Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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七話「暗黒のメシア」

 

 

 一方、デスシティの中央区は大混乱、阿鼻叫喚の地獄に成り果てていた。

 雅貴の形成した一夜城のせいか? 

 いいや違う。

 

 デスシティの住民が嬲り殺されているのだ。

 民間人であろうと表世界の軍隊と渡り合える猛者達が、だ。

 

 鬼神の別働隊──宿儺率いる土蜘蛛一族である。

 最古の鬼の一種である彼等は二メートルを超える体躯に従来の鬼以上の怪力。そして稚気とも言える邪悪性を誇っていた。

 性欲と暴力性のみで動く彼等はまさしく異形のバケモノであり、顔面は蠅取り蜘蛛の如く醜悪。

 彼等はデスシティの高層ビルを合間を吐いた糸で跳び回り、津波の如く被害を拡大化させていた。

 

 住民達は魔改造した重火器を掃射するも全てかわされ、腕利きの剣士は放たれた攻撃を防ごうとするも、刀ごと頭を叩き割られる。

 血と脳漿を噴き出すその身体を土蜘蛛が投げつければ、衝撃で住民は吹き飛ばされた。

 

 鬼の攻撃を防御するなど、もはや自殺行為といわんばかりの暴虐──

 鬼という種族は『究極に力が強い』最強の妖魔。

 土蜘蛛はその中でもとりわけ力が強い。

 

 しかし、デスシティの住民もタダでは殺されない。抗い続ける。

 

「オイ、お前らこのデスシティで何を勝手な事しとんじゃ~!!」

 

 怒声と共に現れたのは25㎜機関砲を携行した巨漢だった。

 戦車や攻撃ヘリですら墜落せしめる機関砲を個人で搭載したサイボーグである。

 

「くたばりやがれ~!! このバケモンどもが~!!」

 

 鼓膜が破れんばかりの轟音と共に、毎秒100発の弾丸が雨あられの如く発射された。

 凄まじい反動を押さえつける為に男の足元がひび割れていく。

 熱を帯びた空薬莢が次から次へと排出されていった。

 火線と共に土煙がもうもうと上がり、辺りはベールの如く包まれる。

 

「どうだ!! コイツは装甲車だろうが戦車だろうがイチコロの代物よ!! 流石に平気なわけ……!?」

 

 しかし、そこに居たのは無傷の土蜘蛛集団だった。

 彼等はゴツゴツとした手で、巨大な弾丸を弄ぶ。

 ジャラジャラと音を鳴らして、「ゲゲゲ」と不気味な笑みを浮かべた。

 

 最小限の動きで躱され、それ以外はキャッチされたのだ。

 亜光速を超える弾丸を完全に見切り、全て避けられる筈なのについでにキャッチした。

 格が違い過ぎる。

 

 土蜘蛛達は大男を囲み、四肢を掴み取る。

 そして四方に引っ張った。

 ミチミチと筋肉繊維と骨が千切れる音が聞こえる。

 

「や、やめろ!! ぎゃあああああ!!!!!!!」

 

 四つに分かれた大男。

 その肉を咀嚼し、ゲラゲラと嗤う土蜘蛛達。

 

「誰か、誰か助けてくれ〜!!」

「何だよコイツらは!?」

「来るな、来るんじゃねえ~!!」

「ちょっと、置いて逃げないでよ!!」

 

 パニックになり逃げ惑う住民達を、土蜘蛛達は容赦なく殺し回る。

 腕が飛び、足が舞い、首がちぎれ飛んだ。

 辺り一面に血の雨が降る。

 土蜘蛛達の笑い声が魔界都市に木霊した。

 

 一方、地盤を砕き巨大なバケモノが姿を現す。

 魔界都市の地層に染み込んだ幾億の憎悪と無念の魂を吸い込んで、大巨人──デイダラボッチが復活した。

 雅貴の仕組んだ「宴」の一つである。

 

 500メートルを優に超える漆黒の巨人が、段々とその顔を形成していく。

 身体中に白の紋様が浮かび上がると同時に口が裂け、獰猛な牙が剥かれた。

 デイダラボッチは咆哮する。

 

「GYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHH!!!!!!!!!!!!」

 

 空気が超振動し、地殻が抉れ、高層ビル群がドミノ倒しの容量で倒れていく。

 中央区は壊滅的被害を被り、他の区にも余波が渡った。

 

 数年ぶりの、魔界都市存亡の危機である。

 大正時代、世界を幾度と無く滅ぼしかけた大魔人、雅貴の催す狂乱の宴は魔界都市であろうと滅ぼしかけてしまうのだ。

 

 

 ◆◆

 

 

「あわわわわ……ッ!!!!」

 

 その頃、カジュアルな服装をした少女幽霊は物陰に隠れ、この災害を乗り切ろうとしていた。

 桃色のツインテールを揺らし、ふよふよ浮遊している彼女は死体回収屋「ピクシー」のリーダー、幽香である。

 

「姉御ぉ……っ」

「外、凄いことになってる?」

「大丈夫ですかぁ? 一緒に隠れましょうよぉ~」

「危ないですよ~っ」

 

「お前等!! 黙って荷台に隠れてろ!! 俺が見張っておいてやるから!!」

「「「「「はいぃぃ~ッ」」」」」

 

 子供幽霊達はビクビクと怯えていた。

 それもそうである、この事態──幾ら魔界都市とはいえ異常である。

 幽香はリーダーとして、何としても彼等を護るつもりでいた。

 

(逃げるにしたって、アイツ等が怖がってロクに動けねぇ……どうしよ~ッッ)

 

 幽香は焦燥していた。

 すると、異常な光景が彼女の前を通り過ぎる。

 

 高層ビルを優々と抱え歩く細身の男が居たのだ。

 数千トンに及ぶ筈の高層ビルを片手で肩に担ぎ、フラフラと歩いている。

 

 190を超える長身に血の気のない青い肌。

 手足が異様に長く、濡れた様な総髪、そして額に生えた二本の角。

 女物の着物を羽織り、下は革パン、腰にはベルトを何重にも巻いている。

 

 彼は物陰に隠れていた幽香と視線を合わせた。

 幽香の全身に鳥肌が立つ。

 鬼──しかし今暴れている土蜘蛛とはレベルが違う。

 

「フン」

 

 高層ビルを横薙ぎにし、幽香を隠していた瓦礫を軒並み吹き飛ばす。

 幽香の顔面が蒼白に染まった。

 

 鬼は不気味に笑う。

 

「ほぅ……木偶しかいないと思っていたが、この様な無垢な女子共が隠れておったか。よいよい……クケケ、この(オレ)の、宿儺の無聊を慰めろ。イイ声で鳴く事を期待しているぞ」

 

 土蜘蛛一族の頭領にして、嘗て肥前国(佐賀県)で大暴れした大鬼神。

 両面宿儺こと、宿儺(すくな)

 

 幽香達は絶対絶命の危機に陥っていた。

 

 

 ◆◆

 

 

「あ、あねご~!!」

「隠れて!! 隠れて!!」

「あわわわわ……ッッ」

 

 子分幽霊達は泣きそうな面で幽香に呼びかける。

 しかし、幽香は子分達が隠れる荷車の前で両手を広げた。

 

「コイツらに手を出すな!! 手を出したらゆ、許さないぞッ!!」

「クケケケケ、威勢の良い女子よなァ……しかも霊か。まっこと面妖な、しかしどうでもいい。お前の魂をゆっくりと咀嚼すれば、背後に隠れている幼子たちも出てくるだろう」

「ッッ」

 

 幽香は唇を噛みしめる。

 まさしく絶対絶命であった。

 目の前に鬼神に勝てる筈もなく、逃げ切れもしない。

 抗うにしても、時間稼ぎできるかすら怪しかった。

 

「だめぇ!! 姉御に手を出さないで!!」

「親びんに手を出さないで~!!」

「あっち行け~!!」

 

「馬鹿ッ!! お前等!! 出てくんじゃねぇ!!」

 

 幽香は叱責を飛ばすも、既に遅い。

 全員荷車から出てきてしまった。

 宿儺はゆらりと手を伸ばす。

 

「クケケケケ、ならば纏めていただくか……」

「っ」

 

 幽香は子分達を抱きかかえ、目を瞑る。

 もう駄目だ──そう思った時、金属同士がぶつけ合う轟音が響き渡った。

 恐る恐る目を開けると──漆黒の制服に身を包んだ美女が、高周波ブレードで宿儺に斬りかかっていた。

 

 高層ビルでガードするも両断されたので、仕方なく腕でガードしている宿儺。

 鋼鉄をバターの様に切り裂く高周波ブレードの一撃を容易く受け止められ、美女──闇バスの運転手、死織は苦渋の表情で叫んだ。

 

「逃げてください!! 早く!!」

「し、死織っち!!」

「私はいいから早く!! そう時間を稼げません!!」

「ッッ」

 

 幽香は唇を噛みしめ、荷車に子分達を無理やり押し入れる。

 さぁ出発しようとした時、振り返ってしまった──

 そのまま行けばよかったのに。

 

 死織は上半身と下半身を両断され、地に叩き伏せられていた。

 

「し、死織っち~ッッ!!!!」

 

 幽香の悲痛な叫びが木霊した。

 

 

 ◆◆

 

 

 死織は見過ごせなかった。

 悪党である彼女にも、一線というものがある。

 無抵抗な子供達が嬲り殺されそうなところを、放っておくことはできなかった。

 

 相手の強大さはわかっていた。

 肥前の大鬼神相手に、一分すら稼げないことも──

 

 それでも──

 

 死織は口から大量のオイルを吐き出し、地面に倒れ伏す。

 根元から折れた高周波ブレード、下半身は離れた場所にある。

 全身をサイボーグ改造しているからこそ一命を取り留めているものの、致命傷には変わり無かった。

 

「死織っち~ッッ!!!!!」

「駄目……逃げて……」

 

 オイルを吐き出しながら、死織は消え入りそうな声で呟く。

 その首を宿儺は掴み、容赦なく握りしめた。

 

「したたかな女よ……俺に敵わないと知りながら、突撃してきおった。しかし無駄、無駄……所詮、獲物が一つ増えただけよ」

 

 幽香は涙を流しながら叫ぶ。

 

「やめろォ!! 死織っちを苛めるなァ!!」

「ならば来い。もしかしたら助けられるかもしれんぞ?」

「ッッ」

「クケケケケ……無理だよなァ、後ろの子分達ごと殺されるのが見えているものなァ。ならば見ておけ、この女を嬲り殺してから、お前等を一匹ずつ食ろうてやる」

 

 宿儺は死織を持ち上げ、その頬をねっとりと舐め上げる。

 そして再度、地面に叩きつけた。

 最早、死織には抗う気力すらない。

 心臓の駆動機関も止まりかけていた。

 

 子分幽霊達が叫ぶ。

 

「やめてぇ!! 死織さん死んじゃうよぉぉぉ!!!」

「やめてってばぁ!!!」

「お願い!!! やめてくださいぃぃぃぃ!!!」

 

 泣きながら死織に駆け寄ろうとする子分達を、幽香は必死に抑える。

 唇を血が滲むほど噛みしめながら──

 ここで取り乱しては駄目だと、必死で涙を堪えていた。

 

 しかし、もうすぐ死織が死んでしまう。

 あとほんの数秒で──

 

「死織っちッ!!!!」

 

 幽香は思わず駆けよろうとした。

 

 その時────―現れたのだ、暗黒のメシアが。

 

 宿儺の顔面に剛拳が迫る。

 反応し、手をかざすも、埒外の剛力に押し切ら、吹っ飛ばされる。

 それでも宿儺は空中で態勢を立て直し、忌々し気に叫んだ。

 

「何奴!!」

 

 真紅のマントがバサバサと靡く。

 灰色の三白眼に獰猛なギザ歯、褐色の堂々たる肉体。

 その大きな背中を見た幽香は、涙をポロポロと流し、最後には泣きじゃくった。

 

「ひっぐ……びぇぇぇぇぇぇぇぇぇんんッッ!!!!!!! やまどぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

 褐色肌の美丈夫、大和は眉間に皺を寄せながら吐き捨てた。

 

「この野郎……俺のお気に入りの女とダチ苛めやがって──―ブチ殺すぞ? ゴラァ」

 

 

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