林中の中での二ヶ月間 作:夜仙
ザーザーザー
この時期特有の春雨がこの森にも訪れる。
ひたすらに水が葉を痛めつけるように降る雨は人々はあまり好意を抱かせない感じがあり、孤独感というものが雰囲気的にでている。
小栗はそんな春雨を無視し、黒死館の中で両手にある書類にじっと視線を注ぐ。これは二日前ドストエフスキーから貰った探偵社とマフィアの異能者の情報。その中の『江戸川乱歩』のところを彼は見ている。
洒落た探偵服に短い髪、低い身長から子供さがある。目は狐のように細めているのかつぶっているのかよく分からない。
そして、その隣の書類には『エドガー·ア·ランポー』という男が出ている。長い髪の毛にうっすら見える暗い目、高い身長の体の肩には彼が飼っているカールというアライグマがいる。この男も名探偵と言うには程遠い陰気なキャラで、思わず「こいつ、友達いないだろ」と思った。小栗もいないが……
小栗は一通り書類を見ると、ため息をついた。さっきからずっとこの調子だ。原因はこの二人、特に江戸川乱歩とかいう男の実績だ。
彼が関わった事件は全て解決されている事だ。さらにだが、ア・ランポーは乱歩に負けるまでは『推理の巨匠』と呼ばれ、世界最強とも称していたという。
「はぁ〜」
小栗の口からため息が出てくる。この二人をどう騙すか。それが彼にとっての今最も考えなければいけないことだ。そのせいもあってか彼はこの頃、書棚にある本を手に取っていない。
その時だ。
プルルルル
電話の着信音が部屋にうるさく響いた。
〜前日終了〜
〜後日(四十五日目)〜
小栗はとある旅館の廊下をズンズンと歩いていく。その顔には何処か怒りが込み上げているような顔をしている。
そしてバンと襖を開く。
「おい!ヨコミゾ!電話はするなとあれほど言ったはずだぞ!」
小栗は開けるとともに大声で机に向かっているヨコミゾに叫ぶ。これには驚いたのか当の本人は机にある手がほんの一瞬ビクッと震えた。そして、くるっと小栗の方を見る。すると笑顔で、
「びっくりしたよ、虫太郎君。君がこんな事をするなんて思いにもよらなかったよ。あと、そんなこと言ってたっけ?」
と言う。それを小栗は鼻で笑い、
「嘘つけ、全く驚いてなかっただろ」
と言う。どうやらヨコミゾが驚いた仕草をしていたのには気づいていないらしい。
これにヨコミゾは反論することなく、ただ笑みを浮かべていた。
そんなヨコミゾに呆れ果てている小栗が口を開けて、何か言おうとしたが、口を閉じて言うのをやめた。どうやら、これ以上怒っても無駄だと感じたのだろう。
「それで、今度はなんだ?」
「いつも通り、締切が近くてさ〜」
「またか……」
ため息をする小栗。
確かに人気作家であるヨコミゾの立場にあるため、それ相応に忙しいことは、なんとなくだが小栗でも考慮できる。だが、それにしてもわざわざ自分を殺そうとするやつにネタをくれなんて言うのか、と不思議にも思ってしまうのは自分だけかと、小栗はまたため息をつく。そんな小栗をヨコミゾは笑い、
「虫太郎君、そうやってため息ばかりついていると、幸せは来ないよ」
「だまれ」
小栗は嫌そうに目を細めて言う。
部屋にある古時計がカチッ、カチッと音をたてて、時間を一人で公表していた。
刻々と過ぎていく日々……。