Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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十一話「死闘の余韻」

 

 

 

 中央区、路地裏にある質素なアパートで。

 大和は自室で深い休眠に付いていた。

 本来であれば即手術の重傷を負っている。自然治癒能力が馬鹿げている彼でも、休眠は必須だった。

 

 生半可な攻撃では傷一つ付かない大和をここまで痛めつけ、追い詰めた吹雪という男は間違いなく世界最強の剣豪だった。

 それでも、大和は勝った。

 

 勝因は一つ。

 大和が先天的な超越者だったからだ。

 人間でありながら人間ではない、怪物だったからだ。

 

 深い眠りに付いている大和。

 ここまで隙だらけな彼は本当に珍しい。

 

 一時間程経っただろうか――大和は目を覚ました。

 その肉体を蝕んでいた刀傷は大半が塞がり、体力も回復している。

 この自然治癒能力も彼を超越者たらしめる所以だった。

 

 大和は程よく柔らかい「何か」を枕にしていた。

 彼は自分を膝枕し、心配そうに見つめてくる魔忍に笑いかける。

 

「悪ぃな……もう大丈夫だ」

「本当か? まだ一時間しか経っていないぞ。もう少し眠った方が……」

「いや、これ以上寝ると体が怠ける」

 

 紺色のポニーテールを揺らす美少女。

 鋭い双眸を心配で潤めながら魔忍、百合は大和に礼を言った。

 

「本当に、ありがとう……私を助けてくれて」

「勘違いすんな。俺はお前が美味そうだったから助けただけだ」

「それでも私は、お前に助けられた」

 

 百合は大和の頬を愛おしそうに撫でる。

 大和は彼女に聞いた。

 

「もう一人はどうした?」

「牡丹か? 隣の部屋で眠っているよ。さっきまでお前を看病していたんだ、後で礼を言ってやってくれ」

「……そうか」

 

 微笑む大和。

 彼は己の頬を撫でる百合の手を、気持ち良さそうに受け止めていた。

 

「っ」

 

 百合は頬を赤くし、双眸を蕩けさせる。

 熱い溜め息を吐いて、大和を見つめていた。

 

 先ほどまで妖剣士に嬲られていた肢体は、危機を脱した生存本能も相俟って、益荒男の寵愛を卑しいほど求めていた。

 一目惚れだった。邪悪だろうが傲慢だろうが、その全てが愛おしかった。

 

「ッッ」

 

 しかし駄目だと、百合は自制する。

 魔界都市の瘴気に感化され過ぎている、彼の色気に惑わされていると、精神統一を図る。

 

 そんな彼女に対し、大和は起き上がり一言囁いた。

 

「我慢しなくていいぞ。俺も、昂ってる」

 

 百合の中で、何かが切れた。

 それは正気の糸だった。

 

 卑猥な雌犬が目覚める。

 本能的に男を求める狗は、大和を押し倒しその唇を貪った。

 

「んちゅ、はぁぁ♪ おいひぃ……♪ 大和ぉっ♡」

 

 恥じらいなど無い。

 唾液の味が甘露に思えるほど、百合は陶酔しきっていた。

 切なげに、しかし激しく大和と舌を絡める。

 

 大和も快く応じ、百合の舌を吸い上げる。

 百合の表情がトロンと惚けた。

 

 ボディースーツにぴっちりと浮き出たその尻を揉みしだく。

 歳不相応に豊満な乳房を愛撫され、百合は嬉しそうに喘いだ。

 

 嬉々として大和に貪られ続けられる百合。

 営みに入れば両足を彼の腰に絡め、自らも身体を揺する。

 最奥を突かれ、百合は激しい喘ぎ声と共に果てた。

 

「……あわわわッ、百合ちゃん、意外と大胆……!!?」

 

 二人の激しい交わりを扉の隙間から覗いていた牡丹。

 顔を真っ赤にしながらも、決して目を反らさない。

 

 百合と大和の性行を見ていると我慢できなくなったのか、牡丹は「私も!!」と叫んで乱入する。

 それから数日間、大和の部屋から少女達の甘い悲鳴が途絶えなかった。

 

 

 ◆◆

 

 

 魔忍騒動から二週間後。

 大衆酒場ゲートにて。様々な種族でごった返しになっている店内は、今も「あの話題」で持ち切りになっていた。

 

「天下五剣の一角が殺された」

「世界最強の剣豪が負けた」

 

 同時に上がる話題は――

 

「あの大和が追い詰められた」

「最強同士の殺し合い、拮抗してた」

 

 というものだった。

 デスシティの新聞やニュースでも大々的に報じられている。

 邪神をも葬る最強の殺し屋と世界最強の剣豪の死合いは、魔界都市では最重要項目に認定されていた。

 

「最強」同士の死闘は、なにもデスシティに限った話ではない、世界が、宇宙が存亡の危機に陥る。

 年に数度の間隔で起こるこの大事件は、デスシティの住民にとって極めて重要で、且つ注意しなければならない内容だった。

 

 噂をすれば――件の殺し屋がやって来る。

 褐色肌の美丈夫、世界最強の殺し屋にして武術家――大和。

 彼の来訪によって、店内は通夜の如く静まり返った。

 

 大和は気にする事なく、笑顔で歩んで行く。

 お気に入りのカウンター席に座ると店主である金髪の偉丈夫、ネメアが呆れ交じりに聞いた。

 

「キレたんだってな」

「まぁな」

「よかったじゃないか、あまり知られていない様で。お前のキレた姿は中々に悍ましいからな」

「俺ぁ嫌いなんだよ、あの姿が。だから安心してるぜ」

 

 大和は吹雪との死合いを全く引き摺っていない様だった。

 ネメアは気になったので聞いてみる。

 

「……殺したんだってな。吹雪の奴を」

「ああ、アイツが先に刃を向けたんだ。仕方ねぇ」

「そうか……」

 

 ネメアはそれ以上、何も聞かない。

 聞いても無意味だと悟ったからだ。

 

 大和は煙草を咥え、火を点けながら呟く。

 

「強かったぜ、アイツぁ……あそこまで追い詰められたのは久々だ。だから同じ「最強」と戦うのは嫌なんだよ。こっちも無事じゃ済まねぇ……五体満足でいられて安心してるぜ」

「……」

「俺は一方的な暴力が――弱い者苛めが好きなんだよ。互角の死闘なんざ、面倒臭くて仕方ねぇ」

 

 大和は暗い笑みを浮かべる。

 その笑みは、彼を怪物たらしめる所以だった。

 

「アイツは馬鹿だから死んだ。俺より弱かったから死んだんだ」

「…………お前も、何時かそうやって殺されるさ。勿論、俺もな」

「そん時が待ち遠しいぜ。なぁ、ネメア?」

「……何時だろうな、その時が来るのは」

 

 ネメアは肩を竦めながら大和の前に酒瓶を置く。

 注文していないのに置かれたので、大和は首を傾げた。

 

 酒の名前は――「雪月花」

 吹雪が好きだった酒だ。

 

 去って行ったネメアの背に、大和は苦笑を向ける。

 

「余計な真似しやがって……」

 

 そう言いながらも、大和は盃に酒を注いだ。

 透明な酒はしかし辛口で、冬の日に呑むと体の芯が温まる。

 

 大和は吹雪とよく雪見酒をしていた。

 彼は雪見酒が大好きだった。

 

 盃を満たす透明な水面に自分の顔を映しながら、大和は呟く。

 

「馬鹿野郎だよ、お前は……大馬鹿野郎だ」

 

 そう言って、大和は杯を満たす酒を飲み干す。

 程よく喉を熱くする液体は、五臓六腑に染み渡った。

 

 次を注ごうとしたその時――店内が著しく騒がしくなる。

 大和は後ろに振り返った。

 

 黄色の髪の、クールな美女が自分目指して歩いて来ていた。

 稀に見る絶世の美女なので、大和は好奇心をくすぐられる。

 しかし何故だろうか――途轍もなく嫌な予感がした。

 

 気配を探ると案の定だったので、大和は重い溜息を吐く。

 

「大和、突然で済まない。私と性行をしよう」

「いきなり何言いだしやがる、ハスター」

「む? 性行では通じないか? セッ〇スで通じるか?」

「そういう問題じゃねぇ」

「些細な問題だ。さぁ大和、私とセッ〇スをしよう」

「断る」

 

 即答されたので、黄色髪の美女――ハスターは心底不思議そうに首を傾げた。

 その間に、店内の客人達は我先にと逃亡している。

 顔面を蒼白にして――だ。

 

 ハスター。

 風属性を司る旧支配者(グレート・オールド・ワン)で、邪神群の中でも特に強力な存在だ。

 

 彼女? は大和に理由を聞く。

 

「何故だ? 君は女とセッ〇スするのが大好きなのだろう? この容姿、あながち悪くないと思うが……」

「そういう問題じゃねぇ。ともかく断る。お前と――いいや、お前等とは極力したくねぇんだよ」

「私はしたい。だから頼む、この通りだ」

「~っ」

 

 律儀に頭を下げられるもんで、大和は困った風に頭を押さえる。

 すると、次元の壁をぶち破って褐色肌の美女が現れた。

 彼女はハスターに跳び蹴りを食らわすと、泣きながら怒声を上げる。

 

「ハスター君!! 君は遂にやっちまったね!! 僕の逆鱗に触れてしまったね!! あれ程! 再三! 忠告したのに!! もう許さないぞ!! 大和は僕のダーリンなんだから!!」

「ふぅ……君もしつこいね、ニャル。私は別に大和と愛し合いたい訳じゃないんだ。ただ遺伝子が欲しいだけなんだよ。この人間の未知を解明したいだけなんだ」

 

 起き上がったハスターはやれやれと肩を竦める。

 しかしニャルは聞く耳持たず、臨戦態勢に入った。

 

「君はッ、僕を怒らせたッッ。まさか同胞にコレを出す時が来ようとは……この混沌烈拳を以て、君に天誅を下すよ!!」

「ほぅ……イイ度胸だニャル。僕もそろそろしつこいと思っていたところだ。この形態での必殺技、旋風脚で黙らせてあげるよ」

 

 ニャルは「ほわぁぁ~」と異様な構えを取り、ハスターも片足を上げて蹴りの体勢に入る。

 二人は同時に動いた。

 

「ほわっちょ~!!!!」

「フンッ!!」

 

 二人が交差するその瞬間、ネメアの鉄拳が両者の頭蓋に叩き落とされる。

 二人はあまりの痛さに悶絶した。

 

「にゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「!!!? !!!?」

 

 ネメアは眉間に青筋を立てながら唸る。

 

「お前等――この店で喧嘩は御法度だって、知ってるよな?」

「ネ、ネメア!! 違うんだ!! 今回はハスター君が悪いんだよ!!」

「ネメア……君のその拳骨、凄まじいダメージ量だ。是非解明させてくれ。何なら君とセッ〇スしても――」

 

 

「出ていけ、営業妨害だ」

 

 

 首を掴まれ、問答無用で店外に放り出される二人。

 その騒動を後ろから眺めながら、大和は苦笑していた。

 そして天井を仰ぐ。

 

「なぁ吹雪よぅ、もう暫く待っといてくれや。俺も、飽きたら行く」

 

 そう言って、大和は彼が好きだった酒を飲み干した。

 

 

《完》

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