自称ファーマーは大量生産の夢を見るか?   作:Kazuma@SB

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紅葉狩りで一年と面通し

 

「十傑とそれ以外の料理人には絶対的な力の差があるんだよ。これは事実———」

「やー悪ぃ、今戻りましたー」

「……オイ愚弟テメェ、絶妙なタイミングで遮ってんじゃねぇよ。見ろ、折角立て直しての口上途中だったのにまた落ち込んじまったろうが!」

「うわぁすんません瑛士先輩。……出先で貰って来たもんですが、梨とか食います? あっちに置いてる分ですがムベと栗なんかも。俺も関わってますんで味は保証しますし、十傑全員分あるんで帰り際にどうぞー」

「縁印か! 梨くれよ梨ー。あ、やっぱ全部欲しい! ごっそり全部くれ!」

「はいはい、全部はやらんが、ちゃんと竜胆ちゃん専用に一通り包んであるから持ってけ。特別扱いだぜ、喜べ」

「わーいやったー。しゃぐしゃぐしゃぐしゃぐ」

「お義理とばかりの棒読みありがとうよ。うん、反応くれただけ良い方だよな……。あ、えりなちゃん。一年に俺の話通しといてくれた?」

 

「いえ、まだです。番外席次、流石に自由が過ぎます……」

「先輩、俺何回か会ってますよね。番外席次? 先輩も十傑なんすか? 叡山先輩の弟?」

「おぉ選抜見たぜ、惜しかったなー。そっちと隣見てみろ、もう十人いるだろ? 俺が十傑だったら十一傑になってゴロ悪ぃじゃねーか」

「あ、だから番外なんすか」

「そういうこった。そもそも俺は料理人じゃねーから十傑にゃ候補にすら入んねーが、例外的にそれに次ぐ権力を預かって番外なんて席貰ってる。あぁ、初見の一年は初めまして。遠月十傑評議会が番外席次、叡山 縁ってもんだ。そこのインテリヤクザな九席の双子の弟でもあるんで名前で呼んでくれや。……なんだ、ほとんど顔見知りか。気取って損した」

「誰がインテリヤクザだ、アァン!?」

「それそれ、そういうとこだよクソ兄貴」

「あー! もう縁っさんのせいでグダグダだー。こんだけ話弾ませたんでもう十分っしょ、解散しよっか! んっじゃねー、一年生諸君!」

「はぁ、もうそれで良いよ。縁くん、ちゃんと一年生と話しておいてね」

「了解っす瑛士先輩。万事お任せあれー」

 

 

「それで縁さんは誰を知らないの? 私とリョウくん、えりなと秘書子ちゃんは違うでしょうからそれ以外?」

「薙切さんちのお嬢さん方と付き人組は結構付き合い長ぇよなぁ。葉山くんは汐見教授のゼミで一緒にハーブ育てた仲だし、美作は兄貴関係で俺らの舎弟みてーなもんだろ。面識ねーのは何回かちょっと絡んだだけの幸平くんと田所ちゃん、選抜で画面越しに見ただけのアルディー二くんの三人だな。そんなわけで三人共、まぁヨロシクしてくれや」

「よよ、よろしくお願いします!」

「とはいえ番外席次、まだ彼らに卸す程では無いでしょう。特に関わることも無いのではなくて?」

「まぁそうだがすっぽかすと爺さんが怖ぇ。一年との顔合わせも俺が入って以来の紅葉狩りの目的の一部だしな。あぁ、三人以外は解散しても良いぜ? 別に目新しい話はねーからな」

 

「では私たちはこれで。幸平くん、その人との繋がりを求める料理人は数多くいるわ。まぁあなたではそれを活かせないでしょうから、精々臍を噛みなさい。行くわよ緋沙子」

「はいえりな様。それでは縁様、失礼します」

「おう。あっちの十傑用のお土産忘れんなよ」

「縁さん、私たちにも頂戴な。えりな、ちょっとくらいなら分けてくれるわよね? ほらリョウくん、持ってっちゃって」

「うす。……ども」

「あ、こらアリス! まったくもう……」

「俺もこれで失礼します。お手隙の際にまたホーリーバジル見に来て頂けると助かります」

 

 

「おう美作、お前は行かねーのか?」

「縁さんだけだといくつか説明しないで隠すでしょう? 補足要員ってやつですよぉ」

「ケッ、そんなとこで気ぃ回すなってんだ。あー、じゃあ始めるか。っとその前に田所ちゃんとアルディー二くん、そう固くならなくて良いぜ。えりなちゃんも言った通り、基本的に俺が君らに関わることはねーからな」

「は、はいぃ……」

「失礼、縁先輩と呼ばせて頂いても?」

「どうぞどうぞ、好きに呼んでくれて構わねーよ」

「ありがとうございます。では縁先輩、料理人ではないとはどういうことです?」

「それ俺も気になるっすわ」

「そのまんまだ。俺ぁ料理スキルは全く無くてな、ここの中等部一年にも劣ると自負してる。まぁそれを補って余りある能力があるからご大層な席貰ってるんだがな」

 

「勿体振らんでも良いでしょう。この人は神の舌に並ぶ技能持ちでな。それも舌みたいな一部どころじゃなくご本人、クロノス様だ」

「クロノス? ギリシャ神話の時の神でしたか……?」

「美作手前ェ狙ってやがったな! 一番黙っときたいとこを真っ先にとか、もう目的達成したろ。帰れ帰れ!」

「ククク、ではお任せしますよぉ。まぁ説明が足りて無いようでしたら後からでも伝えますんで」

「いらんとこばっかりクソ兄貴みてぇなことを……」

 

 

「で、伊達男。大体勘違いされるんだが時の神じゃなくて農耕神の方、綴りの違うクロノスな。まぁ覚えなくて良い、寧ろどっかでこれ聞いたらせめてファーマーと呼べって訂正しといてくれ」

「伊達男……。あ、はい」

「改めて言うと自意識過剰っぽくて嫌なんだよなぁ、謙遜が日本人の美徳だぜ。俺もお前みたいに海外で育てばこの辺価値観違ったのかもしれん。……もとい、今回だけ敢えて言い切るぜ。俺が生産者の頂点、神だ。畜産なんかに関しては微妙にカバーしてねーから生産者で一括りにするとアレだが、作物に関してはなんとなく与えるべき水や肥料の量やら置くべき環境やらが分かってな。使う道具なんかは全部一般に流通してるもんだが、結果的に収穫物の品質が劇的に変わる」

 

「それで農耕神、なんですね」

「おう田所ちゃん。最初だから分かりやすく言ったがこれからはファーマーで通してくれな、マジで」

「は、はい! すみません!」

「それで叡山……っと、縁先輩、具体的にはどんなことやってんすか?」

「さらりと流してくれて嬉しいぜ。基本的には畑耕したり果樹の手入れしたりしてる。学生ってより研究員側なんで、お前らのみたいな調理系のカリキュラムからは外れて独自に動いてんだ。君ら極星勢馴染みの慧の畑にもちょくちょく手ぇ貸してんぜ」

「もしかしてあの畑で取れる野菜が妙に美味いのって先輩の影響だったんっすか」

「そうだな。俺が一から育ててるやつと違ってある程度の品質向上くらいで止まったが」

 

「他に君らに関わる範囲では……実習で使う食材として丁度良い程度のものを作ったり、たまに十傑の事務作業を肩代わりしたりするくらいか。どっちも遠月とか十傑からの委託みてーなもんだ」

「もしかして宿泊研修の時は」

「そりゃ十傑の作業代行だな。遠月リゾートの敷地内にも俺が管理してる畑がある関係で、どうせ誰かが出向くならついでにその手入れができる俺が行くのがベストって判断だ。最も本来の十傑が普通に仕事してれば研修関係なく畑だけ見に行くんで、仕事押し付けられた分損した訳だがよ」

「大変なんっすね。縁先輩、そういえば先輩方に渡してた収穫物って、俺ら一年は貰えないんっすか? 何か薙切りズだけ持ってきましたけど」

「おい幸平、流石に失礼だろう!」

「でもよ、十傑の番外になれる食材ってよっぽどじゃん。田所も気にならね?」

「それは気になるけど……あ、そのぅ……」

「ははは、まぁ良いぜ。今の一年に関して言やぁ君ら以外は食ったことあるからな、三人だけ蚊帳の外ってのも筋が通らねぇだろ。さっきの果物系は全部持ってったようだし、ちょっと歩くが俺の畑まで来てもらおうか。良い感じのトマトとかあるし食わせてやるよ」

 

 

「——————え?」

「生の、手を加えていないトマトでこの衝撃……!」

「ぱっと見高品質だとは思ったけど、それどころじゃねぇ……!?」

「どうも目利きで判断できる品質は軽く上回るってことだったか。で、そりゃ一山いくらとは言わねぇが、普通に手間かけた程度に育ててるっつったら大体伝わるかよ。ざっくり三段階に分けるなら二段目ってとこ、ピラミッド型の真ん中だな」

「な!」

「更に力入れて真剣に育てた最上の品、三段目のそれは料理人の必殺料理にすら届きうる」

「……選抜の葉山のカルパッチョに並ぶってことっすか」

「ま、俺は料理の評価とか出来ねーから人に貰った感想になるが、そういうことらしい。銀さんたちみてーなスターシェフのそれには流石に届かねぇようだがな」

 

 

「ちょっと昔話をしてやろう。お前らも小学校の課題で朝顔とか育てたりしなかったか? 俺が初めて育てたのがそんな感じのプチトマトでよ。そこそこ真面目に鉢植え一つ育てた結果、今のそのトマトレベルのが出来上がってなぁ」

「小学生の頃にこれを……」

「その頃は勿論実家住まいで親に小遣いを貰っててなー。それを食った兄貴が言った訳だ、これを売れば小遣いが増やせるぞ、って」

「あー、叡山先輩っぽいっすね」

「だろ? 当時はまだインテリでもヤクザでもねー兄貴だったが、もう既に口は上手くてな。煽てられて言われるままに手元の小遣い突っ込んでいくつか鉢植え育て始めたんだが、収穫した時点でどこからともなく黒服がやってきて全部持ってったんだ。当時の俺らの小遣いの数十倍を置いて」

 

「黒服!?」

「数十倍って」

「その辺のどこにでもいるようなガキだった兄貴がどうやって繋ぎを取ったのか分かりゃしねぇが、それが薙切一族の使いでな。翌日また来て今度は俺が直に拉致られて、そこそこ長いこと走って車降ろされたら総帥と対面ときた。いやぁ、あん時はマジでビビったぜ。直前に任侠映画見てたせいで、コンクリ詰めにされて海へ沈されるコースだと本気で思っててよ」

「はは、想像力豊かっすね」

「小学生に総帥のあの風格は辛いですね」

「あはは……」

「そこであれやこれや話したというか聞き出された結果、薙切家のお屋敷に居候することになってよ。家庭菜園から初めて農場の一角、1ヶ月もする頃には広大な農場全てを管理することになった。その時点で遠月の設備諸々を使う権利、つまり十傑番外をもらってなー。で、その辺の収穫物は全部薙切家の食卓に並んでた訳だ」

「それで薙切と仲良い感じなんっすね。気安いというか壁が無いというか」

 

「そうだな。単純な付き合いの長さもあるし、神の舌故にってとこもあるか。普通の人には美味い飯であっても、神の舌に乗せれば不味くて食えたものじゃない、なんてことも多いみてーだしな。俺の場合は生野菜とか果物ばっかりになるが、普通に食えるものを出す相手にゃ悪い気しねーんだろ」

「ふーん、そんなもんっすかね。やー、何かツンツンしてるイメージしかないっすわ」

「あの性格は……いや、俺が言うことでもねぇか。ちなみにアリスちゃんは昔っからあんな性格だったぜ。急に飛行機に乗せられたかと思えばついたのが北欧でよ、何の名目だったかアリスちゃんのいる研究所で一時期過ごしてたんだわ。それに限らず中学の頃には世界各地に点々と俺用の畑ってか農業試験場があって、最低限の義務教育分勉強したらその辺転々としつつ番外席次として十傑の一部の事務なんかもこなす生活だ。別に不満は無ぇが、完全に人生の行く先までレール敷かれたと思ったね」

 

 

「話が逸れたな。まぁそんな感じで俺にも多少の積み重ねがあった、って自己弁護が一つ」

「料理人じゃない十傑番外、しかも席もらった当初は例外も例外な小学生のガキだ。番外について大々的な告知こそ無かったが情報ってなどうしても漏れる。なかなかの経験だったぜ、下は中等部から上は高等部までやっかみの嵐。年齢差があったんで直に手を出してくるような奴はいなかったが、もう陰口やらなにやら酷かった」

「まぁ幸いなことに遠月は実力主義だ。特に十傑は直に顔合わせて俺の成果も見せてたし便宜を計ってくれた。まずは人数の少ない高等部三年から、実習・食戟を問わず全力で育てた野菜を混ぜてやろうってな」

「当時の俺じゃたかが知れてるが、それでも全力なら二段目の上の方くらいにはいけたんだろう。調理さえさせてみれば自ずと分かるってことらしい。そんな感じで上から順に俺産の食材を使わせてって相応に実力を認められた」

「そうすっと部やゼミを通して上級生が下級生を宥めるようになった。何よりそれからは番外席次について態々口外するのもタブーってな風潮ができてな、翌年の新入生からはそもそも俺のことを知らない環境ができた」

「それ以来こうやって紅葉狩りの席で見込みがある一部に面通しするようになった訳だ。元々の目的は十傑と一年の交流なんだが、大概それはスルーされる。十傑ってのは概ね我が強ぇからなぁ……最早こっちの番外の説明がメインみてーになってる」

 

 

「もう一つはちょっとえりなちゃんが言ってた通り。そんな経緯の俺が作る食材だ、相応に腕がないと扱えないってのは十分に伝わったよな?」

「具体的には十傑以上。それだけの力を得た者のみ至上の食材を使う権利を得る。ついでに権利者からリクエストがあれば余力に応じて聞いてるぜ。試しに高品質のオイルが絞れるオリーブを作ってみてくれーだとか品種改良紛いのこともな」

「もとい、十傑の席を得なければ最上位の品は使う権利が無い。俺の生活は結構この最上位品の管理に割いてるんで、『基本的に俺が君らに関わることは無い』ってのはそういう意味だ。まぁこの通り適当な畑の周りうろついてれば会うことはあるだろうがな」

「念のため言っとくと使用権は十傑現職じゃなくて経験者だ。基本的には最低限の腕前を見るための基準だから剥奪はない。ついでに二段目までのもんは例外的に、十傑からの推薦や俺の独断で使用権与えたりもする。なにせ作ってるのは俺だ、そのくらい融通きかせて貰わねーと息苦しい。とはいえ何の実績もなしにって訳にはいかねーから、極星勢でも慧経由で入手ってのは難しいだろうぜ」

 

 

「説明すべきことはこんなとこだろう。はぁ、今年からは後輩相手の説明で気が楽だぜ。同級生だからって油断してた去年は照紀の野郎に結構噛み付かれたし……」

「大体俺にゃそこまで騒ぐほど味の違いも分からねーし、そんな敷居高くしようと思ってる訳でもねーんだがなぁ。最も総帥やえりなちゃんの判断だ、こと料理やらに関しちゃ外れんだろうから別に良いんだけどよ」

「っと悪いな、ちょっと用事思い出したんで最後は捲し立てちまった。結構な脱線もしたが紅葉狩りはこれで終いだ。幸平くんと田所ちゃんにアルディー二くん、三人ともまぁ頑張ってくれ。じゃあな、そろそろ月饗祭だし出店とか楽しみにしてんぜ」

 

 

 

 

直後、汐見ゼミにて

 

「ちわーっす。葉山くんいるかー?」

「縁くん久しぶり。どうしたの? 葉山くんに用事?」

「どうも汐見教授、昨年末からご無沙汰してましたっけ。ちょっと前に紅葉狩り終えましてね。帰り際の社交辞令っぽかったですが、ホーリーバジルの話が出たんでちょっと見に来てみました」

「———潤。来客用の茶菓子が切れてたんで補充だ。高級なやつなんで奥に置いといてくれ。縁さん、別に社交辞令じゃありませんよ。諸々見て頂けると助かるのは事実ですから。最近また潤がいくつかスパイスを枯らしかけましたんで、生育に障害が残らないか気にしてたんです」

「いつものやつな、まぁ実はそろそろかと思って心配になってな。教授、あの辺生命力強めなんでなんとかなってますが、あんまり鞭ばっか入れてっとそのうちそっぽ向かれますよー」

「はい、ごめんなさい……。度々ご足労お掛けします……」

「来る度に葉山くんの料理食わせてくれるんで、むしろ俺にゃプラスですしお気になさらず。って訳でシェフ、そっちの包みのやつ使って何か飯作ってくれー。さっき畑で穫ってきたんで鮮度は抜群だぜ」

 

「そういえば縁くん、葉山くんは名前で呼んであげないの? 私にくれてた野菜を使っちゃったのが始まりだけど、今は直に渡すくらい認めてくれてるんだよね? ……私は教授呼びで良いし、葉山くんにも見習って欲しいんだけどね!」

「そうだな、潤が色々うっかりしなくなればなぁ」

「ちょっと総帥に聞いた感じとか選抜の結果とか含めて十分認めてますよ。仰る通り、そこそこの品とはいえこうやって持って来てる訳ですし。ただまぁ、葉山くんも名前で呼ばれるなら、まずは特別な人からが良いだろ? 教授呼び含めその辺は配慮ってやつですよ」

「なっ!?」

「私含め?」

「くはははは! 何、隔意があるとかそういうネガティブなものではないってことです。もしかしたら既に条件を満たしてるのかもですが、俺が直に確認出来た訳ではないので様子見中ってなとこですとも。くふ、なぁ葉山くん」

「くっ……! え、縁さんこちらへ。被害出しかけたスパイスについて説明してなかったですし、一緒に行きましょう」

「ふふ、そうだな。では教授、また後で」

「あ、うん、よろしくね」

 

「縁さん、あまり揶揄わないでください。潤はあの通りですが俺の心臓に悪い……」

「いやいやいや。あの通りだからこそ攻めるべきじゃねーか? まぁこれ以上いらん茶々を入れるつもりは無いがな。今期では一番にお得意様になりそうだし、ちょっとした援護程度だよ。……何せ俺も君も小せぇ頃からの付き合いだ。教授はどうしてもその印象を引き摺っちまうんだろうさ」

「……そうですね。最近は随分マシになりましたが」

「長い付き合いってのも一長一短あるわなぁ。ま、俺は最初みたいに君に敵視されてねーだけやりやすくはある。あるいはまた兄さんとでも呼んでくれていいぜ。懐かしいよなぁ、何年前になる? 日本では希少なスパイスの生育条件特定のためにって、このゼミに泊まり込んで研究してたのは」

「…………すみません、その思い出話はちょっと……たった一回口を滑らせただけでしょうに……」

「ははは、了解了解。なに、誰かがいるところでは口外してねーから安心しろよ。さっきも軽く流したろ?」

「えぇ、ありがとうございました。……では、そこの萎れたスパイスを見ていってもらえますか。俺は料理始めます」

「あいよ。こっちは時間掛かんねーから先戻るだろう。出来上がったら教授んとこまで持ってきてくれ」

「分かりました。……くれぐれも、潤に妙なことを吹き込まないようにお願いします」

「信用ねーな、まったく兄さんは悲しいぜ」

「そういう一言が出るからですよ」

 

 

「そういえば教授、また試料増やしました? いくつか見慣れないハーブだかスパイスだか置いてましたね。陽に当てるもの当てないもの、ちょっと移動させましたんで後で確認しといてください。水やりの頻度やら適した肥料も合わせてメモ書いときました」

「分かったよ、ありがとう。それ、なんとなく分かるって言ってたよね。年々精度が上がってない?」

「言われてみればそうですね。今の十傑連中は歳も近いですし、結構こき使われた分成長したのかもです」

「そっか、もう縁くんも他の十傑と並ぶ歳になったんだったねー。時間が経つのは早いねぇ、去年くらいからよくそう思うよ」

「ははは……。(まだまだ完全に親目線じゃねーか。葉山くんも難儀するぜ) そういえば、この前宿泊研修で銀さんに会いましたよ。教授から直に聞いたことはなかったですけど、確か同じ時期に極星寮に住んでたんですよね」

「そうだよ、懐かしいねー。あの頃は……あの頃は……みんな堂島先輩みたいに常識人だったら良かったのに。噂をすれば影って言うしこの話はやめとこ、ね。そろそろ葉山くんの料理もできるだろうし、机用意しよっか」

「んん? 世間話程度なので別に良いですが。あぁ、重いものは運びますんで広げてる資料だけまとめてください」

「うん、お願い。ちゃんと気の使える良い子になったねぇ。……縁くん、女の子が嫌がることはしちゃだめ。特に年下の子が嫌がることとか本当にだめだから。変な料理の実験台にしたりしたら絶対だめだからね」

「はい、覚えときます。それに俺は料理できませんから何か食わせるとすれば生のままですよ。キッツい生薬系でもない限り妙なことにはならんでしょう」

「そうだね、うん、大丈夫だよね」

「深くは聞きませんが、何やら傷が深そうですね。まぁ教授は葉山くんといれば大丈夫でしょう。彼も大概一途ですから何かあってもカバーしてくれますよきっと。えぇ、端から見ても良いコンビでしょうとも。っと、いい匂いもしてきましたしそろそろできたっぽいですね。さっさと片付けちまいましょうか。その書類が最後ですね、ファイル持ってきます」

「うん……うん? さっきから何か勢いで誤魔化してない?」

「いえいえ、滅相も無いですー」

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