―牛と戦った冒険者side―
オラリオの中天に太陽が昇ったころ、少し空腹を覚えた彼は久しぶりにオラリオの端まで足を延ばしていた。
バベルから伸びる大通りには幾つもの脇道が枝分かれして、個々が行き止まりや他の大通りへ通じる抜け道になっており、この都市に長く滞在する者はある程度そういった道を知っているものだった。
大通りからある一つの脇道に逸れて進むと、網目のように細かく枝分かれする袋小路が続き、その奥には木造の天井の低い小さな屋台が、建造物に挟まれて窮屈そうに立っていた。
長い間雨に打たれていたように、くたびれた様子のその建物からは、耳を澄ませばくつくつと湯を沸かすような音と談笑するような明るい声が聞こえてくる。
珍しいことに、今日はどうやら先客がいるようだった。
建物に陽の光がかからず、常に夕方のように薄暗いため、まだ日の高いうちから表にかけられた提灯が橙の淡い光を放って、見るものに暖かな印象を感じさせる。
神々の言葉を借りるとするならば『隠れ家的名店』、だろうか。
建付けの悪い薄い紙を貼った和風の引き戸から、暖かな料理の匂いが外までこぼれ出てきていた。
ともかく、ひっそりと運営されるその店は、オラリオの影で運営される食事処の内の一つだった。
敷き詰められた石畳にの道に立つこれは、はっきり言ってしまえばボロ屋だったが、この懐かしさを感じさせる店を、ミノタウロスに襲われた冒険者――ヴァンはどうにも気に入っているのだった。
戸を引いて中を覗き見ると、話しあう二人の人影――店主と若い男が目に入ってきた。
店主は言うまでもないが、若い男はこの店で今までに見たことのない。
ありきたりな言い方だが
口元に微笑を張り付けて目を細めた男はこちらに気づいたらしく、声をかけてきた。
「おや、初めまして」
男は『ヘルメス』と名乗った。
―スティーブside―
サーバー接続から牛を殴り倒し、そこで確認できた不具合を運営に報告すべく探索を開始してから、多分数日程度。
壁を掘って脱出しようとしたけど、やたら硬い岩盤みたいなのにぶち当たったり、明かりが足りなくて暗闇に飲まれたりしましたが、私は元気です。
ただひたすらに眠いことを除けば元気です。
元気です(失意)
強硬手段がとれないおかげで、この鯖がハードコアかもしれないから死ぬのは避けたいが、コマンドを使うのもなるべく避けたい、だが早く運営は探したいというジレンマに襲われながら探索をする羽目になった。
...そういえば、壁を掘っている途中でいつのまにか穴が塞がれていたんだが、クラフターが近くにいてイタズラでもしたのだろうか?
なら今のところ壁が回収できないのは、素手が適正ツールではないから?
よくわからん(思考放棄)
だが頑張って今日も探索を続けていこうと思いました。
だがまあ、ちょっと探索を中止しないといけない事態に当たっているわけなのですがね。
端的に言えば、今俺はボス部屋の前に立っている状態です。
今回は少しそこに至る経緯を話したいと思います。
◇
どうもこの洞窟は敵MOBが大量に沸いているようで、ちょっと歩けばすぐ戦闘になるという地獄絵図だった。
炎を吐く犬、ウサギ、バッt...アルマジロ的何かに襲われ続けてバグったステータスで殴り飛ばす日々。
ことごとく一撃必殺なあたり、やっぱりバグなんだろうなぁ、と思う今日のこの頃。
バグなかったらもう死んでいるであろう敵の群れの中で着々と探索していった。
そんな日々を過ごしながら外を目指して歩きつづけて三千里、は流石に誇張としても。
けっこうな距離は歩いているでござるが、未だ外への手がかりは無し、といった状態だった。
おそらく外にあるであろうクラフター達の拠点は、きっと日の良く当たる美しい町に違いないだろう、だとかそんな妄想で気を紛らわせながら探索を続けていたが、どうも単調作業なのでツライ。
寝落ちしなかっただけ奇跡だと思いました、まる。
(尚、整地は単調作業とは認めない)
ちなみに、探索途中で食料が足りなくなって4スタックほどパンを錬成したのは秘密。
...おそらくパンの消費量的に、もう探索開始から一週間は経っていそうだ。
敵からドロップするのは経験値オーブと、なんか魔石?とかいう鉱石だけで、本ッ当に一切食料を落とさないのだから、嫌になる。
しかもこの魔石とやらがツールに使えない、だが一体一体が高確率で落とすせいでインベントリを確実に圧迫してきているという事実ゥ...。
一度全部捨てたのに気が付いたら現在手持ちの大半を埋めているという。
面倒になって途中から敵に段々とヘイトが溜まってきた。
特に犬だ、アイツらの吐く火自体は痛くもかゆくもないが、炎上ダメージでジリジリ焼ける。
あれは熱い(切実)
犬は見かけた端から、懇切丁寧に殴り倒しておきました(笑顔)
そんなこんなでクラフターの拠点散策をしていた俺だが、結構早い内にこの巨大な洞窟が層に分けられていることに気が付いた。
どこからともなく沸くモンスター、高い座標、天然ではないであろう地面や天井の光源などから、この洞窟がMODなどで言ういわゆる『ダンジョン』に違いないという推察に至ったのだった。
座標を見る限り、と言ってもなんとなくの感覚だから正確ではないわけだけれども、今の場所が岩盤と軽く数十キロは離れている様子。
...どういう構造なのだろうか?
ちなみに座標は岩盤基準で計測される数値だから、それを覚えておくと掘削作業が若干楽な気がする。
と、マッハで脱線したが話を戻しましょうかね。
マインクラフトでダンジョンと言えば、ワールド生成と同時に城のような建造物が生成された上で、最上階にボスが鎮座する形が大半であるため『下に向かえばクラフターの拠点があるに違いない』と考えたわけで。
――座標のこの異常な高度は、これが原因に違いない。
俺の勘がこの考えはきっと間違いないと言った。
下の方が活気があるような気がした。
だが違った。(特殊部隊感)
ある階層に降りると、先ほどまでなだれ込むように襲い掛かってきた敵MOBが一切影も形も見当たらず。
不思議に思いながら探索をしていったが、ひとつの通路を除いて探索を終えても敵が見当たらなかった。
あれーおかしいなぁ、と思いつつもですね、仕方なくその通路を進んでいくと、なんと奥に開けた空間が見えたんですよ(語り)
街のような賑やかな場所を目指していたはずが、長く続いた通路を抜けた先に広がっていたのはドーム状の巨大な空洞だったのだ...
洞窟を歩き回って出会った今まで敵MOB、ゴブリンや犬のような小さなMOBに対して、明らかに釣り合いが取れていない大きさの空洞は、まるで巨人が戦うための闘技場のようだ。
何もないフラットな地面は、実に戦いやすそう。
奥には下の階層へ降りるための穴が見える...
明らかにボス部屋のそれだ。
はい、以上説明終わり。
◇
(入ったら死ぬだろうなぁ)
そんなぼんやりとした感想を抱きながらボス部屋を眺めていた。
仕方ないじゃないかすることもなかったんだから。
ちょっと炎上ダメージの名残も残っているわけですしおすs...
それに、ここまで来て一つわかったことは、下に向かっていたのにボス部屋についたことから、つまり「クリアしないと脱出できない系統のコマンドダンジョン」だったということだけだ。
情報が足りないにもほどがある。
今までの状況証拠的に、そういう系統のダンジョンだ、ここは。
...ボス討伐しないと抜けられない系自体は、配布ワールドとかだと普通にあるからね仕方ないと思っているけど、こんな装備なしの状態となると話は別だと思う。
よくよく考えてみれば、処理落ちしてない時点で町が遠くにあるってく気づくべきだったんだろうけど、気にならなかったものは仕方ない。
そして前述のとおり「このサーバーが復活無しでない保証はないので、死にたくない」ですが、「戦わないと出れない」という状態になった。
チェックメイト感がすごいんじゃー^^。
これは、あれだろ?
部屋に入った瞬間デカいドラゴンみたいなのが天井から降ってくるアレだろ?
ドラゴンのブレスが此方から彼方まで焼き尽くすヤツだろ?
勝てるわけが無いじゃないか!
そもそも戦闘装備どころか、インベントリにパンと石しか入ってない状態でボスと戦えるだろうか?
石剣でもあればまだいけるかもしれないけども。
考えてみよう、もしボスドラゴン(推定)にパン片手で殴り込んだらどうなるだろう?
俺「うおおおおお!(突撃)」
↓
ボス「グオオオ(ブレス)」
↓
俺「なんだ、ボスから光が逆流グワーッ!?」
心臓が止まる未来が見える見える...
逃げるが勝ちってやつさね。
ってアレ?俺は心臓あるのか?
というか俺は人間という枠組みで良いのか?
食事で傷が急速に治癒する人間ってそれ多分人外なんじゃ。
というか普通にステータスバグ起こってるし勝てるんじゃあ...
ああ、いやもう考えないようにしとこう(震え)
ボス戦もクリエイティブを使えば良いんじゃないか、というわけにはいかない。
大前提として、俺が悪質なチーター扱いされたらアウトという地味にキツイ縛りがあるのです。
(もう二回使ってる時点で手遅れ感はするけども。)
そのストレスからか今ただただ眠い。
本当に眠い。
あれ、そういえば、眠気を感じるなど何時振りだろうか?
...そこは今どうでもいいな。
どうしようかな...あ、そうだ名案を思い付いた。
もう帰ろう!(諦め)
ボスはどう考えても無理だし。
寝たいし。
寝たいし。
大事なことなので二回(ry
あー、でももしかすると、例のイタズラで我が家が埋められてる可能性微レ存?
むしろあのイタズラがどの階層でも行われてたことも考えると、家が埋まってる可能性の方が高いのでは...?
帰る家がない可能性が高いとは一体。
俺に安息は無いのか。
でも通報だけはされてないっぽいし、良かったと考えるべき?
ただし通報される危険が付きまとっている、と。
つまり?
つまり不正を働いている奴がいるから、わざわざ嫌がらせをして鯖から追い返そうとしてるのか?
通報機能ェ。
これはもう余計な事せずにひきこもって、運営の対応待ったほうが良くない?
そのためにまず帰ろう?
家が無くても掘ればそこが家だ(暴論)
というかここに来てから不眠不休が何故かつらいから寝たい。
寝よう寝よう。
帰ろう。
あっそうだ(唐突)
もう敵いないしここで寝よう。
そうだそうしよう。
このインベントリに、クリエイティブで事前に出しておいたベッドがあるじゃろ?(用意周到)
これでな?寝るんじゃ。
するとベッドが安息の地と化すぞ。
そうすればもはや、何人たりとも我が安眠を妨げることはできん...!
ついでに、ベッドで寝るときは、このように右クリック的動作をしなくても、寝転がる動作をすれば寝れるので覚えておこう。
マインクラフトの世界に来た時役に立つかもしれない。
同じ仕様かは知らないけど。
というわけでおやすみなさい...
寝転がった瞬間、耳をつんざく爆音が響き渡り、衝撃とともに
赤のバックに文字が浮かび上がり
『死んでしまった!』
と的確に今の状況を説明される。
下にはベッドの爆発に巻き込まれたとの説明が記されていた。
(...地獄かな?)
ここが地獄に建てられているのかエンドなのかは知らないが、どうもベッドは弾けるようである。
このサーバーには、安息の地はないらしい...。
寝られないことによるリスポーン位置固定。
ダンジョン内スポーン。
ボス討伐をするのが脱出条件(推定)であるここを、再度装備なし食料無しで攻略する。
「ムリゲーっぽくないですかね?」
でもリスポーンしないと始まらないので復活はするが。
復活できることがわかっただけ、儲けだと考えるしかないでしょう。
じゃないとそろそろ、心が折れそうだ。まあ、眠気も吹き飛んだ(物理)わけだし、多少はね?
幸い道のりは大体頭に入ってるから問題は、ない...?
あれ、おかしいな。
あたりが見覚えが無い土地にしか見えない。
しかも目の前には見たことも無いMOBが。
座標も若干下がってる。
というかこれは...
「どう考えてもランダムスポーンですねクォレハ」
スティーブin28階層。
襲い掛かってくる目の前の【災厄】と戦闘を開始したスティーブの明日はどっちだ。
「でも戦うよりリセマラしたほうがよくない?」
結局その思考に至り、スティーブは戦闘を放棄して『/kill』コマンドで階層をテレポートするのだった。
なお、その一連の光景を冒険者に目撃される。
状況説明と、舞台を整えたらごちゃごちゃになったので、一度分けて書き直そうと思い至りました。
反省は、しています。
そろそろ本編に入って原作と絡ませたいんじゃ...