林中の中での二ヶ月間 作:夜仙
侍従長を待て、と言われてから十分後、侍従長らしき男が穴に入ってきた。長い金髪の髪をに何故か頭の方には包帯が巻かれており、また格好は侍従長としては納得である。
侍従長は小栗にニッコリと微笑み、
「あなたが小栗虫太郎様ですか?」
「そうだが」
「お待ちしておりました。あ、クラシックをおかけしますので」
(何だこいつ)
自分の意思を何一つ尊重せずに勝手にラジオのクラシックをかけ始める侍従長に少し戸惑いを感じ始める小栗。それとは対象的に何だかノリノリな侍従長。もし他の誰かがこの光景を見たら異様な所だなと思ってしまうだろう。
事実、今彼らはお互い黙りあっている。しかし、そんなのを関係なくラジオの司会者は饒舌な舌を回し続ける。
『続いては、ミイラ男さんからのリクエスト、【エルガーの《威風堂々》】です』
それを聞くと侍従長はまたも笑い、
「あれは私がリクエストしたものです」
と言った。
だが、小栗としては苦笑いをするしかなかった。もちろん、【威風堂々】が嫌いなのではない。小栗が注目しているのはリクエストの名前の『ミイラ男』だった。確かに、この侍従長は頭に包帯をかけているとは言え、それをリクエスト名にするか?、というささやかな疑問。
(おかしな男だ)
小栗はそう思った。
「さて、あなたの事はドストエフスキー様やプシュキンさんから聞きました。犯罪の証拠を消す異能だとか」
「あぁ、そうだが」
「素晴らしい、そんな異能があれば私もちょっとはドストエフスキー様の役にたてるのですが」
「…そんな駄目な異能でも持っているのか?」
それを小栗が聞くと、首を横に振り
「はい。私の異能はこうやって…」
そう言うと、侍従長の近くの岩から小さいゴーレムのようなものが出てきた。
「これしか作れないのか?」
「いえ、この部屋の倍ぐらい大きくする事も可能です」
「…と言う事はお前の異能は岩石を操る異能か?」
「ええ、そうです。私の異能『断崖』は岩石を私の意のままに操る異能です」
それを聞くと、小栗は「羨ましい」と呟いた。彼にとって、この異能は犯罪者になったり、共犯者にならない限り、小栗の『完全犯罪』は無意味になるのだ。だから、戦闘に向いている異能がほしいと思ったのは一度や二度じゃない。それを相手が持っていると分かったから、侍従長を羨望の目で見たのだ。
そこからはまた静かになった。ラジオから流れてくる【威風堂々】しかこの部屋には音がなくなった。
やがて、ラジオから流れて来る【威風堂々】が佳境に差し掛かると侍従長が切り出した。
「あと、少し待てばドストエフスキー様がこの部屋に来ます。ですのでお待ちを」
そう言って、侍従長が部屋から去った。その時ちょうどラジオから流れていた音楽もフィナーレを迎えたのだった。
作者はオーケストラだとヴィヴァルディの【四季】の【春】が好きです。