五桁以上の愛人を持つ世界レベルの色男、大和。
あらゆる種族を魅了する魔性の色香は、歩いているだけで多くの女が寄って来るほどだ。
彼は、ラースにとって羨望の対象だった。
「大ファンなんです! 会えて光栄です!」
立ち上がり、強く握手するラース。
大和は朗らかに笑った。
「ハッハッハ、敬われるってのは悪い気がしねぇな! 右之助君、君もこれくらいの対応をしてくれてもいいんだぜ?」
「ほざけよ、気持ち悪ぃ」
「アア? ぶっ殺すぞコラ~、右之助ぇ~」
肩を組み、笑いながらその胸をど突く大和。
じゃれているのだ。
彼の性分からすれば、貴重な光景だった。
源次郎はそれを見て微笑みながら、大和に注文を聞く。
「旦那、まずは何にしましょう?」
「ああ、そうさな。おすすめの盛り合わせと熱燗で」
「わかりやした」
頷き、源次郎はてきぱきと準備を始める。
大和はカウンターに座り、ラースに微笑みかけた。
「そんじゃ、始めようか。色男講座をよぅ」
「……! はい! よろしくお願いします!」
ラースは深く頭を下げると、懐からメモ用紙を取り出した。
◆◆
大和はまず、ラースを無理矢理引き寄せた。
そして首筋、襟の匂いを嗅ぐ。
次に髪を触り、脇腹に手を入れた。
「!!? !!?」
驚くラース。
大和は構わず頬を揉んだり、ズボンを引っ張ったりした。
一通りラースをもみくちゃにした後、一人納得し頷く。
「合格だ」
「何がですか!?」
ラースは顔を赤くしながら叫ぶ。
大和はニヤニヤ笑いながらその肩を叩いた。
「おいおい、乙女みてぇな反応すんなよ。情けねェ」
「そりゃ、いきなり密着されれば驚きますし、恥ずかしいですよ!」
ラースは己を抱きしめながら叫ぶ。
大和は笑みを絶やさず言った。
「取り敢えず、第一段階のチェックをした。で、さっきも言ったが、合格だ」
「第一段階?」
落ち着いたラースは首を傾げる。
大和は頬杖を付きながら告げた。
「身嗜みは良好、身体も清潔。基本中の基本だ。性格や容姿以前の問題だな。汚ぇ野郎に女は寄り付かねぇ」
「!!」
驚くラースを置いてけぼりに、大和は語り始める。
「身体もきっちり洗ってる。髭を含めた無駄毛の処理、肌のケアもしてるし、歯も磨いてる。髪もよく手入れされているし、香水は男用のサッパリしたやつで無難にこなしつつ、量は弁えてる」
「……ッ」
「身嗜みの基礎はバッチリだぜ」
ウィンクする大和。
ラースは驚愕を隠し切れないでいた。
今の密着だけでそこまで分析されたのだ。
しかし、大和はまだ続ける。
「しかし服装がな……戦士だから汚れてもいい様に安価で済ませてんだろうが、よくねぇぞ。多少苦い思いしてでも高ぇ服は買っといたほうがいい。せっかく身嗜みを整えてるのに、勿体ねぇぜ」
「っ」
「テメェは服装に拘る価値のある男だ。だからこそ、きっちり仕上げろ」
大和は右之助に振り返りながら問う。
「お前はどうしてる? 俺はこの一張羅、スペックを三十着は持ってる。別に私服でもいいんだが、デスシティで活動しているとコレが落ち着くんだ。制服みてぇなもんだな」
「俺も同じだ。でも、お前ほど拘りはねぇな。白いスーツにサングラスって縛りだけだ。どっちも日の気分でブランドを替えてる。ああ、でもブーツとか結構拘ってるかもなぁ」
何時も変わらない服装をしている大和と右之助。
彼等が何故、その清潔さを保っていられるのか──
ラースは必死にメモを書き殴っていた。
大和はラースに向き直る。
「肉体に関しては戦士だから言うことなし。よく引き締まってる」
大和はニヤニヤしながら言った。
「右之助に紹介された時はどんな野郎かと思ってたが……中々の逸材じゃねぇの。男にしておくのが勿体ねぇな」
「女だったら食うつもりだったのか、お前……」
「そりゃな。素直だし、何か放っておけねぇ。女だったら俺専用にしてるところだ」
「そ、そんな……!! う、嬉しいような、なんか複雑な気持ちです……!!」
ラースは盛大に照れる。
彼がメモを書き終ったところを見計らい、大和が告げた。
「じゃ、次行くか。第二段階だ」
「はい!」
◆◆
「第二段階は、ようは男磨きだ。己を「男」として洗練させていく。第一段階が基礎なら、第二段階は応用だな」
「はい!」
大和は顎を擦る。
「動作、言動、立ち振る舞い、佇まい、全てにおいて磨く要素がある。この第二段階に上限はねぇ、だが鍛錬や学問と一緒だ。怠るなよ」
「はい!!」
「つぅわけで、ほいコレ」
大和は懐から手帳を五冊ほど取り出す。
どれも表紙が擦り切れていて、かなり使い込まれていた。
「俺が男磨きの際に使ってたメモ帳だ。参考になるかはわからねぇが、やるよ」
「い、いいんですか!!?」
「おう」
「あ、ありがとうございますッ!! 家宝にしますッ!!」
「大袈裟だっての」
手帳を嬉しそうに抱きしめるラースに大和は苦笑する。
彼はふと、思い付いた様にもう一度懐へ手を入れた。
「丁度良い、今実践してやる」
「?」
大和が取り出したのはオイルライターだった。
煙草も取り出し、慣れた手付きで火を点ける。
たったそれだけの動作。
しかしラースは、思わず見惚れてしまった。
一つ一つの所作がキマっているのだ。
端的に、カッコいい。
大和はその秘密を明かした。
「利き手じゃないほう、俺の場合左手だが、そっちでする動作はセクシーに見えるんだよ。他にもオイルライターの出し方や煙草の咥え方も、工夫しようと思えば幾らでもできる。……鏡と睨めっこして、自分の型を見つけてみろ」
「……はい!! 頑張ります!!」
ラースは笑顔で頷く。
大和はにやにや笑うと、ラースを抱き寄せ溜息を吐いた。
「あ~あ、マジで惜しいなぁ。女だったら即ベッドだったんだけどなァ」
「ややや大和さん!!?」
顔を真っ赤にするラース。
右之助はやれやれと肩を竦め、源次郎は呵々大笑した。
「おいおい、酔ってんじゃねぇよ」
「カッカッカ! 確かに女だったら最高にイイ娘さんでしょうねぇ!」
「だよなぁ、惜しいなぁ、でも可愛いから許す」
大和はラースの頭を撫で撫でする。
ラースは驚きと、それ以上の嬉しさで満たされていた。
まさかあの大和に、ここまで可愛がって貰えるとは思っていなかったのだ。
ラースが見てきた大和という男は孤高で、残忍で、しかし誰よりも強く美しい、無敵の益荒男だった。
そんな彼から優しく微笑みかけられている。
ラースは幸せな気持ちになった。
「よし……もう最終までいっちまうか」
「そうだな」
大和と右之助は立ち上がり、源次郎に勘定を払う。
ラースは訳がわからず、彼等に聞いた。
「その、これからどうするんですか?」
「最終段階……基礎、応用とくりゃぁ、次は実戦だろ」
「おうさ。東区に行くぞ、ラース」
両名に肩を組まれ、屋台から出ていくラース。
源次郎の粋の良い声が背中を打った。
ラースは瞠目した。
東区──通称「世界最大の傾城街」。
古今東西、ありとあらゆる美女美少女が集う──夜の都だ。
「ええええ!!? 今から行くんですかァ!?」
「そうだ」
「逃がさねぇぞ」
慌てるラースを、二人は笑顔で無理矢理引っ張って行った。