「結月ゆかりさんかぁ」
「なんか、かわいかったよね」
葵と茜はあの後も、ずっと男女共同の訓練を強いられていた。
しかし結月の顔を思い出したり、彼の配下になるという自信がある。
この自負を背負う事で、常に前向きになれた。
そして前向きなる事で、ただの弱い女の子であることはなくなった。
来るべき日の半年前。
そこでは今まで私利私欲を働いていた上官が、宿舎にて訓練を受けていた兵士全員を広場に集めさせていた。
「あー、本土から編成案内が来ている。
流石にこれに逆らうと、俺の天下がなくなっちまうからな。
今から読み上げる! 前方に伍長がいる!! (俺から見て)左から読み上げていくので、名前を挙げられた者は、そいつについていけ! 疾く動かねえと気合注入してやっからな!!」
これを言われると、嫌でも気が引き締まる。
静寂な雰囲気になり、視聴覚悟が決まる。
だが全ての兵士がそのような心構えになる前に、上官が早口で読み上げる。
早口過ぎてどうにもならん!
誰もかれもそう思っているとき、上官に向かって何者かが声をかけた。
「師団長。何をしている」
「……何のつもりだ、結月」
そう、伍長の結月ゆかりだ。
彼があの上官、師団長を止めた。
「俺のいう事が聞けねぇのか、軍法会議にかけるぞテメェ!」
「天皇陛下直筆の場合、どうなるか。君もわかっているんじゃないのか?」
「……後で本部に来い」
「リンチはごめんだね。でも、僕はこの通り見た目だけはいい。ソレでゆるしてくれないか?」
師団長は結月に刀を突きつける。
彼はそんなこけおどしに怯まず、ちゃんとした道理を突き付ける。
それは正論ではない。
「はあ? 俺は好色家だが、男色じゃねえんだよ! ちっ、最初から読んでやるよ。
帝国軍人に再度読んでもらえる事、感謝しろ!」
「「「おおおお!!」」」
兵士たちが師団長の訂正を初めて聞いたことと結月に対して、盛大な謝辞やらなんやら歓声が轟く。
師団長は元の位置へ戻っていく結月をにらみつけながら、ゆっくりと大声で指示していった。
師団長。後藤中将は、大の男尊主義であり、選民主義者である。
帝国は他国を照らす巨大な太陽である。全ての中心であり、全てより強くなければならない。
そのため自分と同じ、男であり帝国軍人であり本土出身でなければ、発奮行事という粛清をすることも厭わない。
更に異性であれば、男の奉仕をすることは当然と考えている。
別にこの考えはいいのだが、生殺与奪、命や行動そのものは帝国軍人が指導しなければならない、なんて考えを持っているので非常に危ない。
そして結月ゆかりは、伍長といいながら実は監査を兼ねた『特務機関』の密偵である。
更に師団長である後藤中将とその周辺以外は知らないが、彼自身伍長ではなく大佐の階級を隠し持っている事を知っている。
最後に、高級士官のみが知っているのは、結月ゆかりが『縁結び』の『現人神』だという事。
「では、僕は愛すべき『小隊』の下へ行こう」
「いけしゃあしゃあと……! 今に見ていろ、ほえ面をかかせてやる……!」
上官は呪詛をつぶやき、結月の背中を見送った。