Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

72 / 255
二話「闇の勇者」

 

 

『早う出せ!! 召喚術士を!!』

 

 屈強なる近衛騎士団をその鋭利な爪で引き裂き、強靭な咢で食い千切る。

 余念なく鍛錬に勤しんでいた戦士達を長大な尾で一蹴し、吐き出した火焔で炭にする。

 

 ドラゴンは魔物の中でも最上位種、彼はその王だ。

 人類が勝てる存在ではない。膂力も魔力も、桁が違い過ぎる。

 

 近衛隊員の背後で打ち震えている壮年の男性。

 王冠を被った細身の、風格漂わせるこの男性こそ国王である。

 彼は近衛兵を振り払い、前に出て悲痛の叫びをあげた。

 

「何故だ!! 何故貴様等は我々の平和を脅かす!! 我々が何をした!!」

『愚問也、下等種族の王よ。貴様等は家畜の悲鳴に耳を貸すのか? 胃に落とし込んで糞にするだけだろう』

「ッッ」

『貴様等が家畜にしている事を、我等は貴様等にする。それだけの事よ。さぁ、早う出せ!! 召喚術士を!! でなければこの王国で地獄を再現する!! 今なら慈悲を与え、苦痛無く殺してやるぞ』

「~ッッ」

 

 国王は歯を食い縛る。

 近衛兵団、駐屯兵、計千名の強者は全滅寸前。

 血油の臭いが酷く鼻に付く。謁見の広間は死屍累々の地獄と成り果てていた。

 

 コレが王国全体で起こる──国王は身震いした。

 しかし、騙されてはいけない。

 遅かれ早かれ、こうなるのだ。

 ならば──

 

「ほざけ、畜生の王よ!! 我々は屈しぬ!! 弱肉強食の理が貴様等を呼び寄せたのなら、我等は抗うまでよ!!」

『ほぅ、ほざいたな下等生物──貴様等に何ができる!! 我を傷付ける事すらできぬ羽虫同然の貴様等に!!』

「……希望は、ある。私は彼女を、信じている」

 

 瞬間、黒龍王の頭蓋にナニカが落下してきた。

 

『ガベッ!!?』

 

 圧倒的膂力を誇る黒龍王が、抗う余裕すら無く潰される。

 彼の頭上で、真紅のマントがバサバサと靡いた。

 褐色肌の美丈夫が、召喚術士を抱きかかえながら落下してきたのだ。

 

「近道だからって天井をぶち抜いて来たんだが──ちょいと行き過ぎたな。漸く到着したぜ」

 

 黒龍王の頭上から飛び降りる美丈夫。

 カランと、下駄の音が鳴り響いた。

 彼の腕に抱かれている召喚術士は、終始うっとりとしていた。

 

 国王は瞠目すると同時に興奮した。

 一目でわかる。その圧倒的強さ──身に滲む風格は、まさに絶対強者。

 召喚に成功したのだ。

 異世界から魔王を打倒できる強者を、召喚できたのだ。

 

 致命傷を負った黒龍王は、血反吐を吐きながら唸りを上げる。

 

『おのれ……何奴かッ!!!!』

「煩ぇよトカゲ野郎。黙ってろ」

 

 振り返らす、赤柄巻の大太刀を振り抜く美丈夫。

 すると、黒龍王の頭がサイコロ状に千等分された。

 悲鳴すら上げられず、黒龍王は絶命した。

 

 背後から香る血臭すらも己の色香で塗り替え、美丈夫は召喚術士と舌を絡め合う。

 召喚術士は今迄見た事も経験した事もない雄に酔い痴れ、身を捩らせていた。

 

 濃密なキスを終えた後、美丈夫は国王に歩み寄る。

 そして凶悪な笑みを浮かべて告げた。

 

「お前か──俺を呼び寄せたのは。いいぜ、殺して欲しい奴の名前を言いな。報酬次第で請け負ってやるよ」

 

 背筋に悪寒が奔った。

 もしかしたら──自分は、とんでもないものを召喚させてしまったのかもしれない。

 国王の脳裏に一抹の不安がよぎった。

 

 そして、それは的中している。

 美丈夫の名は大和。

 世界最強の殺し屋であり、世界最高の武術家である。

 

 彼をどう扱うのか──それは国王の裁量にかかっていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。