「これで処方は完了した」
コウは茜の腹部に包帯を巻き終えた。
「ありがとな、コウ君」
「気にするな。とにかく、今日は安静にしておくんだ。いいな?」
「うん。あ、葵と会いたいんやけど……」
「俺はこれから患者項目に記さなきゃいけないんだが……。
紲さん。お願いできますか?」
「うん、私に任せといて」
痛みと麻酔で倦怠感が出て、茜は休憩といいながら深い眠りに落ちていった。
また汗などは紲がぬぐい取っているので、無駄な垢の増加や腹下しを事前に防いでいる。
ただ服は撤退から一度も変更していない。
ここはまだ最前線だ。気は抜けない。
「寝ちゃったけど、いいの?」
「無事だという状況報告位はやっといたほうが、アイツの精神的にもいいだろ」
ちゃちゃっと支度を整え、患者帳簿に情報を書いていくコウ。
彼の進言を聞いて、紲はマキと葵の下へ向かう。
「食べてください」
「ごめん。私、今……食べる気がしないの」
紲が向かった先、そこでは補給兵の東北姉妹の妹の方が葵に食事をさせようとしている所だ。
紲は経過を見守ることに徹する。
「そんなことはどうでもいいので、食べてください」
簡単な食事を器に入れて、膳をふるまう。
しかし葵は脚を腕で抱え、頭を伏せている。
隣にいるはずのマキは、どこかに行ってしまっているようだ。
「ほんと、ごめんなさい……」
拒否反応を示す葵に、妹であるきりたんは青筋を額に浮かび上がらせる。
とても立腹であるご様子。
「少しでもいいから食べてください」
「いらない」
そういうと、膳を置いて去ろうとしたきりたんは、大きくため息を吐く。
ぎりっと歯を噛みしめ、苛立ちを隠し切れない。
しかし表に言葉を出すことはなく、そのまま膳を置いて去った。
一部始終を見た紲は、きりたんの方へ足を向ける。
「東北さん」
「なんのようですか、親の七光り」
「え?」
「いえ、なんでもありません。如何致しましたか?」
冷めた目で言うがすぐに訂正し、普段通りの装いを見せる。
流石に紲もいわれのない悪態に戸惑ってしまったが、たまによくある神様じゃない人の妬みだと受け取った。
「えーと、ごめんね? 私の伍組なんだけど、あの子のお姉さんが怪我しちゃって」
「ああ、それでですか。まあ、仕方ないですよ。 それが殺し合いなんですから」
「っ!?」
淡々と、しかしそれを当然というように受け取っているきりたんは、平然とソレを口に出した。
紲は彼女から一瞬伺える闇を感じ取って、閉口してしまった。
姉に甘えることなく、見た目不相応なその反応。それは間違いのない歪なもの。
紲は思わず閉口してしまったが、話しかけたのならば何か反応しないといけないと思い、言葉を口にした。
「あ、えと、その、葵ちゃんにはちゃんと食べてもらいますので。食べてなかったら、他の方にでもあげますね……あはは」
少しの沈黙。
「そうですか」
表情をいつも通りの無表情へ切り替えると、踵を返して補給場へと帰っていった。
紲はへんな緊張をしていたが、彼女が去るという事で緊張を解くことができるようになった。
しかし、立ち去ろうとして数歩あるいた彼女が、突然歩みを止める。
何かまずいことでもあったのか、紲はどきっとする。
そしてきりたんは、紲の方へ少し振り向く。
振り向いて紲、彼は身震いする。
口が開くことに、こんなに恐怖するのは初めてだといわんばかりに、過呼吸になる。
「あまりふざけたことを言うと、明日の食事に貴方が並ぶかもしれませんよ」
子供とは思えない殺気を、すわった目で紲を貫いた。
きりたんはほかの子とは一線を画した雰囲気を持ち、そのまま帰っていった。
彼が彼女が完全に視界から外れると、緊張がほどけたのかその場に座り込む。
呼吸を落ち着かせるため、深呼吸をするとともに額の汗を袖でぬぐい取る。
「……ゆかり兄さんの小隊……凄いね……」
ここにいない兄への賛辞を今ここで送り、葵のところへ帰っていった。
きりたんの言葉の元ネタ。
給食費を滞納している家族が、学校の給食を作っているおばちゃんたちに
学校の給食にされる(または人身売買で多額の金を得る)。
そんな漫画から取りました。
「ねえ、Bちゃん。給食費滞納はまずいよ」
「大丈夫大丈夫。払ってない人だっているんだから!」
「わあ、豪華な給食!」
「最近、給食が豪華だよね!」
職員室に、給食費滞納者の名簿。
そこには空欄と空欄にチェックが入っている。
更にBちゃんの名前もあり、空欄だ。
翌日。
「あれ、Bちゃんが来てないけど?」
「風邪でしょ?」
場面はBちゃんの家が映し出される。そこには人気のない一軒家が。
更に場面転換し、豪勢な給食を食べる生徒が描き出される。
こんな感じです。よければ、探して見てみてね。