林中の中での二ヶ月間   作:夜仙

9 / 10
今回もほのぼのしていません。


なお今回、本編と被りそうな所はなくしましたので、少し『あれ?』って思うところがあると思いますが、ご了承してください。詳しくは本編に書いてあります。




五十九日目

 チクタクチクタク

 

 腕時計が静かに音を鳴らして、時間を進める。それは何事かを知らせるかのようだ。

 

 だが小栗にはそれが何か分からない。

 

 強いてあると言えば、今日をもって暫くの間憎き相手ヨコミゾと会えないことだろう。

 

 彼は暫く外国へと滞在、いや逃亡するためだからだ。

 

「雨はまだ降るというのか……」

 

 春雨前線は去ったと天気予報ではやっていたが、結果は酷かった。

 

 ザーザーと強く地を打って鳴る雨。黒く何重にも分厚い雲の層が青空や太陽を遮っている。

 

……

 

………

 

………

 

 昨日の逃亡の最中、小栗に一つの電話がかかってきた。相手は見ずとも小栗には分かっていた。

 

(こんな時に……)

 

 着信画面を切り替えて、電話モードにする。すると案の定、彼が思っていた人物の声が聞こえてきた。

 

『やぁ、元気かい!虫君』

 

 その声は小栗にとっては今一番声を聞きたくなかったヨコミゾからだった。彼はいつもと変わらず無邪気な明るい声で小栗に喋りかける。

 

「明日さ、ようやく仕事が終わりそうだから、僕んちに来なよ。もてなすよ〜♪」

 

 小栗はそれを聞いて、思わず目尻を抑えてため息をする。

 

 ヨコミゾの『もてなす』には碌な事がないのを一番知っている小栗。

 

 前にヨコミゾに同じようなことを言われて嬉々として行ってみると、もてなしとして渡された物は吃驚箱だったリ、飲み物はかなり酸っぱい檸檬ジュース、挙げ句は静電気のボールペンだったりと散々な目にあったのだ。

 

 彼が目を抑えるのも無理はない。

 

「それ、パスしてもいいか?」

 

『えぇ、なんでよ!』

 

 不満げな声を出し、行くよう訴えるヨコミゾ。これには小栗も思わず「お前は子供か!‼」とでも言いたくなる。

 

 

『でも今回は本当に来てくれ。頼む』

 

 さっきまでの明るさとは打って変わって真面目な低い声が電話から聞こえてきた。

 

 小栗は突然のこの変化に思わず、目を大きく広げた。

 

 沈黙が五秒程この二人の間に流れる。

 

 これでは駄目だ、そう思い、

 

「おい、どういうことだ!」

 

 と、怒り口調で喋るが、その時にはツー、ツー、という音が聞こえてくるだけであった。

 

…  

 

……

 

……… 

 

 確して小栗はヨコミゾと会うことになった。

 

 部屋に入ると、ヨコミゾは何時もと同じように原稿を……書いていなかった。

 

 ヨコミゾは小栗を待っていたようで、正座をして入り口の方向を向いていて、何時も原稿を書いている机には出来上がったと思われる原稿用紙の束とそれを入れる茶色い封筒が整えられて置かれている。

 

 小栗はその異様な光景を見ていると、何処からかゼンマイが回る音と機械が動く時に出る音が聞こえてきた。

 

 見てみると、そこには金髪で目の色が青い召使いのような衣装を着た女の子の機械人形があった。それが音を立てて、ヨコミゾの元へとゆっくり向かっていく。

 

「驚いたかい?」

 

 ヨコミゾは機械人形をひょいと両手で持ち上げ、腹の上に抱きしめる。

 

「どうした、お前。こんな物を見せる為に私を呼んだのか!?」

 

「まぁまぁ、取り敢えず座りなよ」

 

 怒りとも呆れとも呼べる声音をしている小栗に対し、平然と座布団を勧めるヨコミゾ。

 

 これには小栗もはぁ、とため息一つをして座らざるをえない。 

 

(やはり冗談混じりか……)

 

 呆れつつも、これなら容易に外国行きを伝えられるな、と内心はほっと一息をつく。

 

 そして、小栗は外国行きの事をヨコミゾに伝えようと口を開こうとする。

 

 しかし小栗の言葉はヨコミゾの次の言葉によって言えなくなってしまう。

 

「実は今日、大事な事を言わなきゃいけないんだ」

 

「大事な事?」 

 

 訝しげに小栗はヨコミゾを問い詰める。

 

 これにヨコミゾはこくり、と頷く。

 

 同時に腹を擦る。

 

「それはね……」

 

……

 

………

 

…………

 ザーザーという雨の音が終始降る中、小栗は一つの茶色の封筒を脇に抱えて廊下を出ようとしていた。

 

 彼は宿屋の女将がこの時間帯にば庭の掃除をしていて、他は料理などの支度もあって、ここを通らないだろう時間をあらかた行き慣れているため把握している。それを使って歩いていっているのだ。

 

 

 人に見つからないように慎重に歩き、宿の受付まで辿り着くことができた。山田受付はやはり最初に来たときとはあまり変わっていない。時代に合っていない黒電話、誰の書いたかも分からない絵、剥がれかけのポスター……どれも宿泊施設としてはかなり年季の古い感じをそそられる。

 

(今思えば、このオンボロ宿はあいつにピッタリだったのかもな)

 

 小栗はそう思い、少し辺りを見回しただけで外へと出る。

 

 外には雨に打たれながらも主人を待っている黒い車があった。そこには『死の家の鼠』で同じ仲間である一人の男が車の運転席で待っている。 

 

 

 小栗はそれをちらっと見て確認し、宿の方を振り返る。

 

 立派な立派な、ヨコミゾが住んでいたオンボロ宿。木製で作られたそれは春雨に打たれて、僅かながら色を変えて、自己の変調を周りにアピールしようとしている。

 

 ふと、ヨコミゾの笑顔が二階の窓から見える。

 

 しかし、それはただの自分の視覚、及び脳が作り上げた蜃気楼の他ならず、次の瞬間、ふつと消えていた。

 

「サヨナラだ、ヨコミゾ」

 

 傘たてから傘を抜き取って、彼は宿を背にして車へと向かう。

 

 最後の友との過ごした時間を思い出しながら。

 




次回最終回です。

あと、今回長めになってすみません。読みにくかったり、面白くない、と思われましたらそれは僕の責任です。

そこはご了承してください。 
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