原題:茜の受難   作:名無しの権左衛門

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2:結月とは

 

「結月ゆかりさんかぁ」

「なんか、かわいかったよね」

 

 葵と茜はあの後も、ずっと男女共同の訓練を強いられていた。

しかし結月の顔を思い出したり、彼の配下になるという自信がある。

この自負を背負う事で、常に前向きになれた。

そして前向きなる事で、ただの弱い女の子であることはなくなった。

 

 来るべき日の半年前。

 そこでは今まで私利私欲を働いていた上官が、宿舎にて訓練を受けていた兵士全員を広場に集めさせていた。

 

「あー、本土から編成案内が来ている。

流石にこれに逆らうと、俺の天下がなくなっちまうからな。

今から読み上げる! 前方に伍長がいる!! (俺から見て)左から読み上げていくので、名前を挙げられた者は、そいつについていけ! 疾く動かねえと気合注入してやっからな!!」

 

 これを言われると、嫌でも気が引き締まる。

静寂な雰囲気になり、視聴覚悟が決まる。

だが全ての兵士がそのような心構えになる前に、上官が早口で読み上げる。

 

 早口過ぎてどうにもならん!

 

 誰もかれもそう思っているとき、上官に向かって何者かが声をかけた。

 

「師団長。何をしている」

「……何のつもりだ、結月」

 

 そう、伍長の結月ゆかりだ。

彼があの上官、師団長を止めた。

 

「俺のいう事が聞けねぇのか、軍法会議にかけるぞテメェ!」

「天皇陛下直筆の場合、どうなるか。君もわかっているんじゃないのか?」

「……後で本部に来い」

「リンチはごめんだね。でも、僕はこの通り見た目だけはいい。ソレでゆるしてくれないか?」

 

 師団長は結月に刀を突きつける。

彼はそんなこけおどしに怯まず、ちゃんとした道理を突き付ける。

それは正論ではない。

 

「はあ? 俺は好色家だが、男色じゃねえんだよ! ちっ、最初から読んでやるよ。

帝国軍人に再度読んでもらえる事、感謝しろ!」

「「「おおおお!!」」」

 

 兵士たちが師団長の訂正を初めて聞いたことと結月に対して、盛大な謝辞やらなんやら歓声が轟く。

師団長は元の位置へ戻っていく結月をにらみつけながら、ゆっくりと大声で指示していった。

 

 師団長。後藤中将は、大の男尊主義であり、選民主義者である。

帝国は他国を照らす巨大な太陽である。全ての中心であり、全てより強くなければならない。

そのため自分と同じ、男であり帝国軍人であり本土出身でなければ、発奮行事という粛清をすることも厭わない。

更に異性であれば、男の奉仕をすることは当然と考えている。

 別にこの考えはいいのだが、生殺与奪、命や行動そのものは帝国軍人が指導しなければならない、なんて考えを持っているので非常に危ない。

 

 そして結月ゆかりは、伍長といいながら実は監査を兼ねた『特務機関』の密偵である。

更に師団長である後藤中将とその周辺以外は知らないが、彼自身伍長ではなく大佐の階級を隠し持っている事を知っている。

最後に、高級士官のみが知っているのは、結月ゆかりが『縁結び』の『現人神』だという事。

 

「では、僕は愛すべき『小隊』の下へ行こう」

「いけしゃあしゃあと……! 今に見ていろ、ほえ面をかかせてやる……!」

 

 上官は呪詛をつぶやき、結月の背中を見送った。

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