Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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第三章「色男伝」
一話「色男講座」


 

 厚い曇天が横たわる超犯罪都市の午後。

 喧騒、銃声、悲鳴が織り成す合奏曲(オーケストラ)は日夜を通して続くが、今はそれらが遠く感じた。

 

 一時の静寂を得られる魔の公園、青宮霊園。

 油断すると襲われもするが、それでも安全地帯に認定されている場所だ。

 

 この敷地内にある噴水場の近くで、細身のオークが佇んでいた。

 黒いバンダナに実用性重視の戦闘服(ツナギ)を着た、若い青年である。

 本来この種族は汚らしい筈だが、彼はきっちり身嗜みを整えていた。

 

 オークの青年──ラースは、先輩が自販機から戻ってくるのを律儀に待っていた。

 戻って来た先輩は、純白のスーツにサングラスが似合う厳つい大男。

 右之助である。

 

 彼はラースに缶コーヒーを渡すと、噴水場に座るよう促した。

 律儀に従ったラースの横に座り、まず礼を言う。

 

「サンキューな、緊急の仕事を手伝って貰って。マジで助かった」

「いえ、右之助さんには色々助けて貰っています。これ位、大した事ないですよ」

 

 ラースの声音は優しい響きを伴っていた。

 とてもオークとは思えない。

 右之助は笑いながら言った。

 

「貸し一つだな」

「そんな! 別にいいですよ!」

「馬鹿野郎、お前はB級の傭兵。本来なら相応の金額を払って雇うレベルの存在だ。知り合いだとしても、きっちり恩義は返さねぇと」

 

 右之助に限らず、魔界都市で長らく住んでいる者は貸し借りを重んじる傾向にある。

 金で返しきれない恩義を「貸し」にするのだ。

 

 ラースは腕を組みながら悩み、そして右之助に言った。

 

「ならその貸し、早速使わせて貰っていいですか?」

「いいぜ、何だ?」

 

 ラースは恥ずかしそうにはにかむ。

 

「俺に、色男のノウハウを伝授して欲しいんです!」

「……ハァ?」

 

 素っ頓狂な声を上げる右之助に、ラースは興奮気味に言った。

 

「だって右之助さん滅茶苦茶モテるじゃないですか! 男の俺から見てもカッコイイですし! 是非、その秘訣を教えて欲しいんです!」

「そんなんでいいのか?」

「はい!! お願いします!!」

 

 深々と頭を下げるラース。

 右之助は困惑した表情で頬をかくも、頷き、ラースに言った。

 

「いいぜ」

「本当ですか!」

「そういう事なら今夜から始めよう。おでん屋源ちゃんって知ってるか?」

「知ってます!」

「21時にそこで待ち合せだ。楽しみにしてな」

「はい!」

 

 何故かむふふーと笑う右之助。

 そうして、二人は一度解散した。

 

 

 ◆◆

 

 

 おでん屋源ちゃんは中央区の路地裏でひっそりと営業している。

 路地裏は危険な地域だが、店主の源次郎の腕っぷしが生半可では無いので普通に営業できている。

 

 源次郎が作るおでんは秘伝のダシが決め手であり、酒によく合うと評判だ。

 少し甘めなので、子供幽霊達からも大人気。

 

 合金製の煙突からモクモクと白煙が上っている。

 屋台自体は木製で、客人を安心させる造りをしていた。

 かけられた暖簾には「おでん屋・源ちゃん」と達筆で書かれている。

 

 周囲に漂っているのは品種改良された益虫。

 まるで巨大な蛍の様であり、周囲の空気をせっせと洗浄していた。

 

 暖簾越しに座っている右之助とラース。

 彼等はおでんをつまみ、熱燗を堪能していた。

 

「もうそろそろ来る筈だぜ」

「え? 誰がですか?」

 

 首を傾げるラースに、右之助は肩を竦める。

 

「スペシャルゲストだ。デスシティで「色男」と言えば、アイツしかいねぇ」

「そうですねぇ」

 

 ニヤニヤと笑う右之助と源次郎。

 ラースは暫く考えていたが、ふと思い当たり、唇を戦慄かせた。

 

「その人って、まさか……!!」

「そぅら、来たぞ」

 

 右之助が振り返る。

 暖簾が上がり、例の男が顔を見せた。

 

 世にも稀な褐色肌の美丈夫。

 灰色の三白眼、ギザ歯、二メートルを超える体躯。

 真紅のマントを靡かせ、彼は笑った。

 

「おう、集まってるじゃねぇか。で、コイツが……」

「ああ、コイツに是非、色男のノウハウを伝授してやってくれ」

 

 予期せぬゲストの登場に、ラースは驚愕の悲鳴を上げた。

 

 

「えぇえ!!? や、大和さん!!?」

 

 

 ラースはまさか、あの大和が来るとは思っていなかったのだ。

 

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