原題:茜の受難   作:名無しの権左衛門

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5:開戦

 

 それは突然起こった。

 

 盧溝橋事件。

関東軍がやらかしてしまった地獄への切符だ。

 

 これはすぐに日中両陣営に知らせが入る。

 

 

「何!? 誰だそんなバカな事をしたのは! すぐに召喚し、中国に謝罪するぞ!」

 

 

「奇襲攻撃だと!? 宣戦布告をしない日本鬼子共め。戦の準備じゃ!

支度はできているな、出撃せよ!」

 

 

 大陸側で陸軍の力が大きくなってしまったが故に、発生してしまった今回の暴走。

 謝罪どころでは済まされず、結果的に最悪な方向に向かってしまう。

 

 国共合作。

中国共産党と国民党が手を取り合って、各地方の軍閥と共に日本を迎え撃とうというものだ。

しかしこの最中、重要な事が中国側でも発生する。

 

 それはファルケンハウゼン含む軍事顧問団が、ドイツに召喚されてしまうのだ。

大きな目で言うと、そんなに大事ではないかもしれない。

しかし局所的にみると、それは大きい。ドクトリンという戦闘の基礎のような部分を、

後の部隊に教える事ができないのだ。

 最近はやりの電撃戦や塹壕戦ができない。

これは大きな痛手である。

 

 しかもただでさえ中国は強大で、先ほどまで軍閥で分かれていたという位色々ばらばらだ。

戦闘どころか歩兵装備すらない者もいる。

 ここらの後方支援や補填・充足度に関して、全く知らないところもある。

昔の義和団事件のように、農具や古代中国で使われた近接武器・弓矢があればいけると思うところすらある。

  

「仕方ない。連合国の支援を受けている中国と対等に立つため、枢軸国としてドイツの陣営に入ろう」

「やむなし、でございまする」

 

 これにて、戦争が開始されることになる。

大本営は関東軍の上級将校の召喚と関東軍以外の将校を、中国国境にいる兵士たちの上官として配備する。

だがそれはとてもじゃないが、時間がかかってしまうこと。

馬鹿をしていない陸軍のみで、やらなければならなくなった。

 

 

 そんなこんなバカをしてくれたおかげで、最前線は混乱に陥れられる。

 

「よし、関東軍の力を見せてやれ! あ?招集?バカ言ってんじゃねえぞ」

「大本営からの指令だ。従わなければ、軍法会議で極刑に処す」

「ちっ」

 

 最西端の村の後藤中将も、今回の事件の影響をもろに受けた。

三時間ほどで解放されることになるが、時すでに遅し。

 

 この時すでに、中国共産党が蒙古国の国境を食い破ってきたのだ。

 

 その猛攻はすさまじく、中将のいなくなった師団は撤退を余儀なくされた。

そして蒙古国は二つの市を失うことになる。

その市は、蒙古国が本土より命令を受けていた、最大級の要塞が築かれている場所である。

混乱した師団は残りの市の要塞に立てこもり、中将以下の将校が奮闘することになる。

 旅団や連隊が、共産党に奪取された要塞と同じ要塞を構える場所にて、

適度に侵攻戦と防衛線を行う。

 

 おかげで敵をくぎ付けにすることができた。

 

 だがそのくぎ付けにできたのは、毛沢東と長年流浪した屈強な兵士たちである。

しかも山岳兵だ。歴戦の兵士と将校の17師団を相手に、中将がいない59師団が相手になるのである。

更に敵は蒙古国最大で最強の要塞に引きこもっている。

 これがいつまで続くのか不明だ。

だがこれを打開する可能性を秘めた部隊がある。

 

 『特別小隊』。

血筋的にもかなり重要度が高い、満蒙開拓団第二世代が徴兵されている部隊。

 

 この部隊は単独では何もなしえない。

しかし束になってかかれば、全てを打開できる力がある。

だがここは戦場だ。

彼らが束になっても勝てないかもしれない。

 

 戦術的勝利はなくとも、軍とは一つではない。

よって戦略的な勝利を導ければそれでよいのだ。

 

 

「敵襲……っ、敵襲ーー!!!」

「何!? 『小隊』、全軍東へ撤退しろ!」

 

 小柄で強靭な足腰をしている馬に乗った偵察兵が、『特別小隊』全員に聞こえるよう大きな声で叫んだ。

夜襲ではなく、真昼間。

訓練をしていた小隊は、全員荷物を纏め撤退の準備をした。

 

「急いで逃げるぞ。銃剣騎馬隊は、周囲の索敵だ。奴らが回り込んでいる可能性もあるからな」

 

 戦闘になると結月、彼の口調は変化する。

それは効率的に言葉を回すためだ。

 騎馬隊に指示を仰ぐと、彼らは周囲へ散開していった。

 

 

「アタシが後方を見る。茜達は先へ行くんだ」

「だめだよ、マキちゃん。貴方の方が重装備なんだから、ここは私に任せて」

 

 殿役を請け負うとしたマキに、紲が代役をするという。

流石に上官なので、首を横に振れない……振れないよね?

あ、こいつ、振りやがった。

 

「あかりさん。アンタは測量をしてほしい。わかるよなぁ?」

 

 イラついた表情をするマキの言い草に、なんの不快感を示さないあかりは明るくうなずいた。

 

「わかった。じゃあ、威嚇斉射は任せるね」

「話がわかるじゃねぇか」

 

 後方にはすでに赤い旗を持つ兵士が、ぞろぞろと来ている。

 

「試射はしたことあるんだよなぁ?」

「うん。って、訓練の時にしたでしょ?」

 

 あかりは伍組全員で、マキの野砲を扱えるよう特訓したことがある。

万が一は確実に来るのが戦場。

だからやっておいて損はない。

しかも野砲自体要塞に沢山あるので、砲撃手がいないとき重宝する。

 

「じゃあ、ちょっとまってね……。うん、じゃあ、メートルで。398・39・-8」

「良う候!」

 

 砲台をゼロ地点と考え、奥行き・奥行を0地点に左右・奥行と左右の交差地点を0として高低を示している。

そして野砲の癖を熟知しているマキが、発砲する。

大きな射撃音を発生させ、先頭にいると思われる敵を木っ端みじんにする。

それと同時に敵の方からも、砲兵の攻撃をされる。

 

「逃げるよ」

「あいよ!」

 

 再装填しながら逃げる。

逃げる方向はコウがメスで木々に印をつけているので、簡単にわかる。

敵方からすると熊のひっかき傷にしか見えないだろう。

 

 

 小隊が撤退した先。そこは蒙古国最大の要塞。

結月小隊は、そこまで撤退すると少々安堵するが空気がおかしいことに気づく。

それは中将がいないという事だ。

 

「どういうわけだ?」

「関東軍の怪しい者は、軒並み本土へ召喚です」

「まともな人間がいるとかいう以前に、相手は本気でこっちを殺しに来ている。

召喚とか馬鹿な事考えた奴は誰だ!?」

「大本営かと」

「チッ。で、ドイツの権威主義者である、KAITO殿。これからどうするつもりだ」

 

 結月はすぐに司令本部に向かい、そこで一番偉いとされる大佐に聞く。

 

「漸減戦を行う」

「撤退するというのか、この堅牢な重要地点をむざむざ渡すのか!」

「だが、あんな馬鹿でも、中将だ。大きく士気を削がれた兵士に、何ができると思っている?」

「それは……」

「決定だな、君たちは要塞にて殿に努めてもらう」

「は? 何を言っている、貴様」

 

 結月はKAITOをにらみつける。しかし弱い視線に彼は、何とも思わない。

そのまま作戦を伝える。

 

「確かに女子供は大切だ。しかし、帝国至上主義者が多いこの場にて、貴官らを優遇するわけにはいかないのだ」

「ドイツの皮を被った傀儡め。アインザッツグルッペンに裁かれるがいい」

「そりゃどうも。Mein Fuhrerの足でもなめるさ」

「小汚い猟犬が」

「いくらでもいえばいい」

 

 そういって結月はその場を去る。

その場にたった一人しかいない大佐は、去る結月に据わったしかし鋭い眼光を向けていた。

 

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