林中の中での二ヶ月間   作:夜仙

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三十三日目

 ザクザク、雪を踏む足音が辺りに聞こえる。小栗はいつも通り糊付きの服を着て、寒い外を歩いている。

 

 今日、彼は或る男に会いに行くためにこの寒い山中を歩いているのだ。

 

「寒いな、上着でも着てくるんだった」

 

 一人、そう愚痴って苦笑いした。

 

 

 

 

 

 電車やバスを使って、小栗はあるところに来た。それは黒死館からはるかに遠い、ある何の変哲もない旅館だった。一つ否定しておくとすると、別に彼はここに泊まりに来た訳ではない。もう一回言うが、ここに泊まっている奴に小栗は会いに行くのだ。

 

「さて、行くか」

 

 こうして小栗は旅館へと入って行った。

 

 

 受け付けの人達から渡された来客名簿に名前を書いてから、目的の部屋へと歩いて行く。木で作られたこの建物はやはり全体的に古めかしい感じがし、彼の住んでいる黒死館とは違って、どこか安らぎを与えてくれる造りであった。

 

 そして小栗は目的の部屋に辿り着いた。

 

 彼は一瞬だけ目を閉じてから、部屋の襖を開け、中を見る。

 

 

 そこに居たのは髪の毛がもっさりとしている和服姿の男で、男は何かを懸命に書いている。だが、何を書いているかは乱雑に置かれている本のせいで何も見えない。だが、小栗は男が何を書いているのかを知っていた。小栗は男に向かって言葉を発する。

 

「ヨコミゾ、『溺死』、『転落死』、『絞殺』、『焼死』、どれが良い?」

 

「うーん、『転落死』かな。『絞殺』は道具とかを小説の何処かに用意しなくちゃいけないし、『溺死』はどのようにして読者相手に上手くやれるかどうかで難しいし、『焼死』はただの放火だと読者がつまらなくなるだけだから、かなりの工夫をしないといけないから、そう考えると『刺殺』と共に推理小説でよく使われる『転落死』かな」

 

「ふん、何回も言わせるな。お前を殺す方法を話しているのだ」

 

「えっ、そうなの。それより今月も原稿の締め切りがヤバくてさ」

 

 これだけを聞くと、ヨコミゾと呼ばれている男が頭が可笑しいものと思われるかもしれない。だが、それは一理あるかもしれない。ヨコミゾは小栗をミステリ嫌いにさせるぐらいの(というよりは、ドン引きされる)ぐらいのミステリ好きだった。そんな彼の仕事は会話中でもあった通り、推理小説家だ。

 

 小栗はヨコミゾのこの反応に対し、ため息をつきながら

 

「また、それか」

 

 と言っている。

 

「そもそも、前にも言った通りミステリなど所詮はただのパズルゲームのようなものではないか」

 

「ははっ!虫君は相変わらずだな」

 

 笑うヨコミゾを見て小栗はため息をついて、ヨコミゾの近くにあったホットココアを飲んだ。これはヨコミゾが小栗のために買っておいたインスタントのやつである。

 

「なんで、お前は毎回私が来る時に必ず私用のココアを買うんだ。予言者か、貴様は」

 

「僕はそんなんじゃないよ。ただ、何となく虫君が来ると思ったから用意したのさ」

 

「フン、それはありがとうございました」

 

 と、苦々しく言う小栗だが、表情はどこか嬉しそうだった。

 

 

「で、ネタなんだけど」

 

「はぁ、まぁ良い。私が今までのミステリを覆す前代未聞のやつを言おう!」

 

 

 誇らしげに言う小栗、それをニコニコしながら見るヨコミゾ。この二人の談義は夕方まで続いた。 




小栗とヨコミゾの談義するまでを書きました。
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