長らくお待たせいたしました。
二つの案のうち、二つ目の方を今回投稿させていただきました。
あるところに
性格は卑怯で狡猾。その男に喧嘩を売れば、よくて大怪我、
最悪、肋骨などを折るまで殴られるほど、容赦のない人間だったそうです。
嘘で騙す、交渉すら自分だけに有利な方向に持っていくこともする。
そんな鬼畜の所業を素で行うような人間だ、と。
これは、そんな彼の過去の話です。
彼は昔、今の彼とは真反対の人間でした。
やさしさに溢れる、明るい人間だったそうです。
ただ、ある事が原因で親友を喪い、その世界に絶望を覚えた
その先、黒狼と恐れられる男はその一週間後、
誰かと入れ替わったかのように、今の彼の性格になったそうです。
それから、みんな彼には、喧嘩を売ったり、トラブルに巻き込んだりすることは
暗黙の了解のようにしなかったようです。
彼は、ただ暴力で抑えつけるのではなく、精神まで屈服させるために。
ただ力を求めるようになっていました。
友を喪った過去から狂いだした人間は、過去を呪い、何かを求め、力を獲た。
それから彼は、元いた学校を卒業後、ある街の学校へ入学したそうです_________________________________________________________________________
リゼは黒狼という名前を聞いたことがあった。
最近、学校で小さなうわさになっていた、黒フードの男の話だった。
町はずれのゲームセンター、時折、不良がカツアゲをしているらしい。
それを思いだし、そのある街がどこであるか察し、念のためにシャロに確認を取る。
「まさか、ある街って…ここ?」
シャロにそれを問うと、シャロは頷き、言葉をつづける。
「…そうです、それも皆が知っている人の話です。」
ココアや千夜がざわつきだす。
ここにいる全員が知っている人間といえば、別々の学校の生徒である私たちがいるこの場所。
別々の学校である私たちがあっているラビットハウスしか心当たりがない。
じゃあ誰か、リゼは理解しかけていた。
でも確証がない。信じたくなかった。
明言されてないにしろ、きっと黒狼は、あらゆるものを壊した。
そんな思考を続けているのを横目に、ココアたちを見る。
「私達も?そんな子いたっけ、チノちゃんは知ってる?」
ココアには全く心当たりがないようだ。
深はココアたちに自分の過去を話すことはしなかった。
ココアやチノにやさしく接する深がそんな人間だと全く疑っていないのだ。
自分に心当たりのないココアは、チノに心当たりがないか聞くと、
「いえ、聞いたことがないですね。」
やはりその返答だった。チノもココアも気づいていないし、どうやら千夜も気づいてはいないようだ。
心当たりがあるのは、リゼだけだったが、それ以上にリゼは一つ、違和感に気づいた。
"なぜシャロだけ黒狼の過去を知っているのか。"
(私達が知っていて、この街の学校に入学した男...やっぱりあいつしかいない。
それならどうして、ココアやチノに隠したまま、シャロに話したんだ...?)
リゼは考えれば考えるほど、疑問が生まれていくもどかしさに頭を悩ませ始めた。
なぜ、関係の薄いシャロに話したのか。目的はなんだったのか。
そしてなぜ黒狼と呼ばれたのか。
浴槽に溜めたお湯がこぼれるように、全ての疑問が頭に入りきらない。
複数を一気に考えようとして、頭がこんがらがってくる。
「リゼさん?どうしたんですか?」
そんなリゼを見かねて、チノが心配そうに声を掛けてきているのに今まで気づかなかった。
リゼはもう気づいていた。黒狼とは青野深の事で、そしてシャロは深本人から
何らかの理由でその話を聞いている。
(これは…チノにもココアにも言わない方がいいな、
ココアと千夜はともかく、チノは怖がっている。深がそうだ、なんて伝えたらチノは深を避けるかもしれない。
関係を悪化させるのは避けたいが、チノに不安を残すのもな。)
リゼは流石にそれを話す気にはなれなかった。
そもそも、なぜこれをシャロが変に遠回しに話したのか。
きっと普通に伝えられなかった理由があったはずだ。
なら、深が黒狼であることを言わずに、チノたちに不安を取り除くには...。
「実は、黒狼に会ったことがあるんだ。」
リゼは黒狼に会ったことがあると伝えた途端、チノとココア、そして千夜に伝える。
それを聞いた途端、チノとココアが血相を変え、けがはなかったか確認しようとする。
千夜は状況についていけなかったようで、完全にボーっとしていた。
とりあえず二人を落ち着かせ、とりあえず自分の予想だけでも伝えてみることにした。
深のメモを拾ったことで、彼の性格を知る一つでもあって、それはそれで幸運だった。
「会ったことはあるが、そこまで悪いやつじゃないと思う。
誰かに自分から喧嘩を売るわけでも絡みに行く訳でもないようだから、
多分、チノやココアには危害は加えないだろう。」
伝えてみると、ココアは安心しているように見えたが、チノだけは何か落ち着けないようだった。
するとチノは、いつもより神妙な顔でこう聞いてきた。
「なんでわかるんですか?」
確かに根拠はないし、ただの推測であることは間違いない。
それでも、青野深が根からの悪ではないと信じていたいと、そう思うリゼは
それに対し、話から推察できる内容を語った。
「あいつが力を使うのは喧嘩を売られたときぐらいじゃないか?
なら、必要以上に警戒する必要性はないと言っていいと思う。」
不良の件も、話の友達の情報から考えられることは、
『危害を加えようと人間に対する防衛、もしくは攻撃』だと
考えたリゼは、『故意に危害を加えなければ黒狼としての彼は何もしない』
可能性を考えた。
「でも、どうしてこの街の学校に来たんだろうね。
この街には、そんな性格の子は見たことないし、喧嘩を売る子もいないし。」
ココアはそもそもどうしてこの街の学校に来たのかを考えていた。
全く心当たりのないらしいココアは、自分の学校の生徒の中から考えたようだ。
それでも、ココアのクラスはそんな性格の荒んだ人はいない。
学校でそもそもそんな子を見かけることが、今までなかった。
「確かに、そんな子はいないし、そういうことは先生がしっかり見てるはずよ。
少なくとも私たちの学校はそうよ。」
千夜は自分の学校の教師たちを信じているようで、そんな人間はいないと否定している。
二人ともその男が青野深であることに全く気付いていない。
「こっちにはそんな素行の悪そうな生徒はまずいない。そもそも女子校だしな。」
リゼ達の学校は秀才でかつ素行のよい生徒しかいない。
その上、いわゆるお嬢様学校なので、女子しかいないので、
まずリゼの学校はありえない。
「私たちが知っている人…シャロちゃん、それはいったい誰なの?」
まだ、ココア達は気づいていないようだった。
話をしたシャロに答えを求め、シャロはその男の名前を言おうとした直後、
突然、チノの部屋のドアがいきなり開いた。
そこには、その青野深が、静かに立っていた。
シャロは動揺し、リゼはそれに気づいた時に、確かにシャロが深く関係していることを確信した。
その一方、チノ、ココア、そして千夜は何も気づいていない様だった。
そして、二人は口を開こうとする深を警戒する、そんな中、深が発した言葉は。
「皆、俺の部屋に入ってないよな?」
そんな、日常的に交わされるような言葉だった
二人は、無意識のうちにしていた警戒を解き、あとの三人と一緒に首を横に振った。
「まぁ、そうだよな。…あれどこいったんだ?」
深自体もそんな気がしていたようで、ため息をつきながらドアを閉じようとしたところ、
「あれってなんですか?探すの手伝いましょうか?」
と声を掛ける。
深はそれを聞いて少しうつむき、すこし考えたような顔をし、
息を少し吸うと、ゆっくりと頭を掻きながら言葉を発した。
「思い出の詰まった…箱、ちっさい木箱だよ。大丈夫、すぐ見つかるって。」
一瞬、酷く苦い記憶が脳裏をよぎり言葉が詰まるが、無理やり鞄に荷物を押し込むように、
言葉を続け、すこし笑ったような顔を見せた。
チノの部屋のドアを閉め、酷い眠気に襲われながら階段の扉を開け、眼前に見えたドアを開けると、
そこはディープな雰囲気を醸し出す、喫茶店としてのラビットハウスでない、
バーとしてのラビットハウスがそこにあった。
そこはいわゆる大人の世界だった。
その中に子供が一人、その世界に足を踏み入れた。
ドアの開く音に気づいた、バーテンダーとして働いていたタカヒロと、
眼帯とダンディなひげをつけた三十代後半の男がこちらを向いた。
「失礼します。タカヒロさん、すこし聞きたいんですが、前に僕の部屋に来ましたよね?
僕の木箱に心当たりありますか?」
タカヒロにゆっくり歩んでいく深。
どうしてもアレを回収したかった。焦りが明らかに出ていた。
「仕事中なんだ。出来れば後にしてほしい。」
こう言われるのも、もっともだ。
そんなことはわかっている、それでもないだけでここまで恐怖感があるとは思わなかった。
"力づくでも渡してもらう"という思考になっていく。
「返していただかないと困るんです。」
そう口に出したときには右手に力が入りかけていた。
あれはどうしても開けられては困る。それでも手元に置いておきたかった。
だからこその焦燥感に、無意識に今度は体全体に力が入っていく。
その様子を見た髭の男は深を見て、いつものバーでは見なかった少年に声を掛けた。
「君はいったい?」
その声に気づくのに、二秒かかった。
今度はその男の方を向き、真顔で自己紹介をする。
「初めまして。僕は高校の方針で朝と昼の喫茶店の店員として働かせていただく代わりに、
ここに下宿させていただいています。青野深です。」
それを聞いた途端、相手の顔が一気に明るくなり、さらにその顔を見たとき、
どこか見たことのある顔に見えた。
「…君が深君か!娘のリゼから話を聞いているよ。初めて会った時に娘が銃を向けてしまってすまないな。」
目の前にいたのは、リゼの父親だった。
僕の事もある程度知っているようだった。...最初にあった時、自分に銃を向けたことも。
確かに親がそうなら、子もそうなるのだろう。
「いえいえ、こちらも撃ってくるなら、シメる気でいましたから。大丈夫ですよ。」
特に気にしてないですよ、と言わんばかりの顔で返事をしているが、
気にしていないはずがない。下着姿で背丈が同じくらいに見えた女子高校生がクローゼットに隠れていて
クローゼットを開けたら銃を向けられた。故郷の友達に話しても
「嘘だろそれ、そんな奇妙なラッキースケベ聞いたことないわ。」と一蹴された深は
とりあえず、「ちゃんと教育しておいてくれ。」という皮肉を込めながら、冗談でもないようなことをいった。
「ははは、面白い冗談を言うね。」
冗談だと思われている分、まだよかった。
あの時、あれが実銃であったなら、自分はどうしていただろうか。
そんな疑問が出かかったが、あの時点で"撃てないこと"ぐらい理解していた。
そういえば、そんなことをしている場合ではなかった。
本題を忘れてはいけないと今度はタカヒロの方を向き、話しかける。
「それでタカヒロさん。僕の木箱に心当たりは?」
木箱、彼にとって戒めのアイテムであり、あらゆる意味があるもの。
あの箱は、彼の過去のブラックボックス。
誰にも開けてほしくない、触れてほしくない。
気が狂いそうな感覚で、静かに問う。それは殺気に近しいものだった。
「俺が持ってる。だがどうしてあんなものを持っていた?あんなきけ…」
声が詰まるほどの、違和感。
何か鋭いものが見えるでもなく分かる。
「そうですか、なら返してください。大切なものなんです。」
冷静に振舞おうとしているが、
内心はノートの殴り書きのように焦燥と不安でぐしゃぐしゃだった。
今すぐにでも、力づくでも。
そんなことを考えているうちにも足に力が入る。
今にも飛び出しそうな状態だった。
「落ち着いてくれ、何も取ろうという気はない。ただなんであんなものを。」
「そんなこと別にいいでしょう。返してください。」
タカヒロは落ち着くように促し、
深はその言葉で意識が戻ったようにぴくっと体が動いた後、力が抜ける。
ようやく落ち着いたと言えど、それ自体は早く返して欲しいようで、
説明を求められているのに、どうでもいい、と言い返してしまう。
そんな状況を見かねたリゼの父は
その光景を目にして、口を開いた。
「タカヒロ。返してやれよ。大人気ないだろ。」
確かに、勝手に部屋に入り、そこから物を許可なく持ち出し、
持ち主に「返せ」と言われているのに返そうとしない。
確かに大人げないのかもしれないが、それでも中身が中身だったのだ。
簡単に返せない。
タカヒロ「返すつもりではいる。だがこれだけは聞かせてくれ。
…君は。あの中にあるもので何をした?」
…この質問に答えなければ返してはもらえない。
それでも、過去は隠していたい。
言わなければならないのなら、もういっそのこと…
「どうして…?報いの一つくらい味わうべきでしょう?」
報い。失わされた者の、怒りと憎悪。
「報い...それがあの血か?」
血を流させた、本来は自分が流すはずだった。
誰かにそれを押し付けて、今もこうして惰性で生きているようなもの。
かけがえのないものを犠牲にして、壊れた者は他人に絶望した、
彼の中の真理だった。それをゆっくりと語り始めた。
「この世界は変わっていない。人は、どうしてこうも..他人を傷つけることに抵抗がない。
力を持って殺すのではなく、人の夢や名誉まで叩き落として心を殺す。
人は変わらない。絶対に変われない。」
今まで、誰かを物理的に攻撃することによって傷つけあった人間は、
今度は、誰かを侮辱したりすることによって傷つけあうようになった。
変わらない。結局は変われない。
それを理解して絶望した。他人にも自分自身にも。
「言っている意味が理解できなくはない、
ただそれが血の付着しているこれとどう関係しているんだ?」
聞いていて、過去に何かしらのトラウマがあるのは、タカヒロも感じたようだ。
ただ、一向に明言しようとしない。
その中でまたリゼの父が深に話しかける。
「話を遮ることになるが、あの時の行動について質問していいか?」
あの時の行動。先程の話から推測して、「初対面でリゼに銃を向けられた時の行動」に
何か引っかかっているようだ。ただ今この状況で、なぜその話を持ち出したのか、
それはタカヒロ、深に至っても理解できなかった。
「...どうしたんだ?」
突然、話に割って入ってくるとは思わず、どちらも反応が遅れていた。
リゼの父が疑問に思っていたこと、それは…
「深君は、リゼに銃を向けられた後、酷く慌てる様子すらなかったらしい
銃を下ろすことを促し、それを聞こうとしないことを確認した途端、銃口を自分の胸元まで
近づけた、とリゼからは聞いている。...それは本当か?」
神妙な顔で問われた質問は、深にとってはどうてもいいようなものに思えた。
しかし、よく考えてみれば、この質問には色々とツッコミをいれたいところがある。
その一つ目。
「事実ですよ。よくその話をしましたね...リゼさん。」
それを事実と肯定しながら、どうしてその話を父親にしたんだろうか。
「新人に下着姿でモデルガンを向けた」なんて話したら怒られるだろうに。
そんなことを考えながら、ふとタカヒロさんの顔を見ようと視線を向けると
「おい、ちょっと待ってくれ、お前の娘またやったのか?」
カウンターに肘を置きながら頭を抱えていた。
"また"ということはあれで二回目だったのだろう。
なぜ、その時点でモデルガンの持ち込みを禁止しなかったのだろうか。
そこもだいぶ気になるところではあるが、
「ああ、あいつまたやったんだ。」
どうやらリゼの父はそれに関しては頭を悩ませているようで、
言葉のあとにため息をついた。
それはそれで、
「それでその話がいったい何を意味するんです?単に聞きたかっただけですか?」
そう、そもそもその話を今、持ち出した理由だ。
こちらからしたら、「突然、娘が銃を向けて申し訳ない」
と言われるのかと思ったが、どうやらそうではないことを場の雰囲気で理解していた。
では一体何なのか、その答えは
「簡潔に聞こう。君は昔、殺されかけたことがあるんじゃないか?」
なるほど、とその答えに行きついた理由もすぐに見当がついた。
それと同時になにかざわつく感覚を覚えた。
しかし、それの確認を怠るとずれが生じる恐れがあると考え、念のため
「...ッ、なぜそう考えたのか聞かせてもらっていいですか?」
と聞き、もちろん、それに対する答えも、
「普通なら、銃を向けられてひどく動揺してもおかしくない。
むしろそれが当たり前の感覚だ。なのにそんな状況で冷静に対処できるのは、
過去に『何かしらの経験』があると見たんだ。」
やはり深の見当通りだった。
銃を向けられ、命の危機を理解したなら、
もちろん恐怖で怯えたり、その相手の持つ凶器に殺されないように相手の言動に従ったり、
その行動の主導権は全て相手が持つはずである。...普通であれば。
だが深は違った。
至って冷静に、銃を下ろすように促し、それに従わないと見たとたん、その銃をつかんだ。
明らかにその行動のすべてに彼の思考が反映され、能動的に行動している。
それこそ異様。彼の普通でないその特徴的な冷静さ。
その冷静さはどこからきているのか、と問われる。
それを嘘偽りなく答えたならば、そのまま洗いざらい過去まで言わされるだろう。
薄々感づいていた深は
「...ゲームで見慣れている、だから動揺しなかったんです。」
と彼ならあり得なくもない無難な嘘をついた。
だが、それはあっさりと看破されてしまう。
「いや、違う。そうじゃない、それなら銃を突きつけられれば、まず撃たれる可能性を考え、
パニックになってもおかしくないんだ。だが君は全く動揺せず、むしろ撃つように促したんだ。」
確かに、銃がどんなものあるのか理解していれば尚更、殺されてしまう可能性をより強く理解するはず。
そこを明らかに考慮していなかった。そして、そのまま話は続けられていく。
「撃たれることに恐怖を感じない、むしろ享受しようとしているようにも感じる。
これは一つの推論にすぎないのだが、もしかすると、君はリゼが撃たないことをわかっていた。
いや、撃てないことをわかっていた。」
そこまで看破されるのは予想外だった。
そう、あのとき、リゼは撃つつもりがなかったことは、だいたい感覚で理解していた。
そもそも、女子校生は銃なんて所持していないし、持っていてもそう簡単に引き金を引く覚悟なんてないからだ。
では、もしリゼが本物の銃を持っていたならば、即座に撃ち殺されても仕方なかったはずだ。
胸に近づけた理由は相手がしっかりと撃てるようにして、撃てないことを確認したかったから...
というのもある、しかし、「死の享受」に関しても否定はしずらかった。
「そしてもう一つ、君は一回殺されかけている...いや、むしろ殺しあったことがあるんじゃないか?」
論理が飛躍しているようにも思えたが、その可能性にたどり着く理由も考えられる。
命を懸けたやりとりなんて、人生で経験するはずもない。
そんな状況で取り乱さないのは、少なくとも経験や覚悟のある人間のみだろう。
その話を、肯定も否定もしようとしなかった深を見て、タカヒロさんは動揺しながら口を開く。
「そんな話聞いていない、ある程度の事情は聞いているが、そんな話は全く...。」
確かに、そんな裏話は聞かなかっただろう。なぜなら、
「母さんは知らない、殺されかけたことなんて言ったらさらに騒ぎになる。」
あえて、今まで隠していた、実の家族に。周りの人間に。
初めて話した、当然、この話は初耳であるのが必然である。
「だめだろ、先生や親に相談して解決しておかないと後から...。」
動揺を隠せないまま、深に誰かに相談すべきだと、そう告げようとしたタカヒロの視線の先には、
目の奥に恐ろしいほどの憎悪を宿す、昼の彼と一線を画す、別人と見紛うほどの
怨嗟の窺える顔で、どす黒い殺意すら感じる声で、
「するわけがない、親友を見捨て、何もしようとしなかった、あのボンクラどもに果たして何ができると?」
その声に、自分の目の前にいるはずのものが、何か別の存在だと錯覚してしまうような
言葉にできない感覚を、初めて人生で味わった。
「...いったんこれを返そう。まだ君の家族は何か隠しているようだ。」
動揺しながら、その木箱を取り出し、深に手渡した。
それを受け取った深は、ただ「失礼しました。」とだけ言って部屋に戻ってしまった。
「彼に何があったか、こちらで調べても構わないか...?」
リゼの父がその異様な深の裏側の真相を知ろうとし、過去を探ろうと提案してくるが、
「...考えさせてくれ。」
酷い動揺のあまり、答えを出すことができなかった。
ああ...書きつかれる...
重い...温度差がすごすぎる...。
次は早くできるように頑張ります。