Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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第十二章「青春伝」
一話「若き英雄たち」


 

 デスシティの三羽烏と謳われる三人にも若く、青い時期があった。

 

 今から数億年前──まだ世界が一つだった頃。

 神仏達が世界を治め、魔術異能が生活の一部と認知されていた時代。

 

 神代とも呼ばれるこの時、三名はまだ伝説になる一歩手前だった。

 

 

 ◆◆

 

 

 当時、世界の西側は現代でいうギリシャ神話──オリュンポスの神々が統治していた。

 各国の人間達は立場関係なく神々を崇拝し、各々が欲する恩恵を賜る事で高水準の生活が保証されていた。

 

 生活水準だけで言えば現代と然程変わらない。

 それ程までに神々の恩恵は偉大なものだった。

 

 西側の首都、オリュンポス王国。

 中でも最も神聖な場所とされる「神々の神殿」前にて。

 

 純白と黄金を絡めた建造物が並び立つ。

 その様は荘厳であり、まさに神々の領土と呼ぶに相応しい。

 現に、土地を包む神気は他所とは別格。

 魔族ならばこの土地に入る事すらできないだろう。

 

 神殿に住まうのは絶大な権能を誇る十二の神々。

 主神ゼウスを中心としたオリュンポスの神々は、西側の平和と権力の象徴だった。

 

 オリュンポス王国に訪れた王族貴族は、まず神々に直接礼をするのが習わしとなっている。

 神々の領土たる首都に足を運んだのであれば、礼を尽くすのは当然。

 ソレがこの時代の常識だった。

 

 今朝、西側諸国を束ねる豪族の姫君が、神殿に赴くために馬車で都内を進んでいた。

 身嗜みを整えつつ、彼女は窓の外を頻繁に覗いている。

 対面で座していた従者は首を傾げた。

 

「どうしました? 姫様」

「いえ……ここ最近、有名な英雄お二人を一度でいいから拝見したいなと思いまして」

「成程」

 

 従者は頷く。

 最近、西側で特に人気な英雄が二名いる。

 彼等はそれぞれ「光の英雄」「闇の英雄」と呼ばれていた。

 

 一名は最底辺から神々の寵愛を一身に受ける最強の戦士にまで成った元・奴隷剣士。

 一名は遥か東の地で数々の偉業を重ね、現在は食客として西側に滞在している異国の皇子。

 

 片や、正義と礼儀を重んじる真性の英雄。

 片や、欲望の赴くままに生きる生来の怪物。

 

 出生経歴性格、全てが真逆の二名。

 人気で言えば光の英雄の方が圧倒的に高い。老若男女から敬愛されている。

 が、女性を中心に闇の英雄もまた高い人気を誇っていた。

 

「聞けば、お二人は私と同じ歳──16歳だといいます。……考えられません」

「仰る通りです。彼等は神々に愛されているのでしょう」

「その通りですね」

 

 当時の人間らしい納得の仕方をする二名。

 神々の神殿前まで辿り付くと、姫君は少々残念そうに肩を竦めた。

 

「結局会えませんでしたが──今は気持ちを切り替えましょう」

 

 神々への礼節を損なわないため、姫君は心を入れ替える。

 その横を、青年二名が通り過ぎた。

 

 そのあまりの美貌と威風に姫君、並びに従者は唖然とする。

 

 一人は金髪を短く刈り上げた好青年。

 上半身は裸体で下半身は簡素なズボン。肩から純白のローブを羽織っている。

 両手に金色の手甲、背中に巨大な戦斧を担いでいた。

 その碧眼は穏やかな色を灯しており、見た者を総じて安心させる。

 

 もう一人は黒髪を荒々しくオールバックにした美青年。

 派手な色の浴衣を着崩した様はまるで傾奇者。

 獰猛なギザ歯と怜悧な三白眼は見た者を居竦ませるが、それ以上の美貌が異性を虜にしてしまう。

 

 両者とも身長は190センチほど。

 肉体は程よく鍛えられているが、成長段階でまだまだ骨格が細い。

 

 それでも、美という観点で言えば文句無い。

 年齢も十代ほどで、女性であればその華々しさに種族関係なく夢中になってしまうだろう。

 

 現に、姫君も従者も見惚れていた。

 褐色肌の美青年は彼女達に気付くと、投げキッスを送る。

 二名は腰砕けになった。

 

 隣に居た金髪の好青年がその肩を叩く。

 

「やめろ。あの服装、高貴な身分の方だぞ」

「そんなの関係ねぇよ。それに、身分だけで言えば俺より高い奴なんて滅多にいねぇ」

「……」

「ま、もう家出してるんだけどな♪」

「ハァ」

 

 呆れて溜息を吐く金髪の好青年。

 それを見てクツクツと喉を鳴らす褐色肌の美青年。

 

 この二名こそ、若き日のネメアと大和である。

 彼等はまだまだ青く、しかし既に英雄として世界に広く認知されていた。

 

 

 ◆◆

 

 

 神々の神殿、最奥にて。

 豪勢な玉座にはオリュンポスを統べる至高の天空神が座していた。

 神々の中でも別格の美貌を誇る彼こそゼウス──西側の実質的な頂点である。

 

 その横にはゼウスに勝るとも劣らない絶世の美女が佇んでいた。

 女体の黄金比から成る豊満な肢体を古代オリュンポスの正装、キトンで慎ましく包んでいる。

 柔らかな金髪を腰まで流した彼女はヘラ──ゼウスの姉にしてオリュンポスの№2だ。

 神々の女王、貞淑と母性を司る処女神。

 

 正史と違い、彼女はゼウスの妻ではない。

 弟ゼウスの際限無い愛情を諫める、本当に姉の様な存在だった。

 

 ヘラは厳粛な処女神であり、その男嫌いぶりは他勢力まで知れ渡っている。

 四大処女神の筆頭格は伊達ではない。

 

 しかし、そんな彼女が唯一溺愛する男児がいた。

 ソレこそが──

 

「ああ……っ」

 

 現れた金髪の好青年にヘラは熱い溜息を吐く。

 彼はヘラの自慢の坊や

 自身の名を含めた真名を与え、同時に絶大な加護を与えた。

 可愛い可愛い、自慢の坊や。

 

「ヘラクレス……っ」

 

 ヘラの栄光の異名を持つ好青年は、ゼウスとヘラの前で片膝を付く。

 正義に厚く、礼儀正しく、己に厳しく、慈悲深い。神々への忠節も忘れない。

 彼はヘラの「理想の男児像」だった。

 

 ヘラは愛しい我が子に見惚れている。

 そんな彼女を褐色肌の美青年、大和が鼻で嗤った。

 

「うっわ、親バカ」

「何ぃ……この汚らわしい子猿め。己の劣情も御せぬ畜生が妾に話しかけるな。頭が高いぞ」

「うっせババァ」

 

「……ア゛?」

「アアン?」

 

 互いの眉間に皺が寄る。

 この二名、決して相容れない、まさしく犬猿の仲だった。

 

 

 ◆◆

 

 

「東側の女王、天照殿もさぞや苦労したであろうなぁ。礼儀の礼の字も知らぬ野蛮な猿が暴れておったのだから」

「あ~あ、処女臭ぇ処女臭ぇ。なんだ? 西側には生娘を気取るババァが居るって聞いたが、本当だったみてぇだな」

 

「消し飛ばされたいのか小童ッッ」

「コッチの台詞だ腐れ女神ッッ」

 

 殺気を迸らせる二名。

 神々の女王と黒き英雄の圧は、それだけで神殿全体を圧迫した。

 ゼウスとヘラクレスがすかさず仲裁に入る。

 

「姉上。何時もの貞淑さはどうした? らしくないぞ」

「落ち着け大和、お前が牙を向く相手は別に居る」

 

「「……フンッ」」

 

 互いに視線をプイと逸らす。

 ゼウスとヘラクレスはやれやれと溜息を吐いた。

 二名が喧嘩した際の被害は尋常では無い。既に七つの山脈と五つの都市が滅びている。放っておけば禄な事にならないのだ。

 

 ゼウスはヘラクレスと大和に神託を告げる。

 

「ヘラクレス、そして大和。極西で同盟勢力であるダーナ神族が巨人族──フォモール族との最終決戦に突入した。しかし直死の魔眼を誇る極西最強の邪神──バロールは神々の力だけでは打ち倒せない。彼奴の魔眼は究極にして至高。死を司る権能の頂点だ。──貴公等の力が必要とされている。明朝、極西に赴き決戦に終止符を打て」

「御意」

「いいぜ、その代わり報酬はたんまり貰うからな」

「選りすぐりの美女と美酒を準備しよう」

「いいねぇ、ヤル気出てきた♪」

「ハァ……」

 

 ヘラクレスは溜息を吐く。

 親友の態度、性格、その他諸々に呆れているのだ。

 彼は再度拳を合わせると、深く礼をする。

 

「必ずや達成してみせましょう。偉大なるゼウス様とヘラ様の要望とあらば」

「アアっ……流石へラクレス、妾の自慢の坊や。貴方なら必ずや極西の邪神を打ち滅ぼせるでしょう!」

「姉上」

「いいえ、むしろ貴方が勝つのは当然! 何せ妾が唯一認めた至上の男児! 義に厚く忠義深い──!」

 

「ヘラクレス、大和。後は任せたぞ」

「御意」

「へーい。お花畑に行ってる姉ちゃんは任せたぜ」

 

 大和はベッと舌を出すと、ヘラクレスと共に神殿を出て行った。

 

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