Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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三話「魔界都市の住民達」

 

 

「契約を解消させてもらいます」

 

 用心棒は笑顔で言った。

 拍子抜けするほど気軽な声音だった。

 

 組長は目を丸めた。

 用心棒の言葉の意味を理解できなかったからだ。

 

 この状況で、この緊急事態で、間違っても口にしていい言葉ではない。

 たとえ冗談だとしても、だ。

 

 組長は最初、愛想笑いを浮かべた。

 

「冗談にしては笑えないぞ?」

 

 しかし、用心棒は笑顔のまま。

 それが段々と不気味に見えてくる。

 

「冗談じゃありません。契約を解消させてもらいます。今すぐに」

 

 変わらぬ返答に組長の表情が歪んだ。

 脂の乗った顔が真っ赤に染まる。

 

「襲撃を受けた直後に……馬鹿かお前は?」

 

 こういう時のために彼を雇ったのだ。

 今こそ活躍して貰う時なのだ。

 

 しかし用心棒は両手を広げる。

 その口元に、微かな嘲笑を浮かべて──

 

「だって下にいるの大和ですよ? 無理ですって、勝てません。さっき説明したでしょう? 俺じゃ掠り傷一つ負わせられないって」

 

 バン!! と、組長は両手でデスクを叩いた。

 

「既に報酬は払ってるんだ! せめて時間を稼げ!」

「……ん~」

 

 用心棒は頬をかく。

 

「何か勘違いしてませんかね? 旦那」

「……?」

 

 用心棒はサングラスを指で上げる。

 その瞳を見て、組長は震えた。

 

 人間がしていい目ではなかった。

 

「アンタが俺を雇ったんじゃない。羽振りのいいアンタを、俺が選んだんだ」

「ッ」

「旦那ぁ。アンタあと五分くらいで死ぬんだから、こんな無駄話をしてる暇ないでしょう? 最期くらい可愛い女の子抱いたらどうです? なんなら俺が大和に話付けますよ?」

 

 気を遣っているのだ、用心棒は。

 しかし、それは組長の逆鱗を撫でるだけだった。

 

「ふざけるなッ!」

 

 組長の怒声が木霊する。

 同時に数名の構成員が入ってきた。

 外で待機していたのだ。

 

「あのね~」

 

 銃口を向けられ、用心棒はやれやれと肩を竦める。

 

「お気持ちは察しますよ? でも俺に銃口を向けてどうするんです? 向けるのは下にいる奴でしょう。それに──」

 

 今まで陽気だった用心棒の声が、途端に冷気を帯びた。

 その身から途轍もない殺意が溢れ出す。

 

「俺に銃口を向けるなって、契約書に書きましたよね? 阿呆共が──テメェら全員、俺の拳の射程圏内だ」

 

 刹那、用心棒の両腕がブレる。

 鋼鉄の拳は音を超え、光すら置き去りにした。

 

 室内は瞬く間に朱色に染め上げられた。

 

 

 ◆◆

 

 

 その頃。

 一階の構成員たちは血の海に沈んでいた。

 大和によって惨殺されたのだ。

 

 物言わぬ肉袋と成り果てたモノらを一瞥し、大和は二階に続く階段を目指す。

 下駄の足音が満たされた血によって不快な音に変わっていた。

 

「……」

 

 下段、上段で交差しているタイプの階段。

 上半分が見えない。

 

 大和は灰色の三白眼を細めた。

 

 一段目を上がろうとした瞬間、上段から幾つもの銃口が現れる。

 弾む銃声。吹き上がる火花。

 フルオートで弾薬がばらまかれる。

 

「……は?」

 

 間の抜けた声は、一人の構成員のものだった。

 彼だけが違和感に気付いた。

 僅かに見えた影。それを目で追い、恐る恐る天井を見上げると──

 

 褐色肌の鬼がいた。

 

「お前ら……!!」

 

 仲間たちに知らせようとするが、脇差を投擲され喉を貫かれる。

 周りが気付いた時には、既に遅い。

 

 大和は降りて瞬時に構成員たちを料理した。

 爪で頚動脈をカッ捌き、首をへし折り、指貫手で目ごと脳を貫く。

 途中で死体に刺さっていた脇差を抜き、付近に居た者たちを切り刻む。

 

 構成員たちは瞬く間に惨殺された。

 大和は彼らを鬱陶しそうに蹴り退け、二階へとやってくる。

 

 廊下を走って逃げている構成員が居た。

 大和は脇差を投げて仕留める。

 

 絶命した男から脇差を抜き取ると、組長がいる部屋の前までやってきた。

 

「……?」

 

 大和は首を傾げる。

 扉を開けると、全てが終わっていた。

 

 原型を留めていない構成員たちが床に散らばっている。

 最奥のソファーには、首だけの死体が寄りかかっていた。

 ブクブクに太った醜い肉体──おそらく組長のものだろう。

 首の断面を見るに、無理やり捻じ切られたようだ。

 

 この惨状を、いったい誰が作り上げたのか──

 

「おーう、ナイスタイミング」

 

 豪勢なソファーに座りながら首をクルクル指先で回している大男。

 白いスーツにサングラス、鍛え抜かれた肉体。

 その傷だらけの笑顔を見て、大和は眉を顰めた。

 

 そんな彼に対し、大男は陽気に問う。

 

「今の気分はどうだ?」

「そうだな、オ○ニーのfinishを邪魔された気分だ」

 

「ハッハッハ!! いいなソレ!! マジウケるッ!!」

 

 用心棒は大爆笑した後、首を放り投げて立ち上がった。

 大和は脇差をおさめ、拳を突き出す。

 

「よぅ親友」

「おうよ親友」

 

 コツンと拳を合わせる。

 大和はしみじみと呟いた。

 

「久々だな、右之助(うのすけ)

 

 用心棒──右之助はとびきりの笑顔を見せた。

 

 

 ◆◆

 

 

 大和と右之助は友人だった。

 よく酒を飲んだり娼館に行ったりする仲だ。

 

 大和は周囲を見渡し、頬をかく。

 

「アー……用心棒の仕事、邪魔しちまったか?」

「しゃあねぇよ。お前と殺し合いなんてしたくねぇし」

 

 右之助が肩を竦めると、大和は懐をまさぐる。

 

「慰謝料払うぜ。100万でいいか?」

「マジで? 欲しい欲しい」

 

 大和は膨れた財布を取り出す。

 札束を一つ取り出し、右之助に渡した。

 

 右之助は子供のように喜ぶ。

 

「サンキュー♪ やっぱ持つべきは強い友達だぜ♪」

「そーゆー正直なところ、嫌いじゃないぜ」

 

 笑う大和。

 彼は床に転がっている組長の首を見下ろした。

 

「右之助、その首……」

「ん? ソレがどうした?」

「借りるぜ」

「どーぞどーぞ」

 

 大和は組長の首を拾い、机に置く。

 次にスマホで写真撮影をした。

 最後に光度を調整したモノを右之助に見せる。

 

「どうよ?」

「いい感じじゃね? てか、こんなもん何に使うんだよ? ……まさか、今夜のお供とか?」

「おうコラ、叩っ斬るぞ」

「冗談だっての」

 

 肘で突かれ、右之助はおどけてみせる。

 大和は呆れ混じりに言った。

 

「依頼主からの要望だ。晒し首を撮ってくれってよ」

「へぇ、そりゃまた……」

 

 顎をさする右之助。

 大和は笑った。

 

「一人娘をサディズムの対象にされたんだと」

「ありきたりだな。新聞の記事にもなりゃしねぇ」

「全くだ」

 

 ありとあらゆる犯罪が横行する超犯罪都市デスシティ。

 此処ではレイプや復讐など日常茶飯事だった。

 故に、新聞にも取り上げられない。

 

 大和のスマホが鳴る。

 死体回収屋のリーダー、幽香からだった。

 

「もしもし」

『おーう大和ー! 終わったかー?』

「丁度終わったぜ、来れるか?」

『おうよ! 三分くらいで行くぜ!』

「はいよ、じゃーな」

 

 通話を終えると、大和は右之助と視線を合わせた。

 

「金目のもん蓄えてる場所、わかるか?」

「おう、山分けでどうだい?」

「いいねぇ」

 

 大和は嗤う。

 右之助も嗤った。

 

「コッチだ。行こうぜ」

「ああ」

 

 二人は歩き始めた。

 

 

 ◆◆

 

 

 数分後、事務所の外で。

 二人は死体回収屋と合流した。

 死体回収屋『ピクシー』のメンバーはリーダーの幽香を含めて皆小学生くらいの幽霊たちだ。

 

 少年少女の幽霊たちは二人の周りをふよふよ浮遊している。

 

「大和だー!」

「右之助だー!」

「元気だったかー!」

「死体どこだー!?」

「毎度、ありがとうございます……」

「お久しぶりですぅ」

 

 幽霊たちは皆個性的だ。

 二人の頭に抱きついたり、丁寧にお辞儀したりしている。

 二人が幽霊たちの頭を撫でていると、リーダーである幽香が頬を膨らませた。

 

「お前らー!! 今は仕事だぞー!! 集中しろ! しゅうちゅー!」

 

 かけられた号令に、幽霊たちは『了解です!!』と可愛らしく敬礼すると、事務所の中へと入っていく。

 その背中を確認した幽香は綺麗な桃色の髪を揺らした。

 

「おっしゃ! 大和! 会計は死体を見た後にするから、少し待っててくれな!」

「おう」

 

 大和は頷く。

 幽香は何故かパンと、彼に両手を重ねた。

 

「大和! お願いがあるんだけどさ!」

「ん? ……ああ、残ってる家具とかか?」

「持って帰ってもいいか!?」

「いいぜ。右之助もいいよな」

「おう」

 

 返事を聞いた幽香は翡翠色の瞳を輝かせて大和に抱きついた。

 

「ひゃっほーい!! さっすが大和!! 大好きだぜー!!」

「オラ、さっさと子分たちを手伝いに行ってやんな」

「おう!! いつもありがとうなー!!」

 

 幽香は手を振って現場へと向かっていく。

 そのやり取りを見て、右之助はニヤニヤと笑っていた。

 

「優しいねぇ~」

「そうか? 家具は金になるが、持ち出しが面倒なんだよ」

「確かにな。でもま、魔除けのアミュレット程度なら拝借したぜ。高く売れるし」

 

 右之助はポケットから幾つかのアミュレットを取り出す。

 すると、大和も懐からアミュレットを取り出した。

 二人はあくどい笑みを浮かべる。

 

「やるじゃん」

「お前こそ」

 

 右之助はアミュレットをポッケにしまうと、大和に聞いた。

 

「なぁ大和、これから暇か?」

「あ? まぁな」

「久々に飲みに行こうぜ」

「いいぜ。コレを売ったら丁度いい小遣いになるだろう」

「だな」

 

 右之助は頷く。

 大和は形のいい顎をさすった。

 

「店はゲートでいいか?」

「おう。てか、あそこしかねぇだろ。気軽に飲める場所」

「そうだな。じゃ、今から行くか」

「オーケー」

 

 二人は歩きはじめる。

 しかし……

 

「!」

 

 柑橘系の香り。

 大和は灰色の三白眼を細めた。

 

「右之助」

「ん? どした?」

「野暮用だ。飲みは明日にする。この時間にゲートに集合だ」

「…………」

 

 唐突な予定変更だが、右之助は察して頷く。

 

「りょーかい。じゃ、明日な」

「おう」

 

 手を上げ、別れを告げる。

 右之助はふと振り返り、大和に言った。

 

「容赦すんなよ」

 

 その言葉を聞き、大和は振り返る。

 

「誰に言ってやがる」

 

 彼は不気味に口角を歪めていた。

 右之助は「いらない心配だったか」と肩を竦めた。

 

 

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