Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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五話「用心棒の憂鬱」

 

 その頃、魔界都市はお祭り騒ぎだった。

 魔忍に懸賞金がかかった事で皆躍起になっているのだ。

 賞金稼ぎや傭兵、他にも様々な種族が動いている。

 

 その騒ぎに巻き込まれた、哀れな男が一名。

 

「ハァァ……」

 

 中央区の街道で。

 野次馬達に囲まれている大男は、魂が抜けそうな溜息を吐いていた。

 純白のスーツにサングラス、古傷だらけの顔。

 用心棒、右之助である。

 

「ッッ」

 

 彼の背中には魔忍が一人隠れていた。

 金髪縦ロールに黄色のぴっちりボディースーツという派手な格好。

 歳は二十歳に満たないだろうが、その肢体はまさしくダイナマイトボディ、アメリカンサイズだ。

 魅惑的な肢体に喧騒達の視線が集まる。

 彼女は怯えながら右之助に身を寄せた。

 

 右之助の眼前に居るのは、豪勢なローブを着た貴族風の男。

 紅玉の如き双眸に死人の様な肌、発達した犬歯。

 吸血鬼(ヴァンパイア)である。

 

 彼は右之助に嘲笑を向けていた。

 

「貴様がその娘を庇うとはな、どういう風の吹き回しだ──用心棒」

「いや……まぁ、緊急の依頼っていうか」

 

 右之助は背後の魔忍に聞く。

 

「オイ、護衛代は一週間で7000万。しかも一週間以内に一括払い……本当に守れるのか?」

「勿論ですわ! 私、こう見えても実家がお金持ちですの!」

「まぁ、雰囲気でわかるけどよぉ……後で契約書にサインして貰うからな。破ったら問答無用で臓器売り飛ばすぞ」

 

 右之助に睨み付けられると、魔忍は負けじと睨み返した。

 

「私は約束は守りますわ!! だから、貴方も守ってくださいまし!!」

「……ハァァ、騒動の時に外を出歩いたのが運の尽き、か……」

 

 右之助は曇天を仰ぎ、何度目かわからない溜息を吐く。

 吸血鬼は鼻で笑った。

 

「随分と余裕だな。強者に尻尾を振ることしかできない野良犬が」

「……」

「媚びを売るのが得意なのだろう? ならば私に売ってみろ、高値で買ってやる。平服し、その娘を差し出せ。その娘は今宵の晩餐なのだ」

 

 吸血鬼は傲慢不遜に告げる。

 

「さぁ、媚びへつらってみせろ」

「……あのなァ」

 

 右之助はやれやれと肩を竦める。

 

「お前の言ってる事は合ってる。が、生憎尻尾を振る相手は選んでる。お前みたいな雑魚に振る尻尾はねぇよ」

「──そうか、ならば死ね」

「お前がな」

 

 吸血鬼が手をかざした瞬間、右之助が消える。

 かと思えば、吸血鬼の頭が消し飛んだ。

 右之助は彼の前で踵を返す。

 

 懐からハイライトを取り出し、火を点けた。

 

「不死身だからって調子に乗ってんじゃねぇよ、バーカ」

 

 灰になった吸血鬼を鼻で笑いながら、右之助は魔忍の元へ戻っていく。

 当の魔忍は惚けた顔を右之助に向けていた。

 その顔は、発情した雌のソレである。

 

「素敵……っ」

「はァ?」

 

 その後、魔忍から熱烈なアプローチを受ける羽目になった右之助。

 周囲の住民達はザワついていた。

 右之助が吸血鬼を殺した技がわからなかったのだ。

 

「右の回し蹴りか?」

「全然見えなかったぞ……」

「でも、右足がブレてたわ。やっぱり右の回し蹴りよ」

「アイツも強ぇんだなァ」

 

 ガヤガヤと騒ぐ住民達。

 その中から陽気な笑い声が響き渡る。

 

「違う違~う♪ アンタ達全然駄目♪ 視力検査したほうがいいんじゃな~い? アイツは左右の回し蹴りを繰り出したのよ♪」

「んな馬鹿な」

「ありえねぇ、俺等の目で捉えられねぇなんて、光速どころの話じゃねぇぞ」

「だ~か~ら~♪」

 

 女は陽気な声のまま解説する。

 

「光速なんかとっくに超えてるっての♪ 時間の束縛を振り切ってんのよ♪ アンタ等ウノちゃんを舐め過ぎ、ウノちゃんはA級でも上位ランクの猛者よ~? 全く同時に、左右の足で回し蹴りをするなんて造作もないってぇ♪」

 

 そう、右之助は時間の束縛を無視できる超速度で左右の回し蹴りを繰り出したのだ。

 全く同時に左右から蹴られた事で吸血鬼の頭は爆散、更に闘気術で不老不死を無効化。

 

 喧嘩空手の達人であり、その気になれば邪神の眷属をも葬れる男の実力は、間違いなく本物だった。

 

 住民達は戦慄しつつ、解説者の声に疑問を抱く。

 

「さっきから誰だ?」

「この声、どっかで聞いた事があるような……」

 

「てかアンタ等邪魔~♪ 退かないと挽肉にしちゃうわよ~♪ キャハハ♪」

 

 喧騒達の顔が真っ青になる。

 この狂気的な発言と笑い方。

 デスシティでも随一のイカレと謳われる、あの女だった。

 

「撃ち狂いだァァァァァ!!!!」

「逃げろ!! 殺されるぞ!!」

「ヒィィ!!」

 

 飛び退く喧騒達。

 そこには、金色のメッシュを前髪に入れた美少女が居た。

 ゴシックパンク風の派手な服装をした彼女は、風船ガムを膨らましながら笑う。

 

「ウノちゃ~ん♪ 見てたよ~♪ やっぱりヤルじゃ~ん♪ にっしっし~♪」

「げぇ、サーシュ……」

 

 撃ち狂い、サーシュを見て右之助は露骨に嫌な顔をする。

 魔忍をあしらうので手一杯なのに、更に問題児が一人加わった。

 

 右之助の苦労が絶えることは無かった。

 

 

 

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