稀代の豪傑が曇天を跳び、テールライトに映し出される。
その凶悪な笑顔を目撃した住民達は顔面を蒼白にした。
動いている。
あの男が。
意思を持つ災害が──
「大和だァァァァァ!!!!」
「緊急警報を鳴らせ! アイツが暴れたら区画の一つ二つじゃ済まねぇぞ!」
止められない。
止めたら、殺される。
故に逃げるのだ。
過ぎ去るのをただ待つしかない。
彼は、意思を持つ天変地異なのだ。
個人にして無双。
邪神すら畏れる最強の武術家。
何キロもの跳躍を果たした彼が街道に着地すれば、それだけで道路が陥没し、車両達が宙を舞う。
住民達は吹き飛ばされながらも、必死に逃げていた。
彼はもう一度跳躍した。
爆風が発生し、地面が揺れる。
その肩には、浴衣を着た奇妙な三毛猫が貼り付いていた。
「旦那ァ! この先500メートル先で大怪獣バトルが起こってますぜ! 進行方向です! どうしやすか!」
「面倒くせェ、薙ぎ倒していくぞ」
「ひぇ~! あいあいさ~!」
三毛猫はだみ声を上げながら大和の肩にしがみつく。
空中を舞っていれば、目前で高層ビルを薙ぎ倒し大喧嘩している怪獣とロボットがいた。
中央区は魔忍以前の大混乱。
大和は笑った。
「しっかり掴まっとけよ」
「あいあいさ~!」
一度地面に着地し、再度跳躍する。
500メートルを超える高層ビルを優々飛び越え、大和は怪獣達の顔面に迫った。
「邪魔だボケ」
恐竜に似た大怪獣の顔面に回し蹴りを浴びせる。
怪獣は悲鳴を上げながら吹き飛び、倒れ込んだ。
中央区に甚大な被害が齎される。
大和の眼下は阿鼻叫喚の地獄になっていた。
大怪獣と激戦を繰り広げていた巨大ロボ──暴走した無人機は、大和に標的を定める。
その手に携えた高層ビルもかくやとばかりのバスターソードを振りかぶった。
上段からの唐竹割り。
しかし大和は空中でキャッチし、威力をそのまま投げに転換する。
合気の深奥にて、空中に居たまま巨大無人機を投げ飛ばした。
遥か遠くまで投げ飛ばされた無人機は南区辺りに落下し、大爆発を引き起こす。
南区にも甚大な被害が発生した。
「ひょえええ……! やり過ぎアクションですぜ! 旦那!」
「無駄口はいい。このくノ一の居場所をもっと正確に教えろ、ミケ」
大和に手渡された写真を猫又、ミケはほむほむと見つめる。
彼は「みゃ!」と喉を鳴らすと、進行方向の先を肉球で示した。
「東区手前の、あっこの廃墟に居ると情報が入っていますにゃ!」
「サンキュー、流石デスシティきっての情報屋だ。報酬は弾ませて貰うぜ、また後でな」
「はいにゃ~! 楽しみにしていますにゃ~!!」
ミケは持ち前の俊敏さで大和の肩から飛び降りると、アパートの屋上から彼を見送る。
大和は魔忍──百合が居る廃墟へ突撃していった。
◆◆
妖剣士、
触手から伝わる彼女の恥辱、憎悪。
それらが快感で蕩けていくのが、目に見えてわかる。
堪らなかった。
「うぁっ♪ やめ、ろ……っ♪ 私は、お前なんかに屈しな……いィっ♪」
「わからぬか? 堕とそうと思えば何時でも堕とせる。しかし無理やりは好まんのだ。貴殿が自分の意思で堕ちろ」
「馬鹿を、言え……っ」
「極楽浄土が待っておるぞ。この快楽──耐え難いだろう?」
敏感になり過ぎた肢体に触手が絡まり、ねっとりとねぶられる。
百合は唇を噛みしめながら絶頂した。
痙攣する肢体。
発された牝の匂いが部屋を満たす。
百合は、もう何度達したかわからなかった。
達する度に脊髄に電流が奔り、意識が、覚悟が薄れてゆく。
この至上の快感に身を委ねたくなる。
頬にぬるりと触手が伝い、唇に入って来る。
しかし、以前ほど嫌悪感を抱けない。
むしろ、舌を絡ませてしまう。
嫌だ。
嫌なのに、気持ちいい。
百合の瞳が段々と蕩け始める。
ボディースーツに包まれた身体が敏感になり、吐き出す声も甘くなった。
堕ちかけている。
彌勒は奇顔を愉悦で歪ませた。
百合の意識が途切れそうな──その時。
肉で覆われた室内が破られた。
侵入者である。
彌勒はすぐに臨戦態勢に入った。
「何者だ!!」
彌勒の視線の先には、褐色肌の美丈夫が居た。
真紅のマントを靡かせる生粋の無頼漢。
彼は惨状を前に灰色の三白眼を細める。
「ほぅ……お楽しみ中だったか」
彌勒は彼の名を知っていた。
デスシティに滞在していて、彼の名を知らない者はいない。
彌勒は呻く様に呟く。
「大和……っ」
「オイ、ソイツは俺の女だ。その汚ぇ触手を退けろ」
「ほざけ。よくも拙僧の営みを邪魔してくれたな……斬り刻んでくれる」
彌勒は背に帯びた薙刀状の大太刀を抜き放つ。
しかしその大太刀ごと、彌勒の半身が横にズレた。
既に大和は抜刀していた。
彌勒は一瞬で両断されてしまった。
デスシティの住民であり、それなりの実力を保有していた彌勒。
しかし、今回は相手が悪すぎた。
彼は吐血しながら、遺言に呪詛を込める。
「バケモノめ……ッ」
「バケモノはテメェだろ、触手野郎」
ドチャリと地面に伏した彌勒。
触手も力を無くし、百合の肢体の上で眠った。
百合は朧げな意識の中で、自分を助けてくれた男を確認する。
男らしく豪胆で、しかし凶悪な笑みに胸の奥が引き締められる。
未だ感じる性の熱にうなされながら、百合は気を失った。
魔界都市の誇るジョーカーが百合を助け出すのに、五分とかからなかった。
しかし、そう簡単に問屋を下ろさないのがこの都市の特性だ。
大和に比肩しうる剣豪が、その重い腰を上げたところだった。