神無月が終わると、各地にいる『現人神』は神々との『縁』が強くなったことを感じる。感じない者もたまにはいるが、大半感じ入り人々に恵が振り分けられた事を知る。
『縁』は強い繋がりを示すようになった。
だが、それは、かつての戒めとして、始まりとして奉られた存在を叩き起こすことになる。
ソレは遺伝子となって紡がれた彼らの中にいる。
ソレがいつ表になるかはわからない。それでも、潜在的な脅威は今でも、彼らを蝕んでいる。そう、それが良いとも悪いとも関係なく、ね。
「小隊長? 結月小隊長!」
「……はっ。僕はどうしたんだっけ」
「いま、配下の皆さんと会議中ですよ」
「そうだったね」
結月は気を取り直して、30名ほどの配属された兵士を見渡す。
そこには彼が声をかけた、茜や葵もいる。
彼女たちは朦朧としていた彼を、心配するような目で見ている。
結月ゆかりに配属された100名は、全て最西端の村で出生した第二世代の子供たちばかりだ。
勿論、彼ら彼女らを自身の下に集わせたのは、日系人の保護という名目の他にもある。
関東軍の選民主義により、下手に犠牲を出されて困るのでその監査と正当な血筋を
持っている満蒙人を守る為である。
満洲帝国や蒙古国には、かつての中華の王朝と共に逃げ延びた人がいる。
その中には、劉氏や明・清を作ってきた由緒正しい血脈が流れている者もいる。
彼らを保護するのは、中華人民にとって大きな希望と共に満蒙国民の結束を強める力がある。
今中華は、軍閥制に変化しており各地が群雄割拠状態に変貌している。
かつての王朝の血脈の効果は、階級が上位になるほど効かない。
しかし古代の人物を奉っている者や過去の恩恵にすがる者にとって、王朝の名を保持するというのは精神的に絶大な効果がある。
中華は血脈など気にしないという感じがあるが、それは天下騒乱となっているとき。
今は比較的安定している。
よってこの時をどのようにしのぐかが見ものである。
そして実際に取った手は、というと……。
権威や血筋を利用せず、そのまま敵国の王朝として末代にわたるまでの粛清だった。
流石にこれはあかんということで、君主主義の人達が急遽保護に回ったのだ。
これらの結果、『現人神』である『縁の神子』、結月ゆかりが配属されたわけだ、
「僕は君たち、王と共に歩めるのはうれしい限りだよ」
彼と隣にいる側近は、眼前にいる王の末裔たちに微笑みかけた。
今は日本人と混ざってしまって、日系人となってしまった。
そして同化政策によって、苗字を与えられた。
その過程で大半の家庭が、日本の苗字または新たな苗字だらけになってしまった。
日本は過去とのつながりを重んじる。
しかし、新たな大陸での生活ということで、気持ちを一新させる願いを込めて苗字を変える者もいた。
だから変な苗字がいたりする。
「ったく。なんで私が補給兵やらなくちゃいけないんですか。私は工兵がいいって、あれほど……」
「まあまあ、きりちゃん。落ち着いて」
「ちっ、ずん姉が言ったから黙っといてやりますよ」
一人不良がいるみたいだが、姉妹なようで姉が妹を抑制した。
実際に配属先が変更になったものが多く、少々不満が出ているが特別な小隊なので我慢してほしいと結月は思っている。
「えーと、東北きりたんさんでしたね」
「なんかようですか」
腕を組んでいかにも、嫌そうな態度と目つき。
「貴方だけなんですよ、戦場で上手にレーションつくれるのは」
「レ……なんですか、それ」
「保存食ですよ」
結月はこの希望配属先に行けなかった子供たちのための言い訳を作る為、
彼ら彼女らに対して言いくるめようと子細すべてを見て特徴を調べた。
「貴方たち東北姉妹は、保存食に必要な発酵菌をどこからか連れてきて、食料を改良しているのです。
酵母菌・納豆菌……いろんな有用な生物をね。それを補給兵となって発揮してもらいたいんだ」
「う……むぅ、『現人神』にお願いされたら、断れるわけないじゃないですか。卑怯です」
ふくれっ面を見せるが、怒っている様子はない。
寧ろうれしいようで、この後姉と喜色を表し喜びを表現していた。
結月による小隊編成は、滞りなく進む。
「小隊長である僕の指示は、戦場では絶対となる。だから、絶対守ってね。
それと君たちは貴重な人材だ。あまり前線に行かないよう、出来るだけ後方になるように打診してる。
でも君たちは兵士でもあるんだ。いつでも出撃できるよう、心構えをしていてほしい」
人を殺すという覚悟と殺されるという覚悟。
そして長時間の戦闘によるストレスフルな環境変化。
様々な条件を超えなければ、生き延びるのは難しい。
「次に兵士たちに頼むのは、伍を作ってもらう事なんだけど……」
この『特別小隊』は、補給兵5名、軍医2名、偵察兵が3名・支援砲兵が10名の他残り80名兵士になっている。
80名の兵士の中で30名が騎兵で、50名が山岳兵となっている。
結月が伍組を作ろうとしているので、20組出来上がる。
彼らを使う事で戦術的な動きができるのだ。
伍は中華が大昔から使ってきた戦闘形態の呼称である。
ツーマンセルやスリーマンセルよりも、実に戦闘に対して柔軟に動ける。
流石に個人が扱える戦闘の間隔が広くなってきた近代において、
伍よりもスリーマンセルが役立つことが多い。
しかし中華は山ばかり。平野でもないので、伍というのは注意を四方八方へ飛ばすことができるので実に有用なのだ。
「私はお姉ちゃんと組みたいな!」
「うちも葵と一緒がいいんやけど……」
伍に関しては仲の良い者を組み合わせる。
能力が均等になってもいいし、特化を作ることもいい。
しかしここでは仲良し組を作ることで、戦場のストレスを少なくしようと計画している。
「うん。僕は反対しないよ。一緒に戦える戦友を探してみて」
結月の友好的な姿勢に、茜達は笑って仲間探しをする。
ただその仲間はすでに決まっているようだ。
同じ村、集落の幼馴染。
「コウ君! 一緒に戦おうよ!」
「俺と? あいにくだが、俺は軍医だ。向いてないぞ」
「でも一応戦闘できるんだよね?」
「まあ、そうだけど」
「じゃあ、うちらは仲間やね!」
茜と葵の強引な誘いに、村で一番かっこいい水無瀬コウはぶっきらぼうに振ろうとした。
しかし兵士として共に戦うには、色々癖がわかっているような奴がいないと行動が読めない。
読めなければ結果、自身の命を失ってしまうかもしれない。
だからコウは癖を知っている彼女たちの誘いを受けたのだ。
コウは両手を琴葉姉妹に握られ、次の仲間探しに向かわされる。
次の標的は、同い年で一番性徴と成長が早い子だ。
「あ?アタシと一緒にヤりたい? 別にいいけど、邪魔すんなよ」
「邪魔なんてせぇへんよ。うちらはマキちゃんと、一緒に戦いたいだけや」
茜の誘いを受けているのは、弦巻マキだ。
成長が早く身長も高い。力も戦闘訓練で上昇し、同い年で一番力と体力がある頼れる子供だ。
彼女は支援砲兵の兵科になっているが、そんなこと知ったこっちゃないといわんばかりだ。
「肝心な事忘れている二人に行っておくが、伍長が必要だからな?」
「あ」
水無瀬コウの一言に、茜が固まる。
そう、仲良しこよしだが、この4人は次の五人目を伍長にしなければならない。
しかし周囲はほぼ決まっている。
残っているのは、ごく一握り。
そんな時だった。
「伍長なら私がやりますよ」
琴葉姉妹はその明るくはきはきとした声でしゃべる人の方へ、首と共に体も向ける。
そこには厚着のコートを着た、大人びた人物がいた。
「あ、アンタ、誰なん?」
「申し遅れました。私、結月ゆかりが双子の弟、『紲 あかり』です。『絆の神子』をやってます」
「あ、『現人神』がなんで、うちらに……?」
「残った一人ですよ」
残った一人と言っているが、本当は嘘。
『現人神』は優秀な人物が多く、各戦線・方面にて引っ張りだこな人材。
そんな人物が此処に来たというのは、結月と同じ理由である。
そして紲は結月より踏み込んだ任務についている。
それは至近距離にて、彼らとの接触を安全の確保をするためである。
実際であれば師団長ができるレベルで指揮が可能。
更に『現人神』の能力もついて、身体機能も抜群である。
おかげで、十二分に彼ら彼女らを、自身の守備範囲内に収める事が可能なのである。
「皆、伍を組めたようだね。それじゃ、その伍での戦い方をこれから習熟させていこう」
「「「はい!」」」
彼らはとある日まで訓練にいそしむ。
「って、マキちゃん、その野戦砲どこから持ってきたの!?」
「アタシがあの納屋から引っさげてきたんだよ。誰も使わねぇなら、文句ねぇよなぁ?」
実にガラの悪いマキは、驚く葵に野砲を見せる。
彼女が言うように、その砲台は誰も使っていない。
自分のモノは自分のモノとして、ジャイアニズムが光る!
「アタシはこいつを使って戦争するぜ。いいよな?」
「俺は別に気にしない。銃剣突撃にて制圧するだけだからな」
銃弾の詰まりがないように、整備をしているコウ。
軍医なのに非常に戦意が高い。
「えーと……? 茜ちゃんと葵ちゃんは、どんな感じに仕上げようとしてる?」
紲……彼は、残り二人の戦法を見て今後の戦術に役立てようとする。
「うちらは、クロスファイアっていうのを、やってみようと思っとんよ」
「主にお姉ちゃんと私が交互に威嚇射撃している間に、徐々に前進していくの。
そして敵がお姉ちゃんの射撃や私の威嚇に怯えていたり、気を取られるの」
「そんでそのうちに、うちらが相手の側面をついて手榴弾や鉛玉をお見舞いするんや」
二人の戦法は山岳と森が多い中華大陸に対して、非常に有効打になりうる戦術として評価される。
これを連隊にて行えば、非常に戦況が優位になるだろう。
先鋒をおとりにして包囲しに動けば、幾分か楽になる方法だと思う。
彼はそう思いながら、この伍の戦術を考えた。
「それじゃ、基本戦術から行くね。
ゆかりの小隊戦術は、砲兵による面制圧と煙幕による視界遮断を敢行。
そのあと銃剣騎兵の突撃で、それと共に歩兵の突撃になってる。
状況に使い分けるんだって。
それで、支援砲兵でもなんでもないマキちゃんの砲弾規格は、こっちで更新することにしたよ。
変に使用期限が過ぎていると使えないからね。
それで私達伍の基本戦術は面制圧と琴葉姉妹による威嚇射撃中に、私とコウ君が突撃することになるよ。
基本的につかず離れずがいいんだけどね」
笑顔での作戦立案。訓練はきついが、暴力だけでない理性的な内容。
実に納得のできる内容なので、誰もがついてきた。
この訓練によりマキは、中国産の野戦砲を縄付きで引っさげて砲撃を食らわせるという
前代未聞な荒業を取得した。
これには結月の支援砲撃手もびっくり。
ほかにも軍医が人間の急所の場所を教えたりして、確殺または身動きを封じる戦闘を心掛けさせようとする。
効果のほどはわからないが、小隊の皆は肝に銘じるようだ。
「皆さん、昼食ですよ~」
「ちなみに残しやがったら、糞尿の中に突き落としますよ」
補給兵の東北姉妹が登場。
良い匂いがするのと同時に炸裂する東北妹の弁舌。
いつも通りの言葉に、皆は笑う。
「な、なに笑ってんですか、気持ち悪いですよ」
男性陣からもらうにやけ顔に、彼女は鋭いメスを入れる。
昼食に関していうと、この村でとれたものや都市部から運ばれたものばかり。
新鮮な野菜や魚類が、きちんと調理され皆の口に運ばれる。
良い味付けと味覚、食感などいろんな刺激を楽しめる。
そんな素晴らしい食事にありつける小隊は、常に戦意が高い。
戦場では美味しいごはんが娯楽である。
ほかにも色々あるが、一番健全なのがこれ。
まあ施設がなければ、一番難しいのもこれであるが。
「おいしかった~。ごちそうさまでしたー」
「ごちそうさま~」
「すっげぇ旨かった。ありがとな、きりたん」
「此れのために毎日を頑張れる。だから自信を持てよ、東北姉妹」
葵・茜・マキ・コウは、東北姉妹に聞こえるように言う。
「全く……余計なお世話ですよ」
「きりちゃん、よかったね」
「……」
いやいやながらも仕事を褒めてもらえたきりたんは、嫌味を言うが照れていることがまるわかり。
茜達以外からも褒められて、きりたんは自分の仕事に自信を持つようになった。
さて片付けだが、食器はそれぞれが洗うのだ。使い捨てにできる資源などないので、本土でつくられた陶磁器などを使っている。
奇麗な器ばかりだ。
このようなものも、士気にかかわるので最前線では真っ先にこのようなものを支給している。
この後、小隊は上官の兵と共に、要塞にて防衛線の練習をする。
更に配属される戦線も、その時に発表されるのだ。
うかうかしてはいられない。
しかしいつか戦場にて、死ぬかもしれないのだ。
今はこの束の間の休息を、戦友と共に駄弁ろうじゃないか。