villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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第九章「巨人伝」
一話「魔導神」


 

 

 異種族と改造人間が接待するという事で、アブノーマルな客層から人気がある風俗バー「インセクツ」にて。

 中央区の裏通りにあるこの店は燦々と輝くピンク色のネオンが目印だ。

 店内では過激な接待が推奨されている。接待内容はABCをオールカバー。

 料金次第であるが、異常なプレイも楽しめる。

 

 薄暗い店内では酒気と淫臭がグチャグチャに混じり合い、男の唸り声と店員達の甘い悲鳴が重なり合う。

 性欲を高める独自の香が炊かれ、客人達はその気が無くても店員達の誘いに乗ってしまう。

 性器を口で吸われ悶絶している者や、手で擦られ無様に果てている者もいた。

 

 店員達は蟲人や魚人を始め、人間とは到底言えない容姿をした美女美少女達。

 生来、あるいは改造を受けた彼女達は肉体こそバケモノだが、ソレが性癖の歪んだ客人達を夢中にさせる。

 

 カウンターに座っている褐色肌の美丈夫──大和もまた、この店の常連だった。

 彼に巻きついている不気味な肉塊。

 尻尾であろう先端をピチピチと跳ねさせ、何か吸い上げる音を響きかせる。

 大和の股下では肉塊の上半身──エメラルド色の髪の美少女が、夢中になって大和のモノをしゃぶっていた。

 

 この店№1の娘、(ヒル)の亜人ことソニアである。

 彼女は放たれた大量の液を、しかし一滴残らず吸い上げる。

 喉を鳴らし、一滴残らず飲み干し、先端を綺麗に舐めて掃除した後──うっとりとした様子で表を上げた。

 

「大和様の、やっぱり美味しい……濃さも量も、全然違います」

「だろう? お前のテクも最高だったぜ」

 

 髪をくしゃりと撫でられ、蛭娘は気持ち良そうにはにかむ。

 彼女は大和に巻きつく力を強くし、甘い声音で懇願する。

 

「大和様……今夜、暇ですか? プレイルーム、いきたいです」

「おうともさ。イイ声で鳴かせてやる」

「~♡」

 

 嬉しそうに抱きつく蛭娘、ソニア。

 大和は彼女を抱きかかえ、立ち上がろうとした。

 その時──スマホが鳴り響く。

 大和は画面を見て──苦虫を噛み潰した様な顔をした。

 

 

 ◆◆

 

 

 魔界都市、深夜の出来事である。

 大衆酒場ゲートに呼ばれた大和は、それはもう不機嫌だった。

 道行く喧騒達がその怒気を感じ取り悲鳴を上げる。

 真紅の闘気が可視化し、下駄を通じて地に亀裂が奔る。

 そのあまりの機嫌の悪さに、住民達は戦々恐々としていた。

 

「チクショウ……今日はオフだってのに、あの腐れジジィ……ッ」

 

「インセクツ」で楽しんでいたのに、突然の指名依頼である。

 大和は指名主に対し、激情を露わにしていた。

 

 大衆酒場ゲートのウェスタンドアを無理やり開き、進む大和。

 気軽に酒を飲んでいた客人達は彼の横顔を見て、一瞬で顔面を蒼白にする。

 酒場が静寂に包まれた。

 

 大和はズカズカと足音を鳴らし、カウンターに辿り付く。

 ネメアは溜息を吐きながら、カウンター席に座っている老人を指さした。

 

「ほ? どうした大和。不機嫌そうじゃな」

 

 心底不思議そうに首を傾げる老人。

 背まで伸びた白髪に荘厳な髭。紺色の魔法帽子。鋭い碧眼は片方が眼帯で隠されている。

 使い込まれた魔法使い特有のローブ。そして肩に止まっている獰猛な魔鳥。

 

 何より絶大かつ静謐な神気。

 周囲の客人達は気付いていないが、この老人は紛れも無い頂上種──その一角である。

 

 大和はこめかみをひくつかせた。

 

「緊急で俺を呼びだすなんて……よっぽどの案件なんだろうなァ? オーディン」

「無論だとも。お主にしか頼めん依頼なんじゃ」

 

 剽軽に笑ってみせる老人。

 客人達はその名を聞いて唖然とした。

 そう、彼こそ北欧神話の主神。

 あらゆる魔導を極めた魔導神──オーディンである。

 


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