「攻めてきたぞおおお!!」
「殺せ殺せ!!」
「うおおお! 天皇陛下万歳!!」
森・山岳・丘陵、と戦いにくい戦場。
そこにそびえたつ最高レベルの城塞。
それが今現在最高の資産である。
敵は中国共産党の熟達した山岳兵。
彼らは森林から、あり得ない精度で城壁上の砲撃手を射殺する。
それを看過させるわけにはいかないと、全体を見通せる良い将兵はあまりいない。
誇りを傷つけられたとして、突撃を命じる馬鹿もいる。
そんな奴らは、ことごとく神出鬼没な敵兵に殺されていった。
またここだけでなく、南部の方でも戦闘が始まっていた。
南部だという事もあって、多くの兵士が大童。
苦戦を強いられていた。
主に中将がいないということで、旅団・連隊レベルでのばらばらな戦闘にならざるを得なかった。
この事が響いてしまったようで、南部にて大損害を被っている。
そして、北の要塞では、『結月小隊』を含めた中将の本軍が戦闘している。
「今から漸減作戦を行う。この城塞の野砲を使って、敵を撃破しながら我々は後方へ撤退する。
物資に関しては運び出すか、中に爆薬を詰め込み占領され次第爆破しろ。
奴らに何も渡すな」
KAITOの作戦が発令された。
今現在中将の次に階級的に偉いのは、KAITOだ。
結月や紲も高いが、今は小隊長である。
臨時に上司になろうにも、小隊の主が別の人間になってしまい、確実に前線送りになるのでなれない。
だからこの場は捨て置かれることになる。
別に紲が行ってもよかったが、伍が崩れるので行けなかった。
「さて、困ったことになった……」
「ゆかり、大丈夫?」
「うん、まあ……。ふぅ……よし、行こうか」
あかりに心配されるゆかり。
彼は盛大なため息をついて、後方に集めていた100人の小隊の前に立つ。
「これより漸減作戦の後半に移る。
我等はこの戦闘の要になる。よく聞け」
結月は戦闘立案を彼らに伝える。
それは城塞にて他の殿と共に戦闘し、敵を内部に引き寄せたら各種トラップを発動する。
そして後方にて配備された砲兵の面制圧の嵐を、この要塞に降り注がせる。
この雨の中をかいくぐって、東へ撤退するのだ。
「支援兵は先に撤退してくれ。騎兵は歩兵との歩調を合わせるため、先に丘陵の天辺に退避だ。
残り歩兵はこの要塞に敵を誘引しながら、撤退する。
皆、生きるんだ。行くぞ!」
「「「応!!」」」
結月は東北姉妹を先頭に、支援兵を撤退させる。
これはすぐにできた。
次は騎兵の戦略的再配置だ。こちらも強靭な足腰を持つ馬のおかげで、
共産党軍と接敵した頃には戦闘配置についた。
そして問題の歩兵たち。
初めての戦闘に、皆の心臓は悪い方向で昂っている。
「ぁぅぁぅ……」
「大丈夫やで、葵。うちが守ったるからな」
「ぅ、うん。でも、怖い……」
(うちはあおいのお姉ちゃんなんや。うちがしっかりせぇへんと……!)
茜は歩兵銃を握りしめて、心に誓う。
小隊の第16班である紲の伍組は、城塞の上で一つの野砲を任されている。
主にマキが行うのだが、他の者はその護衛と周辺の戦況に対応するためである。
撤兵時に少々兵士を失ってしまったがため、その埋め合わせ。
だから野砲の扱いに長けており、『現人神』が配置されている彼らをつけたのだ。
「っし、『絆の神』がいれば、なんとかなるぜ」
「ああ。俺たちは一蓮托生だ。何人たりとも、負ける気がしねぇ」
『絆の神』がいることで、付近にいる者は『心』の距離が近いほど能力が上昇する。
勿論この『絆』の効果は、『人の神』が認めている日本人の範囲にとどまる。
そして普段ではわかりにくい絆でも、視認できる距離になるほどその効果や絆の強さを
身に染みて感じるようになる。
そのため、お互いの背中を預けられるようになり、離反者が確実に少なくなる。
このような信頼関係を強く感じていることで、他にも恩恵が出てくるのだが
いろんな効果があるので紹介できない。
そんなこんなで、日本兵や各地の日系人・同化政策により帰化した日本人は、
気持ちを昂ぶらせている。
「……敵兵、300M先にいるよ」
紲はこの伍組と隣にいる砲撃手に聞こえるくらいの声でつぶやく。
『絆の神』は、相手の絆やそれに関係する結束力が強いほど相手自身の存在感が可視化され、それを見て周囲に伝えることで戦況を瞬時に判断させることができる。
つまり彼女には、敵の全体図が見えている。
それでも稼働率や充足度・意志・士気・作戦がなければ、戦術的勝利を収めることは至難の業。
戦争は個ではできないのがよくわかる。
「敵兵、300先進行中!」
「射撃準備急げ!」
伝播する情報。
これが要塞全体に伝わっていく。
血気盛んで余裕ぶっていたお調子者、心配になって喚き散らしていた者。
いろんな人は、徐々に迫ってくる殺気を感じて、戦争開始と死を感じて閉口した。
昔の戦争であれば、大きな声を出して恐怖を押し殺す。
しかし近代から始まる戦争では、死を感じにくくなった。
流石に命中精度が低いと、騎兵や槍兵など中距離兵士が役立つことがあるから、死を感じないわけではない。
それで死を感じにくい遠距離だと、今度は気迫ではなく集中力と静寂が必要だ。
うるさいと場所を悟られ、何十発の銃弾を受けて死ぬ。
昔の様に刺し違えるなんてできない。
確殺の間合いは、常に手の届かないメートルの世界だ。
一部暗殺という例外もあるが、今は大体こんな感じ。
「茜ちゃん、葵ちゃん、マキちゃん、コウ君」
子供の4人に、優しく声をかける紲。
「大丈夫。どんなことがあっても、私が守るから。だから、背中は任せて、がんがんやっちゃえ。
後悔は戦闘が終わってからにしよ?」
彼は男とは思えない表情で、彼らを勇気づける。
流石に軍医であるコウや普段悪ぶっているマキも、表情を強張らせていた。
茜は気負いすぎて、葵は恐怖で、ガクガクと震えている。
葵は泣いてさえいる。
だから紲は皆に触れる。
そう、手に。
北部の気温が低い土地にて、彼の温かい手は彼らの心を一瞬溶かす。
そう、一瞬だけだ。
だがそれでいい。
コウやマキの不安と恐怖にやられそうな顔が、少し前向きなったようで決意に満ちた表情になる。
茜も口を締めて、やる気をあふれ出させる。
葵は……まだ、体を強張らせている。
でも……。
「葵。大丈夫。お姉ちゃんはここにおるよ。そんでマキちゃんやコウ君・紲の神様もおる。みんな一緒や。せやから葵はそんな心配せぇへんでええで。
一蓮托生や!」
白い息を吐きながら、笑顔で茜は葵を元気づける。
その様子にマキはいたずらっ子の様にはにかみ、コウもやってやろうぜと言わんばかりの表情をする。
紲も微笑む。
皆葵の方を見て、この伍組全員で生き延びようと語り掛ける。
「み、皆……うん、頑張る、私―――」
葵が言葉を口にしようとしたその時、隣の砲撃手と共に砲台が爆散した。
紲。本当は紲星です。コピペとかIMEで、名詞登録するの面倒なので紲のままです。