villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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三話「悪魔との契約」

 

 

 特別に用意された貴賓室で。

 宝剣や甲冑、その他装飾品で彩られた客人用の室内で、大和は国王と対面していた。

 大和はソファーに跨り、脇で甘えてくる召喚術士を可愛がっている。

 

 国王は生唾を飲み込んた。

 男であろうと、彼の美貌には見惚れざる得ない。

 国王は過去にこれ程までの男前と出会った事が無かった。

 

 端正な顔立ちは勿論、屈強過ぎる肉体。勝気な雰囲気に清涼な身嗜み。

 男として必要な魅力をほぼ全て兼ね備えている。

 

 そして何より、邪悪な雰囲気。

 

 幾千幾万の愛憎を手懐けている彼が醸し出す魅力は、最早魔性の域に達していた。

 男性であれば羨望と畏怖の念を抱くだけで済むだろう。

 しかし女性であれば、その圧倒的な「雄」の格に平伏すしかない。

 本能から彼に夢中になり、只の雌に成り下がってしまうのだ。

 

 現に貞淑さで有名だった召喚術士は、大和の寵愛を一身に求める牝に成り果てている。

 

 国王は袖に隠した拳を握りしめる。

 そこに在るだけでこの存在感──そして先程の圧倒的な戦闘力。

 御する事などできるのだろうか──

 魔王を討伐する前に、王国そのものが危機なのではないか──

 

 治世の才に恵まれた彼だからこそ、目の前の「破滅の象徴」に怯えていた。

 大和はその表情を見てニヤリと笑う。

 彼は隣で侍る召喚術士に告げた。

 

「外に出てろ」

「あぁ……♪ そんなっ」

「後で可愛がってやる」

「はァぁ……かしこまりました♪」

 

 まるで催眠術にでもかけられている様だった。

 惚けた表情のまま部屋を出ていく召喚術士。

 その背を見送った大和は、国王に振り向き笑いかける。

 

「そんじゃ、依頼の話をしようか。誰を殺して欲しい? いるんだろう、殺して欲しい奴が」

「ッ」

「報酬や今後についても、色々話し合おうじゃねぇか。なぁに、テメェが正当な報酬を払ってくれるなら、俺は何もしねェさ。テメェが危惧している事も起こらない」

「…………」

 

 心を読まれ、国王は静かに覚悟を決めた。

 王国を、国民を、護るために、この悪魔に魂を売ろうと。

 

 

 ◆◆

 

 

「成程──魔王とその軍団を駆逐して欲しいと」

「そうだ」

「報酬は? 幾ら払える。俺は異世界人だ。そうさな──黄金や宝石、財宝で頼むぜ」

「地下の貯蔵庫に詰められたこの国の隠し財宝──半分でどうだ? この部屋が一杯に埋まるくらいだ」

「ひゅう♪ 太っ腹ぁ♪ いいぜ、契約成立だ」

 

 大和は上機嫌に喉を鳴らす。

 国王はしかし、冷や汗をかきながら告げた。

 

「その代わり、約束してくれないか? 国民達に絶対に手を出さないと──」

「いいぜ。国民から手を出さない限り、俺から国民を害さない。この契約が成立してる内はその約束、守ってやる」

「……すまない」

「…………」

 

 大和は国王と視線を合わせる。

 国王は一瞬、心臓が止まるかと思った。

 その灰色の三白眼に宿る狂気と欲望を垣間見てしまったからだ。

 

 黒き鬼神を、その背後に見た。

 

「オイ」

「ッッ……なん、だね?」

「怯えてんじゃねぇよ。話のわかる依頼主に特別にサービスをしてやるつもりなのに」

「サービス……?」

 

 国王が冷や汗を垂らしながら首を傾げると、大和は嗤って人さし指を立てた。

 

「依頼内容に関する情報、全部お前が改竄していいぞ」

「……!!」

 

 国王は瞠目する。

 賢い彼だからこそ、大和の言葉の真意がわかったのだ。

 大和は敢えて補足する。

 

「例えばだ……国王は領民を護るため、異世界から勇者を召喚しました。義侠心溢れる勇者は快諾し、魔王とその軍勢を駆逐してくれました。おかげで世界は平和になったとさ──ちゃんちゃん♪」

「……」

「その方が助かるだろ? 「金で殺し屋を雇った」って名目よりはよっぽど良い筈だ」

「……都合が、良すぎる。何が目的だ」

 

 震えた声で問う国王に、大和は大袈裟に両手を広げてみせた。

 

「俺は金と女と刺激を求めてる。名誉も地位もいらねぇ。でもお前は領民の安全と──体制を求めてる。どうだ? 悪くない提案だと思うが」

 

 これ以上無い魅力的な提案だった。

 唯一の欠点である「魔王軍の討伐内容」、それを自由に改竄できるのだ。

 金なら後々、幾らでも蓄えられる。しかし国民の信用は違う。

 一度失えば、取り返しのつかない事になる。

 

 それをよく理解している国王は──目を閉じ、頭を押さえた。

 

「…………追加報酬は?」

 

 そう言う国王に、大和は満面の笑みを浮かべた。

 それは本当に悪魔の様な笑みだった。

 

「顔と身体、両方が良い女──そうさな、今夜はゆっくりしたいから、20人くらいでいいぜ♪」

「……娼婦や高級奴隷でも構わないか?」

「いいぜいいぜ♪ そうだよなァ、国民を差し出す訳にはいかねぇものなァ」

「ッッ」

 

 邪悪なる契約、ここに成立。

 王は魔王を駆逐できる暴力を求め、黒き鬼神と闇の契約を果たした。

 全ては国民の安寧のため──

 

 国王はどれだけ汚れようと、国の為に尽くすつもりだった。

 当の大和は、上機嫌に嗤っていた。

 

 

 

 


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