オラリオに暴獣が来るのは間違っているだろうか 作:チミチャンガ
にしても次郎とガレスって口調同じだからややこし
"なんだこの化物は"
次郎がロキファミリアのもとへ来たとき...ロキ、フィン、ガレス、リヴェリアの脳内を最初に占めた言葉はそれだった。
(本当にこれが人間なんか?....あまりにも纏うオーラが異常すぎる...)
ロキは普段は閉じているような瞳をおもいっきり開いて次郎をガン見し、その他の三人も次郎に対する印象はロキと同じようなものだった。
(ははは...アイズが言ってたことが真実だとよく分かったよ...そりゃミノタウロスも瞬殺だろうね)
(これはワシらが総力でかかっても倒せるか分からんのう..)
(一体どうなっている。 とてもレベル1だとは思えん..)
四人はそれぞれ思考していたが次郎とベルに声をかけられ取りあえず二人を見た。
「初めましてだのう。 ワシは次郎と言うものじゃ。そこにいるアイズ君と目があってな、ちょいと挨拶にきたんじゃが」
「あ...あの、僕ジロウさんと同じファミリアのベル・クラネルと言います! すみません!突然ジロウさんが挨拶にいくとか言い出しちゃって...めめ、迷惑なら今すぐ帰りますので!」
次郎の後を追いかけてきたベルだったが、オラリオを代表するファミリアのメンバーを前にして呂律がまともに回らず、腰が抜けそうな勢いだった。
そして次郎とは違い、いかにもまともそうな初心者であろうベルを見たフィン達は落ち着きを取り戻し此方も紹介を始めた。
「あ、あぁ構わないよ。 僕はロキファミリア団長のフィン・ディムナだ。」
「リヴェリア・リヨス・アールヴという。 二人ともよろしくな」
「ガレス・ランドロックじゃ。 よろしく頼むぞ」
「ウチは主神のロキや。 いや~すまんな。うちのアイズたんがミノタウロスを倒したジロウを見ててな? それが話題に上がったんや」
そう答えたロキに、ベルはロキファミリアの主神に謝らせたことに対して逆に謝罪しそうになるがロキが言った"ミノタウロスを倒した"という台詞に疑問を持ち次郎に質問した。
「ちょっとジロウさん、倒したってどうゆうことですか! あの時は確か上手く逃げたって.......」
「あ~....それはだなぁ」
次郎はこの際だからとダンジョンであの後起きた真実をベルに伝えると、
「う、嘘ですよね?....まさかそんな..」
案の定ベルは、最初にアイズから伝えられたロキファミリアと同じく信じられないという顔であったが、そこにロキが話しかけた。
「自分ベル言うたっけか? そこのジロウが言ってることは嘘やないで。 ウチには分かるからな」
神は嘘を見抜ける。
ヘスティアからその話を聞いていたベルは、神であるロキが断言することにより真実だということが理解できたのか一応は納得した様子である。
そんなとき、早く喋りたいのだろう。 ティオナが二人に話しかけてきた。
「ねぇねぇ!ジロウさんとベルだっけ? 私ティオナっていうんだ!よろしくね」
「は、はい! ベル・クラネルです!よろしくお願いします」
「改めまして次郎じゃ。 にしても....数時間ぶりじゃのうアイズ君」
「うん...また会ったねジロウ。 あの時は色々教えてくれてありがとう」
「そんな大層なことは言っとらんよ。 気にしなさんな」
久々とは言わないまでも、意外な再会に次郎は軽く手を上げ挨拶し、アイズも多少微笑んで返した。
「へぇ..あなたがアイズの言ってたミノタウロスを倒したって人なの? なんか思ってたよりも普通ね。 あ、私はそこにいるティオナの姉のティオネよ。よろしく」
「レフィーヤです.....あの、ジロウさんでしたっけ? あのアイズさんと話せたからってあんまり調子に乗らないことですね!」
レフィーヤは次郎を睨み、ベルはどう声を掛けたらいいか分からずオロオロしている。
「あ~...ごめんね?ジロウさん。 レフィーヤってアイズに憧れてるから嫉妬してるんだと思う」
「ん? なんじゃアイズ君って有名なんか?」
次郎は、オラリオでのアイズたちの知名度を知らないため聞き返した。
「貴方オラリオで冒険者をやっていてアイズさんを知らないんですか!?.....だったら教えてあげます! アイズさんはこのオラリオでも"剣姫"という二つ名を持つほどトップクラスに強いレベル5の第一級冒険者なんです! 普通だったら貴方みたいな人たちが喋れるだけでも奇跡なんですよ!」
アイズのこととなるといつものオドオドした感じはどこへやら、凄い剣幕で数々のアイズの武勇伝を語った。
「はぁ....アイズに関する話だとこれだから仕方ないわね」
ティオネが苦笑しながら言う。
「でも、やっぱり凄いんですね! アイズさんって」
「そうだのう。 ここまで有名だとは思わなかったわ」
二人してそう呟いていると、ティオナがそういえばと次郎に変わらず元気な声で質問してきた。
「そういえばジロウさん! レベル1なのにミノタウロスを倒すなんて凄いよね! どうかな? 私と闘ってみようよ!」
「ティオナ....抜け駆けはズルい。私だって闘ってみたい」
「ちょっ、アイズさん!?」
「えー だってアイズはミノタウロスを倒したとこ見てるんでしょ? 私まだジロウさんの闘いを見たことないんだから先でいいじゃん!」
「あんたも変な我が儘を言うんじゃないわよ...」
戦闘狂であるアイズとティオナは次郎と手合わせがしたくて仕方ないらしい。
「いやはや、モテる男は辛いのう。 なあベル君?」
「いやいや笑い事じゃないですって!」
次郎の呑気な冗談にキレのいいツッコミを送るベル。
ベルの反応は正しく、都市最強派閥のファミリアに所属する冒険者と闘うことでモテたくなどないのだろう。
そして次郎の実力を最初から分かったロキとフィン達は下手なことをしないか気が気でない様子のようだ。
だがここで一つの疑問が生じる。
"レベル3のレフィーヤはともかく何故レベル5のアイズ達が次郎の強さを見抜けないのか?"
レベルは一つ違うだけでも実力が大きく異なる。だがそれでもレベル5の冒険者が6に挑んでも勝てないという訳ではない。
アイズ達は説明するまでもなく強い。それぞれがオラリオでも屈指の実力を持ち、レベル6のフィン達であっても正面からやり合って勝てるかと言われれば答えるのは難しいだろう。 なのにどうして次郎の力を感じ取れないのか.....それは簡単に言ってしまえば生きてきた人生の差にある。
ロキやフィン、ガレス、リヴェリアの四人が強さを感じ取れたのは、数十年という時を生きてきた様々な経験による直感のようなもの。ロキは神で数千年も生きてるのだから当然であるが。
だがアイズ達は強さこそオラリオでもトップクラスに位置するが、人生の中での過酷な経験はせいぜい数年。
強さはあってもそれ以外の部分がまだまだ発展途上なため次郎の実力を見抜けないでいた。
だからこそなのだろう。二人がきてからというものずっと黙って不機嫌そうにしていた男が次郎に苛立つ声で話しかけた。
「おい」
「ん? そう言えばお主の名前は聞いてなかったのう」
「あ、こいつベートって言うんだ! ちょっと面倒くさい性格なんだけどねー」
いつものようにからかうティオナを無視してベートは次郎を睨み付ける。
「てめぇ何処のファミリアだ」
「ヘスティアファミリアってとこじゃよ。 こっちのベル君もな」
「ど、どうも」
「んな!? どチビのとこか!」
ファミリア名を聞いたことのないフィン達は首をかしげロキはその名前に驚いた。
「聞いたことないファミリアだけど...ロキは知ってるのかい?」
「あ~、まあ知っとるっちゃ知っとるけど....そうかぁ。 まさかアイツのとこの眷属とはなぁ」
次郎やベルは知るはずもないことだが、ロキとヘスティアは昔から犬猿の仲であり会えば口喧嘩が絶えないほどだ。だが眷属がいる前で主神を悪く言うのは流石にダメだと思ったのか言葉を濁す。
「まあ、聞いたことないのは当然じゃろうな。 最近立ち上げたばかりのファミリアじゃし、所属してるのもワシとベル君だけじゃよ」
まだ零細ファミリアだと伝えるが、ここで場の空気を読めないベートがその事を笑い飛ばす。
「やっぱ雑魚ファミリアじゃねぇか! そんなとこにいるやつがミノタウロスをレベル1で倒せる訳がねぇ! やっぱアイズの見間違いだったってことだ」
「せやから次郎は嘘をついてないで?」
「そんなもん、他の冒険者に倒されたミノタウロスをこいつが恐怖で腰抜かして自分で倒したとでも思ったんじゃねぇのか? ははっ、めでたい野郎だぜ! 結局雑魚は雑魚ってことだ!」
零細ファミリアに所属してるということやレベル1だということ。次郎の強さを感じ取れないベートはロキの話も全く信じず次郎を罵った。
「ちょっとベート....あんた言い過ぎよ。 ごめんなさいねジロウさん。このバカ調子に乗ってるみたいで」
「ほんと、酒が回るとめんどくさいよねー」
「ごめんなさいジロウ...」
「別に気にしとりゃせんよ。 しっかし今時の若者は元気じゃのう」
何を言っても聞かないベートをティオネ達は叱責し、アイズは顔を暗くして次郎に謝るが当の本人は別段気にしてなかった。
「てめぇみたいなホラ吹き野郎がいるから俺たちの品格が下がるんだよ! さっさと冒険者なんて止めちまえ!」
未だ罵倒を続けるベートを、"このままでは次郎がキレるかもしれない"と青ざめたロキとフィン達はいい加減止めさせようとするが、ここで意外な人物がベートに物申した。
「止めてください!!」
「あん?」
ベルの突然の叫びにより、ベートは笑うのを止めベルを見る。
「ジロウさんは雑魚でもないしホラ吹きでもありません!....ジロウさんは初めて会ったとき僕を救ってくれた恩人で憧れなんです.....なにより同じファミリアの仲間をバカにしないでください!」
次郎が驚いた。まさかあの気弱そうなベルが自分より明らかに上位の冒険者にここまで強気になるとは思わなかったからだ。
その証拠にベルは体が少し震えていたが、それでも自分の仲間が好き勝手言われてるのは我慢できなかった。
「ベルさん....」
そんなベルをシルも心配そうに見つめる。
「ああ!? 誰に向かって口聞いてやがる白髪野郎! 所詮てめぇもそいつと同じファミリアの弱者だろうが!....雑魚が意見してんじゃねぇ!」
レベル5の迫力に泣きそうになりながら一瞬たじろぐベルだが、負けじと言い返す。
「僕は.....僕は確かに弱い。ミノタウロスに気圧されて震えることしかできなかった弱者です。でも、ジロウさんは違います! あの時震えてた僕をミノタウロスから助けてくれたのは紛れもないジロウさんです!だから......あなたがどれだけ凄い人でもジロウさんを悪く言うのは許せません!」
(まさかベートにここまで堂々と意見するとは...中々芯の強い子だ)
(仲間想いのええ子やなあ....どチビのとこには勿体ないでホンマ)
フィン達はベルに対する印象を改めた。 異常な次郎とは違い、最初はごく普通のレベル1だと思っていたがここまで啖呵を切るベルを高く評価していた。
一方、レベル1の弱者でありながら自分に意見してきたベルにイライラがピークに達したのかベートは酔っていたこともあり手を出しそうになった。
勿論ティオナ達が止めようとしたが、その前に次郎がベートの前に立ち提案を挙げた。
「まあまあ待ちんさい」
「どきやがれ雑魚野郎が!」
「ベート君だったかな? どうじゃ...ワシと勝負せんか?」
「あ?」
「ワシは別に何を言われても気にしないし、お前さんをどうこう言う気はない。 まだまだファミリアが小さいのは事実じゃし、有名なお前さんからしたら雑魚に見えても仕方がないことだからのう」
その言葉に異を唱えようとしたベルだったが、それを手で制した次郎は少しばかり目を細め言った。
「自分より格上の相手にここまで勇気を出して言ってくれとるのに、同じファミリアの家族であるワシがなんもせんのはダメな気がするからのう」
「ジロウさん....」
「はっ、上等だよ表に出やがれ! てめぇみたいな身の程知らずの雑魚野郎には実力の差ってもんを教えてやる!」
「ほいほい」
そう言ったベートと次郎は店の外に出て互いに向き合った。
"喧嘩が始まる"
それが分かった店の者達の反応は様々なものだった。
「お、喧嘩か?」
「しかも見ろよ....片方は"凶狼"だぜ」
「じゃあ、もう一人の男は誰だ? 見たことねえやつだが...」
「なんかレベル1らしいぞ」
「はぁ!? マジかよ、死んだなアイツ」
周りの冒険者は次郎に同情の視線を送りつけ、賭け事をする者もベートにほぼ全員が賭けていた。
「あわわ..リューどうしよう?...」
「落ち着いてくださいシル。 ミア母さんも止めなくていいんですか?相手は"凶狼"ですよ」
次郎がベートと喧嘩をするということで慌てているシルを鎮めるのは、シルと同じくこの店の従業員で元々は"疾風"の二つ名を持つレベル4の冒険者だったエルフの少女リュー・リオン。
シルとは違い冷静だが喧嘩相手がベートだという事実に次郎の身を案じた彼女は、ミアに止めさせなくてもいいのかと問う。
「お互い了承のもとで始めたことなんだ。店の中で暴れるわけじゃないしアタシらが止める権利はないよ」
「ですが....」
「いいから黙って見ときな。 それに.....面白いものが見られるかもしれないからね...」
一方、二人を追いかけ同じように店の外に出たロキファミリアの面々はベートに口々に止めろと言うが、それはフィン達とティオナ達とでは別の意味合いがあった。
ティオナやティオネはいくらミノタウロスを倒したとはいえ、レベル1の次郎がレベル5のベートに挑んだら只ではすまないと思ったから。
(ちなみにアイズは次郎の力を見ているためさほど心配はしていない)
フィン達は会っただけで"勝てない"と錯覚してしまう程の男である次郎とベートが闘ったらヤバイと思ったから。
そして勿論ベルもその場にいたが彼は止めようとはしなかった。自分のために勝負をすると言ってくれた次郎を、ここで止めたらその行動に泥を塗ってしまうような気がしたからだ。だから何も言わず次郎を信じて見守ると決めた。
「なあフィン...止めなくてもいいんか?」
「そうだね...確かにベートでも只ではすまないかもしれない。 でも同時に僕も気になるんだ....一人の冒険者として彼の実力が実際どれほどなのかを....」
そう言いながらフィンは自身の親指を見た。
「フィン、お前その親指....」
リヴェリアはフィンの親指を見て驚いていた。
「ああ...彼と会った時から"全く疼いていない"。 こんな現象は初めてだよ」
「どうなっとる。 お主もあの尋常じゃない雰囲気を感じたのじゃろう?」
リヴェリアやガレスが驚いた理由はフィンの親指が震えていないということだった。
フィンの親指には予知のような能力が備わっており、危険や脅威を感じたりすると震えるようになっている。
言うなれば勘のようなものだが、ほぼ確実に当たるためこれまでダンジョンでは数多くの危機から脱してきた経験もある。
なのに、一目見て異常だと分かる次郎を目の前にして親指が疼かない理由をフィンは恐らくだが予想していた。
(どれだけ察知しようが対策を立てようが彼の前では意味をなさない....何をしようと無駄に終わる。それが本能でわかってしまったから親指が危険を伝えること自体を拒否している.....いや、諦めていると言った方が正しいか。 全く...つくづく規格外な存在だよ)
そう思い、一筋の冷や汗を流しながらフィンは向き合う二人を見た。
そうこうしてる内に、二人の勝負が始まろうとしていた。
「覚悟はできたか雑魚野郎。 安心しろ、数秒で終わらせてやるからよぉ!」
「そうじゃなぁ....ワシも数秒で終わっちまうと思うと少し申し訳ないわい」
その言葉と同時に、次郎とベート・ローガとの闘いが開始した。
次回タイトル
「数秒の勝負」