villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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四話「大和の過去」

 

 

 翌日。

 中央区、大衆酒場ゲートにて。

 相変わらず多くの種族でごった返し、大繁盛しているこの店は、居るだけでも心地よさを覚える。

 カウンター席にて。右之助はラースから結果を聞いていた。

 

「で、どうだった?」

 

 右之助はニヤニヤ笑いながら聞く。

 ラースは照れ臭そうに告げた。

 

「色々教えて貰えました、サービス券も貰えましたし、個人的な連絡先も何件か……」

「ハッハッハ! スゲェじゃねぇか! あの店の女達に気に入られるなんざ相当だぜ! 胸を張りな!」

「……はいッ、自信が付きました! 今回は本当にありがとうございます!」

 

 そう言うラースは、昨日よりも男前になっていた。

 現に纏う雰囲気が濃くなっている。

 酒場にいる女達は彼を見てヒソヒソ話をしていた。

 

 男は一日あれば変われる。

 ラースはその身を以て体現していた。

 

 彼は周囲を見渡しながら右之助に聞く。

 

「あの、大和さんは……」

「アイツは遅れてくる」

「そうですか……本当に、あの人にも何てお礼を言ったらいいか……」

 

 そう言うラースの肩を、右之助は大袈裟に叩いた。

 

「お前、スゲェぜ。アイツに初見で気に入られるなんて」

「でも……何で俺なんかを気に入ってくれたのか、未だにわからなくて……」

「ま、そこらへんは俺も謎だな。アイツは気難しい奴だ。単純な様でいて絡みにくい。今回もアドバイスを貰えればいい程度に考えていたんだが……」

「運が良かったんですかね?」

 

 ラースの謙虚な姿勢に、右之助は苦笑した。

 

「運も実力の内さ。これからもその関係、崩さないようにしていけよ」

「……はい!」

 

 ラースは大きく頷くと、右之助にある事を問うた。

 

「あの、右之助さん。大和さんが居ない間に、一つ聞きたい事があって……」

「何だ?」

「その……」

 

 ラースは頬を掻きながら言う。

 

「大和さんの過去とかって、知ってますか?」

「どうして、またそんな事を?」

「えっと、大和さんって「元々が違うな」って思うんです。この都市の住民でいて、何か違う。その……気品の様なものを感じて」

 

 ラースの言葉に、右之助は顎を擦った。

 

「んー? そうか? 埒外の強さと色気がお前の感覚を鈍らせてるんじゃねぇか? まぁ確かに、大和の過去は俺も知らねぇ。知ってる奴もかなり少ないだろう」

 

 二人の会話に、第三者が入ってきた。

 金髪の偉丈夫、ネメアである。

 彼は新聞紙を畳みながら二人に言った。

 

「大和の過去、気になるのか?」

「おお! そういえばお前は大和と旧知の間柄だったな、ネメア!」

 

 右之助は合点する。

 ネメアは世界最強の傭兵。実力もそうだが、長年大和とコンビを組んでいた事がある。

 それこそ、大和という男を良く知る人物だ。

 彼は笑う。

 

「知りたいなら教えてやる。どうだ? アイツの口からは聞けないぞ」

 

 右之助は即答する。

 

「知りたい」

「そこのオーク君がどうしても知りたそうにしてるからな。特別だ」

「あ、ありがとうございます! ネメアさん!」

 

 ラースはネメアに深く頭を下げる。

 ネメアは「いや」と肩を竦めると、端的に告げた。

 

「アイツは王族だ」

「……」

「……」

 

 右之助とラースは固まる。

 辛うじて、右之助が聞いた。

 

「今、何て言った?」

 

 ネメアは腕を組んで、再度言う。

 

「もう一度言うぞ。アイツは王族だ。詳しく言えば、今から数億年前……まだ世界が一つだった頃、東側で最も栄えた王朝『出雲』の第一王子にして、第七代皇帝になる筈だった男。東洋で最も尊い血をその身に流す、正真正銘の王族だ」

 

 

「「「「えええええええええええええ!!!!?」」」」

 

 

 右之助やラースだけではない。

 聞き耳を立てていた客人達が驚愕でひっくり返った。

 それはそうだ。

 世界最強の殺し屋、腕っぷしだけで邪神を叩きのめせる男が、よりにもよって王族だったなんて──

 

 右之助はズレたサングラスを整える余裕も無かった。

 

「それ、マジでか、ネメア」

「ああ。だがアイツは家出した。理由は──」

 

「それ以上はやめろや、ネメア」

 

 低く、しかし透き通った声。

 褐色肌の美丈夫、大和が店内に入って来ていた。

 

「人の過去をべらべら喋るのは感心しねぇぜ」

「いいじゃないか、お前の過去を知らないって奴は結構多い」

「知らなくていいんだよ、俺の過去なんざ」

「そうか、ならこの話はこれでおしまいだ。悪いな」

 

 ネメアはラースに謝り、新聞紙に視線を戻す。

 大和は不機嫌そうにラースの隣に座った。

 右之助は、未だ信じられないものを見る目で大和を見ている。

 

「お前が、王族?」

「もう滅びた王朝だ。今はただの大和だ、文句あっか?」

「……」

「何だよ」

 

「いや、全然似合わねぇなって」

 

「おうおうそうかそうか、死ね」

 

 大和の繰り出したチョップが右之助の頭蓋に炸裂する。

 右之助は頭に特大のたんこぶを作って地に伏した。

 

「……ッ」

 

 ラースは知りたかった。

 何故彼が家出したのか。

 何故彼は、殺し屋になったのか──

 

 知りたい。

 知りたいが、これ以上は駄目だと悟る。

 

 ラースは目を閉じ、生ビールを頼もうとした。

 すると、店内に新たな客人が現れる。

 

 暗黒桃源郷のオーナーにして、その美貌デスシティ随一と謳われる傾世の超絶美少女。

 東区最高の花魁(おいらん)

 

 白面絢爛九尾狐、万葉(かずは)

 

 九本の狐尾が揺れる。

 真紅の瞳で見つめられた客人達は、総じて忘我の彼方を彷徨った。

 

 波乱は小さく、しかし密は最高潮に達しようとしていた。

 


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