原題:茜の受難   作:名無しの権左衛門

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11:威力偵察

 

 ここはとある戦場。

 

 いや、厳密にいえば違うかもしれない。

だがそこにいる者にとっては、確実に死が待ち受ける戦場でしかないのだ。

 

「共に偵察に行きたいと?」

「応。あたしはマキってんだ。よろしくな、おっさん」

 

「おっさんとはなんと無礼なッ! 粛清――」

「まあ君、落ち着き給え」

「しかし……」

 

「マキ。君は兵士とはいえ、偵察兵ではない。ついてこなくていいんだぞ?」

「あたしが行きたいんだ!」

「別に構わんが、どんな理由で行きたいんだ?」

「戦場で使う砲台を探しに、だ」

 

「確かに面制圧と物量は必要だ。でも、今はいらないんじゃないかな?」

「何言ってんだ? あたしの武器はその大砲だ!」

「マキ……なるほど、結月殿の小隊か。面白い、共に行こう」

「やった!」

 

「ああ、閣下の癖が始まった……」

「癖ではない。帝国の輝かしい未来のためだ!

っと、その前に、自己紹介を」

「あたしは弦巻マキ。 砲台を武器に使うのが、あたし流さ!」

「聞き及んでいるよ。私は陸軍参謀の辻 政信だ。よろしく、マキ」

「おう、おっさん!」

 

「だから、おっさんではないとッ――!」

「落ち着き給え、佐藤勝郎君。これより共に、威力偵察に向かうのだ。

これに反対する者が多い中で、この一筋の光。

同じような意志を持つ者がいるというだけで、非常に頼もしいではないか」

「くっ……! わかりました、辻さんがいうなら」

「では、ゆこうぞ! 参謀とは、最前線で戦う事と見つけたり!」

「ぎゅんぎゅん行くぞー!」

 

 辻正信参謀と佐藤勝郎補佐。

二人は数少ない威力偵察の体現者である。

作戦のために地図を持ち出すのは当然。

そこに情報をつぎ込み、作戦立案をするというのは二流でしかない。

 辻参謀と佐藤補佐は、そこに前線にて敵の配置を直接見てその道中邪魔になりそうな村へ行く。

そこで行うのは、貧しい人々に対して情報収集と貴重な資材を使って炊き出しをすること。

 

 これにより現地民が最悪敵にならなくなり、壊走時でも隠れ蓑として使えるようになる。

 更に満蒙効果で、中華人民が共に戦ってくれることもある。

これが可能なのは、経験と知識・情勢の他に、辻が『作戦の神』・佐藤が『親善の神』であることが理由である。

 

 作戦とは。それは戦略・戦術、立案からそれに含まれる過程全てが、『作戦』と認められる範囲のことだ。

これに当てはまるものは、裏工作や内偵を含めた行動にも補正がかかり動きやすく成功もしやすくなる。

 

 

 親善とは。これは仲良くなることだ。絆は心の距離で、縁は血縁や時世が関与するもの。

故に行動をすればするほど、他人から認められていくのだ。

勿論それは相手からして、良いことと思われなければならない。

当然のことだが、善悪ともに使うべき場所は、本人の血脈が代々受け継いでいる経験録に描かれてる。

 

 

 

 

 さて、マキ・辻参謀・佐藤補佐・山岳兵二連隊は、中国奥地に潜入成功した。

場所は確定的ではないが、近くにダムがあることを地元住民から聞き出した。

 

「ダムの下流か……」

「ということは、ダムを破壊して進軍の邪魔するかもねぇ」

 

 辻参謀はいきなりの事を口に出すマキに、目を見開いた。

驚愕。その一言だ。頭に浮かんだ予想を、簡単に口に出す彼女。

 

「マキ。すごい洞察力だな」

「それほどでもないよぉ? あ、高射砲めっけ! おばあさん、これ貰うね!」

 

 難なく言葉の壁を突破し、高射砲を取り外して台車に乗っけるという魔改造をするマキ。

流石の行動力に、脱帽した。

まあ実際は爆笑程度だったが。

 

「辻参謀、南より国民党軍がやってきてます」

「うむ。相分かった。全員撤収だ!」

「はっ!」

「分かったよ!」

 

 今日の威力偵察は終了した。

 情報はそろいにそろった。

威力偵察ほどではないが、双発電征を使って中国の配置とか見た結果。

本隊を含んだほとんどが、北上していることを掴んだ。

 

 そしてこれを確認し、関東軍と満蒙合作軍は北上してくる国共合作軍を要塞や山岳に立てこもり、奴らを誘引しはりつかせておくことを作戦とした。

また今回の偵察で、内陸のダム付近の中国人と接触し日本軍の通過を黙認するよう依頼出来た。

 これらの情報や作戦を、司令本部に送り付ける。

そこには『異常の神』である、石原莞爾ら関東軍の重鎮に届く。

中国に対するために、本土からの上陸部隊は上海や台湾の西部・香港やマカオ周辺から揚陸することを

決定づける。

 

 本土は八百万の神々により、生産体制を含んだ効率化や生産品の過剰生産を行い備蓄できている。

技術がなくとも、有り余る物資と国庫を傾け注力した海軍で、どうにか優勢に持っていきたいところだ。

 既に戦線が打開されているが、本土奪回や迫りくる脅威を排除するために北上している敵軍。

おかげで比較的楽に、制圧ができそうだ。


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