自称ファーマーは大量生産の夢を見るか?   作:Kazuma@SB

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フラグ
・薊との交流が一定値以下
・薊政権下における十傑との交流が一定値以下
・美食に対する意識が一定値以下


下 √A

薙切 薊の演説中 某所にて

 

「———自治運営勢力をすべて解体する。全部ゼロに、研究会もゼミ制度も一切廃止だ」

「———君たちがこれから作る料理は、全て中枢美食機関(セントラル)のメンバーが決定する」

「———十傑レベルの技術・アイデア・レシピを、やがてここにいる全員が習得するんだ」

「———僕と一緒にこの国の美食を前に進めよう」

 

 

「全ての自治勢力の解体ねぇ」

「言葉通り全ての、な。つまりお前が連んでる一色がいる何とか寮。独立採算制なんてもんが残ってるその寮も解体対象だ。適当に兵隊集めて潰すことになるだろうぜ、クククッ」

「なるほど、まぁ薊さんの演説通りならそうなるんだろうさ。別に文句はねぇが、いくらか聞かせてくれや」

「あん? テメェは十傑に次ぎこそすれ所詮番外。議決権も無い哀れな弟を見兼ねて態々この先の流れを教えてやった。そんな慈悲深いこの俺に、これ以上何を聞こうって?」

「いや一方的に聞くだけじゃねぇな、問答といこうぜ。兵隊どうこうとか言っちゃってる的外れなお兄様の蒙を、哀れな弟が啓いて差し上げようじゃねーか」

「上等だ言ってみろ愚弟。何が的外れだってんだ、あァ!?」

「おうよ、存分に聞いてけクソ兄貴。態々名前も覚えてないような寮を潰そうってのは俺とか慧関係じゃねぇだろ。名前を出すのも嫌なら俺から言ってやる。幸平くん、幸平 創真にこそ拘ってんだあんたは。で、幸平 創真を目の敵にしてんのは、どこだったかの店のプロデュースを潰されたからって話だったな」

 

「……幸平くん、ねぇ。随分親しそうじゃねぇかよ」

「苗字呼びしてる時点で違うことくらい分かってんだろ、無駄に皮肉んな。まぁ良い、そもそもこの時点で決定的に間違ってんだ」

「俺の経歴に傷入れた路傍の石だ、弾き飛ばそうとして何が間違いだって?」

「錬金術師様の仕事上初めてのケースだったからな、気になって経緯を追った。で、報告書を読了しての違和感だ。なぁ、なんでプロデュースが失敗した?」

「ボケてんのか!? だからあのガキが———」

 

「違う。そりゃ結果的に幸平くんがまとめた商店街に押されたが、直接的な原因はそこじゃねぇ。よく考えろ、商店街が盛り返したっつってもあんたならいくらでもひっくり返せたろーが。だがそうはならなかった。何故だ?」

「そりゃ百舌屋が俺の指示を…………あぁ、そうか」

「ほら見ろ。ちぃっと整理すればこの通りじゃねぇか。自明の理ってやつだろ、どうだ?」

「……異論はねぇ、確かにそうだ。こちらの指示を受けてればこその愛すべきパートナーであって、勝手に動く奴はフォローしようがねぇ」

「そうなると失敗したのはこっちの手を払って暴走した馬鹿な店であって、あんたじゃない。ん? 経歴がどうしたって?」

「何も問題は無い。順風満帆だ……っ!」

「そうさ。ボスの指示を容れ無い下っ端は群の範疇に無い。管轄外の他人がどうなろうと兄貴には関係無いよなぁ。じゃあもう一つ、別視点だ。幸平 創真に拘ったのは何故か?」

 

「経歴、傷……失敗。なるほどな、初めて失敗させられたと思ったから奴を折ろうとした。なんだよ、失敗を認めたくなかったってのかよこの俺が」

「おめでとう、クソ兄貴は人間力が少し上がった! ってのは冗句だがそういうこったろ。瑛士先輩とか十傑の面々に席次が負けてても気にしてなかったのはコンサルタント(金儲け)の方をメインに据えてたからだ。だから自分の土俵で土をつけた幸平くんには拘った。最もそれも勘違いでしか無いとすりゃ、んな瑣末ごとに時間を割く訳がない」

「そりゃそうだ。結論が出た時点で幸平なんぞ潰しても一文の得にもならん。……チッ、美作動かした労力すら勿体無かったか」

「あいつも中々に屈折してたし負かされんのも必要だったろうさ。後腐れもねーようだし美作にとっては良い感じに収まったろ、労力はともかく結果オーライだ」

 

「そういや、前からその屈折した野郎を結構構ってやってたみてーだな。面倒見の良いこって」

「なに、俺ぁ飯くれる奴には優しいんだこれが。あんたが連れてきた以上中々の腕なんだろ、美味い飯を出す舎弟は良い舎弟だ。っとぉ、忘れるとこだったが、最近繋ぎを取ってた連中は———」

「キャンセルだな。諸々の解体に反対する奴らが出してくるだろう食戟には、中枢美食機関代表ってことで十傑あたりで当たるしかねぇ。あるいは食戟のそれも含めて全部進級試験で潰すのがてっとり早いか。ケッ、目論見通りってか?」

「俺じゃなく爺さんのだけどな。とはいえ兄貴にも損はねーさ。元々コンサル業の箔づけ目的の十傑入りだろ、不正なんぞで権威を落とす方が長期的に見て損失が大きいだろうよ。大体兵を率いるなんてのもスマートから程遠い。フィクサー気取るんならそれらしく舞台裏から差配してこそってもんだぜ」

「言い包められといてやる。そうだな、中途半端に時間が空く分料理でもするか。……適当に二人分収穫してこい」

「……そりゃ良いな! 試作してるやつの三段目でも持ってくるぜ」

 

 

「———試験場が? 分かった、今から向かう。そうだな、最悪今季の分は全滅しても問題ない。保管してある種や苗の方の保全を重視してくれ」

「早速動きがあったか。流石番外席次様は人気だなぁオイ、厄介ごとから寄ってくるときた。……最近の卸の分、少し早いがお前の口座に振込済みだ。好きに使え」

「ありがとよ。まぁ食い終わった後で良かったぜ、ごちそーさん。別に邪魔するつもりもなかったんだが、こういう手でこられるとちぃっとばかしイラつくなァ」

「おいおい、一応自分の影響力ってもんを考えろよ。罷り間違っても全力で羽目を外すような真似はすんな」

「おう、つっても尺度は保証しねーがな。学生か社長か……どのレベルで程々にすっかな。ふん、こういう楽しさは久しぶりだ」

「あーあーあー、俺は知らねぇぞっと。ま、うちの資産にダメージがなけりゃ良しとしとくか」

「任せろよ兄貴、むしろ存分に儲けさせてやんぜ。精々楽しみにな。くふっ、ふはは、ははははははは!」

 

 

進級試験の裏 薙切 仙左衛門と薙切 薊の会合にて

 

「遅くなったわ、爺さんまだ起きてっかよー」

「む、よく来たな縁」

「おう、早速で悪ぃがあの人に連絡取れ……足音? 俺以外にも誰か呼んでんのか?」

「そのようなことは———お主、よく此処が分かったな」

「大したことではありませんよ。おや、縁くんもいたのか。しばらく国を出ていたようだけど、もう用事は終えたのかい?」

「全く、丁度良いタイミングでの登場ですね薊さん。用事、用事ね。えぇ、万事恙無く。どうもこの度はお手数お掛けしました」

「何のことかな?」

「……ふぅん、ま、そういうスタンスならそれで良しとしますか。なに、俺の農業試験場が何やらタイミングよく燃えたり浸水被害に合ってましてね。国外に貼り付けたい誰かさんの意図が透けた気がしたんですが、俺の勘違いってことでしょう。ところで薊さん、何人か新しい教師を遠月に入れたようですが、人選はどなたが?」

「僕だ。正確には僕の手の者だが、最終的に許可を出したのは僕だからね」

「そうでしょうね。ではちょっと聞きかじったんですが、この辺って間違いあります?」

 

・真の美食は一流芸術に似て品格とセンスを兼ね備えた人間にしか理解できない

・真の美食の醸成には下等な学生を持て余すなど愚の骨頂

・不出来なものは料理と呼ばない。ゴミ、塵、餌である

・日本中の餌を出す店を殲滅するために優秀な兵隊(一流のコック)が必要

 

「———そして、中枢美食機関以外の生徒は料理を創造しなくていい。授業では一定のレシピ・調理法以外は認めない」

「間違いない。その通りだとも」

「であればこそ、見えざる手はあなたのそれだと思ったんですよ。何せ俺たちの利益には真っ向から反しますのでね」

「うん? 枝津也くんは中枢美食機関で腕を振るってくれているよ。最近は特に冴えているようだ」

「そりゃそうでしょう。兄貴の本分は金儲けで、それが確約された以上余力を料理に向けられますからねェ」

「……何だって?」

「解説しますよ。爺さんも悪いな、しばらくそのままで聞いてくれや」

「よかろう、心得た」

「僕も聞こうじゃないか」

 

 

「まず前提として俺は料理人ではなく生産者側、有り体に言えば農家です。よって遠月の教育方針自体にそれほどの興味もない。いくつか事が重ならなければ、今もこんなとこまで出張ったりせず普段通り畑の面倒を見ていたでしょう。では重なった事とは何か」

「一つ、葉山くんは意外と心中が顔に出る。ちょっとすれ違うだけで普段と違う様子が見える」

「二つ、慧は極星寮への愛着が強い。場所というより人ですかね、庇護対象へ手を差し伸べる」

「三つ、アリスちゃんはおしゃべり。俺は結構マメでね、深夜のメールやら電話にも付き合う」

「四つ、緋沙子ちゃんは今時珍しい忠臣気質。いや本当に、彼女の忠犬ぶりは本物に勝ります」

「五つ、えりなちゃんは良い子すぎた。だからでしょう、遅れてきた反抗期が今頃顔を出した」

「六つ、俺はやっぱり兄貴の弟だ。少しだけ兄貴と違うとすれば、キレた上で抑えが効くこと」

 

 

「婉曲に過ぎる。言いたいことがあるなら簡潔に言ってくれないか」

「そうですか? もう少し遠回りしますが是非付き合ってくださいよ。時差ボケと寝不足でハイになってる俺に、多少合わせて頂いても罰は当たらねーでしょう」

 

 

「ゼミの提携企業撤退、彼には良く効くでしょう。しかし何より教授を想う彼は発破をかければ動きます」

「極星勢のためだと、十傑を外された場合も影響力が残るように俺への要望を書面で寄越して来ましてね」

「教師の品位。特にこの進級試験での教師の振る舞いについてそれはもう盛大に愚痴を聞かされましたよ」

「こちらも教師関係。試験で食材を与えられないとなれば、まず頼るべきは俺だと手段を選ばず連絡した」

「漫画にすら触れてこなかった彼女だ。明後日の方向を向いて、どうすれば不良になれるかと聞いて来た」

「これは分かるでしょう。手塩に掛けてに育ててた作物達を駄目にされれば、そりゃあ穏やかじゃないと」

 

「つまり汐見教授の成果を無にされることに耐えられない葉山くんと、極星勢のための労力を厭わない慧」

「率直に教師への不満を吐き出すアリスちゃんと、どこまでも主人のために尽くそうとする緋沙子ちゃん」

「ようやく実の父へ自身の要望を伝えようと思う事ができたえりなちゃんと、要求を提示しに来たこの俺」

 

 

「くふっ、反抗イコール不良だとか、その発想がもう可愛いですね。っとまぁ狭い交友関係の中でこれだけの動きがありましてね。この辺まとめて直談判するために、爺さんにあなたとのつなぎを取って貰おうと帰国して直にここに来たんですよ」

「不満があることは分かったが、学園の運営を行う十傑の過半が賛成した以上これらは正式な決定だよ。全体の過半でも越えればともかく、その程度の数の生徒が騒いだところで覆ることはない」

「遠回りすると言ったでしょう。今のは個人的な動機に関する部分、例えるなら前菜ってとこです。勿論メインとデザートも出しますんでどうぞごゆっくり」

 

 

「では次、兄貴が冴えてる話といきましょうか。あなたの指示の通りに動いているようですが、それ以外に使える時間もあったようで。特に兄貴のコンサル業は遠月の伝手こそ使ってますが、基本学外で動いていることはご存知の通り」

「元々料理より金儲けに血道を上げてる野郎です、そりゃ明示的に禁止しとかないと小遣い稼ぎは最早生活の一部でしてね。ちょっとしたM&Aなんかもお手の物、最近はアメリカだか中東だかにも手を広げてるとかで。ちょうどその辺の農業試験場に出向いてたんで、手伝っておくのが良い弟ってなもんでしょう。偶の兄貴孝行ですね」

「ついでに適当な町外れでちいっとばかし手間かけた作物を売ってたんですが、上流階級ってのは凄いもんですねぇ。二時間もしないうちに黒服やらに囲まれて招待を受けました、懐かしい流れです。少量ですが最上級品を出したところ何やら食通の紳士淑女と知己を得まして」

 

「結構な好条件で専売契約しないかってな具合に誘われたんですがね、俺はもう薙切にべったりですし断ろうとしたんですよ。ところが薙切の一門なら何も問題ないと破顔されまして。いやぁまったく浅学で申し訳ないっす、あの方々も遠月関係者だったんですかねー?」

「連絡は兄貴の方に繋げて貰うことにして、今後の取引は丸投げしておきました。面倒事任せる分俺の利益は程々で良いっつっといたんで、ほぼ丸々兄貴の取り分になります。そりゃご機嫌に料理を楽しむ余裕もできるってもんでしょう」

「あの方々から利益を得ていた方には申し訳ないですね。兄貴に流れる分減収でしょうし、俺の小遣いもそっから出ますんで」

 

 

「どこの誰かは知らないがお気の毒だ。起業家然り政治家然り、何を行うにも活動資金は必要だ。それを削られれば動きも鈍るかもしれないね」

「ま、仰る通り仮定の話に止まりますね。これまでの貯蓄もあるでしょうから即効性は無いでしょう。順序が狂って申し訳ないですが、これはデザート相当でしょうね」

「……ほう、これがメインではないのかい? 学生としては中々の動きだと感心していたんだが」

「それは光栄、とでも言っておきましょう。しかし中々止まりってのも癪ですし、黙っとくつもりだったんですがおまけしときます。今回兄貴が得た資金、さらに増やすために私営の塾でも立ち上げようかってプランがありましてね。遠月クビになった爺さんを旗印にあなた曰くの美食を解さない著名人も抱き込む。これまでの遠月のやり方をそのまま引き継ぐ、言ってしまえば中枢美食機関と対立する勢力の立ち上げが可能かな、と」

 

「旗印? 聞いておらんぞ縁」

「そりゃまだペーパープランだからだ、もうちょい詰めてからじゃねぇと爺さんに話持ってってもな。つっても難しい話じゃねぇ、どっか適当な廃校でも借り上げて拠点にするくれーなら一ヶ月もありゃ十分ってとこか。設備の刷新やら何やら含めても半年で完全稼働まで持ってけるだろ」

「ふむ、新勢力として真正面から戦うと。宣戦布告といったところかな?」

「そうなりますねぇ。兄貴の資本に俺の伝手、かつ中枢美食機関に抗ってる少数のみ受け入れるとすりゃ遠月に準じる環境を作れます。正直拘る必要もないと思ってんですよ俺は。ちなみに葉山くんと汐見教授にはこの辺軽く伝えてましてね。最近は当初ほど焦りが見えなかったのでは? まぁ徹底抗戦するかどうかは進級試験の結果次第でしょう。……脱線しましたが最後です。いえね、こいつぁ単純な疑問なんですが」

 

 

「中枢美食機関の下っ端を一流のコックに育て上げ、日本中の餌を出す料理店を殲滅する。構想としては理解できるんですが、これって実現可能ですか?」

 

 

「できるとも! 僕の改革で遠月から不要な足切りはなくなり、すべての学生が十傑足る技術を手に入れる。勿論今年の卒業生だけでは母数が足りないが現中等部の生徒が卒業する頃には———」

「すみませんがそこではありません。遠月生の腕と数は疑っていませんので。あぁいえ、公正であるべき試験で学生の足を引っ張るような教師については指導能力も疑っていますので、早々に人員の入れ替えを提言しますがね。美食を理解する一握りにふさわしい品格ってやつがあるとも思えませんし」

 

「最初の話に戻りますが、俺たちというのは生産者ですよ」

「利益に反する、だったか。下等な店の殲滅が生産者に影響すると?」

「そこは今の授業の様子を聞いたりした結果の複合的な予想なんですがね。新しい品の創造を認められず、教師や十傑(上位者)の技術の習得とレシピ獲得のみを許される。これってつまりレシピ通りの料理しか作らなくなるってことでしょう」

「その通りだ。不出来な品を作らせないためにはそれが確実だと判断した」

「ではやはり無理だと思うんですよ。既存の店が出している薊さん曰くの餌と、現在遠月で教え始めた美食。どう考えても食材は共通せず、創造力を削った画一的な能力しか持たない下っ端の卒業生では工夫で挽回することも儘ならない。あぁ、遠月生の腕は疑わないと言いましたが既存の遠月の卒業生基準でしたので訂正します。中枢美食機関のそれには疑問が残ります」

 

 

「簡単な話です。巷に溢れる店では遠月のように厳選された食材ばかりを用いているのか? あるいはどの店も同じような料理ばかり提供しているのか? 価格帯は一定か? グループやチェーンという形で極一部を見ればともかく、地域としてある程度の範囲内の料理屋全てを見た場合そんなことはまずありえない。都市部では多少棲み分けられていたとしても地方はそうではない、とでも言い変えますか」

「すべての店を潰した後、中枢美食機関の卒業生が同じ場所で店を構えるとしましょう。その状態で地域に根ざした生産者から仕入れを行うとすれば、どうしても土地柄ごとに扱っている食材は違うものになりますよね」

「どのような食材を扱うにも不足のない対応力、中枢美食機関の教育メソッドで育ちますか? それこそ進級試験中の話ですが、自ら行なっている調理過程すら『そう習ったから』と意味を理解せず思考停止していた輩がいたようですよ。これまでの遠月では進級できなかった類の、捨て石の姿が透けて見えますねぇ」

 

「生産者は料理人のために食材を育てている訳じゃない。志ある方は勿論いますので誤解を承知の極論ですが、根底は自らの生活のためです。よって料理店を潰したとしても彼らはこれまで通りの生産を続けるでしょう。直接の卸先がなくなれば難しいですが、概ね仲介の業者がいるでしょうし」

「あるいはそこを曲げて料理店が必要とする食材のみを指定して育てさせますか? 言ってみましたがこれは不可能です。作物には生育に適した土壌や気候があるため何でも望むままに育てられる訳ではない」

「結果としてそれぞれの土地で扱う食材に大きな変化は起こり得ません。大体生産できる物にも限りがある。これまた極論ですが全てのハンバーガーチェーンを潰して新しい店に塗り替えたとして、それら新店舗全てに卸せる十分な量のA5和牛が手に入るか? 別に高級な品でなくても良いです、常に旬の食材を全ての店に回せるかと言い換えても同じですから」

 

「レシピ通りの料理を作るには当然レシピ通りの食材が必要です。今教えている真の美食、そこに必要な食材は日本全国の料理屋を塗り替えるだけの量を手配できるものですか?」

「適度な品質の品を大規模に輸送するといった対処は可能でしょう。しかしそれは、先に挙げた土地に根ざした生産者を排したビジネスモデルになるのでしょう」

「つまり生産者の利益に反する。品質が悪くなったとか数が揃わないとか———人の手が及ばない天候なんかの部分もあるのであまり言いたくないのですが———生産者側の問題で取引を止めるのは仕方ないと思うんですよ。ですが、遠月から波及する料理人側の都合で積極的に廃業に追い込むような真似は放置できません」

 

「あるいは発想を転換しますか。店は潰すだけに止め、中枢美食機関の下っ端の店は出さないものとする。はは、言ってはみましたがこれは全く意味のない話ですね」

「料理店が営業できているということは需要があるということです。一度店を潰したとしても求める人がいる以上、闇に潜ってでも商売を続けられるでしょう。寧ろ暴利を貪れるため品格の足りない三流料理人がのさばりそうだ」

「しかも生産者にも大打撃、真っ当に商いできなくなれば収入が減り結局廃業。このルートは誰も幸せになりませんね。小悪人の懐が潤うだけです。殲滅の仕方によっては類似の結果になるでしょう」

 

「長々と語りましたが、理性的に考える上では中枢美食機関への転換自体に文句はありません。そこは実際に戦ってるえりなちゃん達がなんとかするでしょうし、そうあるべきだ」

「俺の要求は一点だけ。どのような形であれ生産者を料理人の都合で廃業に追い込むような真似をするなという一点だけです。既存の店の殲滅で悪影響があるなら止めてもらいますし、火つけ水攻めなんてなァ以ての外ってことですよ」

「ってか最初からこの点だけ確約くれりゃあ、誰に声かけられても程々に見守るだけで留めたんですがね。つまんねー盤外戦術……いえ、用事さえ入らなければ。あぁ、感情的にはえりなちゃん達現反逆者を吸収しての徹底抗戦ルートでも構わねーんで、お好きにどうぞってとこですね」

 

 

「ふむ、抗戦されると無駄に時間が掛かるか……良いだろう。僕の改革は料理人に対するものだ、恣意的に生産者に影響が出るような真似は行わないと確約しよう。元々の殲滅に関しても変な影響は出ない筈だが、改めてプランを組み君にも確認してもらうとしようか。どうだろう、これで安心して貰えるかな」

「そうですね。ではそれが守られる限り足を引くようなことは慎むとしましょう。大体俺は畑耕してりゃ十分……っと、すまんな爺さん。やっぱ俺としてはこの辺が妥協点だわ。えりなちゃんを応援するつもりはあるんだが、生産者代表みてぇな立場に祭り上げられててな。いい歳した大人に本気で頭下げられちまうと、無視する訳にゃいかねーよ」

「そうか。薙切もまたその立場へ押し上げた一員である以上、文句はつけられん。気にせずとも良い、彼らが負けるとは思っておらん」

「彼ら『玉の世代』はあなたが集めた世代ですものね」

「爺さんが集めた? そりゃどういう———」




手持ちが単行本29巻までのため一旦ここまで。
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