Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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四話「再開」

 

 大正。

 西洋文化を取り入れつつ近代都市への発展、経済の拡大。

 まさしく『大正モダン』と言える花の時代を迎えていた。

 その反面、享楽的な文化と共に貧富の差が大きくできる。

 時代の矛盾から来る綻びは魑魅魍魎を再度呼び寄せ、最強最悪の陰陽師を誕生させる結果になった。

 

 帝都内部にて

 深夜の出来事であった。

 とある豪邸に三名の強盗が押し入ったのだ。

 

「おのれ、何奴!!」

 

 帝国軍人であり剣の達人でもあった男が一刀片手に斬りかかる。

 が、瞬時に首をもぎ取られた。

 賊どもの怪力は常軌を逸している。

 残るは号泣する母親と十にも満たぬ幼子だった。

 

「嫌ァ!! あなたァ!!」

 

 思わず夫の亡骸に駆け寄る妻。

 賊どもの額には角が生えていた。

 彼等こそ、古来より「鬼」と呼ばれる最強の妖魔である。

 

 時代が激動を迎える事で生じた憎悪の念が、数多の魑魅魍魎を生み出した。

 中でも鬼と呼ばれる種族は、その強大な力故に古より畏怖されてきた。

 

 妻だった女は鬼共に喰われながら犯される。

 淫臭と血臭が混じり合い、肉を咀嚼する音が下卑た高笑いに包まれた。

 

「人間など所詮、我ら鬼にとっては家畜同然……否、それ以下よ!!」

 

 その一部始終を見ていた幼子。

 どれ、このガキもと鬼の一匹が手を伸ばす。

 

 すると、突如として窓を突き破り山伏が現れる。

 鋭い目つきが鷹のような印象を与える老人だった。

 彼は手に持った仕込み錫杖を抜き、白刃を閃かせる。

 一瞬にして鬼の首が宙を舞った。

 

 返り血で朱に染まりながら、鋭い目つきで鬼共の有り様を睨むのは、まだ幼い少女であった。

 ただひたすら無言で、鬼の死体を見つめている。

 山伏は少女の側で片膝をつき、こう言った。

 

「お主、親の仇が……鬼が憎いか?」

 

 少女は無言で頷く。

 後からわかった事だが、この山伏こそ『大天狗』の異名を持つ仙人、役小角(えんのおづの)だった。

 後に少女──野ばらを大正時代を代表する最強の鬼狩りに育て上げた功績者である。

 

 

 ◆◆

 

 

 時間帯は正午。

 魔界都市の喧騒を摩訶不思議な少女が抜けていく。

 艶のある黒髪はサイドテール。黒地に菊紋様というハイカラな浴衣を着こなす彼女は、可憐ながらも歴戦の風格を纏っていた。

 紫の番傘を携え、黙々と歩き続ける。

 ある者は奇異の視線を、ある者はその異色の美貌に見惚れていた。

 

 あと数十年もすれば絶世の美女になる。

 美しくも棘のある──薔薇の様な女に。

 

 鬱陶しい視線の数々を眼光一閃で黙らせ、少女は溜息を吐いた。

 この都市に迷い込んで二週間──未だ慣れたとは言えない。

 激動の時代だった大正でも、ここまで騒々しくはなかった。

 

「……汚い空」

 

 うねる曇天を仰いで少女──野ばらは呟く。

 この空では花も咲かないだろうと、そんな事を考えていた。

 

 ふと、嫌な気配を感じる。

 全身を舐められる様な不快感に、野ばらは眉を顰めながら振り返った。

 

 でっぷりと脂肪を蓄えた巨漢が居た。

 革のジャケットにだぼだぼのズボン。髪の毛一本無い頭にはギトギトの脂汗を滲ませている。

 下品な笑みを浮かべながら、男は野ばらに話しかけた。

 

「げへへ……野ばらちゃん。店の外で会えるなんて、奇遇だなぁ」

「……生憎、私はもうあの店の店員ではないの。関わらないで頂戴」

 

 野ばらがウェイトレスをしている最中、ずっと不快な視線を向けてきたストーカー気質の男である。

 その視線は嫌でも覚えているので、野ばらは鋭い眼光に殺意を迸らせた。

 

「店ではお客様として扱ったけど、外ではそうはいかないわよ?」

「それはコッチの台詞さァ。あの店では出来ない事も、外でならできる……ぐへへッ」

 

 ねっとりと涎を垂らしながら、野ばらに歩み寄る巨漢。

 野ばらは冷たく吐き捨てた。

 

「それ以上近寄れば斬るわ」

「強がっても無駄、無駄っ」

 

 最早巨漢は野ばらに夢中だった。

 その巨大な手が野ばらを掴みそうなその時──手首から先が宙を舞う。

 一瞬の出来事だった。

 

 野ばらは和傘に仕込んだ刀を納刀する。

 直後、男の手首から血潮が盛大に噴き出した。

 

「おおッ、おおおおおおおおお!!!?」

 

 激痛と驚愕で叫ぶ巨漢。

 野ばらは淡々と告げる。

 

「この都市の医療技術なら命は助かるでしょう。次は無いわ」

「うぐぅッッ、アアアアッ!!!!」

 

 巨漢は怒りとそれ以上の恋煩いで野ばらに突撃する。

 野ばらは剣閃を瞬かせた。

 

 巨漢の首が、手足が、宙を舞う。

 瞬く間に手頃な肉塊に成り果てた巨漢。

 野ばらはギトギトの血糊を払うと、静かに仕込み刀を納刀した。

 

 突如、歓声が上がる。周囲の住民達だった。

 その抜刀術の冴えに、良いものを拝めたと称賛を送っているのだ。

 

 野ばらは不快感を露わにする。

 

「……最低な都市」

 

 人を殺して喜ばれる、人を殺した自分を恐れない。

 そんな異常な都市を、彼女は嫌悪していた。

 

 野ばらは己を復讐者──殺戮者だと断じている。

 故に愛も情けもいらない。

 喝采などもっての外だった。

 

 憎悪すら抱かん勢いで住民達を一瞥する野ばら。

 その中に、驚愕の視線を送る男が居た。

 漆黒のスーツにロングコート。刈り上げられた黒髪にサングラス。

 そして見事な体躯と──額に生えた二本の角。

 

「ッッ」

 

 野ばらは瞠目する。

 彼は殺した筈だった。

 この手で斬り捨てた筈だった。

 

「…………」

 

 最早幻覚でも構わない。

 鬼ならば斬るのみ。

 殺気を迸らせ歩み寄ってくる野ばらに対し、男は強い語気で告げる。

 

「俺は今、雅貴様の部下じゃねぇ。違う組に所属してる。あの方とのケジメは俺がつける。……邪魔すんじゃねぇ、野ばら」

「やっぱり大嶽丸なのね。そんな事、信じて貰えるとでも思っているの?」

「……」

「貴方が義理堅い男なのは知っている。でも私には関係無いわ。鬼、だから斬る。それだけ」

「……もう一度言うぜ。邪魔するな」

 

 野ばらは無言で仕込み刀へ手をかける。

 大嶽丸──恋次は舌打ちした。

 

「仕方ねぇ」

 

 最早、何も語れず。

 恋次は白鞘を構えた。

 

 

 

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