ご注文はゲーマーですか?   作:天翔blue

18 / 20
一か月ぶりです。天翔だったと思います。
ええ。そろそろ二章を本格的に書こうと思いまして。
第二章は『青野深』という『壊れた人間』について
詳しく掘り下げる章になります。


セイギのミカタ?

「起きろココア。」

「起きてください、ココアさん。」

 

朝、チノは日課のように...自称姉、ココアを起こす。

姉を自称するならば、妹として扱う自分よりしっかりしてほしいと思うときもあるそうだ。

深も、それを見て、そう思うときがある。

 

「うーん...あと五分...あと五分...」

 

「チノ。『こんなココアさんお姉ちゃんじゃない』って言えば起きるんじゃないか?」

 

「え、ココアさんはお姉ちゃんじゃないですよ?」

 

「ヴァッ!?どうしてそんなこと言うのチノちゃん!?」

 

チノにとっては当たり前のことだが、ココアは自分が姉だと主張し、それをチノに認められたいのか、何なのかはわからないが、そういう節があるのを逆手にとり、あえてそれを言わせた。

 

「...やっと起きたな。これを言わせれば起きると思ったんだ。」

 

「びっくりした!もー、びっくりしたよ!」

 

「なら早く起きれますから、今後からそうしますね。ごはん食べますよ。ココアさん。」

 

ココアにぷっくり頬を膨らませながら怒られるが、先ほどの発言の直後にココアを呆れながら冷たい目で見ていた。チノはチノで、ココアに非情な宣告をしていた。

 

「うん!ごはん食べよう!...って、え!?これからそれで起こされるの!?」

 

「...やれやれ。」 「...やれやれです。」

 

どうやら、ココアにはそれがかなり聴いたらしく、食事中ずっと「お姉ちゃんって呼んで」

とチノにしつこく言っていた。それを聞き流しながらまた呆れるように二人とも呟く。

 

食事を終わらせ、通学カバンを持って、三人で学校に行く。

 

 

「行ってきます。タカヒロさん。」

「行ってきまーす!」「行ってきますお父さん。」

 

「~♪~♬~♪~♫」

 

深が、この通学時以外で口元を緩ませることはほとんどない。

しかし、このときは例外で、少しだけ口元が緩むのだ。

それは、ココアと一緒に登校しているからではなく、耳に着けたイヤホンから流れる、

彼お気に入りのゲーム楽曲を聴いているからだ。

 

(また音楽聴いてる...何の曲聞いてるんだろう。)

 

「ねぇねぇ、何の曲聞いてるの?」

 

それをココアは知らず、ココアが話しかけてもほとんど聞いてくれない。

どうしても深と話したいのか、左耳に入っていたイヤホンを外して声をかけた。

 

「ああ、ゲームのサントラ。曲名は…たぶん、ドイツ語だとは思うけど、読めねぇな。」

 

深は、『ココアがイヤホンを外させる直前の質問』に答えた。

そう、深は今まで『イヤホンで曲を聞いていたから聞こえていなかった』

のではなく、『イヤホン越しにココアの声が聞こえていて、あえて聞こえていないふり』をしていたのだ。そして驚くことにその曲にはドイツ語のタイトルがついてるらしい。

 

「聴かせて聴かせて!...あれ?オーケストラ!?...。」

 

「豪華だよな...いやー...たまらないよなぁ...。」

 

ココアたちにとって、ゲーム関係の会話を交わすことはない。

そもそもゲームをするといっても、チノはチェスぐらいしか『ゲーム』をしない。

しかし、その当のチノも深やココアとゲームをしようと持ちかけることはない。

つまり、テレビゲームをするのはラビットハウスのメンバーだけでいえば深しかおらず、

ラビットハウス外のメンバーを含めてもマヤ兄妹ぐらいなのだ。

 

「ゲームの音楽ってこんなに豪華なんだ...。」

 

「いや、ゲーム音楽をオーケストラアレンジしてるやつ。」

 

ゲーム音楽好きなら知っているであろう。ゲーム音楽はサウンドトラックとして販売されたり

その中でアレンジされたりするのだ。ラスボス戦のBGMである楽曲のメロディが入ったりするのだが、その中でもオーケストラ演奏、オーケストラアレンジされることもある。

有名な作品だと、某ピンクの食いしんなり、某狩猟ゲームなり、その類である。

彼の聞いているそれは、あるRPGゲームのオーケストラアレンジである。

 

もちろん、そんなことを知る由もないココアからすればそういうゲームオリジナルの

楽曲があると思って、感嘆の声を漏らす一方、オリジナルを知っている深はそれを否定する。

 

「あ、そうなんだ」

 

「このクオリティを毎回作ってたらお金足りなくなるだろうしなぁ...。」

 

そんな珍しい会話をしながら、登校する二人は片方は少し楽しそうで、

片方はそれを見て「楽しそうだな」とつぶやいた。

 

 

 

「...あー。疲れた疲れた。」

 

放課後。

部活には入っていないのでそのまま千夜と合流して家路につこうとする二人。

深が疲れたとぼやくが、ただただめんどくさそうにしているだけである。

 

「全然疲れてなさそうに見えるんだけど。」

 

ココアが深の顔に自分の顔を近づけて様子を見ている。

その通り、まったく疲れはない。

 

「疲れたというか、文系の授業は延々と興味ないものの授業受けてるもんだからさ、

退屈でいやだなぁ...。数学とか物理とかならいいんだけど。」

 

ぼやいているのは、単に今日一日がほぼ文系教科の授業だったからだ。

そのどれもが深には退屈に感じて、それでぼやいていた。

 

 

「帰って復習だな、赤点は嫌だし...。」

 

「...深君って意外と真面目よね。」

 

「まぁ...そうでもしないと、色々とめんどくさい事になるしな。」

 

 

その会話中に何かが地面に転がる音がした。

それをちらりと見たとき、自然に拳に力が入った。

 

 

「よし、こいつ連れてけ。」

 

「やめ...がっ、う゛...」

 

「暴れんなよめんどくせーな。」

 

苦しそうに喘いでいる男子生徒一人を同年代の男子生徒二人が両腕を掴んで、

その一人がどこかに連れていかれる。

それから逃れようともがいているのを押さえつけ、引きずられていく。

それを「早く連れていけ」とせかす男がいる。

どうやら三人組で、せかしているのがそのリーダー格らしい。

 

それを見たとき、いつかの記憶が頭をよぎる。

そのよぎった記憶があまりに胸糞悪い物だったのも、

目の前の光景を見たことによって生じたナニカも。

 

彼を動かすには十分すぎた。

 

「ココア、これ持って先に帰ってろ。」

 

「どうしたの?」

 

「止めないと。」

 

ココアに自分のかばんを押し付けて、それを止めに行こうとする。

ココアの問いに食い気味に言葉を返す。

 

「何を?」

 

「説明は後だ。」

 

千夜に今度は「何を止めに行こうとしているのか」と聞かれて、

今度はそれに答えることなく、いつのまにココアに掴まれていた腕を軽く振りほどき

走り出そうとする。

 

「お仕事があるから早く帰らなきゃ...。」

 

「それまでには帰る。早く行かないとまずい。一応、タカヒロさんに伝えててくれ。

ただの人助けだ。すぐに帰る」

 

「でも」と聞こえて、振り返る。

確かに、自分がしないといけないこともある。

だからといって、それが目の前にいる誰かを助けない理由にしない。

タカヒロさんへの報告、仕事、そして目の前の誰か。

その全てをやりきるためにその手を強く握りなおす。

 

「...お仕事があるんだから、ちゃんと帰ってきてね!」

 

「了解。」

 

その様子を見たココアが、時間までにかえるように伝えて、千夜の手を引いて、

家路につくのを見た後。さっきの連れていかれた人を探しに駆け出す。

 

 

 

「や、やめて...。」

 

「やめろって言われてやめるバカはいねぇよ!」

 

ようやく見つけたときには、三人に囲まれて、地面に倒れた状態

でリーダー格の生徒に鉄パイプで殴られようとしていた。

あんなもので殴られればどこで受けても無事ではすまない。

幸い、今の自分の位置とそれほど離れていない。

走れば間に合う。鉄パイプが振り下ろされる直前に走り出せたおかげで

なんとか間に合った。

 

「...骨身に染みるいい鈍器だな。気分はどうだ、屑野郎。」

 

殴られようとしていた生徒を庇い、自分の右の二の腕で鉄パイプを受け止める。

腕がひどく痛むあまり、声をあげそうになるのを、歯を食いしばって堪える。

その代わりに、毒のある言葉をを吐きつける。

 

「わざわざ邪魔しにくるなんていい度胸してんな、ヒーロー気取りか?」

 

深の腕に鉄パイプをたたきつけた男はそれを嘲笑しながら小馬鹿にした。

最初はそれを聞き流してやるつもりだった深は、「ヒーロー気取り」という言葉にだけ、

ピクリと反応した。...それが、あまりに不愉快だったからだ。

 

「はぁ、俺がヒーローなわけないだろ。」

 

怒りなのか、呆れなのか、そのどちらでもないのか、形容しがたい感情をのせてこぼれたぼやきだった。自分がヒーロー、英雄になれないのはとっくの昔に理解していた。

自分がヒーローどころか、何もできないろくでなしだったのもそうだった。

 

「逃げろ、俺がこいつらの相手をしているうちにな。」

 

腕に押し付け続けられていた鉄パイプをどけるために、相手の腹を右足で蹴飛ばした直後、

庇った相手を逃がすことだけに注力するために、

その顔を見ることなく、彼に逃げるように告げる。

 

「逃がさせるかよ!」

 

自分の後ろに逃げようと立ち上がった彼を、男の後ろに控えていた二人が左右に分かれ、

逃げる彼を止めようと殴りかかろうとする。2対1では明らかに不利、その上

すこしばかり二人の方が体ががっしりしているように見える。

あれでは捕まってしまっては逃れられないだろう。

 

「攻撃する前に声を出すなよ、今から攻撃するって教えてるようなもんだからな。」

 

それに即座に気づいた深は、利き腕の右腕で、右の一人の胸ぐらをつかんで

自分の前に引き寄せ、左から追いかけようとしたもう一人へ目掛けた瞬間に手を離して、

左腕で突き飛ばした。

 

「何なんだお前...。あいつと俺らとは無関係のくせに割り込んでくるんじゃねぇよ!」

 

「無関係だからどうしたってんだ!!!」

 

取り巻きの二人を止めたことに腹を立てた、リーダー格がガンをとばしながら怒声をあげる。

それに負けじと、深もその三人の鼓膜を裂かんとするばかりの怒声で返した。

そも無関係だからどうした、それが他人だろうと苦しめられる人間を

見捨てて傍観していていい理由にしてなるものか。

 

「調子づいてんじゃねぇぞ!!」

 

取り巻きの二人が体勢を立て直して、彼らもまた、怒声を上げて深を睨みつける。

その三人との喧嘩が終わったのは、それから10分ほど後のことだった。

 

お互い、一進一退の攻防だった。

取り巻きの二人と比べ、いわゆる「頭」というべきリーダー格は

五分ほどで立ち上がる力をなくした取り巻き二人より明らかに強かった。

そのせいで、二人にかけていた時間の倍もかかるほどに強かった。

お互い、激しい喧嘩のあと、息も絶え絶え、相手の三人はもはや向かってくることはなく、

深の方は右腕の痛みをこらえながら、ラビットハウスへ向かい走り出した。

 

「大丈夫か。手当をするから、家までついてきてくれるか?...カフェラテとか奢るからさ。」

 

校門前でうずくまっていた少年がいた。おおよそ、自分が逃がした少年だと察し、

しゃがんで目線を合わせ、状態の確認をするために、下宿先のラビットハウスでいったん

状態を確認して応急処置などをするためについてくるように頼む。

 

「立てるか?」

 

何か言いたげな感じだったが、右手を差し出すと、それを掴んで立ち上がった後、いったんは何も言うことはなかった。そのまま肩を貸し、ラビットハウスへ歩きだす。

このペースなら、15分くらいで着けるだろう。

お互い、ボロボロなのであまり急いで帰ることはできないがそれも仕方ない。

 

(腕が折れてる...かな?仕事できるだけの体力も残ってたらいいんだけど...。)

 

ラビットハウスの入り口を開けるため、肩から一回降ろす。右腕の調子が気になり、

腕を触ってみると、思わず息をのむような痛みがした。

しかし、それは彼もそうだ、自分だけ痛がっている場合ではない。

入り口を開けてから、もう一回肩から支えて、店内に入る。

 

「今までどこに行ってたんだ!...!?」

 

「...!?大丈夫ですか!?」

 

丁度、リゼが入り口から直線上の位置にいた。深が戻ってきたので入り口の方を向き、

リゼが叱責しようと声を上げた直後、二人の様子をみて、言葉を失っていた。

カウンター側で備品の手入れをしていたチノが声に反応して二人の方をみると、

満身創痍の二人が今にも倒れそうな状態で、その上、深は既に左ひざを床についてしまっていた。そのせいで、肩を支えられていた少年が深にもたれかかり、

そのまま頭から倒れそうになっていた。

 

慌ててリゼが下から支えるが、二人分の体重をいきなり支えることはできず、

リゼも腕から崩れ落ちる。

 

「先に仕事やっててくれ。」

 

「この人も深さんもボロボロじゃないですか...。どうして...。」

 

「チノ、包帯やら絆創膏とかはどこだ。裏か?」

 

チノから理由を問われたが、それを無視して右手で体重を支え、ふらついてもなお立ち上がりながら、

チノに応急処置のために使うものがしまってある場所がどこなのかを聞いた。

チノも、この状態を見て、理由を聞くより先に処置をするべきだと理解してくれたようで、

急いで取りに行った。

 

「人助けって...何だったの?」

 

「こいつを殴ってたやつをちょっと深手負わせてから、こいつを助けて帰ってきた。

俺もなにかしらデカいダメージがあるかもしれない。実際そうだとしても、仕事はする。」

 

ココアが心配そうに事の詳細を聞いてきた。

ほぼ何も知らないまま、帰ってきた同級生が、服も体も傷だらけで帰ってきたのだ。

心配にならないわけがない。

だが、そんな心配をされていることにすら気づかない深は、自ら、今まで何をしていたのかを

ただ冷静に、それに何も引け目を感じずに淡々と話した。

 

「そんな危険な事...どうして自分から首を突っ込むようなことを...。」

 

リゼが立つ気力をなくした少年を支えて、とりあえず近くの席に座らせてから、

壁をつたうようにして近くの席へ歩く深に、なぜわざわざ関わってしまったのかを問う。

心配しているのは、みな同じのようだ。

しかし、自分を大事に思っているが故に出た言葉であっても、彼にはひっかかった。

 

「見過ごせと?見殺しにしろと?

お前にはとってはそれが正しいのか?自分さえよければ他人なんてどうだっていいのか?」

 

「...別にそんなつもりで言ったんじゃ...。」

 

『もし、自分が関わらずに、彼を無視して、自分がここに帰っていたら、彼はどうなっていただろうか。』そのようなことは考えるまでもない。

もしかしたら、一生治らないような傷を負っていたかもしれないし、もしかしたら、死んでしまっていた可能性も、否定はできない。

『他人を見捨てて、自分はそんなことは関係ないと割り切ることは、きっと他人の痛みを理解できなくなる。』誰かから教わったわけじゃない。

でも、なぜそう思う様になったのかは覚えていなかった。

 

「ああ、すまん、感情的になりすぎた。少し落ち着くよ。」

 

「...死なれたら胸糞悪くてな。俺は、こういう人間を知っている。二回も三回も...繰り返させるものか...。」

 

感情的になって、リゼにきついことを言ってしまったのを詫びて、

落ち着こうとして、少しの間だけ、目を閉じる。

目を閉じると、記憶の断片を見た。

誰かが鉄柵に手をかける記憶、涙を流しながら、誰かに謝っている。

 

そしてその直後、その誰かが目の前から消失した。

かつて自分が"殺した″人間の姿だ。

直接、手をかけたわけではなかったが、自分が殺したのだ。

ずっと自責の念に囚われていた。ときどき、突然に思いだす。

そして、鈍痛が頭にくる。仕方ない。全ては自業自得だった。

 

「そこの席に座ってもらおう、すまん、端の方で処置をしようか、ただ、病院に行かないといけないような骨折は判断はできても、治すことはできない...ごめんな。」

 

軽いけがで済んでいるわけがない。

そうでなかれば、あんなところでうずくまるわけがない。

でも、できる限りの処置はしてあげたい。

チノから、包帯とテープを受取り、肩を支えながら座る席を探す。

もっとはやく駆け付けていれば、もっと怪我が軽く済んだだろう。

そう思うと自然に謝罪の言葉が出た。

 

「彼にカフェラテか何かを入れてあげてくれ、代金は持つよ。」

 

「...わかりました。」

 

とりあえず、聞けるだけの話を聞いてあげて、これからどうすればいいのか、

少しの間だけ相談に乗ることにした。

一応、店の在庫を使うため、代金は自分の財布から出すことにして、

チノに頼んで淹れてもらうことにした。

 

「深君だって怪我をしてるんじゃ...。」

 

「俺は後でいい、というかそれはどうだっていい。」

 

ココアに、怪我の心配をされていたが、それを一蹴する。

自分の体なぞ、最初から、この男にはどうでもよかった。

目の前の誰かを助けることができるならば。

 

「人が変わったみたいです。何か...。わかりませんけど。」

 

行動原理が、何かに対する怨嗟に突き動かされ、破壊衝動に近い何かを以て行動しているような、そして、『自分の体はどうでもいい』と何の躊躇いもなく、言い放つ、その

自分の体を消耗品かのように扱っているような言葉に、恐怖に近い感覚を覚える。

 

チノが、『人が変わったみたい』だと評した彼の姿は、

どこからどう見ようが、痛々しい姿だった。

今、彼の神経は悲鳴をあげている。動かすことすら辛いだろう。

 

「深君っていつもは落ち着いてるというか無気力だけど...。

誰かのために自分のことをかえりみずに守ろうとするとは思わなかった...。」

 

リゼも、ココアも、チノも、目の前の男が、

いつか『誰かの代わりに自らを滅ぼす』姿を想像してしまうくらい、

『自己犠牲とはこういうものである』と示されたような気がした。

 

「ひどいな...重症だ。骨だって折れてる...。とりあえず...固定できるものは...これでいいか。固定だけしておくからすぐ病院に行きなよ。足の骨は折れてないから。歩くことくらいはできるか。よかった。」

 

店内入り口からみて、左端のテーブル席、通路側の一席に少年を座らせ、

まずは両膝、そして、左腕に包帯を巻くことにした。

右腕には目立った負傷がなかったため、左から倒れこんだのだろう。

その上、あの鉄パイプで一度は殴られ、それを左腕で防ごうとして、

骨を折られてしまったのだろう。椅子の背もたれに沿って腕を軽くつけてみると

二の腕の真ん中から手首の間が曲がっているのがわかった。

こればかりは自分ではどうしようもないので、病院で処置を受けるように言って、

昔、工作で使っていた角を丸めた木材を自分の部屋から持ってきて、

それを、少年の左腕に着けて、それを包帯で固定した。

今度は大きな擦り傷のある場所に包帯を巻いていると、ゆっくり息を吸いながら、

小さな声で話しかけてきた。

 

「...どうして僕を、助けてくれたんですか?」

 

「君を見捨てたくなかったから、助けたかったから。」

 

「それでも、さっきの店員さんが言っていたように、首を突っ込んだら、君も危険にさらされることもあるかもしれないっていうのは確かだし...。」

 

「俺は、色んなものを敵に回してでも、曲げたくないことがある。

だから、危険にされされようとかまわない。だから躊躇しないんだ。」

 

さっきのリゼの言葉も、ある意味正しい。

リスクを抱えないために、その原因から自分を遠ざける。

確かに、それが合理的ではあるのだろう。彼もそれには同意見であるようだ。

深の姿を見て、心配そうな顔と声色。

それを聞いてすこし安心した。『他人のことを心配できる元気はあるんだな』と。

 

しかし、それをしてしまえば、今回の場合、目の前の人間を見捨てることになる。

『他人を見捨てて、自分はそんなことは関係ないと割り切ることは、

きっと他人の痛みを理解できなくなる。』

自分はそういう人間にならない。なりたくない。

 

人は、正義のため、自分のためには、どこまでも残酷になる。

自分は、それをかつて体験した。

今でも自分は前者にあたるのかもしれないと思うこともある。

今回のことだって、その一例なのかもしれない。

正しいことをしていると思えば、自分が何をしていようと構わない。

なぜなら『それが正しい』のだから。

だから、その工程で誰が苦しもうが知った事ではない。

自分が大事だから、自分を守るために誰かを陥れても構わない。

なぜなら、『自分を守らないと、誰かが自分を陥れるかもしれない。

自分を守ることができるのは自分だけ』だから。

だから、その裏で誰が苦しもうと知った事ではない。

 

自分は一度、過ちを犯した。もう繰り返してはならない。

だから心に刻んだ。『誰も見捨てない。誰かを守ることのできる人間であれ』と。

 

「その通りに動いただけで、それに伴う結果に何があろうと、

それは受け入れるしかないんだよ。」

 

その結果に、どんなに苦しもうと、それはその事象を引き起こした自らの責任。

割り切るしかない。逃げ場なんて最初からない。その言葉には重い決意がこもる。

少年の目を見た。怯えていた。自分を傷つけた者のことを思いだして。

それに立ち向かう想像をしたのだろう。恐怖を覚えないわけがない。

 

「...怖くないんですか?」

 

「いや、慣れちゃってるのかな。そういうことを受けいれるっていうことに。

不思議と恐怖は感じないんだ。」

 

深自身も気づいていないのだ。

もはや、その感覚がとっくに麻痺しているのだ。

傷つくことが怖くない人間などめったにいないだろう。

いるとすれば、『傷つくことに慣れてしまった』か、『傷つくことを知らない』のか

『傷つくことに対して恐怖を覚えなくなってしまった』のか。

深は典型的な、三番目に該当した人物だと言える。

 

「あ、処置は終わったよ、迎えに来てもらえるように家族に電話したほうがいいよね。

代わりに電話しようか?」

 

話しながら処置をしていたが思ったより早くできたようで、

もう自分にできることはしてしまった。

あとは病院で、固定しておいた部分を

今度はしっかり診察してもらって治療してもらうしかない。

 

「いえ、それは自分でやります。大丈夫ですから。」

 

「そうか、わかった。」

 

代わりに電話してあげようと思ったが、断られてしまった。

怪我をしていて、少し心配だが、右手で取り出しているのを見て

『そういえば右腕は大丈夫なんだった』と、思いだし、安心した。

 

その後、彼の親御さんが迎えに来て、お礼を言われて、そしてそのまま帰っていった。

 

仕事をしようと思ったが、安心して落ち着いてしまったため、今までアドレナリンの影響で

痛みを感じていなかったので、右腕に激痛が走り、

その日、深は痛みをこらえながら仕事をしたので、

初めてチノたちの前で、思いっきり辛そうに眉をひそめて苦しそうな顔をした。




うわぁ...痛そう(書いた本人がいうな)
実際にこんな大怪我したら仕事なんてしてられないと思いますよ...。
まぁ、そこが異常ではあるんですが。
さて、次は...未定です。何書こうかな。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。