「...ここは樹海、だよな?」
深は夢の中で樹海にいた。
霧の濃い樹海だ。
前を見ても3~5mは霧で見えることはなく、これでは、先が崖でもわからない。
これがこの先本当に崖なら、真っ逆さまに落ちるしかない。
ただ樹海といえば、彼にはたったひとつ思い当たる話があった。
「樹海つったら自殺の名所、俺には自殺願望なんてないなら来るはずないんだけどなぁ...。」
そう、そもそも深には今のところ自殺願望がない。
というより、普段学校やゲームセンターなどに行くとき以外、
彼が自発的に外出することは家族で旅行する事しかなく、
自分一人で決まった用がなく外出するなど言いだせば、家族も友達も愕然とするレベルでありえない。
ただ、深はこの景色に、まるでゲームの世界にいるような没入感と興奮のあまり
深は樹海をまっすぐ歩きだした。。
景色はまったく変わっているような気がしない。
ただ木々の下に落ちた枯れ葉を踏み歩く音だけが確かに進んでいると、実感させてくれる。
変わらない景色にもどかしさを覚えたのか、だんだん歩くスピードを上げるうちに
まるでそれに比例していくかのようにだんだん木々が風に揺れる音が次第に大きくなるのを感じた。
その風の音とともに掠れた声が聞こえた。
⦅行くな...。⦆
「...ん?誰かの...声?」
その声を聞いた途端、深の足が止まる。
一瞬聞き間違いかとも思うほど微かな声。
それでも確かに声だとしっかり認識できた。
誰かの言葉がとても過敏に感じる時期があった。
不快感を覚える耳障りな言葉の内容も
気になって仕方がなくなる。聞きたくないはずの言葉の中身が気になってしまう。
『陰でどんなことを言われているのか』
そんな不安のせいで聞こうとした言葉が
自らをさらに苦しめ、蝕まれていくことになるとはあの時の自分には想像もつかなかった。
その恩恵か悪影響か、人の声がよく聞こえるようになった。
「声質的に女性で...同い年くらい...かな?」
推論を立て、その内容についてすこし考えてみることにした。
「...行くな?この先に行くなってことか?
警告するなら、もうちょっと危険性くらい教えてくれるだろうし...なぁ...。
”行かないほうがいい”ってことならもっとやさしく言う...よなぁ...。
これ危険性さほどなさそうだし、何より
行くなって言われるとなんか行きたくなるな...。」
深は、聞こえた言葉にあえて逆らってみることにした。
ようやく何か起こってくれる。
期待に胸を躍らせ、走る。
この広大な自然の中、まったく変わり映えしないことが何よりも退屈になっていた。
やっと何かしらのイベントが起きる...そう信じて約30分だろうか。
「...何も起こらないじゃん。」
三十分走って得た結果は。
何も起こらない。拍子抜けするほど、何もない。
もどかしさはやがて苛立ちに変わり、深は期待を裏切られ、
溜息をこぼす。
「と、そう思うよなあ?残念、起こるんだねこれが」
と、突然に。
軽薄な喋り方をした子供...さながら小学生の声。
この状況を愉快そうに話す声に深が警戒する。
「...誰だ?」
さっきの声の主ではないと直感で理解した。
周りを鋭い目つきで見回す。
結局、周りが全然見えないのであまり意味をなさなかった。
それをどこからか、観察しているのか、ケタケタ笑う声が聞こえる。
深はただただ『見つけたら一発殴ってやろう』と思った。
そしてまた軽薄な声が聞こえた。
「うっわぁ目つき悪いなこいつ。...う~ん、じゃあさぁ、誰だと思う?」
...結論から言ってしまおう
『わかるわけがない』
多分、面白がってふざけた質問をしてきているのだろう。
その上目つきのことも。深は目つきに関しては結構気にしているのでかなりイラっとくる。
もはや答える気も失せたが、とりあえずふざけた質問にはふざけた答え方で返してやろうと
そんな反抗心と意地と苛立ちで返した一言。
「じゃあ、声しか出せねぇ幽霊さんかぁ?ああ゛?」
怒りに任せたままやけくそで回答をすると、真っ白な体をした”誰か”が現れる。
誰かといっても、親しげに話しかけてきたあたり自分のことを知っている存在であろう者。
しかし霧が濃い。誰かは特定できずその上、目や口、首、足先だけどうしてもよく見えない。
だが確かに見えた。口をニヤけさせていくと共に...言葉を発した。
「残念、僕は...。
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深は、そこで目を覚ました。
「...ん...あ~...寝てたのか...。」
一連の出来事が夢だったことにようやく気付く。
あの奇妙な現象が夢だったことに安堵し、目をこする。
「そうだな、妙にうなされてたな。」
「うん、そうそううなさ...え?」
起きて呟いた独り言にしっかりとした返答があり、その声の主を探そうと周りを見回す。
だが、周りを見回してみてもそれらしき人は見つからない。
「あれ?さっき確かに...ヘブッッ」
頭にチョップをくらい、頭をおさえる。
後ろからだということにようやく気付き、後ろに振り向くと...。
「やっと起きたか、さて、戻るぞ。」
リゼがいた。
少し怒っているのだろうか、声が少し低い。
その声でやっと何があったのか理解し、また前に向きうつむく。
「いつまで寝てるつもりだったんだ?」
と、呆れた顔でリゼが質問する。
そろそろ怒るだろうなと深の勘はそう判断した。
ここで、深のおふざけが始まる。
「そうだなぁ...。じゃあ、あと十分ぐらい眠らせてくれる?」
少しからかいながら返答し、また眠ろうとする。
「ぶっちゃけ眠いし、というかいい感じの温かさので、そよ風が吹いてる。
この天気を楽しまないのは損だと思うなぁ?」
普段全く外に出ないくせに口だけは達者である。
実際、深は過去に一度だけ外で眠ったことがあったぐらいの経験しかないし、
それでも「外より家の方が快適」だと言い張り、友達と喧嘩したこともあるくらいのインドアだ。
「そうか、じゃあ眠らせてやるよ。」
冗談交じりに答えを返すとCQCという格闘術を使おうとしたのか、リゼが肩を回す。
半分冗談で半分本気なのだということも、深にはなんとなく理解できた。
それでも、リゼの力だともれなく逝ってしまう危険性に気づき、
「待って待って!わかったからやめろ!」
と慌てて立ち上がる。
今、死んでしまったら攻略してないゲームが攻略できなくなるし、
その他いろいろなの未練があるので死んでられない、死にたくない。
「そう。それでいい。あ、あとメモ帳。落としてたぞ。」
リゼからメモを差しだされ、一瞬中身を見られてないかと思ったが、
それなら勝手に見てしまったなりの反応があるはずなので、見ていないのだろうと判断し、
そのまま素直に受け取った。
「あ、うん、ありがと。じゃあ急いで戻りますか。」
メモ帳を受け取り、リゼより先にお店に戻る。
その後ろ姿を見ながら、言葉をこぼす。
「あいつは何を...?」
リゼのその言葉は、
『青野 深』という人間が、自分たちが考えもしない何かを見たがっているのではないか。
そう感じ、チノたちにあえて話さず隠しておくことにした。
「あ、やっと戻ってきました。どこ行ってたんですか?」
お店の入り口ドアのベルの音に反応して、深に気づき、
それにつられるようにココアとシャロもこちらに向く。
「あ~。うん、トイレ行ってたの。」
当然のように嘘をつく。
折角お店のカップを買いに来ているのに
外で寝てたなんて知られたら多分怒られる。
嘘をつくこと自体に罪悪感は全くないが、
外で寝てたことに関しては少しは感じているようだ。
「リゼさん、探しに行きましたけど、会いませんでした?」
チノから見ればリゼが探しに行ったのに、すれ違いで帰ってきてしまったように見える。
深は後ろを向いて確認するがリゼの姿はなかった。
「会ったよ。多分そろそろ戻ってくると思うよ。お、来た来た。」
そんな話をしていると、またドアのベルがまた鳴る。
「おいおい、置いていくなよ。」
リゼは戻るなり、深にそう言う。
本人には置いて行った自覚が全くないので、微妙な反応しかできなかった。
「そういえば、シャロさんを暴漢から救ったって凄いですねリゼさん。」
シャロの話を本当だと信じ切っているようだ。
「え?それよく勝てたな。どうやって追い払ったんです?」
いくらリゼと言えど体格的には暴漢側が有利なはず。
どうやってシャロを救い出したのか、深も割と気になった。
「え?シャロを暴漢から救った?そんな事してないぞ?」
「「え?」」
シャロの話を信じていた二人は話をあろうかことか当事者にその話を否定されて
何かおかしい事に気づいた。
「もしかしてシャロから聞いたのか?」
「はい。」
「うん。」
口を揃えて肯定する二人。
「あああ!!待ってくださいリゼ先輩!」
シャロが話を盛りに持っていたことが明るみになってしまった。
ホントのところはというと、暴漢ではなく兎から救ってもらったらしい。
「なんだ、面白い話かと思ったのに...興覚めだな。」
「兎が怖くて悪い!?」
話の真相が思ったより面白くなく、
ラビットハウスの三人がシャロを見つめていることに対し、
兎が怖くて悪いのかという論点ズレッズレな返し方をしてくるシャロ。
「嘘つくならつくなりにばれないようにするんだよ...。」
深がシャロの嘘のつき方にツッコミを入れるが、
シャロは全く聞いてないようだ。
その後色々と見て回り、
五万もするカップをぶち抜いたリゼの話のや
ティッピーが丸々入りそうなカップもあったのが割と面白かったりした。
あとやっぱりシャロはお嬢様キャラらしく、アンティークものに詳しかった。
その後ラビットハウス御一行はラビットハウスに戻り、シャロと逆方向に帰っていった。
シャロは家の前で店の前で掃除をしている千夜に会う。
確かにそれは家だ。置物にも見える家だ。
シャロは千夜にしか知らない事がある。
シャロはお嬢さまではなく、実は割と慎ましやかな家に住んでいる...
夢って言うのはその人の記憶と強く結びついているらしいですね。
深君はごちうさメンバーとはとは大きく違うところがあり、
それはこの先、深君の過去と明らかになっていくでしょう。
次は深がゲームを好む理由と本編のストーリーを混ぜてみることにしましょう。