どう考えても、おかしい。
そこにスティーブが気づくまでさほど時間はいらなかった。
マインクラフトの世界で生きてきた(と言っても生まれつきではないが)四角以外の風景が広がっているのは、珍しい光景だと言わざるを得なかった。
「マルチ発展しすぎじゃないですかね」
マルチに接続したはずが、一切が不明な土地にとばされたことで少なくない困惑を覚えていた。
「一体どれだけのコマンドを書いたんだ...!
「もしやこれは、素晴らしいサーバーに入ったのでは!?」
...覚えていた。
-スティーブside-
初期リスに拠点を作るのは基本ってそれ一番言われてるから。
先人の言葉に倣って壁を掘ってちょっとした空洞を作ると、ベッドもないことに気づいたので羊狩りに行くことにしました(説明口調)
壁が随分と柔らかく素手でも軽く掘れたのが幸いして拠点を短時間で作れたことは大きい、マルチにソロプレイのアイテムは持ち込めないから助かりますよ、助かる助かる。
あまりにも壁があっさり掘れるものだからクリエイティブかと思ったけども、どうやらサバイバル鯖のようで、空腹が訪れ始めている。
なのに何故かコマンド規制がされていない様子だ、どういうことなのだろうか?
死にそうになったらクリエイティブを使えば良いだけって、ヌルゲーになる気がするんですが、どうなの?
ううむ、謎だ。
クリエイティブは使わないにしても、ともかく食料は探さないといけないよなぁ。
(ちょっと探索してみよう)
思い立ったが吉日、二ブロック分空けた穴から出ると、視界いっぱいに洞窟の壁が映り込んだ。
街でもあれば楽なんだけどそう上手くはいかないようでござる、右も左も洞窟の通路が続いているだけで、遠くに行き止まりが見えるあたり脇道でもありそうだ。
というかここ、なんかデカい洞窟っぽいけど、明らかにマイクラでできるレベルじゃないだろうこれ(歓喜)
いやだって四角くないからね?
四 角 く な い っ て す ご く な い ! ?(大歓喜)
というかなんか明るい。
松明も見当たらないのになんで洞窟が奥まで見えるんですかね(困惑)
いや、そうかグロウストーンのテクスチャ変更か!どれほどの人物がここまで細かいテクスチャを作ったんだ!
本当にどうやったらこんなマルチができるのか、素晴らしい鯖だ、是非とも製作者にはご挨拶に伺いたいところ。
なんかミノタウロスみたいなのいるし、それと戦闘してる人も見当たるが、悉く四角くないリアル調だ...ってミノタウロス?
人はまあクラフターとしても、ミノタウロスとは一体...うごご
モブを前提に組んだ敵キャラかな?
クラフター殴られてるんだが、殴りモーションまであるのか(困惑)
うわすっごいバウンドしてるやん(エセ関西)
にしても見れば見るほど、四肢の動きもリアルだし、影もついている完璧、すざまじいプログラマーだ。
本当に素晴らしいな。
いや、感動してる場合じゃない(冷静)
俺は今唐突にサーバーに入ってきた、マナー知らずの狼藉者だ。
当然規約なんかも呼んでないし知るはずもない、もし下手に行動して規約に抵触からのBANなんてされた暁には、寝込む自信がある。
急遽誰かに話を聞く必要がある。
そこのクラフターに少し話を聞きたいがどうも取り込み中の様子、しかもそろそろ死にそうといった状態ときている。
助けるにも下手に動けないからどうしようもない。
死なれたらいつ次のクラフターに会えるか分からないから、ルールが分かる前にBANされるかもしれない。
あれ、詰みかな?
いや助ければチャンスあるか?
獲物の横取り一回でBANされる可能性は低い、はず。
どちらにせよ探索に食事は必須だしな。
じゃあ狩るしかないだろ。
素手だが、まぁ初期リスここだし。
...食料も欲しかったし。
じゃあ早速、
-牛と戦う一般Lv1冒険者side-
(なんで上層にミノタウロスがいるんだよ)
いっぱいに魔石の詰まった革袋をダンジョンの壁へ投げ捨てた彼は、目前にそびえたつ牛の怪物に向け槍を構えなおすと、心の中で悪態をついた。
lv1でありながら2つ名をもつ理由は、ひとえにその卓越した技のキレにある。
槍を使った突きや薙ぎ払い、特に敵の攻撃を受け流す技術は目を見張るものがあるため、その戦いを目撃した上層の冒険者が噂を広めていくうちに気が付けばその噂で流れていた2つ名が定着したのだった。
あくまで直接神が認めた2つ名ではない。
だが実力は確かなもので、そこらのlv1のパーティなら一人で相手取れるほどだ。
それでもミノタウロスには敵わなかった。
「化物め」
ぼそりと口から零れた言葉には隠し切れない絶望が滲んでいる。
(こいつに勝てる気がしない)
ヴァンには、どうやってもこのミノタウロスを打ち破るイメージが沸かなかった。
額には大粒の汗が浮かび、肩をしきりに激しく上下させている。
先ほどからこのミノタウロスの雑な大振りの打撃を受け流すのが精一杯で、反撃どころか死なないようにするのがやっとだ。
打撃を受けるたびに槍の柄が軋み、嫌な音を立てている、あとどれだけもつかもわからない。
(戦いにすらなってない)
事実、彼の全身全霊の「戦闘」はただ「避けられない死の先送り」でしかなかった。
努力は裏切らないと、強くなったのだと思いこむんだ彼の僅かな傲慢さのツケが「死」という明確な形で現れた。
ヴァンはミノタウロスを見かけた瞬間に逃げるべきだったのだ。
それを彼が悟るにはもう遅かった。
幾度なく繰り返した受け流しの衝撃に耐えかねた槍がついに砕け、ミノタウロスの拳が鎧に守られた腹に突き刺ささった。
たった一撃。
それだけで金属のへしゃぐ音が階層に響き、意識が霞み、口から赤く澄んだ血がぶちまけられた。
手に握っていたはずの槍は今の衝撃で落としたのか感触が無く、そもそも身体が微塵も動かなくなっていた。
視界が明滅し、体中に熱が走ってはどこかへ流れ出ていく。
あれほど感じていた痛みがどこか遠くに感じた。
せめて息をしようと開いた口からは、こぷりと血が溢れるだけだった。
(死が、来る)
そんな実感とともに一人の
実際に来たのは、死を超越したマインクラフターだったわけで。
十数分後目を覚ました彼はダンジョンの煌々と輝く天井を仰いでいた。
-スティーブside-
覚悟しろミノタウロスっぽい牛よ、クラフターの狩りを見るがいい!
多分負けるけど!最終的に勝てば良いってそれ(ry
結果的にそこの瀕死クラフターを助けられれば大丈夫!
そしてここまで鮮明に描写されているサーバーなら、部位破壊とか弱点があってもおかしくないよなぁ!?
弱点を攻撃すれば勝てる可能性は無きにしも非ず、というわけで一見して弱点っぽい顔を思い切り殴る!
思い切り踏み込んで、よいしょっとぉ!(掛け声)
Q.さてここで問題。
頑張れば黒曜石すら素手で砕くマインクラフターが、
A.なんということでしょう、灰になった牛と転がる経験値オーブが現れたではありませんか。
えぇ...(困惑)
牛弱くない...?
不具合かなってレベルで弱かったんだけど
しかも肉落ちてないじゃないか(落胆)
はっ、こんな王道RPGみたいな見た目しているのに弱いなんてありえない、これは不具合なのでは...?(迷推理)
そして肉が落ちないのも何かの不具合によるものに違いない!
じゃあ少し考えてみよう、このサーバーの技術力はハッキリ言って異常だと言っていい、であるにも関わらず不具合が発生するなんて、何らかの要因でもない限りありえな...あっ(察し)
もしかして、強引に接続したせいで俺が強引にサーバーに接続したから不具合が発生した?
それなら納得がいかないこともない。
そして先の戦闘が一方的であったことを考えると、恐らくここは個々にステータスが記録されているRPGサーバーであると同時に、牛は弱体化されていないこともわかる。
これらから導き出される結論は一つ。
俺ステータスバグ起こってますわぁ...
正確にはダメージ換算がおかしくなっているのだろう、本来存在しないプレイヤーが攻撃したことでプログラムがバグを生じたのではないか?
なおさら製作者に報告しないとまずくない?
まずくない?無断侵入も含めると出入り禁止まっしぐらなのでは?
頼みの綱のクラフターは死んだふりをしている真っ最中のようで、目を閉じたまま動かない。
そんなモーションまであるとは、たまげたなぁ(感心)
...感心してる場合じゃない!(アホ)
ちょ、クラフター兄貴起きてくださいお願いします!
起きて!運営に俺がBANされる!寝込んでしまう!助けて!(助けに来た人間のセリフとは思えない)
なりふり構っている場合じゃない!
「/gamemode 1!」
暖かな浮遊感が身体を包むと同時に、インベントリを開き、スプラッシュ回復ポーションを取り出すと。
それを地面に投げつけた。
―ここでもしもゲームの時のように直接ポーションをぶつけていたら、マインクラフターの剛腕から繰り出されるガラスの一撃が彼の命を奪っていただろう。
そんなこともつゆ知らずスティーブは思考を放棄してとりあえず投げ続けた。
投げた。
投げ続けた。
虚空からポーションを取り出して思い切り叩きつける変態が誕生していたが、気にせず投げ続けたのだった。
ちなみに傷は一瞬で完治していたが、焦ったスティーブがそれに気づくわけもなく、しばらくダンジョン内にはガラスの割れる音が鳴り響いていた。
これ多分プロローグに入れるべき内容だと思う(名推理)