぐ。

 

「ステージは最高よ! 阿鼻叫喚の大地獄! 怨嗟の声と女子供の悲鳴が素敵なオーケストラを奏でてくれてる! 都市を包む血臭と熱で、気分はもう最高潮!! 後は役者だけ!! ……ねぇ、天使殺戮士さん♪」

 

 意味深な流し目を向けられるも、えりあは無表情で二丁拳銃を構えた。

 その意思、その在り方に一切の揺らぎ無し。

 

「邪魔をするというなら──少し痛い目を見てもらうわ」

「~ッッ♪♪」

 

 えりあの宣言に、サーシュは歓喜に打ち震える。

 この女、命のやり取りに性的興奮を覚えるド変態だった。

 

「ヤバッ♪ ちょっと濡れちゃった♪ クフフッ♪ さぁ始めましょう!! 楽しい愉しい殺し合いを!!」

「……」

 

 サーシュが二丁魔銃を携え、跳躍する。

 えりあは迎撃するため、彼女に照準を合わせた。

 

 二名の発砲音が重なった。

 

 

 ◆◆

 

 

 両者とも二丁拳銃使いだが、本来二丁拳銃というのは実戦向きではない。

 拳銃を片手で扱える腕力と、狙った標的を撃ち抜ける精密性。

 何より、このスタイルを可能とする常識外れの拳銃が必要不可欠だ。

 

 両者はその全てを保有していた。

 それでいて且つ、強かった。

 

 才能と経験はほぼ拮抗している。

 後は両者の微妙に異なる戦闘スタイルの相性問題だった。

 

「アハハハハ!! やるじゃない♪ たんのし~ッッ♪♪」

 

 瓦解した建造物を飛び移りながら、サーシュは魔銃を乱射する。

 えりあも向かい側の瓦礫を飛び移り、サーシュに向けて乱射していた。

 

 互いの弾丸がぶつかり合う事で潰れ、静止する。

 ハイレベルの銃使いが戦う事で起こる、荒唐無稽な現象だった。

 

 しかも、両者ともただ乱射しているのでは無い。

 時折拳銃を振り回して発砲し、弾丸の軌道を曲げている。

 曲射──

 

 更に、あらぬ方向に撃って銃弾を一度跳ね返させている。

 跳弾──

 

 どちらも常人が出来る芸当では無い。

 

「キャハハ!!」

 

 サーシュは虚空で回転し、四方八方に弾丸をばら撒く。

 えりあに銃口を向けていないが、放たれた弾丸は曲がり、跳ね返り、最終的にはえりあに密集した。

 

 えりあの超視力が、迫り来る弾丸の軌道を完璧に捉える。

 四方八方360度、完璧に囲まれていた。

 逃げ道を塞がれている。

 

 えりあは「避ける」という選択肢を捨てた。

 二丁拳銃をトンファーの様に持ち替え、飛来する弾丸を叩き落す。

 回転する銀色の鉄塊は絶妙な角度を捉え、弾丸を無効化した。

 

 その光景を見て、サーシュが瞳を輝かせる。

 

「うわ! うわうわ!! すっご~い!! バレットアーツまで修得してるなんて! もう昂っちゃわ~ッ♪ ゾクゾクきちゃわ~ッッ♪♪」

 

 震える身を抱きしめた後、サーシュは持っている魔銃の形状を変化させる。

 両方に禍々しい銃剣(バヨネット)を生えさせた。

 

「私もバレットアーツ得意なの♪ ねぇ一緒に踊りましょ♪ 踊って、踊り狂って……最後に逝かせてあげるから!! そしたら私もイッちゃうからッッ♪♪」

「……」

 

 えりあは何も答えない。

 ただ、迎撃の構えを取るのみ。

 

 サーシュは跳躍する。

 えりあも跳躍した。

 

 刹那、熱線一条。

 遥か彼方から放たれた灼熱の斬撃波に、サーシュとえりあは阻まれる。

 次に爆発。

 

 熱波で吹き飛んだ瓦礫と共に、サーシュとえりあも跳ぶ。

 互いに上空で絡まり合い、超至近距離の銃撃戦が始まった。

 

 銃口を突き付け合い、それを弾き合う。

 引き金を引いても、互いに一発も掠らない。

 

 視線誘導、射撃のタイミング、肩でのフェイント。

 更にえりあは銃身で打撃を、サーシュはバヨネットで斬撃を織り交ぜる。

 

 サーシュの放った乱れ斬りをえりあは鉄壁のガードで防ぐ。

 しかしサーシュは斬撃を続行、えりあの硬いガードを無理矢理こじ開けようとする。

 

 えりあのガードが崩れた。

 サーシュはその瞬間を逃さない。

 二丁拳銃を叩き下ろす。

 

 しかしそれは誘いだった。

 えりあは左手の拳銃を逆手に持ち替え、回転打撃。

 サーシュの二丁魔銃を薙ぎ払う。

 あまりの威力にサーシュは体勢を崩した。

 

 無防備なサーシュにえりあは銃口を突きつける。

 そして発砲。

 完全に体勢を崩していたサーシュは、それでも笑顔だった。

 

 彼女は虚空に発砲し、その反動で回転。

 えりあの銃撃を避けてみせた。

 

 発砲時の反動を利用した移動。

 えりあも修得している技術だ。

 同レベルの銃使いであるサーシュが修得していない筈がない。

 

 えりあは驚く事なく、銃撃の反動を利用した回転蹴りを放つ。

 サーシュも今の回転が乗った蹴りを放った。

 

 両者の足が激突し、空気が裂ける。

 轟音が響き渡り、突風が生まれる。

 二人は距離を置いて着地し、互いに二丁拳銃を向けた。

 

 着地した場所はロンドンブリッジ。

 半壊しているが、その荘厳な佇まいは健在だった。

 

 下に流れる鮮血色のテムズ川は、先程の光線で蒸発し、荒れ狂っている。

 サーシュはえりあの無機質な瞳を見つめながら嗤った。

 

「今の攻撃、さっき苛めた牧師ちゃんの攻撃ね♪ いや~強い強い♪ 是非嬲り殺しにしたかったんだけど、依頼主サンが駄目って言うから、諦めるしかなかったの♪ 悔しかったわ~っ」

 

 プンプンと頬を膨らませるサーシュ。

 えりあの美麗な眉が跳ね上がる。

 

「……そう、キミなのね。彼を貶めたのは」

「半分正解♪ 苛めたのは私だけど、疑似天使病のウイルス注射したのは依頼主デ~ス! 天使病に感染した時のあの絶望した表情ったらッ、堪らずオ〇ニーしちゃいました!」

「ッッ」

「でもでも~、やるわよねあの牧師ちゃん。最後の最後で自分の胸を斬り刻んで、少しの理性を残すなんて♪ 滅多に無いケースだって、依頼主さん腰抜かしてたわ♪」

 

 ニヤニヤと、卑しい笑みを浮かべるサーシュ。

 えりあはその瞳に絶対零度の怒りを灯した。

 

 彼女は冷酷にサーシュに告げる。

 

「……少し強めに壊してあげるわ」

「フフフ♪ フフフフフッッ♪♪ なんだ凄くイイ眼できるじゃな~い♪ いいわよ~ッ♪ 身体の芯がジンジンしてきた! そう、コレ、コレよ!! 狂おしい程の絶望と怒りが、私を興奮させるの!!」

 

 二名は距離を詰め、ゼロ距離で銃口を突きつけ合う。

 そして、同じタイミングで発砲した。

 

 

 ◆◆

 

 

 サーシュの二丁魔銃の名は「Hate & Scream」

 デスシティ製の魔銃で、犠牲者の怒り、憎しみ、悲鳴を糧にして威力を増していく。

 ド外道のサーシュとの相性は最高であり、その貫通力と破壊力は極まっていた。

 

 赤と黒、両方の銃身には曲刀型の銃剣(バヨネット)が装備されている。

 サーシュの強力なバレットアーツのせいで、刀身は常に犠牲者の血を求めるようになっていた。

 

 二名が銃火の舞いを踊っている。

 銃弾が曲がり、跳ね返り、二名の周囲を包み込んだ。

 

 それでも二名は動きを止めない。

 無尽蔵のスタミナと驚異的な集中力で、互いの命を撃ち抜かんとしている。

 

 二名の腕が絡まる。

 超至近距離で見つめ合った両者は、全く同じタイミングで発砲した。

 一旦距離が離れたと思えば、また近付く。

 

 銃使いも、ここまで来れば距離など関係無い。

 むしろ、距離を詰めて対象を制圧しようとする。

 

 クロスレンジに入った二人は、二丁拳銃を突きつけ合う。

 そして、まさかの乱射。

 

 両者、至近距離で火力勝負を仕掛けた。

 機関銃の掃射時の如く、大量の薬莢が地面へばら撒かれる。

 サーシュは天を仰ぎ嗤った。

 

「クフフッ! キャハ♪ キャハハハハハハハハハッ!!!!」

 

 肩や太ももの肉が抉れても、サーシュは哄笑を上げていた。

 ドSでありドM。

 彼女は既に手遅れなイカレ女だった。

 

 対して、えりあは無表情だった。

 同じ様に負傷しているが、乱射を止めようとしない。

 ここで仕留めるという覚悟が表れていた。

 

 サーシュは恍惚とした表情で叫ぶ。

 

「最高ッ!! サイコーよッッ!!!! アア、いい、イッちゃう~~~~~~ッッ♪♪」

 

 ブルりと総身を震わせ、何度も痙攣するサーシュ。

 彼女は恍惚とした表情で呟いた。

 

「狂い咲けッ、死の棘ッッ♪♪」

 

 刹那、えりあの体内に異変が起きる。

 銃創から突如として棘が発生し爆散、骨肉をズタズタに引き裂いたのだ。

 

「……ッ!」

 

 えりあは片膝を付く。

 想像を絶する激痛がその体内でのたうち回っていた。

 

 ニードル・ショット。

 サーシュの魔銃の専用弾であり、拳銃弾でありながら散弾式の魔弾。

 対象の体内で棘を撒き散らし、豪胆な男でも泣き叫んでしまう程の激痛を与える。

 掠ってもその効果は発動する。

 

 動けないえりあの額にサーシュは銃口を突きつけた。

 彼女は熱い溜息を吐いて、えりあに告げる。

 

「フィナーレよ♪ 逝っちゃいなさいッ♪♪」

 

 バシュンと、えりあの脳漿が飛び散った。

 顔の半分が抉れ、目玉が飛び出る。

 

「アアア……ッ♪ きんもちぃぃ~~~ッッ♪♪」

 

 撃ち狂いは陶然とした表情で曇天を仰いだ。

 

 

 ◆◆

 

 

 降り注ぐえりあの鮮血。

 その色は──濃紺だった。

 深い深い、青色。

 

「……?」

 

 サーシュは首を傾げる。

 彼女は人間、血の色は赤の筈だ。

 青などありえない。

 

 唐突にえりあの右手が跳ね上がり、サーシュの顔面に発砲する。

 油断していたサーシュはモロに貰ってしまった。

 

 倒れる彼女を尻目に、えりあは立ち上がる。

 爆散した顔は既に修復し始めていた。

 まるでビデオの巻き戻しの様に、骨肉が再構築されていく。

 

 死美人(アンデット)

 えりあは人間でありながら人間では無い。

 既に死んでいる、歩く屍なのだ。

 

 えりあは首をゴキゴキと鳴らし、倒れているサーシュの元まで歩み寄る。

 

 しかし、サーシュも倒れながら発砲。

 えりあは寸前で避ける。

 サーシュはむくりと上体を起こした。

 

「アー……最悪、最悪よ。数ある賢者タイムでもこれ程胸糞悪いもんは無いわ。台無しよ」

 

 心底気落ちした風に、風船ガムを膨らましているサーシュ。

 その風船ガムに弾丸が阻まれていた。

 

 デスシティ製の超高性能ガム。

 熱に反応し自在に硬度を変える、サーシュの奥の手だった。

 

 彼女はガムを吐き捨て胡坐を掻く。

 そして盛大な溜息を吐いた。

 

「ハァぁ……このゲンナリした気持ち。当分治りそうにないわ。アンタ、不死ならそう言ってよ。マジないわ~ッッ」

 

 ズドンど、えりあが問答無用で発砲する。

 サーシュは首だけ逸らして躱した。

 

「後ろにお仲間さんが来てるわよ」

「……!!」

 

 えりあは気配で彼だとわかった瞬間振り返る。

 茶髪の美青年──斬魔が鉄鞘を杖代わりに近付いて来ていた。

 

 えりあはサーシュに視線を戻すが、既に彼女はいない。

 

「でもま♪ イケたから良しとしましょ♪」

 

 ロンドンブリッジの上部にサーシュは佇んでいた。

 彼女は笑いながら舌を出す。

 

「もうアナタとは戦いたくなくないから、顔は覚えたわよ天使殺戮士ちゃん♪ ん~そうねぇ、報酬分の働きはしたし、もうそろそろあの都市に帰るわ♪ ばいば~い♪」

 

 サーシュは闇に消えていった。

 完全に気配が消えた事を確認したえりあは、二丁拳銃をしまい斬魔に駆け寄る。

 

 斬魔は笑いながらも、えりあに倒れかかった。

 えりあがすかさず支える。

 

「何だ、終わったのか……クソ、頑張って足運んできたってのによォ」

「ボロボロじゃない……わたしの事は良いから、キミは自分を気遣いなさい」

「ほざけ、俺達はコンビだろう?」

 

 斬魔はニヒルに笑う。

 ボロボロだが、何時通りの彼であった。

 えりあは微笑みながら問う。

 

「……ケリは、ついたの?」

「ああ」

「そう……なら、いいわ」

「そうか」

 

 余計な言葉はいらない。

 今の会話で十分だった。

 それが、コンビというものだった。

 

「……いきましょう、大和の元へ」

「ああ、良いとこ取りはさせねぇ。俺も、ラスボスさんには言いてぇ事がある」

 

 えりあに肩を貸され、斬魔は歩き始める。

 そうして二人は、最終局面の地へ赴いていった。

 

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