「――み、皆……うん、頑張る、私――」
葵が言葉を口にしようとしたその時、隣の砲撃手と共に砲台が爆散する。
紲意外がびっくりし、炎に包まれ崩れ落ちる数人の人だったモノと周囲に散らばる部品。
高温により真っ赤になった砲身がひしゃげており、いかに敵の一撃が熾烈なものか伺わせる。
「砲撃だ!! 撃ち返せ!!」
誰かが言うよりも先に、要塞の上にある砲台が一斉に火を噴く。
砲台の他にも銃撃音と弓矢の擦れる音も聞こえる。
「紲様、KAITO殿より本隊が来ているかについてですが」
「うん。まだ、敵は奥に潜んでるよ」
城壁を走り回っている通信兵が、紲の下にきて何やら情報を貰っている。
そんな最中一番最初に気を取り戻したマキが、城壁野砲で敵兵がいると思われる場所を攻撃する。
「マキちゃん、14位左」
「ああ」
一人で砲弾の詰め替えをして射撃するまで10秒もない。
そんな怪力な彼女は、紲と連携して誰よりも戦果を挙げている。
このまま耐えればどうにでもなりそうだ。
だというのに、なぜ撤退するのだろうか。
その理由はKAITOがドイツ人だからこそ、である。
ドイツから中国の技術レベルを、そのまま資料で読んで日本帝国に再度来日した。
だからその脅威を十二分に知っている。
そう、別に中将が不在とかどうでもよかった。
なんとしてでも、日本とドイツが枢軸国として同盟関係であり続けるためには、
少しでも日本軍を温存しておかなければならない。
結果的に、彼は撤退を余儀なくされた。
そしてそれを背景とした技術力は、先ほど城壁上にある野砲にされた攻撃の正体でもある。
その正体は……。
「お、おい。なんだよあれ……」
「黒い……矢……?」
「違うぞ、あれは……砲弾だあああ!!??!?」
そういって城塞上にある建物や砲台、迫撃砲・榴弾砲が破壊されていった。
本来ならばあり得ない。
だが前線から500M離れた土地にある後方補給路が破壊されたことから見れば、
現実離れとは言えない。
全くの現実であり、相手の実力なのだ。
そしてそれは技術面において、兵器の破壊力にしっかり表れる。
「紲様。KAITO殿より、あれはロケットといって帝国が作っているジャイロ制御式噴進弾より、
精度と威力が高く飛距離もあるということ……!
これより漸減作戦の開始を始めるとのことです」
「分かりました。幸い、敵の本隊も近づいてきていますし、やった方がいいと思いますよ?」
「……」
通信兵は何も言わず去った。
顔色は悪くないが、歯を食いしばっている。
この漸減作戦は、立案後の研磨時に発表されていない事案があるのではないか、と紲は思った。
それもそのはず、彼の視界には敵の発揚の他になにやらどす黒い液体状のものが周辺に散布されているからだ。
これを見て彼はただ訝しんだだけだ。
「お、おね……うぷっ……」
「葵っ!」
人が木っ端になり、焼ける臭いをかぐのは初めての事。
更に地獄と思える様相を見て、葵は吐瀉するのを防げなかった。
胃の中はからっぽなので、さすがに一部胃酸しか出てこなかった。
「マキ、どうだ?」
「納屋においてたやつより精度が低すぎる。思ったより使えねぇよ、これ」
そういってマキは、近くにいるコウを抱えて飛びのく。
その瞬間扱っていた野砲が爆散した。
一部の破片が皮膚や服を掠めるが、致命傷になっていない。
服の一部が燻っただけだ。
「皆、撤退するよ。もう、この城塞は体を成していないからね」
「じゃ、アタシは砲台もってくか」
「マキさんのは撤退先の出口付近に置いてるから大丈夫だよ」
そう会話していると、下の方で日本語と中国語の喧噪が聞こえてきた。
その時丁度偵察兵の一人が走ってきた。
「相手の砲撃にて、城門が破壊。撤退せよ」
「わかった。じゃ、皆、行くよ」
偵察兵は要約してしゃべって次のところへ行った。
しかし敵の爆撃に巻き込まれて馬もろとも、肉体がちぎれてしまい泣き叫び痙攣して死んだ。
「やだ、やだ……おうち帰りたい……」
「葵。しっかりして、葵っ! 逃げるよ!」
「やった、帰れる……」
恐怖で足腰に力が入っていなかった葵だが、撤退の司令を聞いてふらふらしながら立ち上がる。
しかし吐瀉や心労で、走れもしない葵。
それを見て、コウが抱き上げた。
「俺が連れていく。茜、援護頼む」
「え、うん。お願いするで!」
「任された。マキ、紲さん、行くぞ!」
率先して動くコウ。
銃は茜に持たせて、撤退を開始する。
「男らしいことしちゃって、まぁ」
「青春だね」
「聞こえてんぞ、コラ」
ただの足手まといを連れていくだけだ、というようなコウ。
だが紲とマキにとって、それは別の何かに見えて仕方ないようだ。
「葵とコウ君は、うちが守る!」
そうして撤退が始まった。