原題:茜の受難   作:名無しの権左衛門

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12:会議室

 

 

「結月 ゆかり。ただいま参上しました」

 

 そういって司令本部の部屋に来たが、誰もいない。

許可を貰っていないが、奥へ歩き周辺を見る。

すると会議の机の上に、手で持てるような小さな蓋つきの桶があった。

 

 彼は自分の力を使って、桶の中身を知ろうとする。

しかし全く透過できず、見るのを諦め蓋を開ける。

 

 まあ、誰もいないから別に大丈夫だろう、と安易な気持ちで開けた。

 

 だが蓋を少しずらすと、異臭が彼の鼻腔を反応させる。

嫌な臭いに嫌悪感を抱き、表情をゆがめる。

本来ならば、そこで蓋を閉じればよかったのだが、今の彼は好奇心に支配されている。

故に開けてしまった。

 

「う……」

 

 あまりの異臭。シュールストレミングもかくやというにほい。

 

 腕で鼻を隠し、中を見る。

 

 そこにあるのは……。

 

 

 

「素晴らしい漬物だろう? 結月ゆかり」

「っ!」

 

 結月。彼はバッと体を桶から離れさせ、聞いたことのある聲の方へ体ごと反応した。

 

 そこにはしたり顔の後藤中将が、通路の角から覗き見ているのを確認。

にやけながら通路から出てくる彼は、結月の下へ偉そうに歩いて出てくる。

 

 

「これは一体なんですか」

「わかっているだろう? KAITOだ」

「……」

 

 いったい何のために、と結月は思いつつ中将をにらみつける。

実際行動に移せる上級将校がいない中、優秀な情報を持つ人間をむざむざ殺すのは

帝国軍人としていかなるものか。

それを理解しているのか、と問いただしたくなる。

 だが必死に抑える。

一応彼はこの戦線に於いて、最高司令官であるからだ。

 

「いやぁ、彼のような優秀な人材は惜しい。

よって、情報を全て吐かせたうえで、軍法会議にかけた」

 

 いけしゃあしゃあと、と結月は思う。

ギリっと奥歯を噛みしめ、苛立ちと怒りを露わにする。

 

「おっと? その様子だと、彼の事を認めていたようだが……。

しかたあるまい。これも帝国のためだ」

「そんな建前はどうでもいいでしょう。目的は何ですか」

「ククク……」

 

 先ほどから仰々しく高説を宣う愚か者に、変な感覚を覚えた結月。

KAITOの首がわざわざ塩漬けにされていて、周囲に人払いをさせておいて何を考えているか。

ただこんな世間話のような無駄話をしに来たわけじゃない。

 

 作戦終了時はまだ生きていた。

 しかし作戦が終わって一週間。

何も音沙汰がない。

 

 違和感を感じて訪れれば、この始末。

 

 気持ち悪い仕草と口調で以って、結月を迎え入れた中将の目的とは。

 

「さて。今回のKAITO君の処刑理由というのはだね。

敵前逃亡と勝手な漸減作戦をしたことだ。

更に作戦内で、わが軍にとって非常に高価なガソリンを使われた。

わざわざオクタン価の高いやつをだ」

「しかし作戦は上手く行った。後藤中将のために、KAITO殿は奮闘したんだぞ。

その対価がこれか! 真の戦犯は貴様だ、後藤中将!」

 

 指で指し示す結月に、後藤中将は気持ち悪い笑いを上げる。

 

「ハハハハハ! そこまで言うか、名誉と誇りに満ち溢れる帝国軍人に。

たかが娘如きが。 というわけで、お前も共謀罪として小隊解散だ。

本日付で、俺の配下ってことでよろしく」

 

 計画性のない無茶苦茶な指示。

これには結月も、堪忍袋の緒が切れる。

 

「貴様。黙っておけば男だの女だの。我々は帝国軍人だ、そこに男女の差はない。

天皇陛下と日章旗と日乃本のために、身命を賭して全てを捧げ民と家族を守るのが我々の仕事だ。

そこに人間も神も、全く格差はない。

 そんな死を覚悟をしている神や人を無下に、努力すら踏みつぶす貴様は鬼畜以下だ!

鬼畜米英にすら勝る畜生に過ぎない!

貴様はここで野垂れ死に、無様な死に様をさらけ出せ!」

 

 そういって帯刀してある日本刀に手をかける結月。

そのまま攻撃を仕掛けようと、居合を行おうとする。

 

「残念だったな?」

「かはっ!?」

 

 だが結月の刀は相手に届かなかった。

間合いで言えば近づけたが、後藤にはかすりもしなかった。

 

「合気道ってしってっか?知らねえよなあ?」

 

 

 そう応えるのと同時に、結月の鳩尾[みぞおち]から拳を引いて顎に拳を当てる。

 

「げ、が……ゴホッカホッ」

 

 急激な眩暈と呼吸困難が結月を襲う。

そして脳震盪となって、彼女はその場に崩れ落ちる。

それを見て後藤は、配下の者を呼んで運ばせた。

 

 

 

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