ノコギリ山に星屑が落ちてきて、アスタ達は町の衆と一緒に見とれていた。するとククリはこの日が満月だと気付く。
「満月だ…」
「ククリ、どうしたんだ?」
「うん…昔のお友達の事を思い出してね」
そう言うとククリは月を見上げてなんだか寂しそうになる。
「なぁ、その友達ってなんだ?教えてくれないか」
「勇者様…」
「俺達って、同じ村出身だけで分からないことだらけだろ?俺とユノの話もしてやるからさ」
「…うん!」
2人はさっそくそれぞれの過去を話した。
9年前。
当時、ハージ村の教会で育ったアスタとユノは6歳。
「ほら、早く行くぞユノ!」
「待ってよ。アスタ」
この頃からアスタはやんちゃで良い意味では元気が良くて、悪い意味では落ち着くことができない性格。そしてユノは今とは違いとても泣き虫で臆病なおとなしい性格だった。
「ほら、アスタにユノ。走っちゃ危ないわよ」
「大丈夫だよシスター!」
彼らの目の前に教会で働いているシスター・リリーが手を振りながら、転ばないようにと声をかけるのでアスタは大きく返事をする。
「あっ!?」
「ユノ!」
「あらあら」
けれど、ユノが転んだので慌てるアスタと駆け寄るリリー。ユノは今にも泣きそうになるが、アスタは手を出して
「大丈夫か?ほら!」
「…ありがとう」
ユノはアスタの手を掴んで起き上がって、リリーもハンカチを出して涙をふく。
「よくがんばったわね」
「そうだよ。ユノも強くなくちゃ!いつか俺も強くなって、シスターと結婚」
「だから、私はシスターで結婚はしません」
「え~~~」
リリーに好意を持って結婚願望があったアスタ。しかし軽く無理と言う。
「相変わらずじゃのう」
「「うわっ!」」
「あら」
そこに暗黒オババが現れた。
「暗黒オババ!どこから現れた!」
「別に良いじゃろ?しかし、シスター・リリー。いっそのことシスターを辞めて、結婚をするべきではないかえ?」
「オババさん、何を言って」
「こんなに色気のある体なのにもったいないであろう」
「ひゃっ///」
おばばは後ろに回ってリリーの胸と尻を揉みだした。当然、リリーはエロい反応を示す。
「やい、モンスターババア!シスターに何をするんだ!というか、俺にも揉ませろ!」
「そうじゃなくて!」
「ぎゃ!?」
リリーは水創成魔法、愛の正拳でアスタを殴りつけて、オババにもやろうとしたが軽く避けられてしまう。
「なんじゃい、ただの冗談のつもりだったのじゃがな」
「冗談にもほどがあります…」
本人は冗談だと言ったが、リリーが涙目で抗議。ユノは伸びたアスタを助け起こす。
「アスタ、大丈夫?」
「心配ないない」
本人は平気だと少しよろけながら立ち上がったアスタ。
「せっかくじゃから、昔話でもするかの」
「昔話?」
「今ここで」
紙芝居の仕度をし始めたオババにアスタもユノもリリーも戸惑うが、さっそく紙芝居を始めた。
「昔々、この世界をギリと名乗る魔王が現れて支配しようと企んだ!」
それは魔王ギリに関する物語で、読みながら紙芝居のページを変えていく。
「ギリは邪悪な魔法を使い、魔界からモンスターや悪魔を操って人々を襲った…」
「うう…」
「なんて悪い奴なんだ!」
迫力ある話し方にアスタは話を聞きながら怒りだしてユノは思わず目と耳を塞ぐ。
「当然、ギリに対抗すべくクローバー王国はもちろん。世界中の国々が協力して立ち向かった。しかしギリの力が強く追い詰められていき、さらに恐ろしい力を持った魔人も現れて世界の終わりが近づいてきた」
次のページに入るとそこには四葉の魔導書を持った魔導士の絵が出た。
「だが、魔人は選ばれた四葉の魔導書を持った魔導士によって見事に倒された。さらに特別な魔法を使う一族が現れて、ギリを魔法で封印することに成功し世界は平和となった」
「ヤッターーー!」
ギリと魔人が倒されて大喜びするアスタで、ユノも目を輝かせて真剣に読んでいた。
「しかし!300年の時が流れて、ギリが復活した。再びこの世界をモンスターと悪魔を使って支配するために…けけけけけけけ!」
するとモンスターのパペット人形をはめた右手で、紙芝居をぶち破って怖い声を出しながら驚かした。
「「「…」」」
「……あれ?」
しかし3人はあんまり驚かないというより、全然受けていなかった。
「まぁ、だけど本当に魔王が現れたら俺がやっつけてやる!!」
「おやおや、だけど魔王は恐ろしいぞ…お前なんぞに勝てるかな?」
「う…なにを!?」
「あははははは!じゃあな」
意気込むアスタをからかいながら頭を撫でまわして暗黒オババは歩いて帰っていった。森の中の家に帰って来ると
「おばあちゃん、お帰りなさい♪」
当時、5歳のククリが出迎えてくれた。
「ただいま、ククリ。ちゃんと留守番はしてたか?」
「うん!」
元気よく返事するククリにオババは昼食の準備をして、それから2人は料理を食べた。
「…おばあちゃん」
「なんじゃ?」
「ククリはいつになったら、お外に出られるの?」
ククリは生まれてからずっと家の外に出てはいなかった。そこでいつ外に行けるのか聞いてみる。
「ダメだ」
「え?」
「外にはこわ~~~いモンスターがたくさんいるぞ!それでも行きたいのか?」
「う…ううん」
モンスターがいると脅すオババ。だけど、どっちかというとオババが一番怖いと思うククリだった。
「まっ、夜になったらモンスターも寝静まるからな。だから、夜になるまで待つんじゃよ」
「……は~~~い」
納得いかなくても返事するククリ。食事が終わって食器を片付けるククリに、オババは少し悲しそうな目で見る。
[すまんの…ククリも友達が欲しいだろうが、お前は世界で1人のミグミグ族だからな]
オババはもしもククリがミグミグ族だと世間に知られたら、ギリのモンスターに狙われて、さらに悪い人たちに利用されると恐れた。
しかし夜になるとククリは魔法の修行のために外に出る。
「それっ、ほっ!」
ククリは月を見ながらステップしながら歩いて、周りに人がいないか確認して杖でちょっと落書きをした。
「良し、お姫様出来た」
地面にはお姫様の落書きをしたが、改めてグルグルの特訓を始める。まずはトーラを描いてみたけど何も起きない。今まで何度も描いても起きないので、ククリは少し泣きそう。
「どうして…何も起きないの…」
涙を拭うと目の前にククリと同い年ぐらいのツインテールの少女が1人で踊っていた。
[なんだろう。あの子?ちょっと行ってみよう]
行ってみようとしたが、オババからの約束。けして人に見られないようにを思い出す。けれども、なんだか面白そうなので無視して近づいた。
「ん?」
「あの、あたしはククリ。アナタは?」
「あたしはイルク。踊りの練習をしてるよ」
「踊りの?」
「そう、見てて」
そう言ってイルクは踊り始めた。月を背に踊る姿はなんとも可憐で優しく美しい姿。
[スゴイ…だんだん近づいてきて、イルクちゃんしか見られないような!]
「「ぎゃっ!!」」
その通りで、イルクがククリに近づいてきたので2人はぶつかってしまった。
「大丈夫ククリちゃん!あたし、まだダンスが下手だから、夜中に練習してるの」
「そうなんだ…あたしも魔法がまだまだだから練習して」
「じゃあ、毎日一緒に練習しよう♪」
「うん♪」
2人はお互いにこの場所で練習しようと約束をした。
それからというもの、ククリとイルクはそれぞれ魔法と踊りの練習をする。まだまだ上手くいかずに失敗してばっかりだけど、とても楽しかった。ククリにとっては初めての友達が出来たから。
それから別の日。ククリは本を読みながらコーヒーを淹れるオババに質問した。
「おばあちゃん。どうして魔法陣を描いても魔法が使えないの?」
「ただ教わった図形を描くだけではダメなのじゃ。念じるんじゃ、思いを込めて描けば望むものが呼び出せる」
するとオババは灰魔法を発動させると、灰がククリの前で形を作り出した。それは螺旋状の形。
「この灰の渦のように、お前の心が回りながら形が生まれてくるんじゃよ」
簡単に説明しているがククリにはまだ難しかった。
それから次の日はあいにくの雨。
「雨がザーザー。つまらない」
「今日の特訓は中止じゃな」
オババがそう言ってククリの部屋から出た。すると窓にはイルクが悲しそうな目で見つめている。
「ククリちゃん、ちょっと言いにくいけど」
「え?どうしたの?」
「……今日、お別れを言いに来たの」
イルクの言葉にククリは衝撃を受けた。
「なっ、なんで!そんな急に!?」
「ゴメンね。それでも行かなきゃいけないから…さよなら!」
「あっ、待って!」
お別れを言って走っていったイルクをククリは呼び止めようとした。しかしイルクは止まらずに見えなくなるまで走ったので、ククリはポカーンとなる。
[なんで、なんで、なんで!イルクちゃんのバカ!!]
ククリにとっての初めての友達がいなくなったので、そのショックはとても大きかった。
それから次の日。晴れて満月が出ていたが、ククリは少し不機嫌になりながらもグルグルの練習をした。
「わっ!?」
ククリはトーラを成功させた。
「出来た…出来た!」
ククリは喜んでオババに伝えに行こうとしたが、慌てて走っていたので転んでしまう。
「いたたたた…あっ、ククリの落書きが」
地面で見たのはククリが落書きで描いたお姫様の絵が、昨日の雨で消えかかっていた。
するとオババの話を思い出したククリは気づいた。前からククリはお友達が欲しかった事。この落書きもククリが、友達が欲しいと願って描いたもの。
「あたし…魔法陣で友達を出しちゃった」
ククリが最初に描いたグルグルは、イルクという友達だった。
「という事なんだけどね。勇者様」
「へ~~~ククリ、友達を出したんだな」
「うん!」
アスタとククリはお互いの話をしあって再び星屑を見つめた。
次の日。アスタ達は帰る前に町長に呼ばれた。
「あの…一体何を?」
「昨日のブロンズ像を作り直しまして、全員が入るようにしました。見てください!」
布カバーを外してブロンズ像をあらわにした。それは色んな箇所で、ザザとトマとミグとおやじの顔が付けられたとても不気味なもの。
「ふん!」
当然、アスタが飛び蹴りで破壊した。
「あーーー!像がって…やっぱりダメでしたか?」
町長も流石にダメだと感じていた様子。とにかく町の入り口前でククリとノエルとミモザとミグはお別れを言った。
「ククリちゃん、ノエルちゃんにミモザちゃん!絶対にまた会いに来てね」
「元気でね」
それからザザはアスタに話しかけた。
「じつは僕、魔法騎士になるのは辞めてアスタさんのような剣で戦う剣士になろうと考えてます」
「俺のように?」
「はい、甘く見てました。魔法騎士団に入るのって…」
カッコつけるが早い話、怖かったらしい。
「僕は、もうちょっと自分の職業を一から考えようかと思います」
[そういえば、最後まで目立たなかったな]
トマは僧侶を諦めて別の職業を考えようといって来たが、アスタにとってはあんまり影が薄い方の印象しかなかった。
「そして、アタシはもちろん!」
ミグが格闘家のものまねをし始めるが
「立派なキタキタ踊りの後継者だね」
「ええええぇぇぇぇぇ!なんでそうなるの!?」
なぜかラックがミグはキタキタ踊りの後継者だと言い出して、当然納得いかない。
「いや、彼の言う通りかもしれないな」
クラフスがなぜかラックの言う事に納得してアスタとユノも言い出す。
「キタキタ踊りは女の子の踊り。この町の女の子はミグだけ…」
「つまり、彼女がキタキタ踊りの後継者って事になる」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
ショックで泣き出すミグの後ろでおやじがさっそくレッスンを始めた。
[可哀そう…]
[本当に哀れね…]
[納得ですけど、納得はいきませんね]
ククリもノエルもミモザもミグに同情する。すると町長が走って来た。
「先程は申し訳ありません。改めまして、この町に古くから伝わる宝を差し上げましょう」
「え?本当に宝が」
町長が持ってきたのは竜の絵が描かれた鍋。
(聖なる鍋。どんな料理も焦げ付かずに、美味しく作れる伝説の鍋)
「200年前から伝わる鍋ですよ♪」
「2…200年前から」
宝が200年前の鍋なので、アスタ達は引いたりがっかりする。とにかく黒の暴牛と金色の夜明けはキタの町を離れた。
だが、しばらくすると池を見つけたのでアスタは聖なる鍋を捨てた。
「なに捨てているんですか!」
「「「「「「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」」」」
池から町長が鍋を持って現れた。
「これは伝説の鍋ですよ!」
「だって…200年前の鍋なんて、汚そうだし…なにより恥ずかしいし!」
「そんな言い方しないでください…これは200年間、綺麗に洗ってますから大丈夫ですし。それに言ってくれれば、鍋を入れる風呂敷も差し上げたのですよ!」
風呂敷も取り出して念入りに言う町長。それから鍋を風呂敷で包み込んで改めて帰って行った。その間、町長が捨てないか見張りながらも。