『早う出せ!! 召喚術士を!!』
屈強なる近衛騎士団をその鋭利な爪で引き裂き、強靭な咢で食い千切る。
余念なく鍛錬に勤しんでいた戦士達を長大な尾で一蹴し、吐き出した火焔で炭にする。
ドラゴンは魔物の中でも最上位種、彼はその王だ。
人類が勝てる存在ではない。膂力も魔力も、桁が違い過ぎる。
近衛隊員の背後で打ち震えている壮年の男性。
王冠を被った細身の、風格漂わせるこの男性こそ国王である。
彼は近衛兵を振り払い、前に出て悲痛の叫びをあげた。
「何故だ!! 何故貴様等は我々の平和を脅かす!! 我々が何をした!!」
『愚問也、下等種族の王よ。貴様等は家畜の悲鳴に耳を貸すのか? 胃に落とし込んで糞にするだけだろう』
「ッッ」
『貴様等が家畜にしている事を、我等は貴様等にする。それだけの事よ。さぁ、早う出せ!! 召喚術士を!! でなければこの王国で地獄を再現する!! 今なら慈悲を与え、苦痛無く殺してやるぞ』
「~ッッ」
国王は歯を食い縛る。
近衛兵団、駐屯兵、計千名の強者は全滅寸前。
血油の臭いが酷く鼻に付く。謁見の広間は死屍累々の地獄と成り果てていた。
コレが王国全体で起こる──国王は身震いした。
しかし、騙されてはいけない。
遅かれ早かれ、こうなるのだ。
ならば──
「ほざけ、畜生の王よ!! 我々は屈しぬ!! 弱肉強食の理が貴様等を呼び寄せたのなら、我等は抗うまでよ!!」
『ほぅ、ほざいたな下等生物──貴様等に何ができる!! 我を傷付ける事すらできぬ羽虫同然の貴様等に!!』
「……希望は、ある。私は彼女を、信じている」
瞬間、黒龍王の頭蓋にナニカが落下してきた。
『ガベッ!!?』
圧倒的膂力を誇る黒龍王が、抗う余裕すら無く潰される。
彼の頭上で、真紅のマントがバサバサと靡いた。
褐色肌の美丈夫が、召喚術士を抱きかかえながら落下してきたのだ。
「近道だからって天井をぶち抜いて来たんだが──ちょいと行き過ぎたな。漸く到着したぜ」
黒龍王の頭上から飛び降りる美丈夫。
カランと、下駄の音が鳴り響いた。
彼の腕に抱かれている召喚術士は、終始うっとりとしていた。
国王は瞠目すると同時に興奮した。
一目でわかる。その圧倒的強さ──身に滲む風格は、まさに絶対強者。
召喚に成功したのだ。
異世界から魔王を打倒できる強者を、召喚できたのだ。
致命傷を負った黒龍王は、血反吐を吐きながら唸りを上げる。
『おのれ……何奴かッ!!!!』
「煩ぇよトカゲ野郎。黙ってろ」
振り返らす、赤柄巻の大太刀を振り抜く美丈夫。
すると、黒龍王の頭がサイコロ状に千等分された。
悲鳴すら上げられず、黒龍王は絶命した。
背後から香る血臭すらも己の色香で塗り替え、美丈夫は召喚術士と舌を絡め合う。
召喚術士は今迄見た事も経験した事もない雄に酔い痴れ、身を捩らせていた。
濃密なキスを終えた後、美丈夫は国王に歩み寄る。
そして凶悪な笑みを浮かべて告げた。
「お前か──俺を呼び寄せたのは。いいぜ、殺して欲しい奴の名前を言いな。報酬次第で請け負ってやるよ」
背筋に悪寒が奔った。
もしかしたら──自分は、とんでもないものを召喚させてしまったのかもしれない。
国王の脳裏に一抹の不安がよぎった。
そして、それは的中している。
美丈夫の名は大和。
世界最強の殺し屋であり、世界最高の武術家である。
彼をどう扱うのか──それは国王の裁量にかかっていた。