オラリオに暴獣が来るのは間違っているだろうか   作:チミチャンガ

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生涯のパートナー

「!......あら」

 

次郎の表情と自らに放たれた言葉。それにより自分の魅了が目の前の男に効果を成してないとわかったフレイヤは目を見開き言葉を漏らす。

 

「驚いたわ。まさか私の魅了(ちから)に耐性を持ってるだなんてね」

「ちからぁ?」

 

当の本人はフレイヤがなにを言っているのか解らず聞き返す。当然だ。

次郎からしてみれば初対面の女性でそれも神がいきなり抱きつき自分のモノになれと言ってきた挙げ句、力がどうのこうの言っているのだ。訳がわからない。

しかしそれは表情にはあまり出さないものの、フレイヤも同じ事を思っていた。

 

フレイヤは『美の女神』 その名の通り"美を司る神"であり容姿端麗な神々の中でも随一の美貌を持ち合わせる美の化身。そして美による《魅了》の力は凄まじく男女問わず、モンスターでさえ虜にしてしまうほど。

彼女が本気でその力を発動すれば対象の全てを掌握でき、今まで何人もの他ファミリアの眷属を引き抜いたりしてきた。

そして彼女自身、自らの美貌に絶対の自身を持っている。

これは慢心でもなんでもない、事実なのだから。

 

だからこそフレイヤにとってもこの事態はイレギュラーなのだ。

全力でぶつけた訳ではないとはいえ、ゼロ距離で喰らっておきながら魅了されるどころか顔を赤らめることすらしない。言葉通り「何をしてるんだコイツ」といった眼で見てくる男にフレイヤは困惑する。

 

一方、次郎もいい加減自分に抱きついたまま考えるように動かないフレイヤに声をかけた。

 

「なぁ、すまん。よくわからんがそろそろ離れてくれんか」

「.......えぇそうね、突然ゴメンなさい」

 

言われた通り次郎から離れたフレイヤ。表情はいつも通りだがやはり頭の中は疑問であった。

だが同時に面白いと思った。そして知りたくなった。美の女神に真正面から抱かれ何故照れる仕草すら起こさずはね除けたのか。

 

「ねぇジロウ....一つ聞いてもいい?」

「別にいいが、ワシからも一つええかい」

「あら、なにかしら?」

「いきなり抱きついて君のものになれとはどうゆう意味じゃい」

 

疑問を持つのは次郎も同じ。単純に聞きたかった。自分にかけられた言葉の真意や行動の意味に。

 

「それについては悪かったわ。あなたの魂が今まで見たこともないくらい不思議で魅力的な色をしていたものだから、ついつい私の眷属にしたくなったの」

「たましい? なんじゃそら、そんなもん見えるんかフレイヤちゃんは」

「フレイヤちゃん........えぇそう。私、下界の子供たちの魂の色を見るのが趣味なの。それでジロウのような気に入った子を見つけてしまうとさっきみたいに手が出ちゃうのよ」

「なるほどぉ....それのなにが楽しいのかわからんがまあええ。しかし君のような可愛らしい娘にお誘いしてもらって悪いが遠慮しとくわ。一応ヘスティア君のとこの眷属なんでのうワシは」

「フフ.....それは残念ね♪」

 

そう、これだ。

 

自分をフレイヤちゃんなどと軽々しく呼ぶものは今まで誰もいなかった。自らの眷属や他ファミリアの子供たちは勿論、同じ神でさえもそうだ。

それに何より美の女神を"可愛らしい"程度にしか思っていない。既にわかりきった事だが魅了が全く効いてない事実を改めて思い知らされる。

だから今度こそフレイヤは次郎に質問する。

 

「じゃあ私からも聞かせてもらうわ。ジロウ、どうやって私の言葉に耐えたの?」

「おん?どうゆう意味じゃい」

「言葉通りの意味よ。自分で言うのもなんだけど私は美を司る神。今まで私に誘われて堕ちなかった子供はいないわ。ましてやさっきみたいに誘えば誰であろうと私の虜になったわ」

「なんとまぁ、そりゃすげぇ」

「だから教えてほしいの、どうやったの?それとも何かのスキルなのかしら?」

 

美神の問いに目を閉じ、考え込む次郎。フレイヤはその様子を黙って見つめる。

 

「.....ふぅむ、ぶっちゃけた話 君の言う魅了とかいうのが何故ワシに効果を及ばさなかったなぞ知らん」

「そう.....」

 

嘘は言っていない。恐らく本当に知らないのだろう。だが薄々フレイヤ自身もわかってはいた。

抱擁を受けた次郎は本当に意味不明といった顔をしていたし、そもそもよく考えればそんな特定のスキルがいきなり発言するのもおかしい話だ。

まさか本当にフレイヤという極上の肢体に興味が無いのだろうか。

 

そんなことを考えていたフレイヤに次郎から「だが....」と声がかかる。

 

「なんとなくだが予想はつくのう。ワシが君に惹かれない、魅了されない理由とやらも。まあ予想だけど」

 

彼はわかったと言う。だがたとえ予想でもいい、フレイヤは聞いた。どうしてと

そして帰ってきた答えはなんともありふれた、そして思いもよらぬ答え。

 

「愛じゃよ、愛」

「......愛?」

「うむ、君はたしかに可愛い娘じゃ。たいていの男はイチコロじゃろうて。多分イチちゃんか三虎も余裕で.......いやアイツはマザコンだしフローゼ様以外の女なんて興味ねぇか」

 

なにやら最後の方を難しい顔でボソボソと言っているが、そんなことよりフレイヤは愛というわかりやすいようでわかりにくい答えの意味を問う。

それに「あぁすまん」と次郎は向き直り説明した。

 

「ワシには愛する人がいた。生涯かけて互いに守りたいと思える最高のコンビがな。彼女をワシは心から信頼して愛しとる....だからフレイヤちゃんには万が一にも惹かれんよ」

「へぇ....."いた"って事はもうその彼女は亡くなってしまったの?」

「んん? あぁ......まあ、うん。そんな感じ」

 

実際に死んだのは次郎の方であり、人間国宝と呼ばれた彼女は今も元気に節乃食堂を営んでいるだろう。

 

「懐かしいのう。セッちゃんの作る料理は最高に絶品でなぁ....兄弟も大好きじゃった。まーた食べたいもんじゃ」

「セッちゃんというのが彼女の名前?」

「あぁ、節乃って言うんじゃがの。ああゆう人を非の打ち所がない可愛さって言うんじゃろなぁ」

 

フレイヤはまたも目を見開く。次郎の口から出た"節乃"という女性の名前。その存在が次郎の心を占めているからフレイヤの魅了が効かない。たしかに理由としては筋が通っている。

しかしそれで納得できるかどうかは別問題だ。たとえ恋人や婚約者がいたとしてもフレイヤが誘惑すれば関係ない。誰もが美神の愛を受けとる。

 

しかし彼はどうだ。

惹かれないと言った。本当に女性として見ていない。

だがその節乃の話をする時の次郎の表情は恋をする者の....愛する人を想う瞳だった。

照れながら恥ずかしそうに、姿も知らない人物を語るその姿は、心から彼女を愛し、まさしく堕ちているといった様子だ。

 

「.....これは、難関ね」

「ん? なんか言った?」

「いえ、なんでも」

 

それでもフレイヤは諦めはしない。次郎は節乃という存在にベタ惚れだ。現状ではどれだけ誘惑しても無理だ。

力づくでやる手も一瞬考えたが彼には通用しないだろう。次郎の本気の戦闘を見たわけではないが普通ではないのは最初に視た瞬間に理解したし、もし魂の奥深くに眠る"ナニか"

それを解放してしまったら眷属総出で向かわせても太刀打ちできないという確信があった。

 

故に今回は引き下がることにした。まず集中するのはもう一人の純粋な輝きを放つ白い兎、彼をモノにしてからだ。

不謹慎だが節乃は既に亡くなっているという。今は無理でもゆっくり自分という存在を彼に浸透させていけばいい。

そうすればいずれ次郎は想いが残っているとしても自分を愛してくれるだろう。そんな考えが頭に浮かんだ。

 

そして同時に聞いてみた。節乃のことを

 

「そのセツノという人はそんなに綺麗な容姿をしているの?」

「あったり前よ。綺麗なんてもんじゃないわい。アレぞ女神であり天使であり絶世の美女ってやつだな」

「ふぅん.....」

「少し小柄なところがまたキュートでのう。君や他に会った娘も美人ではあるが....悪いがセッちゃんに比べりゃ劣るのう」

 

まさにベタ褒めだった。

なるほど、これはますます一筋縄ではいかない。しかしそれでもいい。そうでなくては面白くない。簡単に手に入ってしまえばそれはそれでいいがやはりつまらないのだ。

苦労して自分のモノになった時こそ達成感や喜びを深く味わえる。冒険者の気持ちが少しわかった気がした。

 

(それにしても...一体どれほどの美貌なのかしら)

 

オラリオには女神でなくとも容姿端麗な者は大勢いて、冒険者も一般人も整った外見をしている。

だがそれらを含め、美の化身である自分でさえ節乃には劣るという。女神でも敵わないその美しさはどれだけのモノなのか

会ったこともないその女性にフレイヤは内心だいぶ嫉妬していた。

 

(女神も超える容姿を兼ね備えた人間......一度でいいから見てみたいものね)

 

 

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