数億年前から、世界を破滅の危機から救い続けている二名の英雄がいる。
天使と悪魔による終末論の引き金『ハルマゲドン』
外宇宙からの頂点捕食者ドラゴンの襲来『カリユガ』
全神話体系による大戦争『ラグナロク』
クトゥルフ系列の邪神群との最終決戦『デモンベイン』
以上の四大終末論を踏破し、全人類の守護者にして英雄の冠位資格を誇る両雄。
片や、正義と礼儀を重んじ、民と平和を愛した万夫不当の勇者王。
片や、欲望の限りを尽くすもその圧倒的な暴力で全てを捻じ伏せた生来の怪物。
勇士と化物。光の闇。陽と陰。
生粋の英雄である両者は、しかし対極を成す存在だった。
『悪鬼羅刹』『暴力の化身』『意思を持つ天災』『神秘殺し』『虐殺者』
闇を司る英雄は、太古の昔から畏怖され嫌悪されてきた。
曰く「最強」。曰く「無敵」。曰く「無敗」。曰く「必勝」。曰く「頂点」。
存在そのものが人類の特異点であり極致。
生まれながら最強で在る事を約束された、人類の可能性が生み出した正真正銘の化物。
殺戮と破壊に特化した総合武術「唯我独尊流」の創始者にして、「武神」と謳われた古今無双の兵法家。
世界最強の武術家にして殺し屋──大和。
神魔霊獣が最も畏怖する英雄は「英雄の汚点の集積」と揶揄されるも「英雄の原点にして頂点」として敬愛されている、無敵の益荒男だった。
ノアとエルザは北欧神話体系の文献や書籍で、それらしい挿絵は何度も見てきた。
が、実物がこれだけ美しく、同時に邪悪だとは思いもしなかった。
褐色肌の二メートルを超える屈強な肉体。冷徹な三白眼に獰猛なギザ歯。
しかし神域の美貌は衰えず、今も尚腕力と共に成長を続けている。
大和はアイズの「自分が代わりに抱かれる」という発言に、ふむふむと顎を擦った。
「聖域の初代守護者であるお前を抱けるのか──しかも報酬は倍額、成程ねェ……アリだな」
ノアとエルザを離し、大和は両手を広げる。
「いいぜ、契約成立だ」
離されたノアとエルザを抱き寄せ、アイズは安堵の溜息を吐いた。
「……安心した。本当に、危ないところだった」
「アイズ様……」
「その……っ」
「お前達、気にするな。今回の一件、オーディン様に非がある」
姉妹の頭を撫で、優しく微笑んでみせるアイズ。
姉妹達は瞳を潤ますも、涙は流さなかった。
そんな情けない姿を先輩に見せる訳にはいかなかった。
アイズは「良し」と頷くと、大和に冷たい視線を向ける。
「相変わらずだな、お前は……もう少し節度を弁えたらどうだ?」
「節度を弁えてどうする? 金が貰えるのか? 女を抱けるのか?」
「そういう問題じゃ無い」
「そういう問題なんだよ。テメェ等の評価なんざ知ったことか」
「……」
「それに、節度や礼儀を弁えてどうする? 英雄に求められるもんは正義でも、愛でもねぇ。力だ。今も昔もな……ネメアの現状を見てみろよ。あの大英雄だった男が、世界が平和になった途端にデスシティでしか生活できなくなった」
大和の発言にアイズは表情を険しくし、吐き捨てる。
「お前は、自分がネメア殿と同格の英雄だと言いたいのか? だとしたら随分傲慢になったな。格で言えば、貴様はネメア殿より何倍も劣る」
「俺を英雄と讃えたのはお前等だ。俺とアイツを同格にしたのは、お前等だ」
「…………」
「まだするか?」
「……いや、もういい」
「おうさ」
互いに話を切り上げ、上を見上げる。
大和は嗤った。
「無理やり突き抜けるぜ」
「任せる。外では現在、七体の霜の巨人が出てきている。歴戦の戦乙女達が足止めをしているが、問題はそこでは無い。この迷宮に封印を再度施す事だ」
「それは、そこの二人に任せればいいんだろ?」
「ああ。お前達、頼んだぞ。出てきた霜の巨人は私たちと大和で対応する」
「は、はいっ!」
「わかりました!」
後輩達の返答を聞き、満足そうに頷くアイズ。
大和は異世界から長大な十文字槍を取り出し、投擲の構えを取った。
「お前等、離れてな」
アイズがノアとエルザを引き寄せる。
無双の剛力から成る空前絶後の投擲槍は、神々の迷宮を難なく穿ち地上への道を切り開いた。
◆◆
霜の巨人は精霊の最上位「星霊」である。
星の恵みそのものである彼等は、存在そのものが大自然であり災害。
全高500メートルを超える彼等の体躯は、まるで山脈が人の形を成したかの様だった。
胸部に森林を茂らせ、肩から大瀑布を溢れ出させている。
巨岩で出来た顔面は憤怒と、それ以上の眠気で呆けていた。
一歩一歩、ふらつきながら前進する。
それだけでノルウェーという島国が揺れ、足元にある営みが破壊される。
歴戦の戦乙女達が、神々の領土たるこの神聖な森から霜の巨人を下界へ出さぬよう健闘している。
が、幾ら破壊しようと地球から生命力を吸収し無限に回復してしまう。
未だ寝ぼけているからいいものの、彼等が本格的に目覚めれば手に負えない。
一帯を覆っている神々の結界も、彼等が本気を出せば砕けてしまうだろう。
戦乙女達は最小限の被害で抑えようと、知恵と武勇を振り絞っていた。
その様子を、離れた上空から見下ろす二名の超越者。
七魔将である。
北欧神話との戦争「程度」に七魔将が全員出る必要もなく、暇潰しにこちらを見学にし来たのだ。
尤も、あの大和が居るという事で、既に物見遊山では無くなっているのだが。
警戒しつつも、現状を静観している。
剣神──
綺麗に染まった白髪を後ろで結い、皺が重なりつつも壮健さを損なわない面構えは武人特有の覇気と静謐さを滲ませている。
緑の着物に深緑の袴をゆったりと着こなし、腰には二本の長大な日本刀を帯びていた。
そして、もう一人。
絶世すら通り越した、神々の中でも並ぶもの無き美男神である。
顔を形成するパーツ全てが完璧であり、異性のみならず同性すらも魅了してしまう。
金髪は腰まで流され、同じ色の鋭い双眸は純金を溶かしたかの様。
古代ギリシャの彫刻像そのものである肉体は人体の黄金比を体現している。
服装は古代ギリシャの正装、キトンを纏い、その上から黄金の甲冑を纏っている。
世界で最も著名な神話、ギリシャ神話の主神であり雷光を司る天空神。
ゼウス。
彼は絶大なる神気を巧妙に隠しながら、薄く微笑んでみせた。
「戦乙女が可憐な舞を踊っているな。良き舞だ。酒でも嗜みたいところだが──」
「あまり油断するでないわ、ゼウス。大和が傍におる。気を抜くと消滅させられるぞ」
「おお、怖い怖い。あの暗黒のメシアが傍にいるとは──」
仰々しく肩を竦めるゼウス。
彼は剣神の異名を取る最強の剣客に問いを投げかけた。
「正宗」
「何じゃ」
「貴公は大和の長所を何処と捉える?」
「……お前はどうなんじゃ」
正宗に問い返され、ゼウスは妖艶に笑いながら答えた。
「無論、あの生き様よ。アレは断じて悪では無い。純粋なだけだ。己の欲望にただただ素直なだけ……故に美しい。穢れを知らぬ無垢な子供の様でいて、思わず抱きしめたくなる」
「それはお前の好みじゃろうが」
「否定はしない」
クツクツと喉を鳴らすゼウス。
その嫌味な態度すら美しく見えてしまう。
正宗は溜息を吐きながらも、真面目に答えた。
「あ奴は武人に必要な心技体を、異端ながら全て兼ね備えている。那由他の愛憎に晒されつつ自身を見失わない個我、己の欲望を叶えるため余念無く行われる鍛錬、そして生来の天性の肉体。武術家として、あ奴は間違いなく世界最強じゃ」
「しかし、剣技ならば貴公の方が上だろう?」
「剣技だけ、ならな……あ奴は武術家じゃ。その真価は戦況に合わせた戦闘スタイルの変化、引き出しの多さにある。しかしな──真に恐ろしいところはそこではない」
「?」
正宗は眉間に皺を寄せながら言う。
「成長速度じゃ。あ奴の成長速度は常軌を逸しておる。それこそ、宇宙が広がる速度よりも速い速度で成長を続けている。戦闘センスも、肉体も」
「……」
「以前、儂と同じ天下五剣に追い詰められたと聞くが、恐ろしいわい。追い詰められてからのあ奴の成長速度は拍車がかかる。故に、うかうかしておれん。あ奴の強さを計り、儂も成長しなければならん」
「……成程。では私も、油断しないでおこう」
ゼウスは微笑を消し、真面目な表情で応える。
瞬間である。大地が穿たれ真紅の稲妻が飛び出してきたのは。
規格外の投擲槍はそのまま神聖な森を包み込んでいた神々の結界を貫き、宇宙の果てに消えていった。
正宗は己の得物に手をかける。
「そぅら、出てきたぞ。怪物が」
「ふむ──では私も本気でいこう」
ゼウスは左手に世界最強の盾アイギスを、右手に万物を切り裂く金剛の鎌を、それぞれ携える。
そして全身から雷光と共に世界最強の鎧「雷霆の鎧」を顕現させ、光輝として纏った。
ゼウス──男女善悪問わず、あらゆる「美しいもの」を愛する偏屈者。
そして世界最強の盾と鎧を保有する、七魔将随一の防御力を誇る古強者である。
◆◆
迷宮から無理やり脱出した大和は、着地すると同時にアイズ達に叫んだ。
「お前ら、封印は任せたぜ! 俺はあのデカブツ達を一掃する! アイズ、旋回してる戦乙女共を退避させろ!」
大和は異空間からガトリング式魔改造火縄銃を取り出す。
銃身だけで大和の全長を超える巨大な魔銃を目にしたアイズは飛翔し、上空に居る戦乙女達に叫んだ。
「お前達!! 戦線離脱しろ!! 今すぐだ!!」
歴戦の戦乙女達は命令に従い戦線離脱する。
大和はガトリング式魔改造火縄銃に莫大な闘気を溜め込むと、凶悪な笑みを浮かべてトリガーを引いた。
刹那、放たれた幾千幾万の紅蓮の閃光。
神聖なる森を消し飛ばす勢いで放たれる真紅の弾幕は消滅の概念そのもの。
まずは霜の巨人の一体を消し飛ばす。
超反動で足元の大地を砕きながら、大和は銃身をゆっくりと横に薙ぐ。
総身から放出される無限エネルギーが回転式の銃身で圧縮され、絶え間なく解き放たれる。
一発で並の神仏なら消滅させる破滅の閃光が、秒間2000発という規格外の回数放出された。
それは、圧倒的な火力によるゴリ押し。
総てを無理やり消し飛ばす、理不尽そのものである。
神聖な森に張られていた結界は優に破壊され、空一面が深紅色に染まる。
霜の巨人達も次々と消滅していった。
七体目の霜の巨人を消し飛ばした時、大和は両サイドから来る刺客を察知し、瞬時にガトリング式魔改造火縄銃を手放す。
そして大太刀と脇差を抜き放ち、迫り来る日本刀と大鎌を受け止めた。
衝撃波が辺りを吹き抜ける。
正宗とゼウスの奇襲を難なく受け止めた大和は、ノアとエルザを抱きしめていたアイズに告げた。
「行け! ここは俺が引き受ける!」
「……任せた!」
七魔将二名の奇襲に面食らいながらも、アイズは一瞬で現状判断し、姉妹達を連れて行く。
剣神、正宗が忌々し気に大和に囁いた。
「この餓鬼ぃ……化物並の闘気を圧縮して所構わずぶっ放しおって」
「何だァ正宗、もうそろそろ歳だろ? 引退したらどうだ?」
「ほざけ!!」
正宗は大和の大太刀を絡め取り、逆袈裟を放つ。
それを優々と躱した大和は渾身の蹴りを繰り出すも、世界最強の盾によって防がれてしまった。
七魔将の一角、雷光を司る天空神は不敵に微笑んでみせる。
「凄まじい衝撃だな──蹴りだけでコレか。暗黒のメシアよ」
「ゼウス……テメェが七魔将の一員か。面倒くせぇな」
「奴の稚気と邪悪に惚れ込んでな。……しかし、今は貴公を愛させてくれ」
「ったく、相変わらずだなテメェも……しゃらくせェ。纏めて相手してやる」
大和は背後に数多の武装を召喚する。
薙刀、十文字槍、大弓、大鎌、戦斧、細剣、大剣、大槌、鎖鎌。
他にも六合大槍、方天画戟、蛇矛、バスターソード、モーニングスター、パルチザン、蛇腹剣、大楯など──
七魔将二名は不敵に笑うと、生来の怪物の討伐を試みるのだった。
◆◆
ノアとエルザは崩壊した神殿で封印の舞を踊っていた。
霜の巨人の憤怒が具現化し、湧き出てくる魔性の獣達を聖剣で斬り伏せる。
剣舞によって編まれる北欧魔術の深奥──原初のルーン、その一端。
魔導神オーディンより承りし秘技をここで披露する。
その奉納の舞を影で支えているのは初代守護騎士、アイズだった。
氷魔法で右に出る者はいないと謳われる彼女は、しかし剣技の達人でもある。
絶対零度のレイピアで魔物達を刺し貫き、氷塊の中に閉じ込め絶命させる。
氷のロッドを薙げば眼前に群がる百の魔性が氷の彫像と成り果てた。
歴代最高の戦乙女、その肩書きに偽り無し。
しかし問題が発生する。
霜の巨人の中でも別格の存在が地上に出て来ようとしていた。
スリュムである。
霜の巨人族の王、その一角であり、絶大な力を誇る怪物。
その手が地上を割り出てくると、神殿ごとノアとエルザを叩き潰そうとする。
完全に敵意あっての行動。今までの霜の巨人とは危険性がまるで違う。
アイズは瞬時に絶対零度の古式魔法を発動した。
物質の根源を成す原子を一定方向に整列させ、一瞬で極低温空間を創造する。
スリュムの手のみに発動した、生物であれば絶命必至の奥義。
しかし災害の具現化たる霜の巨人、その王には通じない。
僅かの間、動きを止められただけだ。
無理矢理復活し、再度動き始める巨腕。
アイズは背後に氷結魔法の魔法陣を数百展開し、瞬時に氷の牙城を形成する。
更に強化魔術を重ね掛けし、氷塊で形成したランスや大砲、投擲槍や刀剣を一斉射出した。
アイズは物量押しでの時間稼ぎを決行したのだ。
しかし並の神仏を凌ぐ霜の巨人の王を、歴代最強とは言え半神半人の戦乙女が止められるかは賭けである。
舞踏を踊っていた姉妹達が叫ぶ。
「アイズ様!!」
「アイズ様ぁ!!」
「お前達!! 舞踏に集中しろ!! コイツは私がどうにかする!!」
アイズは決して諦めなかった。
後輩を奮い立たせるため、最後まで足掻き続けた。
◆◆
七魔将の一角──『剣神』正宗は剣技に於いて並ぶ者無き、正真正銘世界最高の剣士である。
天下五剣なる称号は世界に剣士があまりに多いため、最強の枠を増やしたに過ぎない。
真の意味で剣客達の頂点に君臨するのは、この男なのだ。
大和が剣技において100点であれば、正宗は200点は下らない。
いいや、それ以上か──
剣術で、大和は正宗に絶対に勝てない。
しかし大和は武術家である。武芸百般を修めし戦闘のプロフェッショナルである。
わざわざ相手の得意分野で戦わない。
正宗を強者と認めているからこそ、大和は一切油断しなかった。
吹雪との死合いで瀕死に追いやられた事を踏まえ、大和は相手が同格であれば遊び癖をなくす事を徹底していた。
その結果、隙が全く無くなる。
大和は大剣と大槌を携え、角度を変えながら攻め立てる。
正宗は苦い顔で何とかいなしていた。
圧倒的剛力によって容易に地形が変わる。
大剣と大槌を躱しきったとしても、大和に隙は存在しない。
絶妙なタイミングで棒手裏剣を投げられ、まきびしを散りばめられ、煙玉で視界を遮られる。
武芸百般。全ての分野に於いて100点を誇る大和の真価は「多種多様な武器を臨機応変に使い分ける」ところだ。
正宗は確かに剣術では200点を記録する。
だが、大和は大剣も大槌も100点。足せば200点だ。
正宗がそれ以上だとしても、他の武装を組み合わせれば拮抗できる。
正宗は苦笑した。
(吹雪の奴め──ようこの怪物を瀕死まで追い詰めたわ。純粋な剣技のみならず、戦闘前の駆け引きや下準備を怠らなかったのじゃろう)
妖魔界最強の腕力を誇る牛魔王すら捻じ伏せる筋力、無尽蔵のスタミナ。
那由他の戦場を生き抜いた戦闘経験、真の長所たる戦闘センスと成長スピード。
あらゆる異能術式を無効化する闘気術、武芸百般を極めた事による引き出しの多さ。
四大終末論を踏破した闇の英雄は伊達ではない。
個の戦闘力、特に白兵戦ではまさしく無敵だ。
だがしかし、と正宗は一蹴する。
剣神の異名を取る男もまた、伊達では無い。
腰に携えたもう一本の長刀を抜き放ち、二刀流となる。
そして斬撃の極致にて凶悪な追撃を相殺した。
絶妙かつ繊細な剣捌きは、大和の技を完璧に殺しきってみせる。
大和は嗤った。
「やるじゃねぇの、糞ジジィ」
「小童が。まだまだよ」
正宗もまた、白兵戦では敵無しだった。
剣という近接武器を極限まで追求し、更に昇華し続けている彼にとってクロスレンジは自分の庭と言っても過言では無い。
至近距離において、大和は正宗に勝てない。
だからこそ、必要以上に近付かない。
攻撃範囲が広く、且つ重い得物を選び、正宗を懐に入れない。
相手の弱点を徹底的に突き、得意分野に入らせない。
苦手な課目を強制し、それを執拗に続ける。
大和は己の戦闘スタイルを徹底していた。
しかしそれは正宗も一緒である。
片や、洗練された暴力。破壊と殺戮に特化した力と技。
片や、絶対切断の顕現。唯斬、切断という概念そのもの。
最高位の神格であろうと容易に死滅させる暴力と斬撃の嵐が吹き荒ぶ。
極々狭い空間で展開される超越者同士の戦いは、しかし周囲の地理を書き換えなければならないほどの甚大な被害を生み出していた。
これなら霜の巨人が暴れた方がマシなレベルだ。
今まで面白そうに見学していた金髪の美男神、ゼウスは痺れを切らしたのか、前線へと出てくる。
「二人で逢引きとは妬けるな、私も混ぜてくれ」
「勝手にせぃ」
大和の縦横無尽の攻撃を全て大楯で防ぐゼウス。
世界最強の盾、ギリシャ神話の誇る神格武装「アイギス」を突破する事は大和であろうと不可能だ。
ゼウスと正宗は即興のコンビネーションを披露する。
ゼウスが防御に徹し、正宗が攻撃に徹する。
無敵の盾と最強の剣──
全く隙の無い陣形に、流石の大和も苦笑いした。
「ざけんじゃねェぞ」
正宗の鋭すぎる斬撃に首の薄皮を斬られながらも、アイギスごと大槌でぶん殴り二人同時に吹き飛ばす。
その際の衝撃波で神聖なる森の半分が削り飛んだが、この程度で正宗とゼウスは倒れない。
そんな事、大和もわかっている。
故に、とっておきの新技を出す。
「唯我独尊流──五行の型に更に陰陽を加えた。陰の型は負担が大きいから、ここぞという時しか使えねぇ。が、陽の型は別だ」
大和は右手で拳を握り、渾身渾絶の闘気を込める。
真紅の闘気はあまりの濃度に光輝を纏い、紅蓮色に煌き始めた。
ゼウスと正宗は驚愕で目を見開く。
大和の拳に集約される闘気の質量が、最早別次元であったからだ。
莫大過ぎる生命力は星を超え、銀河を超え、宇宙を超え、その先すらも超越した。
真の一撃必殺を体現するこの技を、大和は唯我独尊流の陽の型に当て嵌めた。
「陽の型──
妖魔を滅ぼす曙光の名を冠した幕引きの拳。
強大過ぎる生命力で有形無形問わず一切合切消滅させる、ご都合主義の体現だった。
大和の新しい奥義を前にして、正宗とゼウスはしかし、笑ってみせる。
「必殺の拳も、当たらなければどうという事はないわぃ」
「よかろう。貴公の一撃、このアイギスで完封してくれる」
ゼウスが一歩前に出てきたので、大和は嗤う。
受け止められるものなら受け止めてみろと、紅蓮に輝く拳を振りかぶった。
嘗て邪神王アザトースの放った必殺必滅の究極呪砲「ビッグバン・インパクト」を完璧に防ぎきってみせた絶対防御の象徴か──
極大の生命力から放たれる強制終焉、幕引きの一撃か──
その時、大和の背後から光の柱が立ち上った。
ソレは、霜の巨人の封印に成功した証だった。
正宗とゼウスは互いに肩を竦め、後退する。
そして大和に告げた。
「時間切れじゃな」
「また会おう。暗黒のメシアよ」
両者は消える。
雅貴の元へ帰って行ったのだ。
大和は天中殺を解除し、腰に手を当てる。
そして、やれやれと溜息を吐いた。
「七魔将か、マジで面倒くせぇ……しかし封印、成功したんだな。よくやった」
大和は笑顔で真紅のマントを靡かせ、踵を返した。
◆◆
その頃、崩壊した神殿前で。
アイズは倒壊した柱によろけた身を預けた。
目の前には完全に凍結した霜の巨人族の王、スリュムの巨腕があった。
アイズは完璧に抑えきったのだ。
おかげで霜の巨人族の封印は成功した。
ノアとエルザは歓喜で抱き合っている。
霜の巨人の事件は、これにて解決した。