Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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六話「我、無頼漢也」

 

 

 稀代の豪傑が曇天を跳び、テールライトに映し出される。

 その凶悪な笑顔を目撃した住民達は顔面を蒼白にした。

 

 動いている。

 あの男が。

 意思を持つ災害が──

 

「大和だァァァァァ!!!!」

「緊急警報を鳴らせ! アイツが暴れたら区画の一つ二つじゃ済まねぇぞ!」

 

 止められない。

 止めたら、殺される。

 故に逃げるのだ。

 過ぎ去るのをただ待つしかない。

 

 彼は、意思を持つ天変地異なのだ。

 

 個人にして無双。

 邪神すら畏れる最強の武術家。

 

 何キロもの跳躍を果たした彼が街道に着地すれば、それだけで道路が陥没し、車両達が宙を舞う。

 住民達は吹き飛ばされながらも、必死に逃げていた。

 

 彼はもう一度跳躍した。

 爆風が発生し、地面が揺れる。

 その肩には、浴衣を着た奇妙な三毛猫が貼り付いていた。

 

「旦那ァ! この先500メートル先で大怪獣バトルが起こってますぜ! 進行方向です! どうしやすか!」

「面倒くせェ、薙ぎ倒していくぞ」

「ひぇ~! あいあいさ~!」

 

 三毛猫はだみ声を上げながら大和の肩にしがみつく。

 空中を舞っていれば、目前で高層ビルを薙ぎ倒し大喧嘩している怪獣とロボットがいた。

 中央区は魔忍以前の大混乱。

 大和は笑った。

 

「しっかり掴まっとけよ」

「あいあいさ~!」

 

 一度地面に着地し、再度跳躍する。

 500メートルを超える高層ビルを優々飛び越え、大和は怪獣達の顔面に迫った。

 

「邪魔だボケ」

 

 恐竜に似た大怪獣の顔面に回し蹴りを浴びせる。

 怪獣は悲鳴を上げながら吹き飛び、倒れ込んだ。

 中央区に甚大な被害が齎される。

 大和の眼下は阿鼻叫喚の地獄になっていた。

 

 大怪獣と激戦を繰り広げていた巨大ロボ──暴走した無人機は、大和に標的を定める。

 その手に携えた高層ビルもかくやとばかりのバスターソードを振りかぶった。

 上段からの唐竹割り。

 

 しかし大和は空中でキャッチし、威力をそのまま投げに転換する。

 合気の深奥にて、空中に居たまま巨大無人機を投げ飛ばした。

 遥か遠くまで投げ飛ばされた無人機は南区辺りに落下し、大爆発を引き起こす。

 南区にも甚大な被害が発生した。

 

「ひょえええ……! やり過ぎアクションですぜ! 旦那!」

「無駄口はいい。このくノ一の居場所をもっと正確に教えろ、ミケ」

 

 大和に手渡された写真を猫又、ミケはほむほむと見つめる。

 彼は「みゃ!」と喉を鳴らすと、進行方向の先を肉球で示した。

 

「東区手前の、あっこの廃墟に居ると情報が入っていますにゃ!」

「サンキュー、流石デスシティきっての情報屋だ。報酬は弾ませて貰うぜ、また後でな」

「はいにゃ~! 楽しみにしていますにゃ~!!」

 

 ミケは持ち前の俊敏さで大和の肩から飛び降りると、アパートの屋上から彼を見送る。

 大和は魔忍──百合が居る廃墟へ突撃していった。

 

 

 ◆◆

 

 

 妖剣士、彌勒(みろく)は百合を弄ぶ事に執心していた。

 触手から伝わる彼女の恥辱、憎悪。

 それらが快感で蕩けていくのが、目に見えてわかる。

 

 堪らなかった。

 

「うぁっ♪ やめ、ろ……っ♪ 私は、お前なんかに屈しな……いィっ♪」

「わからぬか? 堕とそうと思えば何時でも堕とせる。しかし無理やりは好まんのだ。貴殿が自分の意思で堕ちろ」

「馬鹿を、言え……っ」

「極楽浄土が待っておるぞ。この快楽──耐え難いだろう?」

 

 敏感になり過ぎた肢体に触手が絡まり、ねっとりとねぶられる。

 百合は唇を噛みしめながら絶頂した。

 痙攣する肢体。

 発された牝の匂いが部屋を満たす。

 

 百合は、もう何度達したかわからなかった。

 達する度に脊髄に電流が奔り、意識が、覚悟が薄れてゆく。

 

 この至上の快感に身を委ねたくなる。

 頬にぬるりと触手が伝い、唇に入って来る。

 しかし、以前ほど嫌悪感を抱けない。

 むしろ、舌を絡ませてしまう。

 

 嫌だ。

 嫌なのに、気持ちいい。

 

 百合の瞳が段々と蕩け始める。

 ボディースーツに包まれた身体が敏感になり、吐き出す声も甘くなった。

 

 堕ちかけている。

 彌勒は奇顔を愉悦で歪ませた。

 

 百合の意識が途切れそうな──その時。

 肉で覆われた室内が破られた。

 侵入者である。

 

 彌勒はすぐに臨戦態勢に入った。

 

「何者だ!!」

 

 彌勒の視線の先には、褐色肌の美丈夫が居た。

 真紅のマントを靡かせる生粋の無頼漢。

 彼は惨状を前に灰色の三白眼を細める。

 

「ほぅ……お楽しみ中だったか」

 

 彌勒は彼の名を知っていた。

 デスシティに滞在していて、彼の名を知らない者はいない。

 彌勒は呻く様に呟く。

 

「大和……っ」

「オイ、ソイツは俺の女だ。その汚ぇ触手を退けろ」

「ほざけ。よくも拙僧の営みを邪魔してくれたな……斬り刻んでくれる」

 

 彌勒は背に帯びた薙刀状の大太刀を抜き放つ。

 しかしその大太刀ごと、彌勒の半身が横にズレた。

 

 既に大和は抜刀していた。

 彌勒は一瞬で両断されてしまった。

 

 デスシティの住民であり、それなりの実力を保有していた彌勒。

 しかし、今回は相手が悪すぎた。

 

 彼は吐血しながら、遺言に呪詛を込める。

 

「バケモノめ……ッ」

「バケモノはテメェだろ、触手野郎」

 

 ドチャリと地面に伏した彌勒。

 触手も力を無くし、百合の肢体の上で眠った。

 

 百合は朧げな意識の中で、自分を助けてくれた男を確認する。

 男らしく豪胆で、しかし凶悪な笑みに胸の奥が引き締められる。

 未だ感じる性の熱にうなされながら、百合は気を失った。

 

 魔界都市の誇るジョーカーが百合を助け出すのに、五分とかからなかった。

 しかし、そう簡単に問屋を下ろさないのがこの都市の特性だ。

 

 大和に比肩しうる剣豪が、その重い腰を上げたところだった。

 

 

 

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