Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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二話「色男の心得」

 

 五桁以上の愛人を持つ世界レベルの色男、大和。

 あらゆる種族を魅了する魔性の色香は、歩いているだけで多くの女が寄って来るほどだ。

 彼は、ラースにとって羨望の対象だった。

 

「大ファンなんです! 会えて光栄です!」

 

 立ち上がり、強く握手するラース。

 大和は朗らかに笑った。

 

「ハッハッハ、敬われるってのは悪い気がしねぇな! 右之助君、君もこれくらいの対応をしてくれてもいいんだぜ?」

「ほざけよ、気持ち悪ぃ」

「アア? ぶっ殺すぞコラ~、右之助ぇ~」

 

 肩を組み、笑いながらその胸をど突く大和。

 じゃれているのだ。

 彼の性分からすれば、貴重な光景だった。

 

 源次郎はそれを見て微笑みながら、大和に注文を聞く。

 

「旦那、まずは何にしましょう?」

「ああ、そうさな。おすすめの盛り合わせと熱燗で」

「わかりやした」

 

 頷き、源次郎はてきぱきと準備を始める。

 大和はカウンターに座り、ラースに微笑みかけた。

 

「そんじゃ、始めようか。色男講座をよぅ」

「……! はい! よろしくお願いします!」

 

 ラースは深く頭を下げると、懐からメモ用紙を取り出した。

 

 

 ◆◆

 

 

 大和はまず、ラースを無理矢理引き寄せた。

 そして首筋、襟の匂いを嗅ぐ。

 次に髪を触り、脇腹に手を入れた。

 

「!!? !!?」

 

 驚くラース。

 大和は構わず頬を揉んだり、ズボンを引っ張ったりした。

 一通りラースをもみくちゃにした後、一人納得し頷く。

 

「合格だ」

「何がですか!?」

 

 ラースは顔を赤くしながら叫ぶ。

 大和はニヤニヤ笑いながらその肩を叩いた。

 

「おいおい、乙女みてぇな反応すんなよ。情けねェ」

「そりゃ、いきなり密着されれば驚きますし、恥ずかしいですよ!」

 

 ラースは己を抱きしめながら叫ぶ。

 大和は笑みを絶やさず言った。

 

「取り敢えず、第一段階のチェックをした。で、さっきも言ったが、合格だ」

「第一段階?」

 

 落ち着いたラースは首を傾げる。

 大和は頬杖を付きながら告げた。

 

「身嗜みは良好、身体も清潔。基本中の基本だ。性格や容姿以前の問題だな。汚ぇ野郎に女は寄り付かねぇ」

「!!」

 

 驚くラースを置いてけぼりに、大和は語り始める。

 

「身体もきっちり洗ってる。髭を含めた無駄毛の処理、肌のケアもしてるし、歯も磨いてる。髪もよく手入れされているし、香水は男用のサッパリしたやつで無難にこなしつつ、量は弁えてる」

「……ッ」

「身嗜みの基礎はバッチリだぜ」

 

 ウィンクする大和。

 ラースは驚愕を隠し切れないでいた。

 今の密着だけでそこまで分析されたのだ。

 しかし、大和はまだ続ける。

 

「しかし服装がな……戦士だから汚れてもいい様に安価で済ませてんだろうが、よくねぇぞ。多少苦い思いしてでも高ぇ服は買っといたほうがいい。せっかく身嗜みを整えてるのに、勿体ねぇぜ」

「っ」

「テメェは服装に拘る価値のある男だ。だからこそ、きっちり仕上げろ」

 

 大和は右之助に振り返りながら問う。

 

「お前はどうしてる? 俺はこの一張羅、スペックを三十着は持ってる。別に私服でもいいんだが、デスシティで活動しているとコレが落ち着くんだ。制服みてぇなもんだな」

「俺も同じだ。でも、お前ほど拘りはねぇな。白いスーツにサングラスって縛りだけだ。どっちも日の気分でブランドを替えてる。ああ、でもブーツとか結構拘ってるかもなぁ」

 

 何時も変わらない服装をしている大和と右之助。

 彼等が何故、その清潔さを保っていられるのか──

 

 ラースは必死にメモを書き殴っていた。

 大和はラースに向き直る。

 

「肉体に関しては戦士だから言うことなし。よく引き締まってる」

 

 大和はニヤニヤしながら言った。

 

「右之助に紹介された時はどんな野郎かと思ってたが……中々の逸材じゃねぇの。男にしておくのが勿体ねぇな」

「女だったら食うつもりだったのか、お前……」

「そりゃな。素直だし、何か放っておけねぇ。女だったら俺専用にしてるところだ」

「そ、そんな……!! う、嬉しいような、なんか複雑な気持ちです……!!」

 

 ラースは盛大に照れる。

 彼がメモを書き終ったところを見計らい、大和が告げた。

 

「じゃ、次行くか。第二段階だ」

「はい!」

 

 

 ◆◆

 

 

「第二段階は、ようは男磨きだ。己を「男」として洗練させていく。第一段階が基礎なら、第二段階は応用だな」

「はい!」

 

 大和は顎を擦る。

 

「動作、言動、立ち振る舞い、佇まい、全てにおいて磨く要素がある。この第二段階に上限はねぇ、だが鍛錬や学問と一緒だ。怠るなよ」

「はい!!」

「つぅわけで、ほいコレ」

 

 大和は懐から手帳を五冊ほど取り出す。

 どれも表紙が擦り切れていて、かなり使い込まれていた。

 

「俺が男磨きの際に使ってたメモ帳だ。参考になるかはわからねぇが、やるよ」

「い、いいんですか!!?」

「おう」

「あ、ありがとうございますッ!! 家宝にしますッ!!」

「大袈裟だっての」

 

 手帳を嬉しそうに抱きしめるラースに大和は苦笑する。

 彼はふと、思い付いた様にもう一度懐へ手を入れた。

 

「丁度良い、今実践してやる」

「?」

 

 大和が取り出したのはオイルライターだった。

 煙草も取り出し、慣れた手付きで火を点ける。

 

 たったそれだけの動作。

 しかしラースは、思わず見惚れてしまった。

 一つ一つの所作がキマっているのだ。

 端的に、カッコいい。

 

 大和はその秘密を明かした。

 

「利き手じゃないほう、俺の場合左手だが、そっちでする動作はセクシーに見えるんだよ。他にもオイルライターの出し方や煙草の咥え方も、工夫しようと思えば幾らでもできる。……鏡と睨めっこして、自分の型を見つけてみろ」

「……はい!! 頑張ります!!」

 

 ラースは笑顔で頷く。

 大和はにやにや笑うと、ラースを抱き寄せ溜息を吐いた。

 

「あ~あ、マジで惜しいなぁ。女だったら即ベッドだったんだけどなァ」

「ややや大和さん!!?」

 

 顔を真っ赤にするラース。

 右之助はやれやれと肩を竦め、源次郎は呵々大笑した。

 

「おいおい、酔ってんじゃねぇよ」

「カッカッカ! 確かに女だったら最高にイイ娘さんでしょうねぇ!」

「だよなぁ、惜しいなぁ、でも可愛いから許す」

 

 大和はラースの頭を撫で撫でする。

 ラースは驚きと、それ以上の嬉しさで満たされていた。

 まさかあの大和に、ここまで可愛がって貰えるとは思っていなかったのだ。

 

 ラースが見てきた大和という男は孤高で、残忍で、しかし誰よりも強く美しい、無敵の益荒男だった。

 

 そんな彼から優しく微笑みかけられている。

 ラースは幸せな気持ちになった。

 

「よし……もう最終までいっちまうか」

「そうだな」

 

 大和と右之助は立ち上がり、源次郎に勘定を払う。

 ラースは訳がわからず、彼等に聞いた。

 

「その、これからどうするんですか?」

「最終段階……基礎、応用とくりゃぁ、次は実戦だろ」

「おうさ。東区に行くぞ、ラース」

 

 両名に肩を組まれ、屋台から出ていくラース。

 源次郎の粋の良い声が背中を打った。

 

 ラースは瞠目した。

 東区──通称「世界最大の傾城街」。

 古今東西、ありとあらゆる美女美少女が集う──夜の都だ。

 

「ええええ!!? 今から行くんですかァ!?」

「そうだ」

「逃がさねぇぞ」

 

 慌てるラースを、二人は笑顔で無理矢理引っ張って行った。

 

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