お姉ちゃんは0番改め機人長女リリカルハルナA's   作:Y.Sman

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ハーメルンよ私は帰ってきた!(出張から)
ただし明日からまた出張(吐血)
書いてて思ったこと、今回活躍してるの殆どなのはだったw
多分お姉ちゃんは次回活躍します、きっと恐らくもしかしたら・・・。


第20話「魔王誕生?と明かされた真実なの」

何だこれは・・・!?まるで理解できない。

目の前でまばゆく輝く金色・・・。

そのまぶしさに目がくらみそうになりながらも私は手を伸ばす。

本当に触れてしまってよいのだろうか?

そんな神々しさを放つそれを恐る恐る手に取る。

力を入れたらボロボロと壊れてしまいそうな手触りに私は一層慎重になる。

この次の瞬間私を待っている、それは・・・。

「ゴクリ・・・」

無意識のうちに私は喉を鳴らす。

震える手で恐る恐るそれを目の前に持っていき。

「パク・・・ふおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」

口に入れた瞬間キャラメルプリンタルトのあまりのおいしさに咆哮した。

 

機人長女リリカルハルナ

第20話「魔王誕生?と明かされた真実なの」

 

翠屋のテラス席から海鳴の空に私の絶叫が響き渡ります。

道行く人が奇異の視線を一瞬向けますが、すぐに「なんだ翠屋か」的な感じで再び歩き始める皆さん・・・私以外にも叫ぶお客さんがいるのでしょうか?

まぁ仕方ないよね!桃子さんのケーキ美味しいから!

「ありがとう、ちょうど次の新作を試食してくれる人を募集してたの」

そう言いながらテーブルにやって来る桃子さん。

その手には夏に売り出す予定のメロンタルトが・・・ジュルリ。

「おっと、ヨダレが・・・失礼。でも本当にタダで頂いていいんですか?」

現在私は翠屋にて新製品の試食、モニターをさせてもらっています。

なのは?あの子は今学校なので別行動です。

ちなみに少年A改め、ガヤルド・チェンテナリオ・オプトーラの姿はあれ以来確認されていません。

とは言えいつ襲撃されるか分からない現状の為、外出はできても遠出は認められず出歩けるのは海鳴市内に限定です。

単独行動も危険と言う事で未だ認められておらず、今回はユーノがフェレットモードで同行しています。

そんなわけで出かけたのはいいけれどすることの無い私はなのはのご家族が経営している喫茶店「翠屋」に顔を出すことにしたのですが、何故か桃子さんに捕まってそのまま新作ケーキの試食を任されてしまいました。

「いいのよ、なのはがお世話になってるしそのお礼って事で。それにここだけの話、ハルナちゃんが来ると売り上げが上がるのよ~」

桃子さんが言うには前回私がテラス席で美味しそうにケーキを食べているのを見た通行人が自分もと翠屋に足を運ぶようになったそうです。

周りを見ると成程、お昼のピークを過ぎて閑散としていた店内がお客さんで溢れています。

「なるほど、そう言う事なら新作ケーキの宣伝にご協力しましょう!」

公務員たる管理局執務官としてはバイトや副業は原則禁止なのですがこれは友達の実家のお手伝いだから例外ですよね。

報酬だってケーキを御馳走になるだけで金品を受け取ったわけじゃありませんから。

そう言うわけでテーブルに置かれたメロンタルトにフォークをいれて・・・。

「おや、電話だ」

ポケットに入れた携帯電話から軽快な〇女巫〇ナースが流れてきたためにスィーツタイムを中断することになりました。

「なのはから?はいはい、ハルナちゃんでs・・・」

『ハルナちゃんっ!大変なのっ!!』

「◇×●△Σ■・・・!?!?!?」

むしろ私の耳が大変です。

電話越しに鼓膜をブレイカーしそうな大声でなのはが叫んでいます。

「お、おぢづいてなのは・・・何があったの゛?」

未だキンキンする耳で私がなのはに尋ねるます。

『あのねっ、さっきアリサちゃんから・・・』

そしてそれを聞いた私は耳の痛みが一瞬でぶっ飛びました。

「っ!?分かった、すぐ行く。場所は?アリサの家か・・・うん、それじゃ」

電話を切った私は席を立ち・・・上がろうとして目の前に置いてあったメロンタルトを見て固まります。

「・・・・・・」

時間にして約5秒程・・・逡巡した後にタルトを掴むと大口を開けて放り込みます。

「もぐっ・・・もももはん、ほめんまはひ。ひょっときゅふほうはでひまひは」

「うん、聞いてたわ。アリサちゃんの家よね。事故とか大丈夫だと思うけどきをつけてね」

驚くべきことに私の食事語を一瞬で解読した桃子さんは事態を察して行くように促してくれました。

「ゴクン、ありがとうございます。それじゃ言って来ますッ」

速攻で咀嚼し、でも可能な限り味わってからメロンタルトを胃に収めた私はユーノを肩に乗っけると走ってる車を追い抜きながらアリサの家で向かいました。

 

「やっぱり、アルフさん・・・」

「・・・アンタ達か」

アリサのお屋敷に到着してすぐ、執事の鮫島さんに案内されて中庭にやって来るとそこに居たのはオレンジの毛並みの狼・・・フェイトさんの使い魔のアルフさんだった。

しかし先日まで感じられた覇気は感じられず、全身に巻かれた包帯も相まって非常に衰弱しているように見える。

「わっ!?ホントに喋った!?」

なのはの隣で驚くアリサ。

聞いた話によると先日習い事の帰りに傷ついた彼女を見つけて保護したとの事。

その間ずっと喋らず犬のフリをしていたから最初はアリサも珍しい見た目の大型犬だと思っていたらしいですがなのはや私に似た何かを感じたらしく今日久しぶりに学校に来たなのはに相談したとの事。

そう言えば以前二人に練習用のストレージデバイスをプレゼントしたときに魔力診断したらリンカーコアありましたね。

アリサはほとんど魔力を持たないEランク、すずかは夜の一族出身なのが理由なのかDランク程度でしたがそれでアルフさんの魔力を感じ取ったのでしょう。

さて、普段ならここで「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」とかいっておふざけするところですがあのアルフさんがここまで大けがするとなると事態はなかなかに深刻です、フェイトさんが一緒にいないことも気がかりです。。

彼女が敵わないレベルの相手となると恐らくプレシア・テスタロッサかガヤルド・チェンテナリオ・オプトーラ・・・後者が二人を襲うとは考えられませんから間違いなく下手人はプレシア・テスタロッサでしょう。

実の娘の使い魔・・・家庭で差異はあるでしょうが家族同然の相手をここまで痛めつけるとなると、最悪フェイトさんも同じかそれ以上の目に遭っている可能性もあります。

「それじゃあ改めて自己紹介をば、時空管理局本局遺失物管理部機動2課第2特別捜査隊所属のハルナ・スカリエッティ執務官です。詳しくお話を聞かせてくれませんか?」

「・・・遺失物ってハルナ落とし物係だったの?」

「ちゃうねん」

人が珍しくシリアスに行こうとした途端アリサがまさかのボケです。

いや、たしかに日本で遺失物って言ったら落とし物のこと指しますけど・・・。

「コホン、とりあえずアースラまで御同行願います。よろしいですね?」

「・・・ああ」

一応確認しましたがアルフさんは力なくうなずくだけです。

観念しているというよりも心ここにあらずと言った感じですね。

多分置いて来てしまったフェイトさんの事で頭がいっぱいなのでしょう。

「あの、ハルナちゃん!私も・・・」

「うん、却下」

「にゃっ!?」

ショックを受けているなのはには申し訳ないけれどこれは私の仕事です。

「日本の法律でも取り調べを行う権利を有するのは警察官と検察官だけだった気がするし・・・つまり何が言いたいかと言うとね、ただの一般魔法少女であるなのはには現行犯逮捕はできても取り調べや刑罰を与える権利はないのだ!」

となのはに言っては見せましたが実際の所なのはは知らない方がいい情報だってあるのです。

フェイトさんがどんな目に遭ってきたのか、想像ですがなのはが聞いたら取り乱す程度じゃ済まない内容の物もあるはずです。

「で、でもっ・・・!」

そうとは知らずに食い下がるなのは、何としても説得して諦めさせねばいけません。

「大丈夫だって、こう見えて私ベテランの執務官だよ?もっとその道のプロを信じなさいって。それに、取り調べだって最近日本の刑事ドラマ観て研究してるんだから任せてよ」

私がそう言った途端なのはの顔が青ざめます。

いや、よく見たらアリサとすずかの顔も真っ青です。

「ハルナちゃん!やっぱり私も一緒に行くよ!」

「そうよ!ハルナに任せたらよっぽど危険だわ!」

「ハルナちゃん!絶対マシンガンを乱射しちゃダメだよ!?」

どうやらみんなの頭の中では私が観た刑事ドラマが石原軍団シリーズで確定しているようです。

納得いきません。いや、間違っちゃいないけど・・・。

ミッドに帰ったらバイクに乗りながらショットガンを撃つ練習をしようと思ってましたし・・・。

結局アースラにいるクロノの助力を受けて何とか三人を説得した私はそのままアースラにアルフさんと共に帰艦しました。

 

Sideアルフ

あのハルナって言う執務官に連れられて管理局の巡航艦―アースラって言ってた―に連れていかれ、今あたしはそこの取調室にいる。

何を考えたのかこの間フェイトと見たドラマに出てきた取調室そっくりの部屋・・・そこでハルナと机を挟んで座っている。

あれから事情聴取って形でハルナからこれまでの経緯を質問され、答えられるものには全部答えた。

あたしが怪我を負った経緯についても聞かれ、答えるとハルナは静かに、しかし明確に怒りを露わにした。

「フムン・・・大体わかりました、今後私たちはジュエルシードの回収と並行してフェイト・テスタロッサの保護とプレシア・テスタロッサ捕縛を目的に行動することになるでしょう。あなたは本案件における重要参考人として保護、全力を以て安全を保障します」

フェイトの処遇が『逮捕』ではなく『保護』であることに僅かながら安堵できた。

こいつらとは敵同士だけれど、あの鬼婆と比べたらずっと信用できる相手だ、きっとフェイトの事も悪いようにはしない筈だ。

「さてと、そう言えばお昼まだなんじゃない?」

「え?ああ、そうだけど・・・」

「ふふん、そう思ってね・・・じゃーん!」

そう言ってハルナはどこから取り出したのか、アルミ製の大きなケースを机の上に置いた。

これには見覚えがある、たしか・・・そう、デリバリーを頼んだ時に配達員が持ってきた岡持ちだ。

と言う事は中身は・・・。

「取調室と言ったやっぱりこれでしょう、へいおまちっ!」

そう言って岡持ちを開けると出てきたのは丼ぶりいっぱいに乗ったトンカツとそれを包んだ卵・・・かつ丼だった。

「私が作ったんだ。はい、召し上がれ」

そう言って割りばしと一緒に差し出されるかつ丼。

戸惑うものの腹ペコなのは事実だ。

何しろ昨日の夜からあの子の家で消化に良いタイプのドッグフードしか食べてない。

胃には優しいんだろうけど直ぐに吸収されてしまうため、満腹にはならなかった。

「それじゃあ、いただきます・・・」

割りばしを割って、トンカツとご飯を口に運ぶ。

その様子をワクワクした様子で見つめてくるハルナ。

「どう?そのかつ丼ね、自信作なんだ。美味しい?」

どうやら感想を言ってほしいらしい。

なので以前フェイトと食べたかつ丼とコレを比較した感想を言ってやった。

「全然、大したことないね」

「え~っ!?」

信じられないような、納得いかないような声を上げるハルナ。

「煮込みが甘いから玉ネギが固い。つゆも砂糖が多いのか妙に甘ったるい。それに、作ってだいぶ経ってるだろうこれ?カツが覚めて冷たくなってる」

あたしが一つ一つダメ出ししていくと「うぐっ」と心臓の辺りを抑えながらハルナは呻く。

「第一、あ・・・」

そこであたしは気づいてしまった。

このかつ丼がおいしくないと感じる根本的な理由それは・・・。

「フェイトが、一緒じゃないから・・・」

そう、甘しょっぱい天つゆに煮込まれトロトロになったトンカツと玉ネギ、それをご飯にのっけた熱々のかつ丼・・・。

それをフェイトと一緒に笑いながら・・・。

「・・・フェイト」

気付けばあたしの目からは大量の涙がこぼれていた。

あたしがいなくなって一人ぼっちになってしまったフェイト、今頃あの子はどうしているだろう?

お腹を空かせていないだろうか?泣いてはいないだろうか?

あの女・・・プレシアにひどい事をされていないだろうか?

「うぅ、フェイト、フェイトぉ・・・」

会いたい。フェイトに、会いたいよぉ・・・。

そんな時背中に温かい感触を感じる。

振り返れば立ち上がったハルナが私を後ろから抱きしめていた。

「大丈夫、大丈夫だよ。信じて、フェイトさんは私が必ず助けるから」

「ハルナぁ・・・うん、うんっ・・・!」

抱きしめるハルナの腕から、優しくあやす様に頭を撫でる手からは不思議な安心感が感じられた。

温かく、包み込むような・・・ずっと大昔に一度だけ感じた、生まれた時に母親に抱き抱えられた時のような優しい感じ。

だからあたしはこいつらを、あの白い子やこのハルナを信じることにした。

きっとこいつらならフェイトを助けてくれる、よく分からないけれどそんな確信があたしの中に確かに生まれていた。

「うん、フェイトさんを助けるときにはきっとアルフさんの力も借りることになると思う。だから今は栄養いっぱいとってゆっくり身体を休めて」

「うん・・・そうする・・・」

そう言って残っていたかつ丼を一気に口の中にかきこむ。

・・・やっぱりおいしくない、今度はメチャクチャ塩辛く感じる。

今度はフェイトと一緒にもっとおいしいかつ丼を食べよう。

そう決意を新たにしたあたしはどんぶりの縁についていた最後の米粒を口に放り込んだ。

Side Out

 

で、次の日の早朝・・・。

なのはは海鳴臨海公園にいます。

以前私と出会った海に面した堤防の上で瞑想するかのように静かにまぶたを閉じ微動だにしません。

暫くそうしていると、相手の気配を感じたのか目を開けます。

「ここならだれにも邪魔されない・・・出てきて、フェイトちゃん」

なのはがそう言うとそれに応えるように背後の街灯の上にフェイトさんが降り立ちます。

「フェイト!もうやめようよ!これ以上こんな事続けたら、フェイトは・・・!」

なのはに同行したアルフさん・・・アルフがフェイトさんを説得します。しかし・・・。

「それでも・・・私は母さんの娘だから、止まれない、止まる訳にはいかないんだ・・・!」

アルフに対して首を振りながら答えるフェイトさん。

彼女の瞳には何か覚悟を決めた様な・・・そんな悲し気な決意が感じられます。

「フェイトちゃんは止まれないし、私も譲れない。全ての始まりは、ジュエルシード・・・だから賭けよう、お互いの持ってる全部のジュエルシードを」

なのはがそう言うとレイジングハートがこれまで回収したジュエルシードを展開します。

「・・・・・・」

それを見てフェイトさんもデバイス・・・バルディッシュからジュエルシードを取り出します。

「それからだよ、全部それから・・・」

それは合意の合図、二人の戦いの火ぶたが静かに切って落とされる。

「私達の全ては、まだ始まってもいない。だから、本当の自分を始めるために・・・始めよう、最初で最後の本気の勝負!」

なのはのその言葉を開始のゴングに、二人は同時に大空へ舞い上がった。

・・・え?私?今アースラの医務室です。

前回の戦いで御釈迦になって交換した電子機器の最後の調整が間に合わず、ここで指をくわえて二人の決戦を生中継で観戦中です、ぐぎぎ・・・。

「そんな顔してもダメだよ、万全の状態でなければ出撃は認められない、いい加減もっと自分を大事にしなさい」

そう言う訳でこうして父さんの監視の元、アースラでお留守番しております。

まぁ、他にもちゃんとした理由がありまして・・・。

「それに、相手はあのプレシア・テスタロッサだ、万全の準備をして尚勝てるか怪しい相手だよ、彼女は・・・」

そう、二人の勝敗の結果にかかわらず、プレシア・テスタロッサは行動を開始するでしょう。

その隙を狙ってアルフからもたらされた彼女の拠点である『時の庭園』に突入しプレシアの身柄を確保する作戦です。

時の庭園・・・次元空間移動が可能な施設でプレシア・テスタロッサが居を構える難攻不落の要塞。

アースラのエンジンを超えるトンデモ出力の魔力炉を備え、恐らく防衛設備も十重二十重・・・そんなところにたった一個小隊の武装局員達と乗り込んでいかなきゃいけないわけですから。

しかも最深部には大魔導師プレシア・テスタロッサがラスボスよろしく待ち構えている・・・どれだけ準備をしても足りませんよこれ。

そんなわけでギリギリまでパーツの調整を行っているのですがそれをやるのは父さんの仕事でぶっちゃけ私は暇です。

かといって調整中の為医務室から出るわけにもいかずこうして画面越しに二人の無事を祈っているわけです。

「そう言えばよくこんな私闘をクロノ執務官が許したね・・・」

「クロノにも考えがあるんでしょう。戦いが終わって撤収するフェイトさんを追跡すれば庭園のより正確な座標が分かるわけだし」

まぁ、私としてはこれ以上二人に危険な事をしてほしくはないんですが、なのはがどうしてもやらせてほしいと言うのでついに折れました。

確かにここで勝負をつけておかないと不完全燃焼のまま事件が解決しちゃうかもしれませんしね。

そんなことになったら今後二人の関係もやきもきするかもしれません、ここで後腐れ無いよう全力でぶつかり合うのも一理あります。

「そう言えば、なのは君に例の事は教えなくてよかったのかい?」

父さんの言う例の事とは、プレシア・テスタロッサに関して調べた情報の事です。

その結果浮かび上がってきた事件の真相とフェイトさんに関する秘密・・・。

「クロノと話し合ったんだけどね、大勝負に挑むなのはに迷いを持たせたくないってことで黙っておくことになった・・・」

「・・・そうか。いや、そうだろうね」

これから全力の真剣勝負に挑もうっというんです、迷いを持ったまま挑んでもろくな結果にはならないでしょう。

とにかく、おぜん立ては可能な限り行いました、後はなのはが無事に勝つことを祈るだけです。

なのですが・・・。

「しかし・・・今どきの魔法少女は皆こうなのかね?」

「いや、この二人がぶっ飛んでるだけでしょ」

そう言って呆れながら投影モニターに映る二人の戦いを見る私と父さん。

何これ?ガンダムの新作か何か?

朝焼けの空を縦横無尽に飛び交うなのはとフェイトさん。

スピードと機動性でなのはの背後を取ったフェイトさんがフォトンランサーを放つとなのはは急降下してこれを回避。

そのまま水面すれすれを飛行し、こっちで用意した廃ビル型のオブジェクト群に逃げ込みます。

ビルを盾にするなのはを追うフェイトさん、二人が通ったビルは衝撃波で窓ガラスが割れ、ガラス片が朝日を浴びてキラキラと輝いています。

なのはは飛行しながら背後に振り返り、ディバインシューターを発射。

誘導弾に気づいたフェイトさんが回避起動を取り、シューターは逃げるフェイトさんを追跡します。

先ほどと立場が逆転するも、フェイトさんは慌てることなく殺到するシューターを回避、再度追跡軌道に乗ったシューターをサイズフォームに変形したバルディッシュで切り落としていきます。

最後の一発を迎撃し終えたフェイトさんがなのはの方を見るとビルの屋上に立ちこちらに狙いを定めるなのはの姿が・・・。

「ディバイィン・・・バスタァァァァァっ!!」

桜色の直射方がフェイトさんめがけて突っ込んできます。

回避が間に合わないと判断したのか、シールドを展開するフェイトさん。

とっさの所で間に合い、フェイトさんは閃光に包まれるも数秒後無事にその中から姿を現した。

しかし先ほどまでビルにいたなのはの姿が見つからず、フェイトさんは慌てて辺りを見渡す。

そして肝心のなのはは・・・上にいた。

「せぇぇぇえええええいっ!!」

「なっ!?」

敵機直上急降下!正にそんな感じでフェイトさんに対してほとんど垂直に落下してくるなのは。

そんな彼女の手には大きく振りかぶったレイジングハート・・・。

またもやギリギリでバルディッシュを構えガードするフェイトさん。

ここまでフェイトさんに対して優位に立っていたなのはですが、いかんせん経験値という点ではフェイトさんにアドバンテージがあります。

つばぜり合うなか、フェイトさんはフォトンランサーを形成、ゼロ距離でなのはにぶちかまします。

なのはも慌ててガードしながら後退し、ダメージはほとんど食らいませんでしたが、イニチアシブはフェイトさんの手に移りました。

バルディッシュの刃で切りつけるフェイトさん。

とっさに回避するも、胸のリボンの端が切り裂かれ、魔力に還る。

そして再び始まるドッグファイト。

フェイトさんが追い、なのはは逃げながら隙を伺います。

「・・・うん、私が知ってる魔法少女と違う」

「だね・・・魔法少女と言うより魔『砲』少女だねこれは」

多分世間一般の人々は魔法少女同士のバトルと言ったらもっとキラキラしたメルヘンチックなものを想像されると思います。

ですが現在海鳴湾上空で行われているのは高度なマニューバで相手の背後を取り合いながら大出力の魔法を打ち合い、接近すればメカメカしいステッキで白兵戦闘を繰り広げるというメルヘンの欠片もない未来型ガチンコバトル。

ミッドチルダ式の射撃魔法は見た目がまんまビームですからなおさらSFな光景です。

本局の武装隊・・・いや、戦技教導隊の教本映像として使えるレベルのガチバトルですよこれ。

前言撤回、勝ち負けはいいから二人とも無事に生きて帰ってきて!

リリカルなのはを初めて見たであろう視聴者の感想を私達が代弁している間も二人の戦いは続きます。

上空で螺旋を描く光の軌跡。

離れては交差し、すれ違う瞬間激しく閃光が瞬くと再び離れてを繰り返します。

そして何度目かの交差の直後、二人がガッチリとつばぜり合い、動きを止める。

がら空きになったフェイトさんの背後を狙ってなのはが上空にディバインシューターを形成、フェイトさんの死角から接近させます。

それに気づいたフェイトさんが再びゼロ距離射撃でなのはを吹き飛ばし、飛んで来るシューターをギリギリのところでガード、誘導弾はシールドにぶつかり霧散する。

対するなのははそのまま眼下のビルに落下、戦果確認のために近くの高いビルに降り立つフェイトさん。

濛々と立ち込める粉塵・・・その中でキラリと桜色の輝きが瞬くのをフェイトさんは見逃さなかった。

慌てて飛翔すると彼女がいた場所を極太のビームが通り過ぎ、先ほどまでたっていたビルをごっそりと抉る。

・・・これ、本当に秘殺傷設定だよね?

私がそんな不安を抱いていると落下地点からなのはが飛び立つ。

激闘を繰り広げた二人ですが決定打に欠けるのか双方ともに大きなダメージは負っていません。

ここにきてフェイトさんが勝負に出たのか、彼女の足元に巨大な魔法陣が形成される。

それを見て身構えるなのはでしたが突然彼女の両腕が拘束される。

「バインドか・・・」

「確実に大技をぶつけるつもりだね」

魔法はファンタジーやRPGの例にもれず、威力の大きいものになればなるほど準備や充填に時間がかかります。

その間に攻撃されたり逃走されたりしたら元も子もありません。

そんな時に頼りになるのがバインド、射程距離こそ短いですがこれなら相手の抵抗も逃走も阻止することが出来ます。

「マズイ、フェイトは本気だ・・・っ!」

「なのはっ!待ってて、今すぐ・・・」

現地で戦いを見守っているユーノとアルフもフェイトの意図に気づいたのか慌てています。

「だめぇっ!」

しかしなのはは未だに諦めてはいませんでした。

「お願い、手を出さないで。私とフェイトちゃん・・・二人の本気の勝負だから・・・っ!」

そう言うなのはですがこれと言った動きはありません、恐らくバリアジャケットに魔力を注いでフェイトさんの攻撃を直に受け止めるつもりなのでしょう。

「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル・・・」

詠唱するフェイトさんの周囲にフォトンランサーが次々に形成されます。

10、20、50、100・・・まだまだ増えます。

隣接するランサー同士が干渉して電流が迸り、フェイトさんの周囲はさながら雷雲のようです。

「フォトンランサー、ファランクスシフト・・・」

準備が完了したフェイトさんがキッとなのはを見据え。

「撃ち、砕けぇぇぇぇぇっっっ!!!」

振り上げたバルディッシュを彼女に向けて振り下ろしました。

直後展開されたフォトンランサーが次々に射出され、我先にとなのはに殺到します。

一発目が着弾し閃光と爆炎が上がるも、ランサーは止まることなくなのはのいる場所にに降り注ぐ。

猛烈な光の嵐が吹き荒れ、ランサーの大半が打ち出されるとフェイトさんは残っていたランサーを己が掌の上に集約させ・・・。

「スパーク・・・」

巨大なやりにしてなのは目掛けて投射しました。

「・・・エンド」

雷の槍は煙を突き破りなのはに激突、ひと際巨大な輝きを放ち爆発します。

「・・・これは」

「ああ、勝負がついたね」

私も、そして父さんも同じ結論に至ったようです。

そう・・・。

「フェイトさんったら・・・グミ弾連射なんてして、これ絶対効いてないフラグだよ」

「全くだ、きっとこの後煙の中から無傷のブロリーよろしくなのは君が出て来て倍返しがくるだろうね」

いや、ほんと・・・フェイトさんのアレを見た時は不覚にも笑いそうになりましたよ。

だってエネルギー弾の連続発射ですよ?

どう見ても「なんなんだぁ今のはぁ・・・?笑えよベジータ」な展開が来るに決まってるじゃないですか!

そして案の定煙が晴れるとその中からなのはが姿を現しました。

とは言え決して無傷と言うわけでは無く、バリアジャケットは傷つき、レイジングハートもコアが明滅しています。

「行くよ、レイジングハート」

『イエス、マイマスター。キャノンモード』

反撃開始とばかりにレイジングハートが砲撃形態に変形します。

「クッ・・・うあぁぁぁぁっ!」

必殺の一撃の筈が効果が無かったことに愕然としていたフェイトさんでしたがすぐさま自身を奮い立たせ、なのはの攻撃を妨害すべく加速しようとします。しかし・・・。

「なっ!?バインド・・・っ!?」

ファランクスシフトが放たれる直前に仕掛けたなのはのバインドが発動します。

ぶっつけ本番で組んだ為に術式が甘かったのか左腕だけは拘束されていませんが足を止めさせた時点でなのはの目的は十分に達せられました。

「今次はこっちの番っ、ディバイィィン・・・バスタアァァァァァァァッッッ!!!」

フェイトさんをすっぽり飲み込める直径の閃光がレイジングハートから放たれる。

「・・・くぅっ!」

対するフェイトさんはバインドの解除を諦め、シールドを展開。先ほどなのはがそうしたように彼女のディバインバスターを真っ向から受け止めます。

「ぐぁっ・・・一撃が重い。でも、あの子だって耐えたんだ。これを、防ぎきれば・・・」

正面からの圧力にくじけそうになりながらもなんとか耐え抜いたフェイトさん。

衝撃で吹き飛ばされたバリアジャケットのマントが魔力に還るのを見ながら耐えきれたことにだとホッと胸をなでおろします。

しかし・・・。

「えっ?魔力が・・・」

なのはのバトルフェイズは終了していませんでした。

これまでの戦いで周囲に飛散した大量の魔力・・・それらが光の粒子となって天に昇っていきます。

やがて空が、自分の頭上が明るくなっていくことにフェイトさんは違和感を覚えます。

現在は朝方、先ほど日の出を迎えた直後で太陽が彼女の頭上にあるはずがありません。

不審に思い空を仰げば遥か上空に上っていった魔力が集まっていく、そしてそれを成しているのは・・・。

『StarlightBreaker』

飛散した周囲の魔力がなのはの元に集まっていく。

それは小さな光の粒となり、球となり、そして桜色の太陽へと変わっていく。

「使いきれずにばら撒いちゃった魔力をもう一度、自分の所に集める・・・」

「収束、砲撃・・・私の魔力も?そんな、ズルいっ!」

「ズルくない!レイジングハートと一緒に考えた知恵と戦術、最後の切り札なの・・・受けてみて!これが私の全力全開っ!!」

なのはがそう言った直後、彼女が作り上げた太陽が輝きを増す。

「うぅ、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

やけくそ気味に叫びながら残っていた魔力を全てシールドに注ぎ込むフェイトさん。

展開されたシールドは5枚。

高速戦闘時では展開できない・・・バインドで動きを封じられている今だからこそできる全力の防御です。

そんな鉄壁の護りを固めたフェイトさんに向けてなのはの全力全開の魔法が・・・。

「スターライトォォブレイカァァァァァァァァッッッッ!!!!!!」

放たれた。

まるで水を注がれた風船に大穴が開いたかのように桜色の太陽から同色の極光がフェイトさんめがけて降り注ぐ。

それはまるで巨大な光の柱がフェイトさんに向かって落下していくようにすら見えた。

その光の柱の先端がフェイトさんが展開した5重のシールドにぶつかり弾けて周囲に飛び散る。

飛び散った光の粒はそれ一つ一つが正に砲弾並みの速度と威力で海面やオブジェクトにぶつかって破壊を振りまく。

必死にシールドを維持しようとするフェイトさんだったがその力の差は正に決壊したダムに傘で挑むかのごとし・・・。

1枚、2枚と傘(シールド)が叩き割られ、ついに最後の一枚が破られたフェイトさんの身体は光の本流に飲み込まれ流されていく。

膨大な光のうねりはいくつかの支流に分かれながら周囲に降り注ぎ、形成されていたオブジェクトをフィールドもろとも吹き飛ばした。

「・・・」

「・・・・・・」

静寂に包まれる医務室。

もう何て言うか、開いた口塞がりません。

隣を見れば父さんもあごが外れたかのように大口を開けて沈黙しています。

目が合う父さんと私。

何が言いたいのか私にもわかった。

父さんも同様なのか私たちは頷き合うと同時に思いのたけを口にした。

「「・・・なぁにこれぇ」」

いや、ホント・・・どうしてこうなった!?

前々からなのはが何か必殺技みたいなのを考えているのは知ってましたが、こんな・・・え?何あれ?

今簡単に威力を図ってみましたが爆心地のエネルギー量が約6.43ペタジュール・・・TNT火薬に換算して1.6メガトン、戦略核ミサイル5~6発分とか訳が分からないよ!

恐らくブリッジでもクロノやエイミィが慌ててるか茫然としているのでしょう。

こうして私たちは後に「管理局の白い悪魔」「桜色の核弾頭」「アースラの最終兵器」等の異名と共に恐れられることになる高町なのはの必殺技・・・スターライトブレイカー誕生の瞬間を目の当りにしたのでした。

「スターライト(星も軽く)ブレイカー(ぶっ壊す)」・・・何それ怖い。

兎にも角にも、なのはとフェイトさんの本気の勝負はなのはの辛勝と言う形で幕を閉じました。

ここでめでたしめでたしならよかったのでしょうが・・・。

『空間跳躍魔法確認!魔力波形・・・プレシア・テスタロッサ!現場上空に反応拡大っ、来るよなのはちゃん!』

そう、それまで一切手を出してこなかったプレシア・テスタロッサがここにきて次元空間から現場に向けて跳躍攻撃で狙撃してきたのです。

その狙いは・・・。

「フェイトちゃんっっ!!」

そう、やはりフェイトさん。

雷はなのはに助けられたフェイトさんを撃ち、彼女が持っていたジュエルシードを奪っていきました。

ここまで死力を尽くしても尚プレシア・テスタロッサはフェイトさんにひどい仕打ちを行ったのです。

「・・・・・・」

私の胸の奥から怒りがマグマのように込み上げてくる。

「父さん」

「・・・調整は終わっているが、無茶はしないように」

心配はしてくれますが引き留めはしない父さん。

父さんも一人の親として子供にあんなことをするプレシアに怒りを感じているのでしょう。

私は父さんに頷くとイェーガーを握りしめ転送ポートに向かいます。

既にそこには出撃準備を終えたアースラ所属の武装局員たちが集まっており、最後の点呼を行っているところでした。

「スカリエッティ執務官、入られました!」

私の入室に気づいた局員がブリッジに報告すると艦内放送でリンディさんが突入命令を下します。

『武装隊、突入開始!目的はプレシア・テスタロッサの捕縛!突入後、現地での指揮はスカリエッティ執務官に一任します』

「了解!野郎ども、準備はいいかぁっ!?」

「「「「「「「おおうっ!!」」」」」

私の言葉に武装隊の面々は気合の籠ったこえで応えます。

皆アルフの取り調べ調書は読んでいるでしょうしさっきの戦闘の映像だって見ていたはず、恐らく彼らもプレシアの行為に怒りを覚えているのでしょう。

公平を重んじる局員としてはフェイトさんだけに肩入れするのはご法度なのですが今回ばかりはそれを咎めるつもりはありません。

あんな優しい子が小さな体に鞭打って頑張っているというのにやらせている当の本人が本当に彼女の身体に鞭打っていたなんて・・・もはや怒りしか沸いてきません。

ふんじばって正座でお説教聞かせた上でフェイトさんに対して謝らせたうえで刑務所に送ってやります。

「相手はフェイトさんを虐待していたフ●ッキンDVマザ-だ。抵抗するなら私が許す、法に触れないレベルでしばき倒せ!」

「「「「「サー!イェッサー!!」」」」」

「バカモーン!私は♀だから「サー」じゃなくって「マム」だー!総員出動ー!!」

直後、転送ポートが起動し見慣れたアースラ艦内から石造りの庭園内に転送されました。

「周辺警戒!防衛機構が起動しているか確認!」

「クリア!」「クリア!」「同じくクリア!」

「オールクリア!どうやら歓迎委員会は休暇中らしい。どうするお嬢?」

隊員たちから報告を受けアースラ武装隊の最先任であるエイブリー・ハマー二等海曹が私に聞いてきます。

「生憎パーティする気分じゃないの。即行で突っ込んで速攻で逮捕、これでいく」

「聞いたな野郎ども!お嬢は電撃戦をご所望だ!」

「「「「「ウーラー!」」」」」

何て言うか、この間の軍事介入事件以来アースラ武装隊のノリが完全に海兵隊です。

とはいえ今はこの勢いがありがたいです。

今は一刻も早く、プレシアが何らかの行動を起こす前に拘束しなくてはいけませんから。

そのまま私たちは周囲を警戒しながら庭園の奥へと進んでいきます。

で、あっさりと最深部・・・玉座の間の前まで来てしまいました。

「まさか全く無抵抗とは・・・」

「すでに逃走してたとか?」

「その可能性もありますな」

私とハマー二曹がそんな会話をしていると扉を調べていた局員から報告が来ます。

「扉にトラップの類はありません、また内部をスキャンした結果プレシア・テスタロッサと思しき反応も確認できました」

ますます分かりません。

抵抗もトラップも無し、かといって逃走する様子も無し。

観念してじっとしている可能性も無きにしも非ずですがここまで騒ぎを大きくした人物がここにきて諦めるでしょうか?

「何にせよ、やる事は変わらない。突入する!総員準備!1班は私と一緒にプレシア・テスタロッサを拘束、2班は奥へ行って証拠物件を押収!」

「了解っ!野郎ども!カチコミだ、気合を入れろ!」

私の指示と二曹の激励でみんながデバイスを構えます。

「スゥゥ、ハァァ・・・突入っ!!」

一度大きく深呼吸してから私はその号令と共に扉をケンカキックで蹴り破り、玉座の間へと飛び込みました。

背後からは私に続いて殴り込みをかける武装隊の足音、そして目の前には気だるげに玉座に座る妙齢の女・・・プレシアテスタロッサがいました。

「時空管理局本局遺失物管理部機動2課第2特別捜査隊所属、ハルナ・スカリエッティ執務官です。プレシア・テスタロッサ、管理外世界での魔法行使等の次元管理法違反、並びに管理局艦船への攻撃をはじめとした公務執行妨害、そして未成年者暴行の容疑で逮捕します」

私の宣言と同時に武装局員たちがデバイスをプレシアに向ける。

ここまで来てもプレシアは物憂げに・・・否、つまらなそうに私達を見ているだけでした。

彼女の行動が気がかりですが今は逮捕が最優先です。

私と1班がプレシアに睨みを聞かせている横を2班が奥の部屋へ入っていきます。

そこでこれまで沈黙していたプレシアの表情に焦りの色が見えます。

「執務官!来てくださいっ!!」

怪訝に思いましたがその直後2班の班長に呼ばれた私はハマー2曹にここを任せて奥の部屋に向かいます。

「どうしたの?」

「見てください、あれです・・・」

そう言って班長が指さした方を見るとそこには円筒形のシリンダーが置かれ、その中には・・・。

「フェイト、さん・・・?」

そこに居たのは膝を抱えるように眠るフェイトさんそっくりの女の子でした。

「いや、ちがう。これは・・・」

その瞬間リンディさんやクロノ、父さんと行ったプレシアの経歴調査で行き着いた仮説が確信に変わります。

でも、それが本当ならフェイトさんは・・・。

「私のアリシアに近寄らないでっ!!!」

その直後、プレシアに放り投げられた班長がぶつかり、私は思考を中断させられました。

てか、何でプレシアここに来てんの?2曹達は・・・ダメだ、全員床にダウンしてる。

死んではいないようだから恐らく電撃で気絶させられたのでしょう。

2班の隊員に気を失っている班長を任せてプレシアに対峙する私。

「・・・消えなさい」

フェイトさんの母親とは思えないほど冷酷な声でそう口にするプレシアの手が帯電し始める。

成程、何もリアクションをしなかったんじゃなくてする必要を感じてなかったのか。

彼女にとって私たちは弱すぎて虫けらどころか道端の石ころにしか感じられなかったってことです。

実際今プレシアから感じられる魔力量は半端なく膨大です。

とは言えプレシア・テスタロッサは戦闘者ではなくあくまで研究者、今観察した限りですが攻撃魔法もかなり粗が目立ちます。

魔力がすごくても戦闘能力自体は大したことのない力押しスタイル、これなら私一人でもものごっつ頑張れば勝ち目が無い相手ではありません。

そう、私一人だけならば・・・。

「ぐっ」

「うぅ・・・」

ですが今私の背後にはプレシアにボコされて戦闘不能の武装隊のみんながいます。

彼らを守りながらではどうやったって勝ち目がありません。

こういう時は・・・。

「・・・ハマー2曹、生きてる?」

『ぐぅ、何とか・・・やれやれ、キャバクラ通いがバレた時のかみさんの雷より強烈だぜ』

うん、大丈夫そうですね。

「おーけ2曹。作戦変更、プランBでいこう」

『了解、で?プランBってのは何でしたっけ?』

「簡単さ、逃げるんだよぉぉぉっっ!!!」

そう言うや否や、私はイェーガーを構えるとアクセルキーパをプレシアの方目掛けて乱射します。

牽制や敵誘導弾の迎撃を目的とした小口径魔力弾の連射魔法・・・。

ある意味劣化版グミ弾ともいえるこの攻撃でプレシアにダメージを与えられるわけがありません。

ですが別にダメージを与えなくても相手を止める方法はあるんです。

「・・・っ!?アリシアっ!」

私が何をしようとしているのか気づいたプレシアは背後にあるシリンダー・・・その中の女の子を守ろうと慌ててシールドを展開します。

そう、私が狙ったのはプレシアが守っているシリンダーです。

さっきまでさんざんシカトしてたくせにシリンダーに触れようとした途端に血相変えて飛んでくるぐらいです、よっぽど中にいる女の子が大事なのでしょう。

え?卑怯?ゲスいって?

しょうがないでしょう、こっちは文字通り生死かかってるんです。

そう、言わばこれは超法規的措置!緊急避難なのです!なので見なかったことにしてください。

それに私だって何の罪もない幼女に向けて実包叩き込むなんて真似しませんよ。

「っ!?バインド!?」

はい、毎度おなじみリストバレットです。

手足だけでなく頭のてっぺんからつま先まで・・・某タイヤメーカーのマスコットキャラクターみたいな外見になるくらいしこたまリストバレットを叩きこんだ私は即座にエイミィに連絡を入れます。

「エイミィ!緊急転送!全速力で!」

『了解っ!』

こちらの状況をモニターしていたアースラではすでに回収準備が進められていたのか負傷者から順に転送が開始されます。

一塊になっていたならまとめて回収も出来たのですが班を分けたのは失敗だったかもしれません。

玉座の間でKOされている1班の転送が完了し2班の回収が始まったところでプレシアが全身を拘束していたバインドを解除します。

さすがはミッドでもトップクラスの技術者だっただけあり、あれだけ打ち込んだバインドが一瞬で解除されてしまいました。

結構頑張って組んだ術式だっただけにあっさり破られてちょっとショックです。

そんな私の心境など知らんとばかりにプレシアは不快感を露わにした顔で私たちに杖・・・デバイスを向けてきます。

「よくも、よくも私のアリシアに・・・っ!」

その顔は正に大切な娘を気づ付けられて怒り狂う母親そのものでした。

そんなに子供を想う事の出来る人がなぜフェイトさんにあれだけつらく当たれるのか・・・。

先ほどの仮説が事実なら頷けないことも無いですがまさかここまでとは・・・。

そんな考えも一瞬だけ、すぐさま襲い来る稲妻から倒れた仲間たちを守ります。

「ぐっ、ぐぬぬぬうぅぅぅぅ」

戦闘特化でないとはいえ、仮にも大魔導師と言われるだけあってただの魔法でもこの威力は結構厳しいものがあります。

その上相手は電気系の魔力変換資質持ち・・・私の防御フィールドでは攻撃魔法は防げても電流は防げません。

前回フェイトさんを守って電撃を食らった経験から対電撃コート(アニメ3期の終盤でトーレ達が行った電撃対策)を施して来ましたが果たして付け焼刃のこれがプレシア相手にどこまで持つ事やら・・・。

二度、三度と立て続けに電流を食らい気分は宇宙征服を企む帝国皇帝の無限の暗黒パワー攻撃を受ける某空歩さんの気分です、助けて父さん!

とはいえしぶとく粘る私にプレシアの方も業を煮やしたのか、更にデカい威力の魔法を放つべくチャージを開始。

しかもご丁寧に先ほどの私を真似て背後の味方も巻き込むための広範囲魔法ときました。

「エイミィ急いで!あれは無理!!」

あんな電撃食らったら外はパリパリ、中までこんがりのウェルダンにされてしまいます。

大魔導師云々のレベルじゃありません、たぶん庭園の動力炉からも魔力を持ってきて急速に魔力をチャージするプレシア。

このままじゃホントにウルトラ上手に焼かれてしまいます、私を食っても満腹度は回復しませんよ!

そうしている間にもプレシアのデバイスに魔力がたまっていき先端カラは紫色の電流が迸る。

「目ざわりなのよ、いい加減消えなさい・・・!」

遂に準備ができたのかプレシアは私達目掛けて特大の電撃を放ちます。

これまでかと思いながらも体は訓練で染み付いた習性から防壁を展開、せめて武装隊のみんなだけでも護ろうと防御を固めます。

『もうちょっと・・・よし、転送開始!』

そこでようやく転送準備が整いフィールドが魔法を受け止めている間に私たちはアースラに回収、轟雷が轟いた後には私達の姿はそこから消えていました。

 

 

 

Side クロノ

『ぶはぁっ!死ぬかと思った!!』

通信で九死に一生を得たハルナの悲鳴が聞こえてくる。

どうやら無事に全員帰還できたようだ。

「エイミィ、ハルナさんに急いでブリッジまで来るよう伝えて、疲れているところ悪いけれど武装隊の被害状況を確認したいの」

「了解、直ちに伝えます」

矢次に指示を飛ばしながらも艦長の視線は投影されたモニターからはなれない。

確かに、ハルナ達の受けた損害も気になるが、今はこっちかが問題だな・・・。

「あれって・・・」

「・・・私?」

人一人が収まる大きさのシリンダー・・・おそらくハルナとドクターが医務室に運び込んだのと同型の生体ポッド、そしてその中で眠るフェイトそっくりの少女・・・。

いや、確かにフェイトとうり二つではあるが外見はポッドの中の少女の方が幼い、フェイトに妹がいたらあんな感じだろう。

そんな少女をポッド越しに愛おし気に撫でるプレシア・テスタロッサ。

『たった9つのジュエルシードではアルハザードにたどり着けるか分からない。でももうどうでもいいの、ここで終わりにするわ。アリシアを失ってからの陰鬱とした時間も、アリシアの出来損ないの人形を娘扱いするのも・・・』

「えっ?人、形・・・?」

『聞こえていてフェイト?あなたの事よ。私の娘、アリシアの出来損ない』

通信を切るべきだったと後悔するもすでに遅く、プレシアは憎悪に満ちた視線をモニター越しにフェイトに注ぐ。

これまで彼女たちの為に真実を伏せてきたが、もはや隠し通すことは不可能だ。

「この前言ってたプレシアが関わっている事故・・・あの時にね、彼女は一人娘のアリシア・テスタロッサを亡くしてるの・・・その後ミッドを追放されてから彼女が研究していたのは使い魔とは異なる人造生命の生成技術・・・」

沈痛な面持ちで話し始めたエイミィ、だが彼女の説明は遮られる。

「そう、実の娘・・・アリシアを蘇らせるために彼女は当時違法研究者だった私に接触した」

振り返ればブリッジの入り口にドクターとハルナが立っていた。

「ハルナちゃん」

「ハルナさん、大丈夫?」

なのはが心配そうに声をかけ、艦長もハルナを案じ問う。

「私は問題ありません、ですが武装隊は全員が重症、再出撃に耐えうる者は残っていません」

「そう・・・」

ハルナの報告に艦長が苦々し気に頷く中、ドクターは説明を続ける。

「その提供した研究資料の名はプロジェクトF・・・正式名称は記憶転写型人造魔導士製造計画『プロジェクトF.A.T.E』」

『そうよ。久しぶりね、ジェイル・スカリエッティ。まさか管理局にいるとは思わなかったわ』

そう口にするプレシアだったがその声には何の感慨も感じられない。

「私もだよ、プレシア。こんな形での再会は望んでいなかったさ・・・」

対してドクターの表情からは後悔と哀愁が感じられた。

『あなたの研究成果ではちっとも上手くいかなかったわ。せっかくアリシアの記憶を与えたのに出来上がったのはそこに居る出来損ない、似ているのは見た目だけでちっとも役に立たない私のお人形・・・、アリシアはもっと優しく笑ったわ。わがままも言ったけれど、私の言う事をちゃんと聞いてくれた。アリシアは、いつでも私に優しかった・・・」

そう言ってアリシア・テスタロッサの入ったポッドを撫でるプレシアの表情は娘との過去を思い出しているのかとても哀しげだ。

だがの表情もすぐに消え憎しみに満ちた眼差しを再びフェイトに向ける。

『フェイト、あなたはやっぱり駄目ね。アリシアの記憶を上げても所詮は偽物、アリシアの蘇らせる間私が慰みに使うための人形・・・でもそれももう必要ないわ、何処へなりとも消えなさいっ!』

「やめて・・・もうやめてよっ!」

フェイトを抱きしめたなのはが懇願するようにプレシアに叫ぶが彼女は止まらない。

『いいことを教えてあげる。貴女を作ってからずっとあなたが、大嫌いだったのよ・・・!」

床に何かが落ちる、見ればフェイトの手から待機状態のデバイス・・・バルディッシュが落ち、床に当たって結晶部分が砕けていた。

「フェイトちゃん!?」

フェイトも力なく崩れ落ち、見れば彼女の眼には光を失っていた。

『フフフ・・・アッハハハハハハハッ・・・!!』

それを見たプレシアが高らかに笑う。

誰もがプレシアを止められぬ自分を、フェイトを助けられない無力さに心おられようとしたとき・・・。

「さっきから黙って聞いてりゃアリシアアリシアアリシア・・・どんだけ依存してんだよ!いい歳こいて子離れもできなのか!?」

そこでこれまで沈黙を保っていたハルナが怒りをあらわにする。

「ハ、ハルナちゃん・・・?」

困惑するなのはの事など気にも留めず、ハルナは続ける。

「あなたの娘が亡くなったことは確かに悲劇だよ、生き返らせたいっていう願いも個人的には賛同できる。でもね、どんな理由があってもフェイトを虐げていい理由にはならないだろう!昔は優しく笑った?大人びただけだろう。いう事を聞いた?じゃあアリシアならジュエルシードを集められたのかよ?!」

『うるさい・・・』

「結局あんたが観ているのはアリシア・テスタロッサじゃなくて自分に都合のいいアリシアの幻影だ!」

『黙りなさい・・・っ』

「いいや、言わせてもらうね!アンタが求めているのは娘の復活じゃない、自分の思い通りに従うだけの文字通り娘の形をした人形だ。たとえ本当にアリシア・テスタロッサが蘇ったとしても、今のアンタじゃ絶対に彼女を愛せやしないっ!」

『黙れぇぇっっ!!』

ハルナが大声で言い放った直後プレシアは絶叫と共にジュエルシードを起動させた。

「じ、次元振ですっ!」

「空間歪曲係数増大!このままでは・・・次元断層が発生しますっ!」

観測を行っていたアレックスとランディから悲鳴のような報告が上がる。

「プレシア・テスタロッサ、一体何を・・・!?」

『私とアリシアは旅立つのよ・・・永遠の都、アルハザードへっ!』

彼女の強い願いを受けてジュエルシードが輝きを増す。

『このジュエルシードで・・・アルハザードの力で取り戻すのよ、全てをっ!!』

狂気すら感じられる笑みを湛えながらプレシアテスタロッサが自身の計画を、その目的を高らかに明かす。

「させるかよ・・・」

それにもハルナは真っ向から噛みついて見せる。

『・・・何ですって?』

「やらせないって言ったの。そのフライトはキャンセルだ、あんたは私がとっ捕まえて豚箱にブチ込んでやる・・・!」

ハルナの宣言に、先ほどまで狂ったように笑っていたプレシアの顔が見る見るうちに険悪になっていく。

『不快ね・・・さっきから野良犬のように吼えて、何なのよあなたは?』

「さっき言ったでしょう。時空管理局本局遺失物管理部機動2課第2特別捜査隊付き執務官。そして、スカリエッティ家長女兼ナカジマ家長女のハルナ・スカリエッティだ!」

威風堂々、そんな言葉が似合うほど堂に入った名乗りにブリッジの面子も、プレシア・テスタロッサも言葉を失った。

『・・・スカリエッティですって?』

ようやく立ち直ったプレシアが、ドクターの方に視線を向ける。

「まぁ、そう言う事さプレシア。私の自慢の娘だよ」

『フンス』と鼻息の荒いハルナに苦笑しつつもどこか誇らしげに肯定するドクター。

『フフッ、アハハハッ・・・!』

対して、それを聞いたプレシアは再び狂気の籠った笑い声をあげる。

『成程・・・要するにそこに居る人形の同類ってこと。訂正するわスカリエッティ・・・お仲間が貶されて怒るなんて、よくできた人形じゃない』

「ケッ、なんとでも言えばいいさ。そうやって笑っていられるのも今の内だよ、今すぐ言って、一発殴って、フェイトに土下座で謝らせたうえで牢屋に送ってやる!」

モニターの向こうのプレシアを指さしながら高らかに宣言するハルナ。

ハルナの宣戦布告にもプレシアは動じず、余裕ありげに笑って見せる。

『クックック・・・面白いわ、やれるものならやってみなさいお人形さん?ただし、来れるものならね・・・ッ!』

プレシアの言葉と共にブリッジに警報が響く。

「何があった!?」

「まって・・・庭園内に魔力反応!?」

僕の言葉にエイミィが庭園をスキャンすると今までなかった魔力反応が庭園のいたるところから確認された。

「魔力量・・・推定Aランク!20、70、90・・・まだ増えますっ!!」

どうやら庭園の防衛機構を作動させて傀儡兵(ゴーレム)を起動させたようだ。

『せいぜい来れるものなら来てみなさい。もしたどり着けたら、旅立ちの餞別に破壊してあげるわ』

そうハルナを挑発し、プレシアは通信を切った。

「・・・エイミィ、転送ポートの準備を、それと装備科に連絡してありったけのカートリッジを用意して待ってるように言っておいて」

エイミィにそう言うとハルナは踵を返して扉に向かって歩き出す。

「待ちなさいスカリエッティ執務官」

しかしそれは艦長によって止められる。

「これより時の庭園に再突入しプレシア・テスタロッサを捕縛します」

「許可できません」

ハルナの意見を即座に却下する艦長。

「・・・このままでは次元断層が発生します。地球も、周囲に点在する世界も、悉く滅ぼされてしまいます」

「分かっています、ですが出撃するのはクロノ執務官です。消耗したあなた一人ではあの数の傀儡兵を突破できません、行ってもプレシアにはたどり着けないでしょう」

艦長・・・母さんの言葉に迷いが無いとは言えない。

息子である僕を文字通り死地に向かわせるのに平気なわけがない。

だが今のハルナは危険すぎる、どんな無茶をするかわかったもんじゃない。

母さんにとって、本人には言いたくないが僕にとってもハルナは家族も同然だ、死ぬと分かっていて行かせるわけにはいかない。

「どうしても行かせる気はないと?」

「どうしてもです」

にらみ合うハルナと母さん。

暫くして「分かりました」と答えるハルナだったが、その目はどう見ても諦めてはいない。

「ならば現時刻を以てアースラを退艦、遺失物管理部執務官として独自に行動します」

「ハルナさんっ!」

ハルナめ、厄介な裏技を持ち出してきたな・・・。

彼女の本来の所属は遺失物管理部、そして僕たちとアースラは次元航行部隊所属だ。

今回の事件は二つの管轄が重なったため暫定的にハルナをアースラに所属させて合同捜査という体裁をとっている。

だが艦から降りたら彼女の所属は元の遺失物管理部に戻る、そうなったら次元航行部隊の僕たちは彼女の行動に口を挟めない。

もしそんなことをしたら越権行為として大事になりかねないのだ。

「だめよ、行かせない・・・」

それを分かって尚、母さんは扉の前に立ちふさがりハルナを止める。

「・・・お願いです、行かせてくださいリンディさん」

母さんの覚悟に気づいたのか、力づくで通ることもできるというのにハルナは言葉での説得を選んだ。

「彼女は何としても私の手で捕まえなくちゃいけないんです」

「・・・それはさっきの挑発が理由?それだけの理由では行かせるわけにはいかないわ」

母さんの問いにハルナが首を横に振る。

「いいえ、確かにそれも理由に含まれないわけじゃありません。でもそれは挑発されて腹が立ったのが理由じゃありません」

ハルナは一度区切るとひどく真摯な眼差しで母さんを見つめながら続けた。

「私が、フェイトと同じプロジェクトFの産物である私がプレシアに打ち勝って証明しなきゃいけないんです。私たちは、フェイトは人形なんかじゃないって・・・」

ようやくハルナが頑なに出撃しようとしている理由が分かった。

ハルナもプロジェクトFから派生した戦闘機人・・・見方によってはフェイトと彼女は姉妹と言う事になる。

彼女はこれまでずっと、家族の為に戦ってきた。

父に再会したい一心で管理局に入局し、再開してからは妹達の生活の為にと言って我武者羅に働いた。

そして今、彼女はフェイトの為に出撃しようとしている。

フェイトの尊厳を・・・心を救うためにプレシアを打ち倒し、彼女が人形じゃないことを証明する。

その為に彼女はこれから単身で死地に飛び込もうとしているのだ。

事情を知らないものが聞けば赤の他人の為にどうしてそこまでと思うだろう。

しかしハルナはフェイトを自分と同じ、試験管から生まれた姉妹として認識した。

そして彼女は、家族を決して見捨てはしない。

「・・・はぁ」

ハルナの事情を知る母さんも彼女の心中を察し悟ったようだ、こうなったハルナは文字通り梃子でも動かないと・・・。

「やはりだめです、あなた一人を行かせるわけにはいきません」

「リンディさん!」

母さんの出した結論に思わず叫ぶハルナ。

だが彼女は勘違いしている、母さんは『一人で』行くことを禁じたのだ。

「クロノ、直ちに出撃準備を。ハルナさんについて言ってあげて」

「了解です」

やはり先ほどのプレシアの言動に憤りを感じていたのだろう、母さんからの指示に僕は不謹慎にも心が弾むのを感じた。

「なのはさん、申し訳ないけれどフェイトさんを医務室に送り届けたらあなたにも出撃してほしいの」

「え?私もですかっ?」

「なっ!?リンディさんそれは・・・!」

なのはとハルナが同時に驚きの声を上げる。

これまで僕とハルナがしつこく反対してきたためなのはが危険な作戦に投入されることは無かった。

それは正しい、なのはは本来民間人なのだから。

だが残念ながら今回ばかりはそうも言ってはいられない。

「危険な作戦なのは重々承知しています、でも今は持てるすべての力を出し切らなければ勝機は無いの。だから・・・」

母さんはなのはに向き直ると頭を下げてなのはに助力を求めた。

「お願いします、私達に力を貸して下さい・・・」

その声からは計ることのできない苦悩が感じられた。

なのはの才能に惹かれてこそいたが、彼女を危険な任務に就かせたくないのは母さんも一緒だ。

しかし今回は地球の運命がかかっている、なのはの安全と地球・・・認めたくないが天秤は地球の方に傾いていた。

「リンディさん・・・わかりました。私、行きます・・・!」

そうして覚悟を決めてしまったなのはを見て、僕は必死で湧き上がる憤りを抑えこむ。

その矛先は主犯者のプレシアと、何よりなのはに頼らざる負えない非力な僕たち自身に対してだ。

だが今は事件の解決事こそが最優先だ、自責は後でやればいい。

「・・・分かりました、でも危険と判断したら強制的にアースラに転送してください」

「ええ、勿論そのつもりよ」

その言葉にハルナの方も未だ納得していないがなのはの参加を認めたようで不承不承ながら頷いた。

そして僕は転送ポートへ、ハルナは装備を整えるために倉庫へ向かう。

「あ、そうだ・・・」

と、そこでハルナは歩みを止めなのはに抱きかかえられたフェイトに向き直る。

「聞いてフェイト、さっきあなたのお母さんに思いっきり文句言ってやったけどまだ言い足りないからちょっと行って続き言ってくるよ」

ハルナはフェイトの頭を撫でながら優し気に話す。

「フェイトはここで待っててもいいし、私達を追っかけてくるのもいい。決めるのはフェイト自身だから、でも追いかけてくるつもりなら急いできてね。捕まえるつもりだけれどフェイトのお母さん強いから、最悪逃げられるかもしれないよ」

それだけ伝えるとハルナは踵を返しブリッジを後にした。

全く、おせっかいなやつだ。

来なくてもいいと言いながらプレシアに逃げられる可能性も示唆する。

そうなったらフェイトは母親に自分の思いを伝える機会を永遠に失うことになるのだ。

変わらぬ愛情か、それとも憎しみの言葉か・・・どちらにしろ通信を切られた以上伝えるには直接言いに行かなければならない。

だから早く立ち直って追いかけて来い、ハルナは遠回しにそう言っているのだろう。

そう言う事はドクターに任せればいいのに、それに呼び捨てにしている事にも気づいていない。

彼女が名前かあだ名で呼ぶのは家族や本当に心を許した親友だけだ。

家族としてフェイトを守ろうと決意したことに自身が気づいていない、しかし無意識のうちに彼女を救おうと躍起になっている。

フェイトも面倒くさい相手に妹認定されたものだ・・・きっとこれから苦労するだろうな、色々と・・・。

だがそれもこれも、全てはプレシアを逮捕し次元断層の発生を阻止してから。

そう、本当の戦いはこれからだ・・・!

僕は気合を入れなおすと転送ポートに向かって走り出した。

Side Out

 

「・・・はっ!?どこかで打ち切りフラグが立った気が!!」




打ち切りません、続きます。
形態の着信音は多分当時流行っていたネタだからw
そんなこんなで次回、いよいよ決戦。
多分また更新遅くなるけど許してください何でもしませんから!

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