中央区、東側にある豪勢な屋敷にて。
和風然とした屋敷はデスシティでも特別畏れられる、とある犯罪組織の本拠地だった。
五十嵐組。
デスシティを代表する五つの犯罪組織、五大犯罪シンジケート。
その一角に名を連ねる日本特有のマフィア、極道であり、超武闘派の暴力集団である。
しかし仁義を通す古風な漢達が集っており、彼等の統べるシマは全て安全地帯に認定されている。
どんな存在であろうが受けた恩義は決して忘れない、任侠然とした組織だった。
静寂に包まれる大広間にて。
上座に座る精悍な若者が居た。
漆黒のスーツにロングコートという出で立ち。歳はまだ二十代前半ほど。
しかし纏う雰囲気は歴戦の勇士のソレ。
細身ながら鍛え抜かれた肉体。適度に伸ばされた黒髪。
糸目が精悍な顔立ちを柔らかくしている。
眼鏡もまた彼の威風を和らげるアクセントになっており、総じて温和そうな青年に見えなくもない。
五十嵐組直系若頭──
組長の実子であり、血統実力戦績共に申し分無い次期組長候補。
五十嵐組の№2だ。
彼は目の前で正座する大男に視線を向ける。
同じ様な服装。しかしその体躯は二メートルを超えるか超えないか。
短く刈り上げた黒髪に額に生えた二本の角。
サングラスで隠しているが、その眼光は異様に鋭い。
右手側には白鞘の大太刀が置かれていた。
彼は黙して座していた。
何時も笑顔を絶やさない裕樹であるが、今回は訳が違う。
「今、ウチのシマで暴力事件が起きてます。犯人は──土蜘蛛一族の奴等です」
柔らかい語気だった。
しかし雰囲気は重苦しい。
裕樹は続ける。
「俺としては、早急に解決したいと思っています。──その前に貴方に話を通した理由、察していただけますか?」
「無論です」
小さく礼をする大男。
裕樹は苦笑してみせた。
「貴方を疑ってる訳じゃありません。こんな真似をする方じゃないというのは、組の奴等ぁ全員わかってます。……今回の問題はケジメですよ、
「……」
大男、恋次はサングラスの奥で鋭い眼光を細める。
裕樹は優しく語りかけた。
「俺達としては、この事案は今すぐにでも解決したい。ですが──土蜘蛛一族を含め、鬼の一族と貴方は関わり深い。そして今回──あの陰陽師が復活しているという噂もあります」
「……」
「貴方の意見を、若頭として聞いておきたいんです。……嘗て大獄丸、東洋を代表する鬼神と畏れられた、貴方の意見を」
「……」
恋次──大獄丸は静かに目を閉じた。
そして裕樹に深く、深く頭を下げる。
「私が重傷を負ってこの都市に流され、早30年──組長には大変お世話になっております。この恩義、決して返しきれるものじゃない。そして何より貴方様──若の剣と成り、盾と成ると約束しました。……かつての主である雅貴様にも、確かに恩義はあります。ですが、今の私は大獄丸ではなく五十嵐組若頭補佐、恋次なのです」
「……」
「若──この案件、私に是非ケジメを付けさせてください。五十嵐組の一員として、過去にしっかりとケジメ、付けてきます」
「……」
恋次の決意を聞いて、裕樹は安堵の微笑を浮かべる。
「……ありがとうございます、恋次さん。俺も、貴方を失いたくないと心から思っていた。他の奴等もです。貴方は五十嵐組になくてはならない存在だ」
「勿体なきお言葉ッ」
「今回の案件、恋次さんに一任します。……ケリ、付けてきてください」
「仰せつかりました。必ず……!」
もう一度頭を下げて、恋次は立ち上がる。
白鞘の大太刀を携え、漆黒のロングコートを靡かせていった。
裕樹はその背を見送る。
ここにもまた一つ、物語が生まれていた。