お姉ちゃんは0番改め機人長女リリカルハルナA's 作:Y.Sman
追記
コメントで指摘があったので転生者複数のタグを追加しました。
「高町なのはですっ!よろしくお願いしますっ!」
「同じくユーノ・スクライアです!お世話になりますっ!」
アースラのブリッジでなのはとユーノが元気よく挨拶をする。
二人がお辞儀をするとなのはの頭の左右で纏めたツインテールがピョコピョコ動きます、うんカワイイ。
今日からなのはも私達と一緒にジュエルシードの捜索に当たります。
「それでは改めて、アースラ艦長のリンディ・ハラオウンです。よろしくね、なのはさん」
「アースラ付き執務官のクロノ・ハラオウンだ。現場では直接指揮を執ると思うからよろしく」
正式な自己紹介と言う事でまずハラオウン親子が名乗ります。
「あたしはエイミィ・ミリエッタ。アースラの通信管制官兼クロノ君の補佐担当。よろしくねなのはちゃん!」
「ハイッ、エイミィさんっ!」
それからエイミィに続いて管制官のランディとアレックスも自己紹介が終わりいよいよ私の番です。
「で、わたしが・・・」
「私が医務官のジェイル・スカリエッティだ、怪我をしたなら遠慮なく医務室に来たまえ。脳みそ以外なら完全な状態に治療することを約束しよう!」
名前を言おうとしたところで父さんが私を押しのジョジョ立ちで自己紹介します。
「は、はい・・・」
ハイテンションな父さん。
屋や引き気味ななのは。
そして怒る私!
ここでキリッと決めてカッコいいお姉ちゃんな所を見せようと思ったのに!
私は両手で指でっぽうを形成して胸の怒りを装填すると未だノリノリで私に気づいていない父さんの臀部に向けて・・・。
「三秒殺しっ!!」
「文明開化ぁ!?」
渾身の刺激的絶命拳をお見舞いしてやりました。
「クッ、ククッ・・・やるじゃないかハルナ・・・」
そう言って笑う父さんですがその額にはだらだらと脂汗が浮かんでいます。
「おかしいなぁ?殺す気で打ち込んだのに、父さん存外しぶといね?」
「当然だろう?君のしぶとさは私の遺伝なんだからねぇ、何より父が娘に負けるわけにはいかないよ。ガ●ダムでジ●に負けるようなものだかねぇ」
「なるほど、でもおあいにく様。私、性能的に●ムじゃなくてνガン●ムだから。父さんに勝ち目なんて億に一つもないんだよ・・・」
一通り皮肉の応酬が終わると私と父さんは暫し黙り込み・・・。
「「ちねぇぇぇっ!!」」
今度は拳の応酬を開始しました。
機人長女リリカルハルナ
第16話「まさか打ち切り!?お姉ちゃん暁に死すなの?!」
Sideなのは
ハルナちゃんが目の前にいるスカリエッティ先生にカンチョーした直後、二人が喧嘩を始めました。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラぁぁっっっっ!!!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁっっっっ!!!!!」
腕が何本も見えるくらい素早い速度でパンチを繰り出すハルナちゃんとどこから生えたのかボクシンググローブを付けたロボットハンドで殴り返すジェイル先生。
幻でしょうか、二人の背後に筋肉ムキムキの人影が見えます。
「また始まった・・・」
「あらあら、二人とも本当に仲がいいわねぇ~」
その様子をクロノ君は頭を押さえながら、リンディさんはお茶(お砂糖沢山)を飲みながらのほほんと眺めています。
「はいは~いどっちに賭ける?エイミィさんの予想ではすでにジェイル先生がダメージ受けてるからハルナちゃんが有利だよー」
「あ、じゃあハルナさんで」
「大穴でドクター逆転に賭けてみようかな?」
エイミィさん達に至ってはどっちが勝つかで賭け事を始めてました。
「え?止めなくていいのっ!?」
「気にするな、いつもの事だから」
「いつもこんな事やってるの!?」
ユーノ君も私と同じく慌てていますがクロノ君は逆に諦めモードです。
それから5分くらいして二人はクロスカウンターを受け同時に倒れてしまいました。
Side Out
「うー、いたた・・・んで、遅くなったけど改めまして・・・ハルナ・スカリエッティ。この事件の担当として派遣された執務官です、よろしくねー」
父さんのクロスカウンタを食らった頬を撫でながら私はなのはに自己紹介をします。
それにしても父さんに殴られた以上もう「親父にもぶたれたことないのにっ!」のネタが使えなくなってしまうんですね、そう考えると寂しいものがあります。
「ハルナちゃん、その執務官ってどんなお仕事なの?」
感慨に耽っているとなのはが手を上げて質問してきます。
実際この辺の役職関係て複雑ですからね、分かんない人にはとことん意味不明でしょう。
「執務官っていうのは事件の捜査とかを取り仕切る役職の事だよ。捜査本部から捜査官に指揮を飛ばしたり場合によっては私みたいに現地で陣頭指揮することもあるんだ」
分かりやすく言うと刑事ドラマ・・・踊る大●査線の室●管理官みたいな感じでしょうか?
「へー、あれ?でもクロノ君も執務官だよね?」
リーダーが二人いるのは何で?となのはが首をかしげます。
「あ、それね・・・クロノはアースラ付き・・・つまり常時アースラにいて艦の近くで事件が起こったら艦ごと駆けつけて捜査に当たるタイプ」
次元航行艦はその特性上一回港を離れれば独自に判断、行動しなければならない状況もあります。
そうなった時に本局からの指示を待たずに現場の判断で動くためには現地の法律や文化、風習などを学んだ執務官が常駐する必要性があるのです。
「で、私は遺失物管理部っていう部署に所属していてロストロギア絡みの事件があった時に身一つで現場に飛んで現地の部隊や捜査官の指揮を執るタイプの執務官なの。それで何でクロノがいるのに私が派遣されたかと言うと・・・」
多分説明する私はすんごいゲンナリした表情になってるはずです。
この辺はもっと面倒くさい理由がありまして、次元航行部隊と遺失物管理部の管轄問題・・・言うなれば縄張り争いが原因なんです。
通例で言えば本案件は可及的速やかに解決する必要がある為直近にいるアースラ、そしてそこに所属するクロノが担当することになります。
しかしジュエルシード輸送船から流出事故発生を受けたのはユーノと同行していた遺失物管理部機動1課の隊員、スクライア家からユーノの捜索要請を受けたのも遺跡調査で彼らと付合いの深い機動1課でした。
結果生じたのが世界の危機を目前にしながらの管轄争い・・・。
次元航行部隊はジュエルシードの反応を発見したのは自分だと主張し、遺失物管理部はスクライア家から捜索要請を受けた自分たちが担当すると言って聞きません。
噂では次元艦隊司令と遺失物管理部長が次の執務官長のポストを巡って対立してるなんて話も聞きますし、両方とも手柄が欲しいと顔に書いてあるようです。
結局統幕議長のミゼット提督から一喝を受け双方から執務官を一人ずつ派遣、双方が現場で協調して事に当たれとお達しが下りました。
で、次元航行部隊からはアースラとクロノ、遺失物管理部からは私とサポートとして父さんが派遣されることが決まったのです。
「はえー・・・」
さすがに小学3年生に組織内における政治や派閥の話は難しかったようです。
「要するに大人の事情・・・めんどくさいお役所絡みのゴタゴタがあったんだよ」
「えっと、うん。ハルナちゃんたちが大変なのはわかったの」
それを分かってもらえれば私は十分です。
なのでドロドロした政治の話はココで切り上げて今後の活動方針について話し合いましょう。
「それじゃあお仕事の話をしましょうかね。現在確認が取れていないジュエルシードは11個、これの捜索はアースラのセンサーで行くからなのはとユーノは発見されたジュエルシードの封印と回収をお願いします。ちなみにこれは私、クロノとの3交代制で発見されるまではアースラで待機しててもらうけれど、見つかるまではのんびりしてて大丈夫だから。休むのも仕事の内だから無理無茶無謀は厳禁とします。破った場合はおでこに『肉』って黒マジックで書かれた状態で海鳴商店街を歩いてもらうからそのつもりでいるように」
「う、うん・・・」
罰則がとてつもなく恐ろしいことになのはは戦慄しています。
「ハルナはああいって茶化しているが実際現場では君の安全が最優先だ。こちらの指示には従ってもらう、いいな?」
至極真面目な顔でクロノが言うとなのはもこわばった表情で頷きます。
「二人とも、なのはさんも分かってくれたみたいだしその辺にしましょう?それよりなのはさん、ささやかだけどあなたの親睦会をするから食堂に移動しましょう」
「ふぇっ!?私の親睦会ですか!?」
驚くなのはさんにリンディさんは頷きます。
「ええ、短い間だけれど一緒に頑張る仲間ですもの。それじゃあ手の空いてるクルーは食堂に集合ねっ」
リンディさんの号令と共に果たした値はなのはを連れて食堂へ移動しました。
親睦会は本当に大盛況でした。
宴会部長のエイミィの音頭で乾杯し、私がイタリア語とフランス語の乾杯が『チンチン』だと教えるとなのはが顔を真っ赤にしたり。
何故か父さんが板前姿で握ったロシアンルーレット寿司を皆で食べても誰もリアクションが無いと思ったら当りの激甘(ワサビの代わりに練乳たっぷり)をリンディさんが食べた挙句お代わりを要求したり。
何故か置いてあったお酒で酔った私がクロノを捕まえて延々と妹の素晴らしさについて講義したりと本当に楽しかったです。
もう一度やりたいですね、今度やるとしたら事件解決の打ち上げでしょうか。
そんな賑やかな初日とは打って変わって、捜索開始から今日で三日たちますが本当に静かです。
件のフェイトさんも怪我が完治していないのか、それとも私達の事を警戒しているのか全く音沙汰がありません。
このまま私たちがジュエルシードを回収し終わるまでじっとしていてもらいたいです、てか諦めて自首してほしいです。
そう言えばなのはさんからフェイトさんのフルネーム・・・フェイト・テスタロッサと言うらしいですがそれを聞いた父さんが首をかしげていましたね?
何でも私と生き別れていた時にテスタロッサと言う人に会ったんだとか・・・。
今は本局に問い合わせてその人の足取りを探してもらっているらしいです。
「でも本当に平和だよね~。そろそろ何かあってもいいころだと思うな~」
そんなことをボヤいてフラグを立てるエイミィのリクエストに応えたのか、アースラのセンサーがジュエルシードの反応を捉えました。
「・・・エイミィがそんなこと言うから・・・」
「ゴメンなさい、ってあたしのせい!?」
ステキなノリツッコミを返しながらもエイミィは発信地点を割り出します。
「見つけた、ハルナちゃんお願い!」
「合点承知!」
エイミィに答え、転送ポートに乗ると即座に転送が開始されます。
視界が光に包まれ、収まると私は海鳴の空にいました。
すぐさまイェーガーを起動、騎士甲冑を纏って現場にぶっ飛びます。
幸いなことに融合体ではなくジュエルシード単体で起動していました。
なのは達の証言だと犬や猫と接触してスゴイことになったらしいです。
ネコに至っては『大きくなりたい』と言う願望の通り大きくしてあげたらしいです、全長30メートルくらいに・・・。
それを聞いた時、私は衝撃を受けましたよ。
なんてもったいない!もっと早く地球に着てれば思う存分モフモフできたのに・・・!
今確保したジュエルシードを件の猫にあげたい欲望を頑張って鎮めているとイェーガーが警告を発します。
『警告!4時方向、距離2000に魔力反応2、接近中!』
「来たか・・・」
そう呟いて振り向けば高速で飛来する金色の誘導弾、その数3発。
弾道計算、直撃コースは一発・・・私は微動だにせずシールドを展開してその一発を防御します。
二発が足元で土煙を上げ、シールドで跳弾した一発が背後のビルに直撃し爆発します。
「いきなり攻撃とはご挨拶じゃないかな?フェイト・テスタロッサさんや・・・」
騎士甲冑に着いた粉塵を払いながら言う私の視線の先で襲撃者・・・フェイト・テスタロッサさんはマントを翻しながら着地、警戒した面持ちでデバイスを構えます。
「・・・・・・」
「だんまりですかい、シカトされるって結構ハートにくるもんだね・・・」
「・・・ジュエルシードを渡してください」
そう言うとフェイトさんは戦斧型のデバイスを大鎌に変形させます。
「そう言う事だよ。痛い目見たくなかったらそれ置いてさっさと帰んな」
その声の方に視線だけ向けると以前フェイトさんと一緒にいたオレンジ髪のお姉さんが拳をバキバキ言わせながらすごんでいました。
彼女のお尻には以前は見られなかったフサフサの尻尾、よく見れば頭にも犬耳がついてます。
どうやら使い魔だった様です。
「この間はよくもフェイトを傷つけてくれたねぇ、おまけに神経干渉で激痛を与えるなんて・・・あの後フェイトがどれだけ苦しんだか・・・っ!」
お姉さんの髪が逆立ち、顔が見る見るうちに怒りで歪んでいきます。
そんなフェイトさん主従に対し、私は一歩足を踏み出し・・・。
「・・・・・・っ!?」
「ごめんなさい!」
「・・・・・えっ?」
謝罪しました。
攻撃して来ると思っていたのか、身構えてたフェイトさん達は私の行動に茫然となります。
「職務とは言え怪我をしていたとは知らずにひどいことをしちゃったからね、そのことを謝らせてください」
「え?あの、はい・・・」
根がいい子なんでしょう、謝る私にフェイトさんはオロオロと困惑しながらも謝罪を受け取ってくれました。
「ふーん、それじゃあお詫びの印にそのジュエルシードを置いてってもらおうかな?」
反対に使い魔のお姉さんは調子に乗ってます。
「だが断る!」
あいにく私はノーと言える異世界人なので断固として拒否します。
「なっ!?悪いと思ってたんだろ!?それともさっきの謝罪は出まかせかい!?」
「それはそれ!これはこれ!」
フェイトさんに攻撃したことは悪いと思っているけれどジュエルシードに関しては管理局員としての責任を放棄するわけにはいきません。
「第一、これの危険性は二人も身をもって知ったでしょう?これ一個、しかも不完全な暴走であれだけの威力を出せる危険物を何で集めて回っているのさ?」
「そ、それは・・・」
「っ・・・」
お姉さんは言葉に詰まり、フェイトさんもデバイスを構えたまま俯きます。
「言えない。ううん、教えられていないのかな?」
フェイトさん達のバックには間違いなく彼女たちに命令している人物ないし組織がいます。
二人ともジュエルシードがただ願いをかなえる代物じゃない事はすでに知っている。
なのに捜索をやめないという事はフェイトさん達以外の誰かがこれを使おうとして二人に回収を命じている可能性が濃厚です。
「・・・・・・」
フェイトさんは答えない、この沈黙は肯定と受け取っていいでしょう。
「全く、こんな幼気な少女に危険な事をさせて当の首謀者は安全な場所から命令するだけとはね、フェイトさん達もそんなろくでなしにあごで使われて気の毒に・・・。もし保護が必要なら・・・」
「母さんはそんな人じゃないっ!」
私がえらく挑発的な顔で語っているとフェイトさんが大声で否定します。
今まで感情に乏しい感じだっただけに感情を露わにしたフェイトさんはとても印象的でした。
よほどその人、お母さんが大切なのでしょう。
「・・・うん、あなたの家族を侮辱してゴメン。それにしても成程、黒幕はお母さんか・・・」
「っ!?」
怒らせてこれを乱せ・・・孫氏はハイテクデバイスで戦う魔導士戦でも有効なようです。
うまく誘導され母の存在が露見してしまったことにフェイトさんは狼狽えます。
「もっと詳しいことも聞きたいんでね、武装解除して艦まで御同行願おうかな?」
私がそう言うとフェイトさんが高速で突っ込んできます。
振り下ろされる斬撃を再びシールドを展開し防御。
「うおぉぉぉぉぉっっ!」
フェイトさんの攻撃を防御する私の左側から横っ腹めがけて使い魔のお姉さんの拳が振るわれます。
「おっと」
飛んでくる拳を左手でいなしながら後退する私。
どうやら言葉は不要のようです。
「容疑者の抵抗を確認、拘束しますんでお覚悟を」
いつぞやの様に私は二人にイェーガーの銃口を向ける。
『現場周辺は結界で封鎖したから人目は気にしなくていいよハルナちゃん!』
通信を入れてくれたエイミィに頷いた直後、私とフェイトさんは同時に空へ舞い上がりました。
Sideフェイト
(この子、強い・・・!)
それが目の前の目の執務官に対する率直な感想だった。
攻撃、防御、スピード・・・それらは確かに優れているが、どれも自分を圧倒的に凌駕するほどではない。
むしろ魔力と速度に関しては間違いなく自分が上だ、なのに・・・。
「させるかっ、アクセルキーパー!」
「くっ・・・!」
灰色のバリアジャケットを纏った魔導師が展開した三角形の魔法陣・・・。
そこからすさまじい量の魔力弾が猛射され、回避行動を強いられる。
(攻撃が、全部読まれてる・・・!?)
これで何度目だろうか?こちらが仕掛けようと接近すると誘導弾や牽制射撃に阻まれ足踏みしてしまう。
かといって射撃で遠距離から攻撃しても大したダメージを与えられない。
出の早いフォトンランサーは傾斜させたシールドで弾かれ、かといってサンダースマッシャーの様な大技は妨害されてろくにチャージもできない。
「おりゃあっ!」
その隙を作ろうとアルフが仕掛けるがフォトンバレットやいつのまにか設置されていたバインドで近づくこともできない。
やりにくい、とにかくやりにくい相手だ。
「むぅ、結構粘るな。病み上がりだろうしもうちょっと簡単に勝てると思ってたけど・・・フェイトさん強いね」
そう言って称賛の言葉を送ってくる魔導師、確かハルナ・スカリエッティと名乗っていた執務官はその顔に不敵な笑みを浮かべている。
(ダメだ、耳を貸しちゃいけない・・・!)
恐らくこれも彼女の心理戦かもしれない。
先ほども不用意に挑発に乗り、母の事を口走ってしまった。
相手のペースに乗せられちゃダメだ、だというのに・・・。
「全く、クロノたち遅すぎでしょ?なにやってんのさ?」
彼女の言葉に私は焦りを払しょくすることが出来なかった。
クロノと言うのが誰かは分からない。
でもそれが彼女の仲間でなのは確かで、そして間違い無くあの白い子も一緒にやって来るだろう。
艦と言っていたから大勢の武装局員が来る可能性もある。
(来るのが遅いと言っているけれどそれだって私を騙すための嘘でもうすぐそこまで来ているかもしれない、それとも逆に私がジュエルシードを諦めて逃げるように差し向けている?)
既に彼女の術中にはまっていることに焦りを感じるフェイト。
安全を優先するなら今回はジュエルシードをあきらめて逃走すべきだ。
だがただの時間稼ぎならば、このまま力圧しすれば最終的に魔力で勝るこちらが勝てるかもしれない・・・。
逃走か戦闘継続か、揺れる天秤に気を取られていたフェイトに僅かな隙が生じる。
「フェイトっ!!」
「っ!?」
そして歴戦の執務官はその隙を逃しはしなかった。
「隙ありっ!」
発射される魔力弾、回避は・・・間に合わない!
「させるかぁっ!」
とっさにアルフが間に割って入る、しかし・・・。
「えっ!?何だこれっ、バインドっ!!?」
魔力弾を防御したと思った瞬間、食らった個所からバインドが発生し、アルフを拘束する。
「アルフっ!って、しまっ・・・!」
気付いた時にはすでに遅く、飛来した二発目の魔力弾がフェイトに命中し、発生したバインドが彼女を捉える。
「ビンゴっ!さぁ、公務執行妨害と管理外世界での無許可の魔法行使、ロストロギアの不当な収集の現行犯で逮捕します!現行犯だから黙秘権も弁護士を呼ぶ権利も無いけれどかつ丼を注文する権利なら残ってるから大人しくしなさい!」
「えっ?カツ、ドン?」
執務官の言葉に困惑するフェイトだったが、ふと昼にテレビでやっていた昔のドラマの再放送の光景を思い出した。
「それって、たしか取調室で食べさせてもらえる・・・」
「あー、何か故郷の家族の事思い出して泣きながら自白するシーンだっけ?」
一緒に見ていたアルフも思い出したみたい。
あの後興味がわいて近所のお店にデリバリーを頼んだけどとてもおいしかった、また食べたいな。
「そう!それっ!」
自分たちが反応した途端、執務官は嬉しかったのか目をキラキラさせながら大声を上げた。
「いやー、このネタふっても誰もツッコんでくれなくてさー・・・」
「そりゃアンタ、この世界のローカル放送のネタなんてミッドの人間に通用するわけ無いじゃないか」
アルフがツッコミを入れるが執務官の方は聞こえていないのか上機嫌で続ける。
「まぁ、そんなわけで取調室でかつ丼が待ってるから私と一緒に着てもらおうかな」
執務官がデバイスを構えたままこちらに近づいてくる。
自分もアルフも何とか脱出しようと必死にもがくが、バインドは非常に強固に構成されており無力化することが出来ない。
「午後8時43分、被疑者逮h・・・」
そこまで行ったところで、彼女は横から殴りつけられたように倒れこむ。
「・・・え?」
訳が分からず唖然としていると崩れ落ちた彼女の腹部から赤い液体が流れだした。
Side Out
「・・・・・・っ!?」
その瞬間、私は何が起こったのかわかりませんでした。
突然横っ腹に強い衝撃が走ると足から力が抜けてそのまま吹き飛ばされました。
「ぐぅっ・・・!」
そのままアスファルトで舗装された道路に倒れこんだ私は何が起こったのかを確認すべく急いでシステムチェックを開始します。
センサーが全身をスキャンし、異常を確認する。
そしてそれは直ぐに見つかった。
『左腹部にクラスAの損傷、脾臓に深刻なダメージ発生、傷口より出血を確認・・・』
・・・え?何これ?
本当にもう訳が分かりませんでした。
何で怪我してんの?しかも内蔵にダメージってかなりやばいじゃん!
油断しました、これまでの戦闘でフェイトさんと使い魔のお姉さんしか確認出来なかったため、実行犯は二人だけと思い込んでいました。
まさか、他にも仲間がいたなんて・・・。
そうしているうちに左お腹の辺りがだんだん熱く感じてきました。
「これは・・・拙い・・・」
すぐさま脳内麻薬を大量分泌します。
これで痛みは感じなくなりましたがそれでも流れ出ていく血の量だけは変わりません。
何とか身体を動かし出血している個所を見ると血がにじみ出した騎士甲冑にピンポン玉位の穴がぽっかりと開いています。
「イェーガー、これは・・・」
『魔力反応検知できず、12.7㎜クラスの弾丸の可能性大』
ますますもってヤバイことになりました。
相手は魔力を必要としない質量兵器・・・つまり銃火器で武装しているようです。
それもバリアジャケットや騎士甲冑の防御を抜いてくるほどの・・・対物ライフルクラスの代物を。
「あ、あぁ・・・いやあぁぁぁぁぁっっ!!」
突然悲鳴が聞こえ、そちらに目をやるとフェイトさんがいました。
どうやら私が撃たれたことに気づいたようです。
すると今度は疑問がわいてきます。
私が撃たれたことに悲鳴を上げるという事はこれはフェイトさんにとっても予想外の出来事だったようです。
仲間がいた事をフェイトさんも知らなかったのか、それとも仲間が銃を持っているのを知らなかったのか・・・。
もしかしたらフェイトさん達とは別の第三勢力が現れた可能性があります。
だとしたらフェイトさんも危険です。
何とかできないかと頭と体を動かしていると、少し離れた所から未確認の魔力反応が接近してきます。
魔法で飛んでいるのか反応はあっという間に私たちの所までやってきます。
「まだ生きてるとは、バリアジャケットは確かに抜いたはずなんだけどな・・・」
現れたのは見た事の無い少年でした。
年齢は多分なのはやフェイトさんと同じくらい。
銀髪紅眼と言う中二感あふれる容貌。
どことなくなのはの物に似た意匠の青いバリアジャケットと腰から下げたアームドデバイスと思しき両刀のロングソード。
肩には私を狙撃したと思われるバカでかい対物銃・・・バレットM82A2を担いでいます。
「あ、あなたは・・・?」
困惑するフェイトさんの様子からやはり彼女の仲間ではないようです。
「ジュエルシードを持って早く逃げろ」
そんな正体不明の少年Aは私を警戒したままフェイトさんに言います。
「え?でも・・・」
そう言いながら私に視線を向けるフェイトさん。
心配してくれてるんですね、ちょっと嬉しい。
「急がないと管理局の応援が来る。母親を助けたいんだろ?」
「えっ!?」
「お前、何でそれを・・・!?」
秘密を知られていることにフェイトさんとお姉さんは驚き、警戒を露わにします。
「・・・急げ、もう一度は言わないぞ」
「・・・・・・」
取り付く島もなく言い放つ少年Aと私を交互に見た後、フェイトさんはジュエルシードに向かいます。
「ジュエルシード、封印・・・」
フェイトさんによって封印されたジュエルシードは沈静化すると彼女のデバイスに吸い込まれていきます。
「・・・・・・」
そのままこちらに背を向け飛び立とうとするフェイトさん。
「・・・ごめんね」
彼女は一度こちらを振り返るとそう言って飛び去って行きます。
「あっ、フェイト!」
こちらを気にしていた使い魔お姉さんも慌ててフェイトさんを追います。
「行ったか、さて・・・」
小さくなっていくフェイトさんの影を何やら優しそうに見つめていた謎の少年Aですが、それが見えなくなると何やらスゴイ剣幕でこちらをにらみつけてきます。
「何でお前みたいなのが・・・彼女から謝られてるんだよ!」
Aのつま先が私のお腹に突き刺さります。
「がっ・・・!」
吹っ飛ぶ私。
何でしょう、デジャビュを感じます。
「ゲホッ、お腹蹴っ飛ばされるようなことした覚えはないんだけど・・・てか、あんた誰?」
私がそう言うとそいつはますます険しい顔になる。
「お前こそ何なんだよ・・・お前がいることそのものが害悪なんだよ!」
そう言ってAは私の事を何度も蹴る。
「んぐっ、がっ・・・!」
こいつ・・・赤ちゃんできなくなったらどうするんだ!今の所作る気も相手もいないけど・・・。
「はぁ、はぁ・・・お前が、お前のせいで・・・」
わけわからん事を繰り返すA、こいつ絶対サイコパスですよ。
「もういい、どっちにしろここで消えるんだからな・・・」
そう言って担いでいたM82を構えるA。
・・・これはヤバイ。
こんな距離で撃たれたら今度こそ死んじゃいます。
ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイ・・・っ!
どうしよう、何とかしないと・・・考えろ、考えろ私・・・!
その①、天才でぱーふぇくとな美少女戦闘機人のハルナちゃんは突如反撃のアイディアがひらめく。
その②、クロノ達が助けに来てくれる。
その③、助からない、現実は非常である。
・・・その③は論外。
その②が理想的だけど撃たれてからなんの通信も無いことから妨害されている可能性がある、たぶん間に合わない。
やはりその①しかないようだ・・・。
私の頭の中でそんな実況を行うポルナレフ、実況してる暇があったらスタンドで助けろください。
くそっ、どうにも思考がまとまりません、脳内麻薬を過剰分泌したツケが回ってきたようです。
そんな事やってる間にバレットのトリガーに指をかける少年。
「死ね・・・」
呪詛が籠っていそうな死刑宣告と共に少年の引き金は引かれ・・・。
「バスターっ!!」
ようとしたところで上空から降り注いだ桜色の極光に妨げられました。
「これはっ・・・ディバインバスターか!?」
驚きの声を上げながら上を向く謎A、てか何でコイツなのはの技名知ってるんでしょうか?
「スティンガースナイプっ!」
直後間髪入れずに飛来するクロノの誘導弾。
「チッ・・・!」
降り注ぐ魔法のシャワーの中を右に左にと除けますがさすがの物量を躱しきれず、担いでいたM82に直撃、秘殺傷設定の為直撃しても壊れませんでしたが手から落ち、路面に激突した衝撃で銃身が曲がります、あれではもう使えないでしょう。
「ハルナちゃんっ!」
「なのは、ハルナを抱えて下がれ!ユーノはシールド!二人に飛んでいく攻撃を全部防ぎきれ!」
「分かった!なのは、ハルナをっ・・・」
クロノに遅いと皮肉を言いたい所ですが血を流し過ぎたのか思うように口が動きません。
「・・・どうしてだ」
何がだよ?てかこっちがどうしてだって言いたいよ。
「どうしてそんなやつを助けようとするんだっ!?」
・・・もうね、訳が分からないよ。
突然現れたと思ったら殺意マシマシで殺しにかかって来るし、クロノやなのはが来たら訳わかんないこと叫びまくるし・・・。
てか本当にコイツ何者?
「言い分は後で聞いてやる。公務執行妨害及び管理外世界での無許可魔法行使、殺人未遂の現行犯で逮捕する・・・」
底冷えするような冷たい声で告げるクロノ、これは本気で怒ってますね。
「っ・・・!」
状況不利と見たのかAは発煙弾をばら撒きます。
辺りが煙で包まれる直前、相手は腰のデバイスを抜くと切っ先をこちらに向けます。
「っ!?なのはっ・・・!」
「え?きゃぁっ!」
とっさになのはを突き飛ばし射線上から退避させます。
視線を戻せばすぐそこまで迫ってくる魔力弾・・・。
「くっ・・・!
とっさに両腕をクロスさせた直後、弾が直撃して再び身体が吹っ飛びます。
「ハルナちゃんっ!!」
二度三度、アスファルトの上を跳ねながら転がる私の耳になのはの叫び声が聞こえます。
「チッ・・・」
仕留めそこなった事に舌打ちした直後、Aの魔力反応が一瞬で消えます。
「消えた!?エイミィ!」
「クッ・・・ダメだ、見失った!」
悔しそうに答えるエイミィ。
「とにかく今はハルナだ!転送ポートにドクターと医療班を待機させてくれ!」
「ハルナちゃん!しっかりして、ハルナちゃんっ!」
涙を浮かべながら私の顔を覗き込むなのは・・・。
困りましたね、美少女を泣かせてしまいました。
「うぅ、大丈夫・・・とりあえず止血はしたから、多分これ以上はひどくならない、筈・・・」
なのはを安心させる為にそう言いましたが状況は正直言ってあんまり宜しくありません。
50口径をモロに食らったせいで脾臓はオシャカ、衝撃で他の臓器も傷ついています。
両腕もおかしな方向に曲がってますが、こっちは義手ですから取り換えれば問題ありません。
一番の問題は出血です。
傷口周りへの血の供給をカットしたからこれ以上の出血は無いはずですが、それでも生命活動に支障を来すレベルの血を失いました。
今は補助脳のCPUが思考を補助してますから何とか会話できてますがそれもちょっと覚束なくなってきてます。
「クロノ、ゴメン。さすがにそろそろ辛いから・・・寝るよ?」
今はとにかく体力の消耗を抑えるのが一番です。
「・・・わかった、でもちゃんと起きろよ。永眠なんて許さないからな!」
心配するクロノを見て、嬉しいようなお姉ちゃんとして情けないような複雑な心境です。
「了解、んじゃオヤスミ・・・」
そう言って目を閉じます。
瞼の裏に浮かぶのはアースラで手術準備をしてるだろう父さん、ミッドで帰りを待つ家族と親友のマリィ。
そして未だ顔を見せに行っていないすずかとアリサ・・・。
あー、このこと知ったら皆心配するだろうなぁ、んできっと滅茶苦茶怒られるんだろうなぁ・・・。
大切な人たちの事を思い浮かべながら、私の意識は次第に薄れ、やがて闇に堕ちていった。
ご声援ありがとうございました。
Y.Smanの次回作にご期待ください・・・嘘です。
ちゃんと続きます。